kk8_50

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【耳へのキスは誘惑の】  暑い日だった。  エアコンなんて贅沢品もないから、窓を全開にして、窓辺に扇風機を置いて。  お風呂上がりには冷水を浴びて、タオルケットを掛け布団の代わりにして。  日が沈んでも肌がじっとりと汗ばみ、服を着ていることすら煩わしかった。  だから、そういう気分ではなかったのに。  人肌は熱いから、そう言うと彼に服を剥ぎ取られ。  外に声が聞こえてしまうから、そう言うと唇を塞がれ。 「――…ケダモノ」  事を終えて、汗やら何やらでグショグショになったシーツを手繰り寄せる彼に言い放つ。  やはり心根の優しい人だから、ギクリと身体を強張らせる。  けれども今回に限っては、愚痴の一言二言で終わらせるつもりはない。  足に力が入れば、殴ってやれるのに。 「……ゴメン」 「苗木君らしくないわ。あんな、無理矢理なんて」 「うん…」  いつもは私の方がもどかしくなってしまうくらいに気を使うのに。 「…発情期かしら?」 「に、人間には来ないんじゃないかな」  でも、と、言いながら彼は私の体を持ち上げる。  抵抗は、止めておく。暴れても危ないし、どうせ力が入らない。 「似たようなものかも…」 「…」 「なんか…霧切さんのしっとりした肌見てたら、その…ドキッとしちゃって」 「……ピロートークのつもり? だとしたら及第点には程遠いわ」  暑い夜は、何をしても暑い。  冷たいものを食べようが、浴槽で汗を流そうが、何もしなくたって、結局暑いのだ。  体を幾度重ねたって、変わらない。  それなら、 「う、わ」  体を抱かれたまま、体勢を変える。  首元を両手で抱き、口をその耳元に寄せて。 「私の眠りを妨げたのだから、あの程度で許してもらえるとは思わないことね」  耳元に、舌を這わせる。  苗木君の体が震える。 「霧切さん、がっ…僕の布団に入ってくるから、」  耳孔に舌を突っ込むと、男の子らしくない嬌声が、その言葉の続きを遮った。  言い訳なんて欲しくはない。 「火を付けた責任…取ってもらうわよ」 「…とりあえず、浴槽に行こっか」  明け方に入る頃、狙い澄ましたように雨が降り出した。

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