kk7_205-210

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 お賽銭を投げ入れて鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。 「ねぇ、いくら入れようか?」 「奮発して、五百円くらいかな」  両手を合わせて必死に願う、前列のカップルを見やる。  いちゃいちゃと腕を組み、互いに何を願ったかを語り合って、階段を下りていった。  神聖な場所で、元日から罰当たりな。  思わずその背を思いっきり睨んでしまうと、隣にいた苗木君が苦笑した。 「…あの、気持ちは分かるよ」 「ああいう浮ついた連中は、出入り禁止に出来ないのかしら」  よりにもよって、このタイミングで見せつけてくれる。 「…ちょっと思うんですけど。こういう願い事って、何でもいいんでしょうか」 「まあ、願うだけならいいんじゃないかな。叶うかどうかは分からないけど」 「…ふぅん」 「…あまり不純なのはダメだよ?」 「えへへ」  ああ、此方にもカップルが一組か。  三人で一列に並んでいるので、必然的にこの組でも私はハブられる。 「あ…霧切さんは、どう思います?」  思い出したように、慌てて舞園さんが取り繕う。  思わず邪険に手を振ってしまいそうになるのを堪えて、微笑を張りつけた。 「悪いけど、日本の神仏には詳しくないのよ」 「海外では初詣とかあるんですか?」 「…よくわからないわ、行ったこと無いから」  舞園さんも、私に気を遣ってくれるうちの一人だ。  それを、こうして話題を断ちきることでしか、自分を保てない。  舞園さんは気まずそうに逡巡し、しばらくしてまた苗木君と二人で話し始めた。  両手を合わせてようやく、とりたてて願うべきこともないのに気づく。  無病息災は無難すぎるし、一応は健康体だ。  平穏無事も興味ない、少しは刺激のある日々が良い。  交友関係はどうだろうか。  とは言っても、私の交友関係なんてたかが知れている。  休日に無理矢理苗木君をつきあわせて外出する、その程度だ。  苗木君と、これ以上の関係を望めばいいのだろうか。  けれどそのためには、先ず舞園さんという存在が、 ――私は、何を考えているんだ  何の気なしに思いついた願い事に、思わず自分で身震いした。  自分の幸せのために他人の居場所を奪おうと、一瞬でもそんなことを考えたのか。  残酷なことを考えてしまえる自分自身が怖くて、ゾク、と背筋に寒気が奔る。  今のは無し。取り消しだ。  必死に別の祈願を考える。  そうだ、学業。とりあえず手近に、冬休み明けの試験での好成績を願おう。  もしくはここは探偵らしく、失せモノ関連にでもしておこうか。 「…霧切さんの願い事、結構長いんだね」  名前を呼ばれて、は、と覚醒する。  ぱちくりと瞳を向けて、苗木君が不思議そうに顔を傾ける。 「願い事とか験担ぎとか、あまりそういうの信用しないと思ってた」 「…どうも私は、余程つまらない人間だと思われているようね」 「や、ほら、非科学的なことには興味なさそうだなぁ、と…」 「あのね、苗木君。忘れているようだけれど、私も一応は女子高校生なの」  軽口を返し、階段を駆け降りた。  人混みを抜ければ、鋭い冷気が熱で鈍った頭に突き刺さる。  境内を出て、鳥居前の大通りに出ても、みんなの姿は無かった。  集合場所を間違えたか、と思って苗木君を振り返るが、彼も同級生の姿を探してきょろきょろしている。 「えっと…僕、ちゃんと伝えてた…よね?」 「…ええ。私以外の全員が聞き間違えた、というわけじゃないのなら、」  ふと、車道を挟んだ向かいに、二つの人影。  舞園さんと朝日奈さんだ。  苗木君は気づいていないようで、教えようか、それとも自分で声を掛けようか、と迷ったところで、二人が振り向く。  私の視線に気づいた二人は、こちらに向けて思いっきりガッツポーズをとって見せた。  何か叫んでいるようだが、間を通る車のエンジン音にかき消されて、ほとんど聞こえなかった。  と、同時に。  苗木君のポケットから、メロディーが鳴り響く。  一瞬遅れて、私のポケットも振動する。 「あれ、メールだ…」  嫌な予感しかしない。  苗木君はしばらく文面を見てから、なんとも微妙な表情で携帯の画面を突き出してきた。  差出人は、朝日奈さん。 「…これ、読める? なんか暗号っぽくて」  ギャル文字、というやつだろう。  模様じみているが、目を薄めて確認した文章を、私はそのまま読み上げた。 「…『しばらく自由行動だよ。おみくじとかお守りとかは、個人で好きに買いに行くべし。駅前の喫茶店には各自集合で』…」  読み終えると同時に、頭が痛んできた。  あの娘なりに、気を遣ったつもりなのだろうか。  いや、さっきの分ではおそらく舞園さんも共犯。  そして、あの二人が共犯と言うことは、少なくとも女子全員は『知っている』ということになる。  なんとも悩ましい、今度は目眩まで感じてきた。 「えーっと…どうしようか」  頭を抱える私に、困ったように笑いながら苗木君が尋ねた。 「…好きにしなさい。私は集合場所に向かうから」  最初から二人で来たというのならともかく。  面白半分でお膳立てされたこんな状況で、二人仲良く境内を散歩、という気分にもなれない。  これで二人のこのこと喫茶店に姿を表せば、格好のネタになってしまう。  私自身はもちろんのこと、苗木君にも申し訳が立たない。  帰ろうかな、とも思ったけれど、喫茶店に寄るつもりで出てきたので、お昼に何も用意していないのを思い出した。 「も、もう行くの? おみくじは?」 「…なら、それだけ引いてから行くわ」 「じゃあさ、一緒に買わない?」  おみくじを買うだけだというのに、わざわざ一緒に行く必要もあるだろうか。  まあ、断ることも出来るのにそうしない私も、大概だけど。  鳥居をくぐってすぐのところで、アルバイトの巫女がおみくじの露店を出していた。  一枚五十円だというので、苗木君が百円を払い、二度籤を振る。  出た番号の棚を引き、中から結果の書かれた紙を取る。 「…小吉かぁ」  紙を開いた苗木君が微妙な顔をしている。 「いいんじゃない? あなたらしくて」 「うーん…一応、『超高校級の幸運』で入学したんだけど…」  時々苗木君は、私の嫌味に気付いてくれない。  気付いて流しているのかとも思ったが、そんな器用な少年でも無いし。  人が良いにも限度があるとも思うのだが、ちょっとだけ寂しい。 「えーと…あ、金運が酷いかも…『悪し』としか書いてないや」 「籤の言うことよ。いちいち真に受けてたら身が持たないわ」 「霧切さんは?」  言われて、私も紙を開く。 「……、…」 「……凶、だね」  あまりの不意打ちだったので、数瞬呼吸すらも忘れた。  正直、おみくじで凶だなんて都市伝説だとばかり思っていた。  まさか自分が引いてしまうだなんて、お笑い草にしては行きすぎだ。  苗木君の言う通り、確かに私は非科学的なものを信じることはあまりない、けれど。  さっきの今で、罰が当ってしまったんじゃないだろうか。  見ないようにと思えば思うほど、目はその文字を追う。  恋愛:悪し。待ち人疎し 「えっと、あの…ホラ、籤の言うことだし。真に受けることでも無い、よね?」 「……」  よほど私が酷い顔をしていたのか、苗木君が目に見えて気を遣う。 「…あ、籤、交換しよっか。僕のと…」 「……子どもじゃないのよ。そんな誤魔化しで、何になるの」  自分でも分からないほどにショックを受けているようで、上手く言葉を返せない。  いつものからかいよりも遥かに冷たい声が出て、苗木君が肩を落とす。  そこでようやく、我に戻った。  こうやって、自分のことばかりしか考えられない。  苗木君は今の提案、拙いものだったけれど、それでも私を気遣ってくれたんじゃないか。  それでもまだ、私は励ましてくれた苗木君より、傷ついている自分の方が可愛いというのか。  これなら、偽物の感情と言われても仕方ないのかもしれない。 「……」 「…それ、結びに行かない?」  自責の渦に飲み込まれかけて、再び苗木君が私を呼び戻した。 「結ぶ…?」  具体性の見えない言葉に、首を傾げる。 「日本の風習か何か…かしら?」 「あ、そっか…おみくじとか、あまり詳しくないんだっけ」  曖昧に頷いて返すと、苗木君は得意げに語りだした。 「引いたおみくじを、境内の木の枝とか、専用のみくじ掛に結ぶんだよ」 「何のために…?」  尋ねれば、彼はすぐ側の枯れ木を指差した。  枝にはこれでもかというくらいに紙が結びつけられている。  新年の飾り付けか何かとも思っていたが、あれはおみくじだったのか。 「おみくじが良い結果だったら、その成就を祈願するために。おみくじが悪い結果だったら、厄除けってところかな」  なるほど、便利な救済措置だ。  これなら本当に凶を引いてしまう参拝客がいても、苦情の一つも出ないだろう。  縁起ものを信じる気にはなれない性分だけれど、生憎今だけは縁起にでも縋りたい気持だった。 「ホラ、こっち」 「あ、……」  おそらく、何の気なしに。  おみくじを握り締めて宙を彷徨っていた私の手を、苗木君の手が掴んだ。  手を引いて、そのまま人混みを縫うように、境内の中に。  おそらくははぐれないように自分が導く、そのつもりでの行為なのだろうけど。  これはちょっと、恥ずかしすぎる。  こちとら思春期の女子高校生だというのに。  どうも苗木君は、私がそうだということをたびたび忘れてしまうらしい。  しっかりと握られた左手が熱い。  通りすがる人の視線が身を焼くようだ。  それでもやはり、抗議の声を上げることは出来なかった。  私も大概、繋がれたその手から伝わるはずのない熱を、享受してしまっているのだから。 [[【後編へ続く】>>kk7_214-221]] ----
 お賽銭を投げ入れて鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。 「ねぇ、いくら入れようか?」 「奮発して、五百円くらいかな」  両手を合わせて必死に願う、前列のカップルを見やる。  いちゃいちゃと腕を組み、互いに何を願ったかを語り合って、階段を下りていった。  神聖な場所で、元日から罰当たりな。  思わずその背を思いっきり睨んでしまうと、隣にいた苗木君が苦笑した。 「…あの、気持ちは分かるよ」 「ああいう浮ついた連中は、出入り禁止に出来ないのかしら」  よりにもよって、このタイミングで見せつけてくれる。 「…ちょっと思うんですけど。こういう願い事って、何でもいいんでしょうか」 「まあ、願うだけならいいんじゃないかな。叶うかどうかは分からないけど」 「…ふぅん」 「…あまり不純なのはダメだよ?」 「えへへ」  ああ、此方にもカップルが一組か。  三人で一列に並んでいるので、必然的にこの組でも私はハブられる。 「あ…霧切さんは、どう思います?」  思い出したように、慌てて舞園さんが取り繕う。  思わず邪険に手を振ってしまいそうになるのを堪えて、微笑を張りつけた。 「悪いけど、日本の神仏には詳しくないのよ」 「海外では初詣とかあるんですか?」 「…よくわからないわ、行ったこと無いから」  舞園さんも、私に気を遣ってくれるうちの一人だ。  それを、こうして話題を断ちきることでしか、自分を保てない。  舞園さんは気まずそうに逡巡し、しばらくしてまた苗木君と二人で話し始めた。  両手を合わせてようやく、とりたてて願うべきこともないのに気づく。  無病息災は無難すぎるし、一応は健康体だ。  平穏無事も興味ない、少しは刺激のある日々が良い。  交友関係はどうだろうか。  とは言っても、私の交友関係なんてたかが知れている。  休日に無理矢理苗木君をつきあわせて外出する、その程度だ。  苗木君と、これ以上の関係を望めばいいのだろうか。  けれどそのためには、先ず舞園さんという存在が、 ――私は、何を考えているんだ  何の気なしに思いついた願い事に、思わず自分で身震いした。  自分の幸せのために他人の居場所を奪おうと、一瞬でもそんなことを考えたのか。  残酷なことを考えてしまえる自分自身が怖くて、ゾク、と背筋に寒気が奔る。  今のは無し。取り消しだ。  必死に別の祈願を考える。  そうだ、学業。とりあえず手近に、冬休み明けの試験での好成績を願おう。  もしくはここは探偵らしく、失せモノ関連にでもしておこうか。 「…霧切さんの願い事、結構長いんだね」  名前を呼ばれて、は、と覚醒する。  ぱちくりと瞳を向けて、苗木君が不思議そうに顔を傾ける。 「願い事とか験担ぎとか、あまりそういうの信用しないと思ってた」 「…どうも私は、余程つまらない人間だと思われているようね」 「や、ほら、非科学的なことには興味なさそうだなぁ、と…」 「あのね、苗木君。忘れているようだけれど、私も一応は女子高校生なの」  軽口を返し、階段を駆け降りた。  人混みを抜ければ、鋭い冷気が熱で鈍った頭に突き刺さる。  境内を出て、鳥居前の大通りに出ても、みんなの姿は無かった。  集合場所を間違えたか、と思って苗木君を振り返るが、彼も同級生の姿を探してきょろきょろしている。 「えっと…僕、ちゃんと伝えてた…よね?」 「…ええ。私以外の全員が聞き間違えた、というわけじゃないのなら、」  ふと、車道を挟んだ向かいに、二つの人影。  舞園さんと朝日奈さんだ。  苗木君は気づいていないようで、教えようか、それとも自分で声を掛けようか、と迷ったところで、二人が振り向く。  私の視線に気づいた二人は、こちらに向けて思いっきりガッツポーズをとって見せた。  何か叫んでいるようだが、間を通る車のエンジン音にかき消されて、ほとんど聞こえなかった。  と、同時に。  苗木君のポケットから、メロディーが鳴り響く。  一瞬遅れて、私のポケットも振動する。 「あれ、メールだ…」  嫌な予感しかしない。  苗木君はしばらく文面を見てから、なんとも微妙な表情で携帯の画面を突き出してきた。  差出人は、朝日奈さん。 「…これ、読める? なんか暗号っぽくて」  ギャル文字、というやつだろう。  模様じみているが、目を薄めて確認した文章を、私はそのまま読み上げた。 「…『しばらく自由行動だよ。おみくじとかお守りとかは、個人で好きに買いに行くべし。駅前の喫茶店には各自集合で』…」  読み終えると同時に、頭が痛んできた。  あの娘なりに、気を遣ったつもりなのだろうか。  いや、さっきの分ではおそらく舞園さんも共犯。  そして、あの二人が共犯と言うことは、少なくとも女子全員は『知っている』ということになる。  なんとも悩ましい、今度は目眩まで感じてきた。 「えーっと…どうしようか」  頭を抱える私に、困ったように笑いながら苗木君が尋ねた。 「…好きにしなさい。私は集合場所に向かうから」  最初から二人で来たというのならともかく。  面白半分でお膳立てされたこんな状況で、二人仲良く境内を散歩、という気分にもなれない。  これで二人のこのこと喫茶店に姿を表せば、格好のネタになってしまう。  私自身はもちろんのこと、苗木君にも申し訳が立たない。  帰ろうかな、とも思ったけれど、喫茶店に寄るつもりで出てきたので、お昼に何も用意していないのを思い出した。 「も、もう行くの? おみくじは?」 「…なら、それだけ引いてから行くわ」 「じゃあさ、一緒に買わない?」  おみくじを買うだけだというのに、わざわざ一緒に行く必要もあるだろうか。  まあ、断ることも出来るのにそうしない私も、大概だけど。  鳥居をくぐってすぐのところで、アルバイトの巫女がおみくじの露店を出していた。  一枚五十円だというので、苗木君が百円を払い、二度籤を振る。  出た番号の棚を引き、中から結果の書かれた紙を取る。 「…小吉かぁ」  紙を開いた苗木君が微妙な顔をしている。 「いいんじゃない? あなたらしくて」 「うーん…一応、『超高校級の幸運』で入学したんだけど…」  時々苗木君は、私の嫌味に気付いてくれない。  気付いて流しているのかとも思ったが、そんな器用な少年でも無いし。  人が良いにも限度があるとも思うのだが、ちょっとだけ寂しい。 「えーと…あ、金運が酷いかも…『悪し』としか書いてないや」 「籤の言うことよ。いちいち真に受けてたら身が持たないわ」 「霧切さんは?」  言われて、私も紙を開く。 「……、…」 「……凶、だね」  あまりの不意打ちだったので、数瞬呼吸すらも忘れた。  正直、おみくじで凶だなんて都市伝説だとばかり思っていた。  まさか自分が引いてしまうだなんて、お笑い草にしては行きすぎだ。  苗木君の言う通り、確かに私は非科学的なものを信じることはあまりない、けれど。  さっきの今で、罰が当ってしまったんじゃないだろうか。  見ないようにと思えば思うほど、目はその文字を追う。  恋愛:悪し。待ち人疎し 「えっと、あの…ホラ、籤の言うことだし。真に受けることでも無い、よね?」 「……」  よほど私が酷い顔をしていたのか、苗木君が目に見えて気を遣う。 「…あ、籤、交換しよっか。僕のと…」 「……子どもじゃないのよ。そんな誤魔化しで、何になるの」  自分でも分からないほどにショックを受けているようで、上手く言葉を返せない。  いつものからかいよりも遥かに冷たい声が出て、苗木君が肩を落とす。  そこでようやく、我に戻った。  こうやって、自分のことばかりしか考えられない。  苗木君は今の提案、拙いものだったけれど、それでも私を気遣ってくれたんじゃないか。  それでもまだ、私は励ましてくれた苗木君より、傷ついている自分の方が可愛いというのか。  これなら、偽物の感情と言われても仕方ないのかもしれない。 「……」 「…それ、結びに行かない?」  自責の渦に飲み込まれかけて、再び苗木君が私を呼び戻した。 「結ぶ…?」  具体性の見えない言葉に、首を傾げる。 「日本の風習か何か…かしら?」 「あ、そっか…おみくじとか、あまり詳しくないんだっけ」  曖昧に頷いて返すと、苗木君は得意げに語りだした。 「引いたおみくじを、境内の木の枝とか、専用のみくじ掛に結ぶんだよ」 「何のために…?」  尋ねれば、彼はすぐ側の枯れ木を指差した。  枝にはこれでもかというくらいに紙が結びつけられている。  新年の飾り付けか何かとも思っていたが、あれはおみくじだったのか。 「おみくじが良い結果だったら、その成就を祈願するために。おみくじが悪い結果だったら、厄除けってところかな」  なるほど、便利な救済措置だ。  これなら本当に凶を引いてしまう参拝客がいても、苦情の一つも出ないだろう。  縁起ものを信じる気にはなれない性分だけれど、生憎今だけは縁起にでも縋りたい気持だった。 「ホラ、こっち」 「あ、……」  おそらく、何の気なしに。  おみくじを握り締めて宙を彷徨っていた私の手を、苗木君の手が掴んだ。  手を引いて、そのまま人混みを縫うように、境内の中に。  おそらくははぐれないように自分が導く、そのつもりでの行為なのだろうけど。  これはちょっと、恥ずかしすぎる。  こちとら思春期の女子高校生だというのに。  どうも苗木君は、私がそうだということをたびたび忘れてしまうらしい。  しっかりと握られた左手が熱い。  通りすがる人の視線が身を焼くようだ。  それでもやはり、抗議の声を上げることは出来なかった。  私も大概、繋がれたその手から伝わるはずのない熱を、享受してしまっているのだから。 [[【後編へ続く】>>kk7_214-221]] ----

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