舞園さんと初詣

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 がらんとしたバスに乗り込む、僕と舞園さん。 「・・・随分すいてるね」 「元日ですからね」  彼女は、クリスマスプレゼントのお礼をしたいと言った僕を、初詣に誘ってくれたのだ(ちなみに、そのプレゼントは今僕の首に巻いてある)。  ・・・あまりお礼になっていない気がしてきた。ほんとにいいのかな? 「いいも何も、私のわがままに付き合ってもらってるんですから。苗木君には、感謝してます。」 「僕ってそんなに単純?」 「エスパーですから」 「いや、答えになってないし・・・」  クスリ、と笑う舞園さん。  きっと、隠し事はできないんだろうなと、心の奥でそっとため息をつく。 「そういえば、仕事はまだないの?」 「んー。年始の番組は、クリスマス前には撮り終わってましたし。しばらく休暇です」  もしかしたら、テレビで今頃『あけましておめでとう』って言ってるかもですね。  そう続ける彼女に、やはり住む世界が違うと感じてしまう自分がいた。 「思ったより、ひとがいるね」 「元日ですからね」  同じ答えだが、意味が真逆だ。  神社は、お参りに並ぶ人であふれかえっていた。  「苗木君は、何をお願いするんですか?」 「うーん、考えてなかったけど・・・。無事にこの1年を過ごせますように、かな」  「欲がないんですねー。『背が伸びますように』とか、お願いしないんですか?」 「・・・考えとくよ」   そんな、ニコニコしながら言わなくても・・・。真顔で言われても、もっと困るけど。 「冗談ですよ」 本当かな。  人の列は、新年早々複雑な気分になった僕を、ゆっくりと運んでいった。 「お参りもすんだし、次はどうしようか」  舞園さんが僕に口を開こうとした、その時。 「おー。苗木っちに舞園っち。占い、今なら半額だべ。こっち来いよ~」  声の主は、見なくてもわかる。・・・あまり人前で関わりたくない人だ。 「ま、舞園さん・・・」 「苗木君、あっちでおみくじ売ってるみたいです。行きましょう!」         そう言うがいなや、足早に歩く舞園さん。  「ま、待って・・・」僕も後を追いかける。 「二人ともひどいべ?無視しないでくれー!」  聞こえない、聞こえない。          「どうして、どこに出かけても誰かに会うんだろう・・・」 「皆、神出鬼没ですよね」  おみくじ屋の前で、一息つく僕ら。 「まあ、気を取り直して、くじを買いましょうか」 「どう?」 「吉です。『恋愛運が絶好調!気になる人にアタックだー!』だそうです」 「やけにテンションが高いおみくじだね・・・」 「次は、苗木君ですよ。超高校級の幸運、見せ付けちゃってください」 ・・・誰だ、そんなものに僕を選んだやつは。 変な重圧を感じながら、くじをそっと開く。 「・・・大凶」  お約束のパターン。 「うーん。『人間関係のもつれに気をつけて』ですって」  くじのコメント、短いよ。回避する方法とか、書いておいてよ。  現実逃避で、八つ当たりする僕。・・・涙が出てきそう。 「少しは立ち直れましたか?苗木君」 「はは・・・おかげさまで」  もぐもぐと、幸せそうに甘栗を食べながら僕に聞く舞園さん。  僕らは、帰りしなに天津甘栗が売っているのをみつけ、一緒にベンチで食べていた。 「おかげさまで。・・・この栗、本当においしいね」 「わたしは、子供のとき以来かもしれません」  父が、私に買ってくれたんです。そうしゃべる彼女は、やはり甘いものがすきなのか、頬が緩みっぱなしだ。    そんな彼女を見ているうちに、僕のずたずただった心が、見る見る癒されていのを感じた。 「さて、そろそろ行きましょうか。バスが来ちゃいますしね」  栗を名残惜しそうに食べ終えた彼女に倣い、僕も腰を上げた。 「じゃあ、苗木君。新学期にまた会いましょう」  フワリと笑いながらそういう彼女だが、少しさびしそうに見える。  また、わがままに付き合ってください。そう言い残し、彼女は歩いていった。  僕も家に歩き出し。ふと、朝のお願いを思い出す。    いったい僕は、これからどれだけの時間を彼女と、皆と過ごせるか。  僕らが大学生になったら、きっと皆今以上に忙しくなるだろう。  高校生でいられる時間なんて、限られている。  皆といられる時間なんて、もっと限られている。  だからこそ。  だからこそ・・・一生忘れない思い出を、隣にいる彼女と一緒に、作れますように。 -----
 がらんとしたバスに乗り込む、僕と舞園さん。 「・・・随分すいてるね」 「元日ですからね」  彼女は、クリスマスプレゼントのお礼をしたいと言った僕を、初詣に誘ってくれたのだ(ちなみに、そのプレゼントは今僕の首に巻いてある)。  ・・・あまりお礼になっていない気がしてきた。ほんとにいいのかな? 「いいも何も、私のわがままに付き合ってもらってるんですから。苗木君には、感謝してます。」 「僕ってそんなに単純?」 「エスパーですから」 「いや、答えになってないし・・・」  クスリ、と笑う舞園さん。  きっと、隠し事はできないんだろうなと、心の奥でそっとため息をつく。 「そういえば、仕事はまだないの?」 「んー。年始の番組は、クリスマス前には撮り終わってましたし。しばらく休暇です」  もしかしたら、テレビで今頃『あけましておめでとう』って言ってるかもですね。  そう続ける彼女に、やはり住む世界が違うと感じてしまう自分がいた。 「思ったより、ひとがいるね」 「元日ですからね」  同じ答えだが、意味が真逆だ。  神社は、お参りに並ぶ人であふれかえっていた。  「苗木君は、何をお願いするんですか?」 「うーん、考えてなかったけど・・・。無事にこの1年を過ごせますように、かな」  「欲がないんですねー。『背が伸びますように』とか、お願いしないんですか?」 「・・・考えとくよ」   そんな、ニコニコしながら言わなくても・・・。真顔で言われても、もっと困るけど。 「冗談ですよ」 本当かな。  人の列は、新年早々複雑な気分になった僕を、ゆっくりと運んでいった。 「お参りもすんだし、次はどうしようか」  舞園さんが僕に口を開こうとした、その時。 「おー。苗木っちに舞園っち。占い、今なら半額だべ。こっち来いよ~」  声の主は、見なくてもわかる。・・・あまり人前で関わりたくない人だ。 「ま、舞園さん・・・」 「苗木君、あっちでおみくじ売ってるみたいです。行きましょう!」         そう言うがいなや、足早に歩く舞園さん。  「ま、待って・・・」僕も後を追いかける。 「二人ともひどいべ?無視しないでくれー!」  聞こえない、聞こえない。          「どうして、どこに出かけても誰かに会うんだろう・・・」 「皆、神出鬼没ですよね」  おみくじ屋の前で、一息つく僕ら。 「まあ、気を取り直して、くじを買いましょうか」 「どう?」 「吉です。『恋愛運が絶好調!気になる人にアタックだー!』だそうです」 「やけにテンションが高いおみくじだね・・・」 「次は、苗木君ですよ。超高校級の幸運、見せ付けちゃってください」  ・・・誰だ、そんなものに僕を選んだやつは。 変な重圧を感じながら、くじをそっと開く。 「・・・大凶」  お約束のパターン。 「うーん。『人間関係のもつれに気をつけて』ですって」  くじのコメント、短いよ。回避する方法とか、書いておいてよ。  現実逃避で、八つ当たりする僕。・・・涙が出てきそう。 「少しは立ち直れましたか?苗木君」 「はは・・・おかげさまで」  もぐもぐと、幸せそうに甘栗を食べながら僕に聞く舞園さん。  僕らは、帰りしなに天津甘栗が売っているのをみつけ、一緒にベンチで食べていた。 「おかげさまで。・・・この栗、本当においしいね」 「わたしは、子供のとき以来かもしれません」  父が、私に買ってくれたんです。そうしゃべる彼女は、やはり甘いものがすきなのか、頬が緩みっぱなしだ。    そんな彼女を見ているうちに、僕のずたずただった心が、見る見る癒されていのを感じた。 「さて、そろそろ行きましょうか。バスが来ちゃいますしね」  栗を名残惜しそうに食べ終えた彼女に倣い、僕も腰を上げた。 「じゃあ、苗木君。新学期にまた会いましょう」  フワリと笑いながらそういう彼女だが、少しさびしそうに見える。  また、わがままに付き合ってください。そう言い残し、彼女は歩いていった。  僕も家に歩き出し。ふと、朝のお願いを思い出す。    いったい僕は、これからどれだけの時間を彼女と、皆と過ごせるか。  僕らが大学生になったら、きっと皆今以上に忙しくなるだろう。  高校生でいられる時間なんて、限られている。  皆といられる時間なんて、もっと限られている。  だからこそ。  だからこそ・・・一生忘れない思い出を、隣にいる彼女と一緒に、作れますように。 -----

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