kk9_548-556

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――――― バスローブ姿で男女二人が抱き合う構図――。 あれ、これって実はすごい状況だったりしない? 僕が勢い余って押し倒しちゃったりすれば"ポワワワワ~ン"ってピンクの霧がかかったりするのでは。 そして気づけばホテルの入り口で霧切さんに抱きつかれて『昨夜の苗木君、素敵だったわ……』 なんて言われる展開が繰り広げられるのでは――! 「……君。苗木君!」 「うわっ! ……な、何かな、霧切さん!?」 「さっきから呼んでもボーっとしているから大丈夫? 熱とかあったりしない?」 「だ、大丈夫だよ。平気平気……っ!?」 「ホントかしら? ……って何よ、熱があるなら早く言いなさい」 僕の反応が鈍いことを訝しんで、体の調子を心配してくる霧切さん。 またしても僕の額に自分の額を押し当てて体温を測るけど、一時的に体温を上昇させる原因が目の前にいるんですけど――。 そんな僕の気持ちなんて露知らず、霧切さんは僕の両肩を掴んで一緒に倒れるようにベッドの上で横になり、右手で手繰り寄せたシーツを二人の肩くらいまで掛ける。 「風邪は引き始めが肝心よ。辛くはない?」 「うん。……って、これじゃあ霧切さんに風邪が移るんじゃないの?」 「何度も言ったじゃない。私は苗木君ほどヤワじゃないの」 「いやいや、霧切さんとおでこをくっつけちゃったから余計にドキドキしちゃって熱があるみたいになったんだよ?」 「……苗木君、嘘を付くにしたってもう少し言い方を工夫したりとかできないのかしら?」 それは誤解だよ! ――って、反論しようにも、ついうっかり口を滑らせるように漏らした感想も"風邪なんか引いてない"って言い訳をしていると霧切さんは解釈しているし。 "一刻も早く霧切さんに誤解を解いてもらって病人のフリは早くやめましょう、苗木君?" 頭の中で天使の姿をした舞園さんが説得してくる。 "うぷぷ、この際なんだから病人のフリして女金田一ちゃんにとことんセクハラしちまいなよ、苗木ぃ!" 同時に悪魔の姿をした江ノ島さんが誘惑の言葉を囁いてくる。 脳内で天使と悪魔の取っ組み合いが繰り広げられ、どちらに従うべきかで葛藤している。 そして出た結論は――。 「……いいの?」 「えっ?」 「風邪、移っても知らないよ?」 「えぇ、もちろん。苗木君が心配しなくていいのよ」 「もし霧切さんが風邪を引いたら僕が看病するよ……」 「フフ……。そんな筈ないけれど、実現したらお願いしようかしら?」 "あ~れ~" "Yes! 存分にヤっちまいな!" 欲望に従うことだった。 胸元に顔を寄せ腰に腕を回して、霧切さんを抱き枕代わりに見立てる。 瞳を閉じて触覚は霧切さんの抱き心地を、嗅覚は霧切さんの匂いを捉える。 「寒いの苗木君? エアコン切った方がいい?」 「うぅん。霧切さんの体が温かいからちょうどいいよ」 「そう……。寒かったらすぐに言ってちょうだい」 「うん。ありがとう……」 右頬は肌理細やかな霧切さんの胸元の感触を、右耳は霧切さんの心音を捉える。 トクン、トクンという控えめながら芯のある音は霧切さんらしくてクスリ、と笑みを溢してしまう。 「ちょっと、くすぐったいわよ」 「……ごめん。嫌だった?」 「嫌じゃないけれど、初めての感触だから戸惑うのよ……」 「こうして霧切さんに包まれているとドキドキすると同時に……すごく落ち着くんだ」 こう、霧切さんと一つになれているような気がして――。 「初めて会った頃は常に冷静で、何事にも動じないっていうか感情がない人じゃないかって思っていたんだだけど……」 「人をモンスターのように言わないでよ」 「ごめん……。でもすっごく優しくて芯のある人なんだって、助手として傍にいれたことでわかったよ」 「そう。私も苗木君が意外に甘えん坊タイプなんだって再認識しているところね」 「うっ」 「今なら誰もいないことなんだし呼んでもいいのよ? "響子姉さん"って」 「まだ覚えていたんだ、それ……」 いつかの世話焼きお姉さんの再来である。 でもそんなに優しいからこそ、ついつい不安で確認してみたいことも浮き出てくる。 「ねぇ、霧切さん。一つ聞いてもいいかな?」 「? なに?」 「霧切さんって困っている人がいたら、率先して助けるタイプだったりする?」 「……質問の意図がわからないわ、苗木君」 「だったら言い方を変えるね。僕以外の誰かでも霧切さんはこんな風に優しくしたり、お世話を焼いてくれるのかって知りたくなったんだ」 そうねぇ――。なんて逡巡する霧切さん。 僕の頭を撫でることで思考が冴えたのか、回答するまでの時間は思ったより短かった。 「最初の問いには"Yes"、二つ目の問いは"No"って言ったところね」 「どういうことなの?」 「困っている人の力になりたい、っていうのは探偵としての心構えに近いわね。お爺様も似たようなことを口にしていたから私の一族ってお人好しだったりして」 「よかった、僕もそんな風に思いながら霧切さんのお仕事手伝っていたよ」 「共感してくれてありがとう。でも世の中の人が全て苗木君のように優しくてバカ正直だったりしたら、探偵業は廃業に追い込まれるわね」 「ハハッ、それは一大事だね……」 「代々受け継がれてきた看板を私の代で終わらせるなんて、笑えない冗句ね」 「……やっぱり、高校を卒業したら探偵業を継ぐの?」 「えぇ、そのつもりよ」 僕の癖っ毛を手櫛で丹念に梳かしながら漠然と高校を卒業した後の進路について語ってみる。 「ねぇ、もし僕の進路が未定のままだったりした時、霧切さんの事務所を候補に挙げたりしてはダメかな……?」 「ダメに決まっているじゃない」 「えっ!?」 これは予想外でショックを隠せない。 霧切さんなら受け入れてくれると思ったのに――。 「そんな滑り止めや腰掛といった生半可な覚悟でやってきても迷惑なの。候補に挙げるなら本命にしてほしいわ」 「あ、そういうことなんだ……」 「それに事務所を構える以上、会計事務やお茶汲みと言った業務もこなしてほしいところね」 「業務っていうより、それって雑用だね」 「何を言ってるの苗木君、お茶汲みにしたって依頼人への御もてなしのために必要なスキルなのよ?」 「ご、ごめんなさい……」 「美味しいコーヒーの淹れ方すらわからないまま苗木君を社会に放すのは忍びないわね。いいわ、今度私がコーヒーの淹れ方を教えるからマスターしなさい」 「どんな三段論法!?」 服を脱ぐ→ コーヒー淹れる → 砂糖と塩を間違えるってくらいおかしいよ! 「安心して苗木君。マスターするまで私が飲むし、仮に不味くてもセレスさんのようにカップは割らないから」 「そっちの心配は割りとどうでもいいよ!」 "超高校級の探偵助手"から"超高校級の雑用"にクラスチェンジってあんまり嬉しくないな――。 「霧切さん……。僕の心配もいいけど、自分のことも少しは心配してほしいなぁ」 「どういう意味かしら、苗木君?」 「その、なんていうか、僕のラッキースケベって言うべきなのか……」 「何よ、歯切れが悪いわね。はっきり言いなさい」 「霧切さんって捜査に夢中になっている時って無防備……って、言えばいいのかな?」 「? 視野が狭くなっているって言いたいの?」 「そうじゃなくて! その……他の人に下着を見せてないかって心当たりない?」 「下着を?」 やっぱり心当たりがなかったか――。 嫌われるのを覚悟して教えてあげなきゃ、霧切さんの将来のためにも! 「さっきの雨の捜索の時だって、ブラウスから少し透けて見えてたんだ。霧切さんの下着」 「あぁ、そういうことね……」 「さりげなく気づいてもらうように遠回しに言っても失敗に終わっちゃったし」 「別に構わないじゃない、ただの下着でしょう?」 「なん……だと……?」 衝撃の一言だった。 僕と霧切さんの下着に対する価値観には大きな隔たりがあったようだ。 「その考えはダメだよ。霧切さんも年頃の女の子なんだから、もっと自分を大事にしなきゃ」 「誰でも身に着けるものなんだし、こだわる必要がそこまであるの?」 「あるよ! 下着はファッションって説もあるけど、その人の個性を表したアイデンティティの塊だったりするんだよ!?」 「アイデンティティって……大袈裟な表現ね」 「いい、霧切さん。想像してみて? 大好きな人とエッチ目的で一晩過ごす時、3点999円にあるようなベージュ色のおばさんくさい下着だった場合とか!」 「適当な下着で見繕うなって言いたいの?」 「そうだよ。男の人の方はせっかく卍解しても、そういう下着だったら股間の霊圧消えちゃう!」 「バンカイ? レイアツ……? ごめんなさい、苗木君。あなたの例え話は時々私の理解の範疇を超えてしまうようね」 「あ、ごめん。ノルマンディに上陸するくらい大事だって言えばわかってくれるかな?」 「下着を選ぶことが世界大戦レベルの出来事なの? 大袈裟を通り越して胡散臭い話に聞こえるわよ」 「それくらい下着を選ぶことは大事だってことに危機感を持ってほしいの、霧切さんに」 でも今日の下着のチョイスはすごく霧切さんに似合っていたんだけど――。 流石に恥ずかしいことなので、か細い声でボソリと言う。 「舞園さんの純白、朝比奈さんのグレーのスポーツブラ……。江ノ島さんも黒い下着を着る時があるけど、あれは小悪魔チックな意味合いだから霧切さんのアダルティな方向とは少し異なるね」 「苗木君……。あなた、私が教えた"観察眼"を邪な目的で使用しているなんて……軽蔑するわ」 「それは誤解だよ! 全部偶然なんだって! 授業中どうしたって夏服の背中って視界に入っちゃうから!」 「あなたの"幸運"ってラッキースケベ限定で発動するのかしら……?」 「多分そうかも……。宝くじの1等とか当たった方がよっぽど良いと思うんだけどね……」 思わずシュンと落ち込んでしまうが、霧切さんが髪型を乱すくらいワシワシと掻き乱してくる。 「ちょっと痛いよ、霧切さん……」 「苗木君の前向きな部分を活性化させるために必要な措置よ」 「ペットの毛繕いにしたって、もう少し優しくすると思うよ?」 「おかしいわね……。私の目には苗木君のお尻に尻尾があって、喜んで振っているように見えるのに」 「それはきっと幻覚だよ霧切さん。いたぶられて悦ぶのは山田君の業界限定だから、ちっとも嬉しくないよ……」 「あら、ごめんなさい。でも気は逸れたでしょう?」 「うん、まぁ……。でも霧切さん、男は誰もが狼なんだから気をつけてね?」 「どういう意味かしら?」 「羊のような顔だと思って油断してたら"ガオーッ"って牙を剥いて襲い掛かってくる可能性だって否定できないんだよ?」 「そんな暴漢相手だったら私一人でも軽くいなせるわよ」 「うん。霧切さんが僕より何倍も強いのは知っているよ。ほら、先日発売した舞園さんのカバーアルバムの歌詞にもあったじゃない」 「……そう」 あれ、霧切さん? 僕の癖っ毛を鷲掴みなんてしてどうしたの? なんか僕、土の中から引っこ抜かれたみたいで人の扱いをされてないみたいだよ? 「"この人だけは大丈夫だなんてー、うっかーり信じたらダメダ~メよ"って、あって……へぶわっ!」 「ご忠告ありがとう、苗木君」 頭に何かの衝撃が走り、僕の意識は暗転したのだった――。 ――――― 『昨日、国会議事堂前で起こった一連の騒動に関連し、警察の見解では沖縄の基地拡大法案に反対する団体の仕業との見解が強まっています』 「……! 霧切さん、テレビ見て」 「あれは……」 『首謀者の行方は依然として掴めておらず、引き続き捜索が行われていると――』 数日後、霧切さんと第三学生食堂でお昼ご飯を食べている時だった。 テレビのニュース映像では国会議事堂にピンクのダンプカーが突っ込んでくる騒動を報じていたけど、映像の中で見覚えのある人がチラリと映っていたのだ。 あの時、僕らの部屋に押し入ってきた男の人である。 「なんか大きなことを仕出かしそうな人には見えたけど……」 「まさか国家を相手に騒ぎを起こすとは予想外ね」 隣でイタリアンセットのミネストローネを啜る霧切さんも同意するのであった。 僕もハンバーグ定食に箸を進める一方で、先日のことをふと思い出した。 「スケールが大きいことで思い出したんだけどさ、先日の依頼もスケールが大きいと言えば大きい話だったよね」 「風間のおじ様の件のことを言っているの?」 「うん。ほら風間さんって……」 CIAの人だったんでしょ――? 世界最大の諜報組織っていうこともあり、つい小声で確認してしまう。 東城会の六代目会長の行方を捜す手がかりが欲しい――。 そんな依頼の元で霧切さんと捜査していた。 そして霧切さんは見事に搬送先の病院"東都大医学部付属病院"まで探し当てるのだった。 その時の報告に僕も立ち会ったんだっけ――。 ――――― 『……以上が捜索人の東城会六代目会長・堂島大吾氏の捜査報告です』 『ご苦労だった』 『いいえ、お爺様からの紹介ですもの。風間のおじ様に協力するのは当然です』 『手がかりどころか、入院先の病院まで特定するとはな』 渡された報告書に一通り目を通している依頼人の風間譲二さん。 彼が警察庁に在籍していた頃から霧切さんのお爺さんと親交があるようで、霧切さんとも旧知の仲らしい。 『ところで響子』 『なんでしょう、おじさま?』 『そこのboyは何者なんだ?』 『えっ、僕ですか……?』 いきなり僕に話を振られてびっくりする。 僕を見る風間さんの瞳が、どこか値踏みされているような気がした。 『彼はクラスメイト兼、私の助手の苗木誠君です』 『は、はじめまして苗木誠です』 『苗木、誠……』 僕の名前を復唱しただけなのに、固唾を呑んで見守る緊張感が生まれる。 『……beautiful eyes』 『えっ?』 『いい瞳をしている』 『そんな、僕なんかより霧切さんの瞳の方が個性的で魅力的であって……あたっ!』 『ごめんなさいおじ様。彼、バカ正直な性格なもので思ったことを直ぐ口に出す習性があるの』 『ひどいよ霧切さん……。最近は直ぐに手を出す習性があって困ってますよ』 『ちょっと苗木君、今のは聞き捨てならないわ。まるで私が暴君みたいに聞こえるじゃない』 そんな僕らの遣り取りに風間さんも思わず苦笑する。 『響子、そこのboyとはsteadyな関係なのか?』 『ス、ステディ!?』 『おじ様、彼とはあくまで上司と部下の関係であって……』 『そ、そうですよ。霧切さんをサポートするだけで大満足の助手ですよ!?』 『あの真面目一筋な響子がこのboyの前では只のgirlになるのは驚きだな。grandpaも大喜びだろう』 『もう、人聞きの悪い……』 サングラス越しでもその目は霧切さんの成長を喜んでいるのがわかる。 それにこんなフランクな霧切さんを見るのも初めてだ。 やっぱり"家族"って呼べる人には肩の力を抜いて話しているって印象だ。 僕との会話もそんな風にして接しているのかな――? 霧切さんと風間さんとの遣り取りを隣で眺める傍ら、そんなことを考えていた。 ―――――― 「でも霧切さん、一つ聞いていい?」 「何かしら?」 お互い副菜のサラダを食べている時、一度聞いてみたかったことを確認することにした。 「そもそもCIAっていう大きな組織だったら、衛星とかからポンって人を捜し当てることとか出来たはずじゃないの?」 「依頼の対象者は意識不明の重体なのよ? 動けない人を衛星から探すのは難しい話じゃないかしら?」 「あっ、そうか……」 「それにあの組織は結果が全てだから、諜報員は自分の意思で動くものなの」 「だから風間さんは霧切さんの伝手を頼ったの?」 「現地の情報を知るナビゲーターなら日本の探偵がうってつけでしょうし。それと苗木君……」 「何?」 「風間のおじ様が諜報員だっていうことは他言無用よ」 「うん。もちろん」 「おぅお前ら、隣いいか?」 「苗木君、霧切君! 兄弟と相席してもいいかね?」 「うん。いいよ」 「別に構わないわ」 焼肉定食のトレーを持った大和田君と焼き魚定食のトレーを持った石丸君が僕らの前に立っていた。 流石に人気の食堂なだけあって、満席に近い状態だし受け入れるのは当然の話だと思う。 「ところで、君達は何の話をしていたんだね?」 「あー、それは……」 秘密にしなきゃならないお話をバカ正直に話せるわけもなく、適当に別の話題はないか頭を働かせている時だった。 隣の霧切さんが口を開く。 「最近、苗木君が生意気じゃないのかって話していたのよ。ベッドの上ではあんなに従順だったのに」 「「なん……だと……?」」 "パキーン!"と、場の空気が氷河期レベルで凍りつくような音が聞こえた。 それと僕らの周りで食べている人たちの耳がダンボみたいに大きくなっているのは気のせい? 「な、苗木が!? 一体どういうことなんだよ……!」 「彼、自分から抱きついて中々離れようとしない甘えん坊タイプだったのよ?」 なんか僕の霊圧が消えちゃう感じもした。 「挙句の果てには、起きたら胸元に苗木君の体液(※涎)が掛かっているんですもの。流石の私も驚いてしまったわ」 その一言が決定打だった。 たちまち怒号と喚声が轟き、第三食堂は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。 リア充爆発しろ! 起き抜けのBukkakeェ、奴が"超高校級の竿師"か――、周囲の声も様々だ。 「僕の目が黒いうちはクラスの風紀を乱さないようにしていたのに守れなかった……! 僕は、僕はぁぁっ!!!」 いや、石丸君の瞳って真っ赤じゃん――ってツッコミを入れることを忘れるくらいドン引きしてしまう。 現実を受け入れられず発狂する人――。石丸君のように。 汗と涙と鼻水と涎がいっぺんに零れて、焼き魚のホッケに掛かる。 すごく塩っぽいけど塩分過多で食べたら倒れたりしないよね――? 「べ、別に前からお前ら仲がいいと思ってたけど、う、羨ましくなんかねぇからなっ!!」 何だか大和田君の叫びが言っていることと真逆に聞こえるのは気のせいじゃないかも。 隣の霧切さんを見ると事の重大さにまだ気づいてないのか、キョトンと首を傾げている。 かわいい――。じゃなくて! 「逃げよう、霧切さん!」 「ちょっと、私はまだ食べ終わってないわよ!」 「いいから!」 トレーの片付けもそのままに霧切さんの手首を掴んで走り出す。 うん、しばらくここの食堂でご飯食べるのは控えよう。 そう固く誓うと同時に今後のお昼はどうするか考えてみる。 人通りのない階段の踊り場まで走ったら、霧切さんの腕を離す。 食後の運動にしては早すぎたか、ちょっとお腹周りがきつく感じるけど。 「霧切さん、あんな風に言ったら誰だってビックリするよ?」 「ありのままに言っただけのことじゃない。ナンセンスね」 食事を中断されたことが不満だったのか、ちょっと拗ねている。 「あれじゃあ、僕が"超高校級のスケベ"って言われても仕方ないよ……」 「苗木君は気絶しただけのことじゃない?」 「うん、そうだね。気絶させた張本人が言うのも何だけど」 「……やっぱり生意気ね、助手の癖に」 結局、僕が気絶するように眠って意識を取り戻すように目が覚めたらチェックアウトギリギリの時間だったわけだ。 疚しいことはこれっぽっちもなかったし、濡れた服も乾いていてすぐに着替えてホテルを後にした。 何ていうか、その夜のことが幻だったんじゃないって言うくらいあっさりしていた。 「あれだけ騒がれたらしばらく食堂は使いにくいね。これからお昼どうしよう?」 「私は食べられれば何処でもいいわ」 「そう……。だったらお弁当でもいい?」 「お弁当?」 「そう。朝、僕が二人分作るから」 「苗木君がそこまでする必要ないと思うけど……?」 「代わりと言っちゃあなんだけど、霧切さんは僕にお茶の淹れ方を教えるってのはどうかな?」 「なるほど……魅力的な提案ね」 「じゃあ決まりだね。霧切さんは嫌いなものとか、食物アレルギーってあったりする?」 「ないわ。苗木君の好きなように作って大丈夫よ」 「うん、わかった」 前向きな人の特徴は、ピンチをチャンスに変えられるかだと思う――。 霧切さんの助手として過ごすことで思考が働きやすくなったし、不測の事態になっても柔軟に対応に出来るような気がした。 これも偏に、霧切さんのおかげなのかな――? 『おめでとうございます!  霧切響子との信頼度がレベルアップしました! 「相棒(パートナー)」 → 「超高校級の助手」』 完

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