kk9_383-388

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事件現場と化したホテルの部屋は、たちまち探偵助手である僕のテスト会場になった。 警察がこの部屋に押し寄せてくる前にハウダニット、"どうやって犯行が起きたのか"を僕に推理してもらうことになった。 しかし、何から調べればいいんだろう――? → 被害者を観察してみる   部屋の様子を調べてみる まずは大の字に倒れている男の人、名前がわからないので"被害者A"の体をよく見てみることにする。 顔や体中が痣だらけで、気絶に至った一撃がどれなのか正直判別できない。 それにステテコ一丁だけというのも何か引っかかる。 この人がホテルに入った時の衣服が見つからないのも、この部屋を選んだってわけじゃないのかな? 「ん? これは……」 そんな被害者のすぐ近くに凶器のドスが転がっている。 けれど血液の付着もなく、刃こぼれしている感じがしない。 そもそも、このドスが犯行に使われた凶器なら血溜まりが出来るはず。 なのに被害者には流血の様子はなく、打撲の痣ばかりが全身に残っている。 被害者の様子はある程度記憶した。 次は何を調べようか?   被害者を観察してみる → 部屋の様子を調べてみる 「しかし、すごい光景だな……」 壊れたソファ、形が歪んでいるスツール。 浴室の壁には直径2mくらいの大きな窪みがあり、部屋のオブジェだったのだろう。 絨毯の上にはコンクリートの破片も転がっている。 そんな中で唯一、回転ベッドだけが無傷のまま部屋の中をグルグル回っている。 何だかここだけが踏み込んではならない聖域か何かだったりしたのかな――? うーん、これだけの情報ではまだ経緯がわからない。 こうなったら――。   被害者を観察してみる   部屋の様子を調べてみる → 霧切さんにヒントをもらう 「ねぇ霧切さん……」 「何かしら、苗木君?」 「ヒント、をくれないかな? 犯行に使われた凶器があり過ぎて一つに絞れないよ」 「そう……。だったら苗木君、被害者の両手首を見てご覧なさい」 「うん。……って、ここにも痣があるね」 「その痣の形、人の手の形に見えないかしら?」 何となく、手首を強く握って出来るような痣の形に見えてきた。 でも、手首を握っただけのことがヒントに――? 「周りに散らばったモノだけを武器にして気絶させたとは限らないわ」 「えっ、これ以外にもまだ凶器があったりするの?」 「二つ目のヒントよ。被害者の側頭部をじっくり見て」 被害者Aの頭の付近にしゃがんでじっくり観察してみることにする。 お願いだから目を覚ましたりしないでよ――! そんな祈りも込めながら右のこめかみ部分を見ると何か汚れが付着している。 「これってもしかして……靴跡?」 「私にもそのように見えたわ」 霧切さんが部屋の入り口の方を見る。 僕もそれに倣って入り口を見ると、聴覚がサイレンの音をかすかに拾った。 「……時間ね。答え合わせは私達の部屋に戻ってからにしましょう」 「わかった」 そして僕らは駆け足で現場を後にして部屋に戻った。 ――――― 505号室――。 幸いにも移動中に警察に遭遇することもなく、僕らの部屋に戻ることができた。 だけどドアを施錠しようにも蹴破られて鍵を掛けられない。 気休め程度だけど、チェーンロックを施しておく。 「その内、警察が目撃証言を取るために各部屋を訪れるはずよ。もう一度着替えましょう」 「わかった。……でも、どう事情を説明するの?」 「二人とも熟睡していて外の様子には気づかなかった。それでいきましょう」 警察には私が説明するから、苗木君はベッドで寝たフリでもしてちょうだい――。 そんな段取りを決めて僕らは着替えることにした。 先に霧切さんのジャケットをハンガーに掛け、ベッドの上に放り投げた自分のバスローブを拾って僕の方が浴室へ向かう。 そしてパパッとTシャツとズボンからバスローブの姿へ。 「霧切さーん、こっちは……」 声を掛けると同時にドアを開けたのが不味かった。 霧切さんの方はまだ着替え終わっておらず、バスローブを羽織っている途中だったから。 無意識なのか、観察眼を駆使して霧切さんの後姿を堪能してしまう。 まず背中から腰にかけてのライン。 ついつい指でなぞりたくなるような肩甲骨から背骨のライン。 探偵は体力も資本ということからか、引き締まった体ながらも腰からお尻にかけてのラインは「Beautiful」の一言にふさわしい。 さっき、カップルのフリで霧切さんの腰に腕を回して軽く抱きしめてみたけど、次があったらギューッと抱きしめたいね。 「? 魚が餌を食べるみたいに口をパクパクさせてないで、早く寝たフリをして」 「ご、ごめん霧切さん……」 後姿に見惚れていたことに気づいてないようで、僕がボーッとしていることに眉を顰めるだけだった。 入り口のドアに背を向けるようベッドに横になってシーツを頭から被る。 目を閉じて寝たフリをしているけど、意識はさっき見た霧切さんの後姿が目に焼きついていて離れそうにない。 霧切さんとテストの答え合わせがあるのに、きっちり思い出せるのかちょっと不安になってきた。 コンコン、とドアを叩く音が聞こえて緊張が走る。 ちょっと間を空けてドアを開く音がすると同時に警察と霧切さんの会話の遣り取りが聞こえてくる。 ここからでは距離があるため会話の全部が聞き取れるわけもなく、この場をうまく切り抜けてほしいと祈るくらいしかできなかった。 そんな中、ドアの外から男達の怒号が飛び交う。 おそらく廊下で倒れていた人たちが目を覚ましたのだろう、警察官達と揉めているようだ。 だが、そんな喧騒を遮るようにドアがゆっくり閉められ、外の騒音も遮断された。 「もういいわよ、苗木君」 「……それで大丈夫なの、霧切さん?」 「えぇ、もう警察も部屋に来ないはずよ。しばらくは外の人達の対応で追われるわね」 霧切さんが床の絨毯に転がっているミネラルウォーターのボトルを拾う。 さっき押し入られた時に手放したのだろう、絨毯が零れた水を吸っている。 ボトルを処分している間に僕は自分が使っていたバスタオルを絨毯にトントンと押し付け、少しでも絨毯から水分を拭うようにする。 よし、これで一段落ついた。 ベッドに腰掛けると、霧切さんも僕の隣に並ぶように腰掛けてきた。 「さぁ、そろそろ始めましょう。あなたに課した"テスト"の答え合わせを」 「うん。よろしくお願いします……」 ルームランプの橙色と混ざった霧切さんの瞳が鋭くなった。 僕も思わず緊張からゴクリ、と生唾を飲み込んだ。 ――――― 「第一問。被害者を襲撃したのは次の内、どちらでしょう? A、私達の部屋に押し入ったグレーのスーツの男。B、隣にいたパンチパーマの男」 「それは……」   Aのスーツの男   Bのパンチパーマの男 → わからない 「ちょっと、特定できないかな?」 「……その理由を聞かせてくれる?」 「うん。被害者の体に残る痣の数が多すぎるのも理由の一つかな。全身あんなに痣が残るのも相当痛めつけた証拠だしね」 「もう一つの理由は何かしら?」 「今の霧切さんの問題、かな?」 「私の……?」 「霧切さんの言い回しでは"Cの両方"という選択肢を設けなかったことに違和感を覚えたんだ。誰がやったのかという明確な証拠も掴めなかったし、"どちらでもあり、どちらでもない"が僕の答えかな」 「そう。無難な回答ね……」 「えっ、今の回答でよかったの?」 思わず聞き返してしまった。 「私としては正解の許容範囲内よ。苗木君が犯人をスーツの男だと決め付けてないかを試すための問題でしたもの」 「えっ、僕を引っ掛けようとしたの?」 「引っ掛けるとは人聞き悪いわね。過度に先入観を持って推理しても、間違った方向に推理してしまう可能性が高くなるわ」 「常に第三者の視点で考えろ、霧切さんがよく言う言葉だよね」 「その通り。指紋採取といった科学的な根拠も必要になってくるでしょうけど、犯人の特定を早急にしてはいけないことが第一問の目的なの」 「そうなんだ。……でも、いきなり引っ掛け問題は意地悪じゃない、霧切さん?」 「助手であるあなたの実力を測るためよ、な・え・ぎ・君?」 そう言って指先で僕の鼻っ柱を突っついてくる霧切さんだった。 「それじゃあ二問目に行くわよ。被害者と加害者には面識があった、Yes or No?」 「それは……」 → 面識があった   面識がなかった   わからない 「あの部屋が荒らされたからこそ、面識があった証拠かもしれない……」 「続けて」 「通り魔的な犯行だったら被害者が一方的に殴られて、被害者だけがボロボロの状態で発見されるはずだよ。なのに部屋全体が荒れているのは抵抗した証拠だよ」 「加害者と交戦したという証拠はあるの?」 「それもある。一つは被害者の手に付着していた石の破片。あれは浴室の壁に備え付けていた石のオブジェなんだよ」 「壁際にあった二つの窪みもそこにあったんでしょうね」 「おそらくは。2mくらいの塊を振り回したことで部屋の至る所に石の破片があった……。それが証拠の一つ」 「もう一つは?」 「それは……」   散らばったソファがあったから → ドスが転がっていたから   ベッドだけが綺麗だったから 「被害者の足元に刃物のドスが一本転がっていた点もあるよ」 「気づいていたのね……」 「うん。でも血液の付着もないし、刃こぼれした様子もなかったから威嚇程度に使ったのかな?」 「そこは苗木君の推理と私の推理では異なるようね……」 「霧切さんの推理ではどんな見解なの?」 「私は刺そうとする前に気絶したって推理したわ。刃物を持ち出した以上、交戦したという証拠として捉えられたし」 「なるほど……」 そう考えた方がしっくりきそうだ。 「手掛かりを見つけて、何が起こったかを分析する……。観察眼も板についてきたようね」 「そうかな……。でも、そう言って貰えると嬉しいな」 実は霧切さんの姿をじっくり見るために鍛えているとは口が裂けても言えないけど――。 「それでは最後の問題よ。あの事件現場を一言で表現するなら何て呼べばいいかしら?」 「うーん、それは……」   組員同士の抗争 → 痴情のもつれ   わからない 「痴情のもつれ、かな……?」 「えっ?」 「そもそもこういうホテルで男同士がいるんだよ? きっと加害者と被害者は同性愛者だったんだよ!」 「苗木君、あなたはどういった点から被害者と加害者がゲイだと推理したの……?」 「それは……ベッドだけが唯一、壊されていなかったから?」 個人的にはあの回転ベッドだけずっとグルグル回っていて、すごくシュールに見えたんだよね。 「それに……被害者がステテコ一丁だったのも不可解だけど、ガチムチ♂パンツレスリングをするために服を脱いでいたのなら合点がいくよ!」 「私には苗木君の言っていることがよくわからないわ……」 眉間に皺を寄せて首を横に振る霧切さん。 あれ? 僕の推理って的外れだったの? 「あるいは二人ともサディスティック嗜好で、相手を痛めつけないと興奮しない性質だったんだよ。こう、ダーク♂マッサージ的な意味で」 「苗木君。一度、同性愛者という視点から切り離して推理してみない……?」 僕の肩に手を置き、戦刃さんを見るような残念な眼差しを送って提案してくるじゃないか。 「痴情のもつれという犯行で推理しても、被害者からは体液の検出はされてないじゃない」 「体液って、まさかせいえ「苗木君、そこまで言わなくてもわかるわね?」……はい」 「最後の問題だけは着眼点が違いすぎて穿った見解になったようね……。あまり深く考えず"組員同士の抗争"と捉える方がいいわ」 「ごめん……」 思わずシュンとなって、肩を落としてしまう。 「そんなに落ち込まないの……。これでもあなたの成長を実感できているんだから素直に喜びなさい」 「それホントなの、霧切さん?」 「えぇ、よくあんな短時間で少ない手掛かりから犯行の経緯を推理できたからテストは合格よ」 もっとも、着眼点は良くてもその後の推理には課題もあるようだけど――。 そんなお小言を貰いながらもテストに合格できたことは素直に嬉しい。 「ありがとう、霧切さんっ!」 嬉しいという感情が爆発し、衝動のままに霧切さんに抱きついてしまう。 「ちょ、ちょっと苗木君!?」 「本当よかった……。テストに不合格で助手失格なんて言われたら僕、僕……」 「バカね……。仮に不合格でも助手を見捨てるほど私って薄情な探偵に見える?」 涙ぐんだ僕をあやすように霧切さんは僕を抱きしめ、額同士をくっつけてきた。 「それは違うよ……! 霧切さんは何時だって僕の支えになってくれている」 「そう。私も苗木君という助手のおかげで刺激的な日々を送っている実感がするわ」 「えっ、それって……」 「あなたの"超高校級の不運"に私も巻き込まれているんですもの、退屈なんてするわけないじゃない」 「ですよねぇ……」 捜査を手伝ったら土砂降りの雨に遭うし、休憩したホテルに寄ったら抗争の場になるし。 「でも霧切さん。ツイてない僕を傍に置くことで、事件に巻き込まれるって考えたりしない?」 「そんなこと、あるはずないじゃない。前向きが取り柄の苗木君らしくない発言ね」 「それは……。霧切さんが僕の"不運"で災難に巻き込まれないか不安に思っていただけであって……」 「苗木君、これだけは覚えておいて。私は私の意志であなたを"超高校級の探偵助手"にしているの。あなたの"不運"を買って事件を解決する探偵屋みたいに考えないで」 「霧切さん……」 そう言って霧切さんは僕の頭に手をそっと添える。 親指で前髪を掻き分けられる感触を感じたら、額に何かを押し付けられるような感触。 何が当たっているのかと上を見上げるようにしたら、霧切さんの首筋と顎を下から覗くような形になった。 位置的に考えてこれってまさか……! 「き、霧切さんっっ!? な、なにをしているのかな……!!」 「……っ。 これは、その……"おまじない"よ」 「お、おまじない!?」 「母親が子供を励ます行為の一つにあるじゃない? 苗木君はそんなことはなかった?」 「あったような、ないような……って、今のソレと関係あるの!?」 「苗木君があまりにも泣きそうだったから私なりの方法で励ましたつもりだけど、逆効果だったかしら?」 「むしろもっと……じゃなくて! 衝撃過ぎて、さっきまで考えていたことが吹っ飛んだよ!」 「そうそう、その調子よ。クヨクヨした苗木君よりバカ正直な苗木君の方が私は好きよ?」 「もう、からかわないでよ……!」 二人して苦笑してしまう。 やっぱり、僕らはこの関係が一番なのかもしれない――。 続く ―――――

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