苗木のクリスマス

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苗木のクリスマス」(2012/01/04 (水) 18:20:20) の最新版変更点

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 今日はクリスマスイブ。  街にはきらびやかなイルミネーションが施され、道を行きかうカップルであふれている。  しかし、僕、苗木誠はというと。 「・・・」  熱を出し、保健室で寝ていた。 (はあ。どこが超高校級の幸運だか・・・)  特に用事があったわけではないが、なんだか損した気分になる。こういうところは、僕が凡人だからなのだろうか。  前向きが唯一のとりえである僕だが、こういうシチュエーションにはへこんでしまう。 「フン、風邪を引くなんていかにも庶民のお前らしいな。」 「いや、関係ないでしょ・・・」 「ずばり、苗木っちの病気はすぐに良くなるべ。     俺の占いは3割当たる!」 「・・・残りの7割はどうなるの?」 「風邪なんて、プロテインを飲めばよくなるよ!」 「いや、我は病気のときは走りこんだ後に、滝に打たれるのが一番だと思うぞ。」 (いや、僕はそんなことしたら死んじゃうと思うぞ・・・) 皆家に帰っていたり、仕事が忙しかったりで寮に残っていたのは彼らだけだった。しかし、その4人も用事ができて外出してしまった。 彼らといると、疲れるも確かだが、いないとさびしく感じてしまう。 (はあ・・・この後どうしよう)  壁の時計に目をやると、すでに7時を回っていた。  彼らがいなくなった後、もう一眠りしていたため、風邪はかなりよくなっている。しかし、外に一人で出る気にはとてもなれなかった。 若干のホームシックを、胸に感じながら寝返りを繰り返していたとき、  ガチャリ、とドアを開ける音が後ろから聞こえた。  誰が来たんだろう。振り返ってみると、そこにいたのは。 「・・・メリークリスマス。調子はどうですか、苗木君?」 「舞・・・薗さん?どうして・・・今日は仕事じゃなかったの?」 「さっき終わりました。苗木君が風邪だと聞いたので、こっちによることにしたんです」 「ご、ごめん、気を使わせちゃって・・・」 「もう、苗木君。誤る必要なんてないですよ。私が勝手にしたことですし。      それより、林檎買ってきました。今、切りますね。」 「はい、苗木君。あーん」 「ちょ、いくらなんでも恥ずかしいよ・・・」  いたずらっぽく笑った舞園さんが、フォークにささった林檎をちらつかせている。 「誰も見てなから大丈夫です。それより、苗木君は病人としての自覚を持って下さい。」  まだ、顔も赤いですよ・・・と、僕の顔を覗き込む舞園さん。   もっと恥ずかしくなり、目をそらしてしまう。 「だ、大丈夫だよ。熱はだいぶ下がったし・・・」   林檎と同じぐらい顔を赤くして答えるが、全く説得力がない。 本当ですか?と、クスクスしながら首を傾げる舞園さん。   見るものを笑顔にさせてくれる、彼女の仕草は。何時だったか本人が言っていた、過去の記憶の。彼女を励ましたアイドルのそれと同じだろう。                 ・                 ・                 ・ 「そういえば、クリスマスプレゼントもあるんですよ。」   嬉しさ3割、恥ずかしさ7割の食事の後、待っていたのは嬉しい贈り物。  彼女から差し出された紙袋には、暖かそうな赤いマフラーが入っていた。 「わあ、ありがとう・・・! でも、僕は何も用意していないな・・・」 「いいんです。苗木君にはこの1年間、お世話になりっぱなしでしたし。」 「じゃあ、せめて、何かしてほしいことがあったら言ってくれる?」 別に今すぐじゃなくてもいいからさ。僕がそういうと、舞園さんは頬に手を当てて少し考えたあと、 「そうですね・・・。苗木君がよければ、一緒に初詣にいきましょう。いいですか?」   「もちろんだよ。」  少し意外な申し出ではあったが、断る理由はないし。なにより舞園さんから誘ってくれたのは、嬉しかった。 会話の後、すこしの間二人とも黙ってしまったので、僕は起き上がり、 「僕、コーヒー入れてくるね」  何ももてなしをしていなかったことに気がつき、そう言った(僕の部屋ではないけどね)。 「あ、私がやりますよ?」 「いいよ。これくらいならできるから。」 「そうですか?じゃあ、お言葉に甘えて・・・」              ・              ・              ・ 保健室の奥にある電気ケトルでインスタントのコーヒーをつくり、再びベッドに戻ると、 (・・・あ。) やはり仕事帰りで、疲れていたのだろうか。彼女はスヤスヤと、安らかな寝息をたてて僕のベッドに突っ伏していた。 このままでは風邪を引かせてしまう。が、寝させてあげたほうがいいだろう。 そう判断した僕は、起こさないように、そっと、慎重に彼女を隣のベッドまで運んだ。    向こうで寝る彼女は、本当に気持ちよさそうだ。  しかし、さっき恥ずかしい目にあったことを思い出した僕は、ささやかな反撃をしかけた。  (えいっ・・・)  パシャッという音。もちろん僕のケータイの音だ。  心を洗われるような彼女の寝顔。 今日の僕の不幸なんて、彼女は一瞬で消し去ってくれる。  思い返せば、僕こそ舞園さんの笑顔に勇気付けられ。言葉に励まされ、この学園での1年を送ってこれた。  同じ中学のよしみとはいえ、何のとりえもないといっていい僕に普通に接してくれたのは、彼女だけだった。  もし彼女がいなかったら、すでに学校をやめていたかもしれない。それだけ、この学園生活は天才たちに囲まれる不安や、自分の能力への絶望でいっぱいだった。  だからこそ。舞園さんと出会えたこと、それが僕の最大の「幸運」だと信じて。 「来年もよろしく、舞園さん」 -----
 今日はクリスマスイブ。  街にはきらびやかなイルミネーションが施され、道を行きかうカップルであふれている。  しかし、僕、苗木誠はというと。 「・・・」  熱を出し、保健室で寝ていた。 (はあ。どこが超高校級の幸運だか・・・)  特に用事があったわけではないが、なんだか損した気分になる。こういうところは、僕が凡人だからなのだろうか。  前向きが唯一のとりえである僕だが、こういうシチュエーションにはへこんでしまう。 「フン、風邪を引くなんていかにも庶民のお前らしいな。」 「いや、関係ないでしょ・・・」 「ずばり、苗木っちの病気はすぐに良くなるべ。     俺の占いは3割当たる!」 「・・・残りの7割はどうなるの?」 「風邪なんて、プロテインを飲めばよくなるよ!」 「いや、我は病気のときは走りこんだ後に、滝に打たれるのが一番だと思うぞ。」 (いや、僕はそんなことしたら死んじゃうと思うぞ・・・) 皆家に帰っていたり、仕事が忙しかったりで寮に残っていたのは彼らだけだった。しかし、その4人も用事ができて外出してしまった。 彼らといると、疲れるも確かだが、いないとさびしく感じてしまう。 (はあ・・・この後どうしよう)  壁の時計に目をやると、すでに7時を回っていた。  彼らがいなくなった後、もう一眠りしていたため、風邪はかなりよくなっている。しかし、外に一人で出る気にはとてもなれなかった。 若干のホームシックを、胸に感じながら寝返りを繰り返していたとき、  ガチャリ、とドアを開ける音が後ろから聞こえた。  誰が来たんだろう。振り返ってみると、そこにいたのは。 「・・・メリークリスマス。調子はどうですか、苗木君?」 「舞・・・園さん?どうして・・・今日は仕事じゃなかったの?」 「さっき終わりました。苗木君が風邪だと聞いたので、こっちによることにしたんです」 「ご、ごめん、気を使わせちゃって・・・」 「もう、苗木君。誤る必要なんてないですよ。私が勝手にしたことですし。      それより、林檎買ってきました。今、切りますね。」 「はい、苗木君。あーん」 「ちょ、いくらなんでも恥ずかしいよ・・・」  いたずらっぽく笑った舞園さんが、フォークにささった林檎をちらつかせている。 「誰も見てなから大丈夫です。それより、苗木君は病人としての自覚を持って下さい。」  まだ、顔も赤いですよ・・・と、僕の顔を覗き込む舞園さん。   もっと恥ずかしくなり、目をそらしてしまう。 「だ、大丈夫だよ。熱はだいぶ下がったし・・・」   林檎と同じぐらい顔を赤くして答えるが、全く説得力がない。 本当ですか?と、クスクスしながら首を傾げる舞園さん。   見るものを笑顔にさせてくれる、彼女の仕草は。何時だったか本人が言っていた、過去の記憶の。彼女を励ましたアイドルのそれと同じだろう。                 ・                 ・                 ・ 「そういえば、クリスマスプレゼントもあるんですよ。」   嬉しさ3割、恥ずかしさ7割の食事の後、待っていたのは嬉しい贈り物。  彼女から差し出された紙袋には、暖かそうな赤いマフラーが入っていた。 「わあ、ありがとう・・・! でも、僕は何も用意していないな・・・」 「いいんです。苗木君にはこの1年間、お世話になりっぱなしでしたし。」 「じゃあ、せめて、何かしてほしいことがあったら言ってくれる?」 別に今すぐじゃなくてもいいからさ。僕がそういうと、舞園さんは頬に手を当てて少し考えたあと、 「そうですね・・・。苗木君がよければ、一緒に初詣にいきましょう。いいですか?」   「もちろんだよ。」  少し意外な申し出ではあったが、断る理由はないし。なにより舞園さんから誘ってくれたのは、嬉しかった。 会話の後、すこしの間二人とも黙ってしまったので、僕は起き上がり、 「僕、コーヒー入れてくるね」  何ももてなしをしていなかったことに気がつき、そう言った(僕の部屋ではないけどね)。 「あ、私がやりますよ?」 「いいよ。これくらいならできるから。」 「そうですか?じゃあ、お言葉に甘えて・・・」              ・              ・              ・ 保健室の奥にある電気ケトルでインスタントのコーヒーをつくり、再びベッドに戻ると、 (・・・あ。) やはり仕事帰りで、疲れていたのだろうか。彼女はスヤスヤと、安らかな寝息をたてて僕のベッドに突っ伏していた。 このままでは風邪を引かせてしまう。が、寝させてあげたほうがいいだろう。 そう判断した僕は、起こさないように、そっと、慎重に彼女を隣のベッドまで運んだ。    向こうで寝る彼女は、本当に気持ちよさそうだ。  しかし、さっき恥ずかしい目にあったことを思い出した僕は、ささやかな反撃をしかけた。  (えいっ・・・)  パシャッという音。もちろん僕のケータイの音だ。  心を洗われるような彼女の寝顔。 今日の僕の不幸なんて、彼女は一瞬で消し去ってくれる。  思い返せば、僕こそ舞園さんの笑顔に勇気付けられ。言葉に励まされ、この学園での1年を送ってこれた。  同じ中学のよしみとはいえ、何のとりえもないといっていい僕に普通に接してくれたのは、彼女だけだった。  もし彼女がいなかったら、すでに学校をやめていたかもしれない。それだけ、この学園生活は天才たちに囲まれる不安や、自分の能力への絶望でいっぱいだった。  だからこそ。舞園さんと出会えたこと、それが僕の最大の「幸運」だと信じて。 「来年もよろしく、舞園さん」 -----

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