kk7_87-88

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「わたしのお父さん」 わたしのお父さんは「しゅふ」です。 誰よりも朝早く起きて朝ごはんを作ってくれます。 わたしが学校から帰ってくると、宿題のお手伝いをしてくれたり、チェスの相手をしてくれたりします。 いつもやさしい笑顔でわたしを見てくれるお父さん。 そんなお父さんがわたしは大好きです。 でも、そんなお父さんもお母さんの前では頭が上がらないようです。 日よう日に家族みんなで動物園にお出かけした時でした。 お父さんとお母さんが何を見るかで言い合いになりました。 すると、お母さんが 「ここまでいえばわかるわね、まことくん」 と、お父さんにいったらすぐに仲直りしました。 おさるさん、大好きなウサギさん、パンダさんを見れて楽しかったです。  ----- 「なかなか面白い作文ね」 「でも周りの父兄さんに聞かれると少し恥ずかしかったかな」 今日の授業参観で読まれた作文についての率直な感想だ。 自分たちの家族一人を紹介する作文を書いていたんだけど、まさか僕を題材にしていたとは。 担任の先生だけに読まれるならまだしも、参加した保護者全員に聞かれるのはやっぱり恥ずかしいものがある。 クラスの中でお父さんとして参加していたのは僕だけだったし。 つい先ほど帰宅した響子さんに授業参観の報告をしたら着替えもそっちのけで娘の作文を読み出した。 皺になるとまずいから上着だけを預かってハンガーに掛ける。 「自分の見た記憶を事細かに引き出せるのも探偵には必要なことよ」 「そうだね。きっと僕らが動物園で何を言っていたのかも一語一句覚えているかも」 「その結果が作文に反映されているわ。私は誠君より上の立場にいるっていう評価付きで」 「評価って……。珍しく日曜日に皆揃ったのに喧嘩とかもったいないじゃないか」 動物園に誘ったのも、最近パンダが飼育されるようになったからだ。 パンダ目当てで動物園に足を運んだら響子さんが待ったをかけたのだった。 僕の記憶だと確かこんな遣り取りだったはず―― 『パンダを見たいですって?』 『そうだけど、何か問題あるの?』 『あるわ。動物観察も立派な教養の一つよ。  パンダみたいに笹を食べてゴロゴロするだけの生態を観察しても何の得にもならないわ』 『そ、そこまで否定しなくてもいいじゃないのかな……』 『私はパンダより猿山の方を勧めるわ。どの猿が猿山のボスなのかを探すだけでも観察力を養える。  ……ここまで言えばわかるわね、誠君?』 『それじゃあ最初は猿山にしようか。後でパンダを見てもいいよね?』 『それで構わないわ』 響子さんが娘の作文から僕に視線を向ける。 「ところで誠君、あなたも仕事に復帰したいと思っているのかしら……?」 「う~ん、どうだろう」 確かに子どもが産まれるまでは探偵の助手として、響子さんが産休の間は所長代理として仕事をしていた。 響子さんが所長に復帰すると同時に僕は一線を退いて育児に専念するようになった。 やっぱりお客さんも響子さんの腕を信頼して事務所に訪ねてくるし、僕も初めての育児に悪戦苦闘しながらも楽しんでいたところがある。 適材適所。 世間一般の家庭とは異なる家族像だけど、僕らは円満な関係を今も築いているはずだ。 そう考えていると右肩にコツン、と響子さんが寄りかかってくる。 「私と誠君では対等の関係なのに……。あの娘の視点では私が一家の大黒柱だと映っているんでしょうけど」 「あながち間違ってないと思うんだけどな」 そう返答したら右手を軽く抓られた。 「真面目に答えて。今日みたいに夜遅く帰ってきて、顔を合わせる時間も誠君と比べたら少ないの」 「それがいつしか家庭より仕事を優先するっていうイメージに繋がるのか不安なの?」 「そうよ。あの娘に注ぐ愛情はあなたと同等、もしくはそれ以上を持つように接しているのにギャップが生まれたら……」 「その心配はないよ。誰よりもあの娘を見ていた僕が保証する」 安心させるために片腕で包み込むように抱き寄せる。  「だったらさ、次の授業参観には響子さんが出席するってのはどうかな?」 「……え?」 「その日だけ事務所の方は僕が所長代理として仕事を引き継ぐかたちでさ」 「それでいいの?」 「もちろん。僕も復帰したいのかを判断できる機会にもなって一石二鳥だね」 「ありがとう、誠君……」 「ん……どういたしまして」 唇越しに彼女の体温を感じる。 暖房の効いた部屋で過ごしていた僕には刺激となるような程よい冷たさの温度だ。 「お風呂、いただいてもいいかしら?」 「どうぞ。今日も何時でも入れるようにしていたし」 「だから、あなたも一緒に」 「え? 僕は先にいただいちゃったんだけど……」 「ここまで言ってもわからないの?」 「……お背中、流させていただきます」 「よろしい」 響子さんに腕を引かれて浴室へ行く。 だから僕らはこの時に気づかなかった。 既に寝ていたと思った愛娘がその様子を一部始終見ていたことに。 そして「わたしのお母さん」と題して僕と響子さんの夫婦仲を扱われたことに。 次の授業参観に参加した響子さんがどんな思いで愛娘の作文を聞いていたのか、この時の僕には知る由もなかった。 終 ----
「わたしのお父さん」 わたしのお父さんは「しゅふ」です。 誰よりも朝早く起きて朝ごはんを作ってくれます。 わたしが学校から帰ってくると、宿題のお手伝いをしてくれたり、チェスの相手をしてくれたりします。 いつもやさしい笑顔でわたしを見てくれるお父さん。 そんなお父さんがわたしは大好きです。 でも、そんなお父さんもお母さんの前では頭が上がらないようです。 日よう日に家族みんなで動物園にお出かけした時でした。 お父さんとお母さんが何を見るかで言い合いになりました。 すると、お母さんが 「ここまでいえばわかるわね、まことくん」 と、お父さんにいったらすぐに仲直りしました。 おさるさん、大好きなウサギさん、パンダさんを見れて楽しかったです。  ----- 「なかなか面白い作文ね」 「でも周りの父兄さんに聞かれると少し恥ずかしかったかな」 今日の授業参観で読まれた作文についての率直な感想だ。 自分たちの家族一人を紹介する作文を書いていたんだけど、まさか僕を題材にしていたとは。 担任の先生だけに読まれるならまだしも、参加した保護者全員に聞かれるのはやっぱり恥ずかしいものがある。 クラスの中でお父さんとして参加していたのは僕だけだったし。 つい先ほど帰宅した響子さんに授業参観の報告をしたら着替えもそっちのけで娘の作文を読み出した。 皺になるとまずいから上着だけを預かってハンガーに掛ける。 「自分の見た記憶を事細かに引き出せるのも探偵には必要なことよ」 「そうだね。きっと僕らが動物園で何を言っていたのかも一語一句覚えているかも」 「その結果が作文に反映されているわ。私は誠君より上の立場にいるっていう評価付きで」 「評価って……。珍しく日曜日に皆揃ったのに喧嘩とかもったいないじゃないか」 動物園に誘ったのも、最近パンダが飼育されるようになったからだ。 パンダ目当てで動物園に足を運んだら響子さんが待ったをかけたのだった。 僕の記憶だと確かこんな遣り取りだったはず―― 『パンダを見たいですって?』 『そうだけど、何か問題あるの?』 『あるわ。動物観察も立派な教養の一つよ。  パンダみたいに笹を食べてゴロゴロするだけの生態を観察しても何の得にもならないわ』 『そ、そこまで否定しなくてもいいじゃないのかな……』 『私はパンダより猿山の方を勧めるわ。どの猿が猿山のボスなのかを探すだけでも観察力を養える。  ……ここまで言えばわかるわね、誠君?』 『それじゃあ最初は猿山にしようか。後でパンダを見てもいいよね?』 『それで構わないわ』 響子さんが娘の作文から僕に視線を向ける。 「ところで誠君、あなたも仕事に復帰したいと思っているのかしら……?」 「う~ん、どうだろう」 確かに子どもが産まれるまでは探偵の助手として、響子さんが産休の間は所長代理として仕事をしていた。 響子さんが所長に復帰すると同時に僕は一線を退いて育児に専念するようになった。 やっぱりお客さんも響子さんの腕を信頼して事務所に訪ねてくるし、僕も初めての育児に悪戦苦闘しながらも楽しんでいたところがある。 適材適所。 世間一般の家庭とは異なる家族像だけど、僕らは円満な関係を今も築いているはずだ。 そう考えていると右肩にコツン、と響子さんが寄りかかってくる。 「私と誠君では対等の関係なのに……。あの娘の視点では私が一家の大黒柱だと映っているんでしょうけど」 「あながち間違ってないと思うんだけどな」 そう返答したら右手を軽く抓られた。 「真面目に答えて。今日みたいに夜遅く帰ってきて、顔を合わせる時間も誠君と比べたら少ないの」 「それがいつしか家庭より仕事を優先するっていうイメージに繋がるのか不安なの?」 「そうよ。あの娘に注ぐ愛情はあなたと同等、もしくはそれ以上を持つように接しているのにギャップが生まれたら……」 「その心配はないよ。誰よりもあの娘を見ていた僕が保証する」 安心させるために片腕で包み込むように抱き寄せる。  「だったらさ、次の授業参観には響子さんが出席するってのはどうかな?」 「……え?」 「その日だけ事務所の方は僕が所長代理として仕事を引き継ぐかたちでさ」 「それでいいの?」 「もちろん。僕も復帰したいのかを判断できる機会にもなって一石二鳥だね」 「ありがとう、誠君……」 「ん……どういたしまして」 唇越しに彼女の体温を感じる。 暖房の効いた部屋で過ごしていた僕には刺激となるような程よい冷たさの温度だ。 「お風呂、いただいてもいいかしら?」 「どうぞ。今日も何時でも入れるようにしていたし」 「だから、あなたも一緒に」 「え? 僕は先にいただいちゃったんだけど……」 「ここまで言ってもわからないの?」 「……お背中、流させていただきます」 「よろしい」 響子さんに腕を引かれて浴室へ行く。 だから僕らはこの時に気づかなかった。 既に寝ていたと思った愛娘がその様子を一部始終見ていたことに。 そして「わたしのお母さん」と題して僕と響子さんの夫婦仲を扱われたことに。 次の授業参観に参加した響子さんがどんな思いで愛娘の作文を聞いていたのか、この時の僕には知る由もなかった。 終 ----

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