kk8_43-44

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 彼女の声はいつも僕の頭よりずっと上から聞こえていた。 初めて言葉を交わしたのは、この学園に入学して直ぐの事だったと思う。 はじめは他愛の無い挨拶だけ。 幸運という、あるか無いかも分からない物しか持たない僕と、本物を持っている周りのみんな。 そんなみんなに溶け込むためにも、僕はクラスのみんなと特に仲良くしようと声をかけていた。 だから最初は、クラスメイトの一人として以外全く意味を持たない。僕と彼女が付き合っていなかったら、 単にすぐ忘れられてしまうだけの時間だったのだろう。 その日、僕は下校途中にたまたま校門で出会ったクラスメイトに挨拶しようと。ただそれだけの気分だった。 「霧切さんだよね。えっと、同じクラスの僕の名前は……」 「もう知ってるわ。苗木くんでしょ、霧切響子よ」 よろしくの一言も告げない彼女を随分とクールな人だと思ったのを覚えている。それに、すごく美人だとも…… それに座っていた時には気付かなかったけど結構背が高い。 当然大神さんにはかなわないけど、それ意外だと一番だ。 単純に僕よりも身長が高いんだろうけど、霧切さんの履くブーツの底の分が+されて見たところ、 僕よりも10cmは高かった。 「霧切さん。せっかくだから、一緒に帰ってもいいかな。僕もこっちに行くし」 「別に構わないわ」 そう告げるとスタスタ行ってしまう。 僕は小走りになりながら、霧切さんの後を追った。 住宅街の静かな通りで、なんてことない日常会話をする。 「霧切さんは、どこかの部活に入るの?」 「私は、いまある部活に入るつもりは無いわね。新しく作るのなら考えがあるけれど」 「へ~。1年なのに新しい部を作るんだ。すごいんだな霧切さんって」 「そんな事もないわよ。私の欲しい部が無い以上作る。それだけの事だもの、苗木君もどうかしら、入部してみる?」 「う~ん。入部はともかく仮入部はしてみたいな。なにやるのか興味があるし」 霧切さんの方が歩幅が長い分歩くのも早いから、それに負けない位に僕も早足で歩く。 身長の差がこんな所にも現れるなんて不便だ。 「探偵部、というか学校内に公認じゃ無くても、いいから私の事務所を作るつもりよ。苗木君は……力仕事は無理そうだから、お茶汲みかしらね」 「あはは、霧切さんお茶汲みだけが仕事って、ひどいな」 「そうかしら、苗木君荒事は苦手そうじゃ無い?それに結構お茶入れるの似合いそうだけど、可愛くて」 高校生男子に対してプライドをずたずたにする事をいいながら、真顔の霧切さん。 僕は何も言わないで歩調を速くした。 低身長のちょっとした抵抗だ。僕だって男らしさはあるんだぞ、と全く男らしくない方法で表現してみた。 ちょっとだけ、自分でも僕自身もお茶入れ霧切さんの方がデスクに座っている方がさまになると思ったは秘密だ。 たまたま、夕方だったせいで、二人の影が路面に伸びていた。 路上に落ちた影は、大きく引き伸ばされて僕らの頭の位置は、マンホール一個分も違って見えた。 それが、僕と霧切さんの大人さとか本物を持ってる事の違いに思えて、聞こえないように小さくため息を吐いた。  それからは、なしくずし的に探偵部に入部してしまう事になった。部員はたったの二人、活動時間は月~金。 といっても、依頼がそんなにあるわけでも無いから、ひたすら部室で本を読んだり宿題したりして、霧切さんと一緒に帰るだけなんだけど。 僕はあいかわらず早歩きを続けていた。最初にそれで見つかってしまっていたんだし、最初に見栄を張っていたと今さらながらに言うのも嫌だったからだ。 「苗木くん、一緒に帰りましょう」 いつものように、整った顔で告げる霧切さんに頷き返し、僕はティーカップを流しに片付けた。 入部の頃よりも大分日が長くなっている。 部活終わりの遅い時間でも、まだ日が出ているなんて。 僕達はいつもの下校ルートを辿った。 いつものような他愛無い話、部室で暇な時はずっと話をしているのに、それでも帰りになるとまた新しい話題がみつかる不思議。 僕はその頃すでにもう、霧切さんに夢中だったから、すごく幸せな時間だ。 「今年の夏の甲子園はどうだろうね?桑田君の活躍があれば優勝だって夢じゃないよね」 「優秀な生徒がいれば勝てると思うのは早計よ苗木くん。野球はチームスポーツだもの、彼一人の力ではどうにもならない事もあるわ」 「そうだね。でもさ、あれだけ凄いんだから勝ってくれるといいな~」 「楽観的すぎるわね。でも、それがあなたの良い所でもあるわね」 おしゃべりをしながら、前と同じ道に差し掛かる。 二人の影の長さは、マンホール半分くらい差をつけている。 うん?前はもっと長く無かったかな?そう思って、影と僕達を交互に見る。 日の高さが違うせいじゃ無くて、もっと別の原因がありそうな。 「あ!」 「どうしたの苗木くん?」 僕は影の長さが違う原因に気がついた。 霧切りさんの足元が、底の厚いブーツから厚さの無いローファーに変わっていたのだ。 「そういえば霧切さんってブーツ履かなくなったよね?どうして」 そう聞くとなぜか少し顔を赤くする。色白だから隠そうとしても、すぐに分かる。 「た、たいしたことじゃ無いわ」 うろたえる霧切さんなんて滅多に見られない。僕はここぞとばかりに、追及した。 「ふ~ん?夏になったから、変えたとかじゃ無くて何か理由があるんだ?」 一瞬しまったという顔をしながら、また頬をあからめながら言った。 「苗木くん。私はあなたに興味をもち初めているのかもしれないわね」 「は?」 「だ、だから、私はあなたに興味があるのよ。これで分かったでしょ?」 「興味って?何か気になるなら、応えるけど?」 「あのね苗木くん。どれだけ、話をしても興味が尽きないのよ。むしろもっと深くなる位。分かったかしら?」 「いや、ごめん霧切さん。ぜんぜん分からない。それと、ブーツと何の関係が?」 霧切さんは、さっきのちょっと染まった頬を、真っ赤に染めて言った。 「いい?一回しか言わないからきちんと覚えておきなさい。さっきも、いったけど私はあなたに興味があるの。 それは、いくら話をしても尽きないくらい。だから、もっと近くで話したいと思うしたった3cmの靴の厚さまで、 気になってしまうだけなのよ。苗木くんでもここまで言ったら分かるでしょう?」 僕の顔も、すでに真っ赤になっていたと思う。冷静な口調でいて、霧切さんの顔も真っ赤なままだった。 真っ赤な夕日の中でその日初めて僕らは、手を繋いで帰った。  彼女の声はいつも僕の頭よりずっと上から聞こえていた。 でも、今はまえよりちょびっとだけ、僕の近くで聞こえている。

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