特命係長 ただのまこと

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//569- EvtNp1Df 75-80のつづき 「絶望ヶ淵学園?」 「そう。江ノ島さんが総合プロデュースするといって先日開校したの」 朝一番に学園長に呼ばれて学園長室に足を運んでみれば、顔の前に組んだ両手を置いて某司令みたいに神妙な顔つきで前述したキーワードを告げたのだ。 何だかどこかで聞いたことのある単語、そしてプロデューサーが知人ということもあって僕も思わず眉を顰めてしまう。 「……これで何度目ですか?」 「それ以上は言わないで、誠君……」 数えるのも億劫になる頻度に思わず僕は顔を逸らした。 今回で七度目よ、学園長はその言葉を告げると同時に溜め息を吐いた――。 ――霧切 誠。 希望ヶ峰学園・総務第二課の係長。 しかし、それは表の顔に過ぎない――。 彼には学園長直属の特命係長として様々なトラブルを解決するという、もう一つの顔があった! ~ 特命係長 ただのまこと ~ ここでまた一つ、個人的な話をしよう――。 この春から僕の所属は生徒をスカウトする学生課から総務課への転属となった。 係長待遇という条件付きで。 デスク回りの荷物をダンボール一箱に収めて、指示された総務二課の部屋の扉を開ける。 「やぁ、ムコ殿」 「あら、意外に遅かったじゃない」 「……へ?」 そこには僕の上司や部下ではなく、先代と当代の学園長が待ち構えていた。 呆気にとられている僕を尻目に学園長が何故ここにいるのか説明した。 曰く、総務二課は架空の部署で、この春から僕は学園長直属の部下となったということ。 曰く、その仕事の内容は探偵のように多岐に渡るトラブルシューターだということ。 曰く、「特命」の伝達は隣にいる先代の学園長(現・名誉顧問)がメッセンジャーを務めること。 曰く、今の学園長も秘書時代に同様のトラブルシューターを務めたこと。 「これでまた一つ、初孫を抱くための一歩に近づいたな。よかったよかった」 どうやらこの仕事は僕を学園長に就任させるために必要なステップの一つらしい。 ----- 「絶望ヶ淵学園に潜入し、江ノ島さんの真意を探る……。それが今回の特命よ」 「わかりました、学園長」 そんなこんなで都内某所、ビルの谷間にあり日当たりの悪さが伺える場所に絶望ヶ淵学園があった。 希望ヶ峰学園とは異なり、来る者拒まず去る者追わず――として老若男女問わず絶望している人を募集している。 『たとえこの私様が倒されようと第二、第三の私様がいれば世界は瞬く間に絶望のどん底よ!……うぷぷぷぷ』というのが、プロデューサー兼学園長の弁である。 そのおかげで僕も潜入がしやすく、変装と偽名を使って簡単に入学が出来たから江ノ島さんのガイダンスを聞いている状況だ。 頬杖を付きながら周りの生徒たちを眺めていると、死んだ魚の目のように生気がないことが共通している。 やはり今まで僕らのやっていたことが微々たるものなのかと痛感してしまう。 全ての人に希望の種を――。 僕と響子さん、そしてお義父さんも同じ目的で日夜奮闘しているけれど、現実とのギャップを江ノ島さんの件を通じて認知している。 そんな様子に少しジレンマを感じながら、ふと隣の席を見ると見覚えのある人だった。 思わず聞こえないようヒソヒソ話をするように話しかける。 「……何で神代さんがここにいるんですか、学園長の話だと2週間前から入院していると聞いたんですけど?」 「む、また君か。新米エージェントのお兄ちゃん」 「その首、大丈夫なんですか……?」 トントン、と首の辺りを軽く叩き安否を気遣う。 首に巻かれたコルセットを隠すため、暖かい時季なのにハイネックのセーターを着用させる羽目になった加害者が教壇に立っているし。 目の前にいる怪我人は神代優兎さん。 第七十七期生の"超高校級の諜報員"だった僕の先輩も、今は世界ランカーエージェントのトップ5に連ねる程の敏腕エージェントだったりする。 目立たない体質の持ち主で、最近はこうして話しかけると僕の方まで存在感が希薄になったりする。 そのおかげで堂々と私語を交わして情報交換が出来るけど。 「大丈夫も何も医師の診断では全治1ヶ月だよ。味気ない病院食ばかりだから大好きな菓子パンが食べられないことに嫌気が差しちゃった」 「問題はそこなんですか……」 「そんな中で僕の股間の愚息スカウターがビンビンに反応したんだよ、この絶望ヶ淵学園にさっ!」 「……言っておきますけど、今回は神代さんに依頼を出してないから報酬は出ませんよ」 「あははっ! 言うと思ったっ!」 そうやって無邪気に笑った後、床に届かない足をプラプラさせて江ノ島さんの話を聞く姿勢をとった。 学園長もこの人を雇うために、報酬を身体ではなく金銭で払うように契約できたのも交渉の賜物である。 ……最も、自分の奥さんが別の男に抱かれてしまうなんて、僕には到底耐えられないけど。 「この入学式が終われば江ノ島盾子と一発……!」 途端に彼の目がギラギラと鋭さを増し、両手をワシワシと握る動作を繰り返す。 ……きっと彼の脳内では江ノ島さんの二つのたわわな果実を存分に堪能しているのだろう。 「しかし苗木君。君も酔狂だね、007のMのように堅物な学園長と結婚するなんて」 「何ですか、藪から棒に」 「君もこういう仕事に就いて、益々二人の時間が減っていると思わない?」 「まぁ、探偵業みたいに不定期な仕事ですし否定はしません」 「そこから広がる二人の溝。たとえ一緒の夜を迎えても"今日は疲れているから……"といって断られるセックスレスの生活。  そして二人は必然的に別れるんだってばよっ!」 「あ、その辺はご心配なく。僕らの辞書に"倦怠期"って文字はありませんから」 「君がそう思うんならそうなんだろう。君の中ではね」 途端に凍りつくような視線を僕に向けてきた。 「三重スパイの言葉を借りれば、"彼女"とは"遥か彼方の女と書く"。女性とは向こう岸の存在だよ、僕らにとっては」 「でも僕らは"言葉"を架け橋に向こう岸に渡ることができます。たとえこの先、僕らにズレが生じても"言葉"で掛け合いわかり合っていけますよ」 「……さすがにここまで惚気られるとどうかと思っちゃうよ。  コンビニのアイスを丸ごと溶かすほど温かい性格と言われる僕でさえ、ちょっとイラっときちゃうレベルだよ」 「それがおしどり夫婦って言われる秘訣かもしれませんよ?」 僕より長くエージェントを務めている先輩としての忠告なのだろう。 僕も愛する奥さんを悲しませるような真似はしたくないし。 「……番! 出席番号の9番! 早く自己紹介をしていただけないでしょうか?」 「あ、すいません……」 いつの間にか江ノ島さんの話は終わり、一人一人の自己紹介になっていたらしい。 慌てて席を立ち、偽名の自己紹介をする。 「9番、こまえ…「そぉい!」…カハッ!」 僕の自己紹介を遮るようにお腹にパンチをお見舞いしてくるじゃないか。 完全な不意討ちで急所である鳩尾に綺麗に入り、息ができない苦しみに悶絶する。 『\デデーン!/ 全員アウトー』 壁際に設置されたスピーカーから謎の効果音と聞いたことのない人の声が流れる。 何が全員アウトなのかと痛みに堪えて周りを見ると、笑いを噛み殺そうとして失敗している人ばかり。 ……僕が悶絶する姿がそんなにツボだったのだろうか? すると扉からモノクマの仮面を被った全身黒タイツの人たちが押し寄せる。 そしてプラスチック製の野球バットを笑った人達のお尻に向けてフルスイングで引っ叩く。 一体この光景は何事かと黒板を見る。 すると、 "絶対に笑ってはいけない絶望ヶ淵学園" という文字がデカデカと書かれていた。 呆気にとられている僕を見ていた江ノ島さんの目が合った。 すると彼女はニタァ……とこれから繰り広げられるだろう光景に会心の笑みを浮かべていた。 僕も含めた受講者全員を混沌と絶望の坩堝に叩き込むために――。 ----- 「……以上が、事の顛末です」 「そう。居合わせた神代君の容態は?」 「また同じ箇所を綺麗にへし折られて再入院です。全治3ヶ月コースでしばらく戦線離脱ですね。あ、それと」 「何かしら?」 「その神代さんから伝言です。"次こそ僕が江ノ島盾子を止めて希望ヶ峰学園の救世主になるよ! その時、学園長は涙を流しながら僕に跪いて感謝してよね!"……ですって」 「……そう。実現するにはしばらく掛かりそうな話ね」 所変わって、始まりと終わりを告げる学園長室。 結局、江ノ島さんが開校した絶望ヶ淵学園は入学式と同時に卒業式を迎え閉校した。 それまでに僕は江ノ島さんが仕掛けた罠に釣られて笑い、何度お尻を引っ叩かれたことだろう。 特に中盤以降のタイキック。あの破壊力を思い出すたび身震いしてしまう。 江ノ島さんが超絶望的に飽きやすい性格なのは知っているが、毎回付き合わされるこっちの身にもなってほしい。 それでも江ノ島さんのカリスマ性と実力は侮れない。 彼女が本気を出せば世の中は瞬く間にひっくり返る。 そうならないよう、僕らがけん制しているように見えるけど実際は江ノ島さんの玩具になっているのではないかと最近思うようになったけど……。 「誠君。次の特命よ」 「はい」 一山片付いたら次の仕事か。 まだ尾を引くお尻の痛みに耐えながら特命の内容を聞く。 「学園長は今日の夜、予定がありません。……なので私をもてなして」 「……え?」 よく見ると彼女はさっきまで着用していた伊達メガネを外している。 つまりはビジネスではなくプライベートの会話をしろってことだ。 「……だったらご飯は僕が作る? それとも外で食べる?」 「今日は外で食べたい気分ね」 「ん、わかった。あとワインも飲むんでしょ? 帰りは僕が運転するよ」 「お願いするわ」 仮にこの部屋に盗聴器が仕掛けられていても、僕ら夫婦だけにしかわからない遣り取りはいくらでもある。 今の会話の遣り取りだって実は暗号で、別の意味を持っている。 ……どういう意味なのかは僕ら夫婦だけの秘密ってことで。 ――霧切 誠。 希望ヶ峰学園・総務第二課の係長。 しかし、それは表の顔に過ぎない――。 彼には愛妻家という、もう一つの顔があった! ~ 特命係長 ただのまこと ~ 終

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