kk9_358-360

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とあるバス停にて 「ツいてないね、予報では午後から―なんて言ってたのに」 「あくまで天気予報は予想でしかないのよ。外れる事なんてザラよ――それに山の天気は変わりやすいもの」 「それにしたって天気も空気を読んで欲しいよ。折角、霧切さんがスパッと事件を解決したのに」 「……そうね、でも被害者を悼む涙雨ともとれるんじゃないかしら」 「そうだよね、ゴメンね。不謹慎なこと言っちゃって」 「いいえ、私も雨が憂鬱なのは同じだから…探偵の性とはいえ事件に巻き込まれるのも、ね」 僕達二人は、僕がたまたま当てた福引きの日帰り旅行に来ていた。 ちょうどペア券だったし、運良く霧切さんの予定も空いていたので、勇気を出して誘ってみた。 一応、普段頑張ってる僕へのご褒美って名目で。 普通に誘ったんじゃ断られるかもしれないし、助手として頑張ってる僕の労をねぎらうという形にしてもらった。 結果、こうして2人で旅行に来れた。 霧切さんには「苗木君をねぎらうのに、あなたが当てたのを使っていいの?」 「改めて用意しましょうか?」なんて言われたけど、本当はねぎらってもらう必要なんてない。 僕の意志で助手をしてるんだし、霧切さんと一緒に過ごせるだけで充分ねぎらいになる。 けれど、そういう回りくどい事でもしないと、霧切さんと遊びにはいけないし。……確かに助手として側に居られるけど 僕としてはこう、もう少し仲良くというか……ともかく一緒に遊びに行く口実が欲しかった。 それなのに……霧切さん曰く『探偵の性』らしいけど、事件に巻き込まれ、足止めを食らった。 事件は無事に解決したけれど、一泊する羽目になり…… 旅館の人が余計な気を回してくれたけど、僕は耐えた……耐えたんだ! 触れる肩、確かな温もり、穏やかな息づかい、とても甘い香り……… そのどれもが、僕の理性の防壁を打ち砕こうとしていた……。 ―――――― 僕はいつも通りだと思っていた。 霧切の名前を出した途端に、僕等を不審人物として事情聴取をしていた刑事さんが取調室を出て 次に署長さんと現れた時に、面白く無さそうな顔をしているのを。 そして対照的に署長さんは下手にでておべっかを使うのを。 僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、霧切さんはどこ吹く風、なのも。 いつもの様に事件の詳細を聞き出し、そしてあっという間に事件を解決してしまう。 もうこれは予定調和なのではないのか?そう思ってしまうほど見慣れたいつもの光景だ。 そしてあっという間とはいえ、日が暮れるには充分過ぎる時間が経ち、一泊せざるを得なくなった。 なんでも、事件は解決したけど事情聴取はまだ続くらしい。 僕等は優先的に済ませてもらったが帰宅手段がなかった。 折しも、降り出した雨の影響もあり、無理に帰る方が危ないと判断したのだ。 どうせ明日は休日だ。霧切さんとまったり過ごそうと思っていたのだが…… 『田舎は交通手段が限られますから、是非お泊まり下さい』なんて、親切そうな女将さんが言っていた。 もっとも気が効き過ぎて、僕らは同じ布団で寝る羽目になった……… さすがに年頃の男女が同衾はマズい。石丸クンじゃなくとも不純異性交友の誹りは免れない。 だというのに霧切さんたら……… 『他の部屋は全部埋まっているらしいし、今日はもう疲れたわ』 『大丈夫よ。私は苗木君を信じてるから……ここまで言えば分かるわね?』 なんてお風呂上がりのしっとりした姿で言われて、うまく返事ができない内に 電気を消して先に寝息をたて始めたものだから…僕も諦めて床についた。 本当によく耐えたと思う。霧切さんが横に無防備な寝姿をさらしている。 ――ただそれだけで頭は熱を帯び、ギンギンに冴える。 おかげでほとんど眠ることなど出来なかった。 僕の葛藤ときたら、ハムレットに勝るとも劣らないレベルだったと思う。 ―――――― そして今、昨晩よりも遥かに緊張している。 朝一番で旅館を出て、近くのバス停まで歩いていたら突然の豪雨に見まわれた。 昨晩あれだけ降ったのだから、もう昼まで降らないだろうと思っていたのだが…… 一応持ち歩いていた折りたたみ傘だが、大して役に立たず、僕らは急いでバス停に駆け込んだ。 ところが例のごとく、田舎のバス停ゆえに本数が少ない。 少なくとも後一時間は来ない。この豪雨の中、再び旅館に戻るのは躊躇われる。 幸い、このバス停には屋根もベンチもある。一時間は長いけど、二人で居ればすぐに経つ。 そう判断したのは僕だけでは無いようで、どちらともなく腰掛けて、昨日の出来事を話していた。 「――事件に巻き込まれるのは、ね」 「やっぱり霧切さんでも嫌なの?」 「当たり前でしょう。一々どこかに出かける度に事件に巻き込まれたら、体がいくつあっても足りないわ」 「それに折角の休日が……それも苗木君が誘ってくれたのに……残念だわ」 「霧切さん……」 霧切さんもそう思ってくれてたんだ。少し気持ちが通じ合ってる気がした。 「……それにしても苗木君?」 「何かな?」 何となく訪れた沈黙を霧切さんから破った。 「昨夜の事よ、私達同じ布団で寝たのよね?」 「う、うん。だけど急になにを?」 思い出すだけで顔が熱くなる。悶々とする。 「だというのに、あなたときたら……」 ヤレヤレといった風に顔を振りながら、ため息をつく霧切さん。 こ、これはまさか!! 「正直言ってガッカリよ、日本には据え膳食わぬは―なんて諺があるのに」 「えぇぇ!!?そりゃないよ、僕がどれだけ必死に我慢していたと……アレ?」 「よかったわ。苗木君も人並みの欲求を持ち合わせていて…(私に魅力が無いのかと)…」 あぁぁ……いつものからかっている時の笑顔だ。 しまった……それに、僕は何を口走って……。 「き、霧切さん!さっきのは冗談で……」 「わかってるわよ、意気地なしの苗木君」 やられた……気を抜くとすぐに霧切さんの手のひらで遊ばれてしまう。 いつか霧切さんから一本とれる日がくるのだろうか…… 「ね、苗木君。少し肌寒いの。温めてくれない?」 僕が頭を抱えて沈んでいると、いつの間にか距離を詰めていた霧切さんがそう切り出してきた。 「え?うん、そうだね、確かに少し寒いかも」 「昨日布団でくっついている時のアナタ、とても暖かかったわよ」 なんて言いながら僕の左肩にもたれ掛かってくる。 「ちょ、霧切さん…」 「ふふ、暖かい。どうして苗木君の体温はこんなに高いのかしらね?」 そんなの、決まってるじゃないか。 「あら?苗木君、アナタ不整脈の検査を受けた方がいいかもしれないわね、胸がドキドキしてるわよ」 「も、もう騙されないからね、霧切さんにからかわれてばかりはいられないし」 「残念ね、でも…寒いのは本当よ」 確かによく見ると微かに震えている霧切さん。 唇もうっすら紫色に…… だから僕は霧切さんの肩を掴んで抱き寄せた。 一本とるなら今しかない!普段のお返しだ。 寝不足の頭ではそんな事しか考えられなかった。 「な、苗木君!?」 「こうすれば2人とも暖かいよね?」 「え、で、でも……」 珍しく霧切さんが動揺している。これだけでも行動に移した甲斐があった。 「実を言うと僕も寒かったんだ。…これで僕も暖かいよ、何故か霧切さんの体温も高いから」 「……苗木君の癖に生意気ね…」 そう呟きながら僕の背中に腕を回してきた。 ふと、実はとんでもない事をしているのでは?と思ったが。 どうせ後10分もしないうちにバスが来るだろう。 それまで暖をとっていればいい――お互いカイロのようにポカポカしているんだから。 この後、豪雨のせいでさらに一時間遅延したバスが来るまで、僕らはずっと抱き合っていた。 ――――――

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