ナエギリだんがんアイランド【公園編】

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 >霧切さんと公園にやってきた。 「……ていうか、何この世界線」  海原が陽光を照りかえす、常夏の島。  画面の向こうによく見た世界の中に自分がいると思うと、違和感が果てしない。  状況を飲みこめずうろうろとしている僕に、いつものように彼女が呆れたような溜息を吐く。 「ジャバウォック島でしょう。貴方、もう仕事を忘れたのかしら?」 「えと…そういうことじゃないんだけど…」 「……相変わらず、適応力のないヒトね」 「いや、霧切さんが順応しすぎ…」  ジト目の彼女に背を向けて、いつの間にか手に持っていたファイルケースに目を通す。  何を隠そう、僕たちは今―― 「あの事件の事後処理のために、二人でプログラムの不備を見直しに来たんでしょう」 「ああ、うん…そうだっけ」 「……ちょっと。貴方が一人だと大変だと泣きを入れるから、手伝ってあげているのに」  ちなみに代償は高級芋焼酎でした。安くはない、けっして。 「それなのに、当の貴方がそんなに等閑だなんて…誠実さに欠けるんじゃないかしら?」 「う……ゴメンなさい」 「貴方の数少ない長所なのよ、それは。大切にした方がいいと思うけど」  さらりと酷い言葉を吐き捨て、霧切さんはそっぽを向いた。  彼女なりの、もう追求しないという、許してくれた合図だ。  その仕草を、というより霧切さんを、僕は少しも漏らさず目で追っている。  先程から僕が上の空なのは、実のところ、それが原因だったりする。  この電子空間の中で過ごすためには、アバターが必要だ。  そしてそのアバターは、必ずしも現実世界の姿を反映するワケではない。  僕と彼女は、あの日々の、すなわち超高校級の高校生時代の服装に、戻ってしまっているのだ。 「……なによ、ジロジロ見て」 「あ、いや…その、ゴメンなさい」 「あのね…何でもかんでも謝るその癖も、そろそろどうにかならない?」  手厳しさは、今も昔も変わらないのに。  見慣れた黒のスーツではなく、懐かしい濃紫色のジャケット。  少しだけ高く、幼くなった声色。  細いままの肩幅。華奢な肢体。  ……なんかちょっと、古臭い背徳的な感があるのは否めない。  イメクラ? と突っ込んでみたいけれど、多分死亡フラグだ。 「苗木君、背が伸びたんじゃない?」 「……昔はまだ霧切さんとそこまで身長差なかったからね」  自分で言って哀しくなるのに蓋をして、自分の姿にも目をやった。  よく見なれたはずの、自分自身の昔の姿だ。  ブレザーにパーカー、濃い色のジーンズ。いつものスーツよりホッとするというか、だいぶ着心地が良い。  ついでに、目線の高さは全然変わってなかったりする。ホント、哀しくも。 「それで、どうしてジロジロ見ていたのかしら?」 「ど、どうしてって…」 「……まさか、私の懐かしい姿に見惚れていた、だなんて言わないでしょうね」  口元に手を寄せ、クスリと笑う。  彼女が冗談を言う時のクセだ。  けれどその冗談は案外事実だったりするので、彼女の洞察力の鋭さにも改めて惚れ直してみたり。 「は、はは…やっぱバレちゃってるか。霧切さんには敵わないな」 「……え?」 「え?」 「あ、……」  と、笑うのを止めて、まじまじと僕を見る。  突然だったので当惑しながらもその瞳を見返すと、気まずそうに目を逸らされてしまった。 「……」 「……」  あれ、何だ、急に。 「…と、とにかく見回ろうか。といっても、どれくらいのレベルで調査をすればいいのか分からないんだけど」 「…細かいバグのようなものは、後々の調査で本格的に探すらしいわ」  気まずくなった空気を振り払うように、お互いが饒舌になる。  公園から見える遠い海が波を鳴らして、何かを急かしているようだ。  ……とにかく、調査調査。遊び出来ているワケじゃないんだから。 「つまり…目に見えるレベルの大きなバグ、違和感や異変を探せばいい、ということよ」 「気づけるほどの異常は、それほど危険で大きい異常ってことだもんね。じゃ、早速手分けを…」  しようか、と提案した所で、ジト目。  僕の台詞を遮るように、じっとりと睨めつける。 「…その、なんでしょうか」 「……手分け、ね。偉くなったものね、苗木君」 「な、何が?」 「助手たるべき人間が、探偵を放って独りで勝手に調査に臨もうだなんて。貴方、自分の役目を忘れたの?」  …えーと、色々突っ込みどころがあるのは放置だ。  いちいち突っ込んでいたら、いつものように日が暮れてしまうんだから。 「……探偵と手分けして自分も調査に出るタイプの助手って、結構定番だと思うんだけど」 「それは探偵のタイプに依るものでしょう。私は安楽椅子探偵を名乗った覚えはないわ」  ビシ、と、指を突き付ける霧切さん。  彼女がこのポーズをとると、割と他愛のない言葉でも決め台詞に聞こえてしまう、不思議。 「もう一度聞くわ。貴方、自分の役目を忘れたの?」 「え、えーと…」 「…言い方が悪いのかしら。じゃあ、この仕事を請け負うべきなのは誰?」 「そりゃ、諸々の言い出しっぺの僕だけど…」 「正解。なら、私が貴方についてきたのは何故?」 「…僕が、手伝ってくださいって頼んだから」 「そうね。私は『貴方の仕事を手伝いに』来たのであって、『雑用を任されに』来たのではないのよ」  ……あー。物凄く分かりにくいけど、分かった。  霧切さんの言わんとしていることは、つまりこうだ。 「……一緒に調査しよう、ってこと?」 「まあ、諸々の理由を端折って言えば、そういうことになるわ」 「うーん…でもそれだと、霧切さんに手伝ってもらう意味、なくなっちゃうんだよね」  一人でこの島を全部回るのは、中々の骨だ。  集中力も欠いていくだろうし、作業効率は悪い。  二人でやれば、時間は半分、効率は二倍。こういう仕事は人数が多ければ多いほどいい。  けれどもそれは、二人で別々の場所を分担しあう、というのが効率向上の大前提だ。  二人して同じ場所を見回るのなら、一人でやるのと大して変わりない。  だというのに霧切さんは、 「あら、そんなことはないわ」  軽い調子で、そう返した。 「私はともかく、苗木君。貴方一人の観察力で、果たして島の異常にどれくらい気づけるかしら」 「う……そ、そりゃ、霧切さんに比べたら、無いも同然だけど…」 「そうね。理解したかしら?」  つまり、僕は最初から見回り人員にカウントされていない、ということか。  それなら最初から、二人で回りましょう、と。  ……じゃあこれ、今更だけど、僕いらないよね。 「…早速初めましょうか。先ずは手始め、この中央の公園からになるわね」  どことなく楽しそうに声を弾ませ、背を向けてスタスタと歩き回る霧切さん。  僕は少し早足で、その背中を追いかけた。  楽しそうなのは僕を論破したからかな、たぶん。  ごちそうさま、だの、らーぶらーぶ、だの、空から気の抜けるような声が響いた気がした。  まあ、そんなわけで改めて。  >霧切さんと公園にやってきた。  と言っても、あるのは中央の大きな像だけ。  パッと見渡すけれど、他に見るべきところもなさそうだ。異常や違和感もない。  霧切さんは既に、見上げたり触ったりと、像の調査を始めている。 「えーと…どう?」  漠然とした、なんのセンスも感じない、無責任な質問。  いつもの霧切さんにならこれくらい言われるだろうけれど、今は探偵モードのようだ。 「見た目が変、という所以外は、見た感じに異常はないわ」 「そっか…この像に異常がなければ、ここにバグはなさそうだね」  何と言っても、広く見通しの良い空間だ。  異常があればすぐに分かるだろうし。  しかし、なんというか、こんなに心地良い快晴に、潮の匂いが届く公園にいると、どうも任務だという気がしない。 「なんか、昼寝でもしたくなっちゃうね」 「したら怒るわよ、流石に」  返す霧切さんの声も、どこか間延びている。  彼女もこの暖かな日差しに、心癒されているんだろう。  ぐ、と背を伸ばすと、同じタイミングで彼女も欠伸をかみ殺した。 「……ねえ、少しだけベンチで休憩していかない?」 「…やっぱり自覚が足りないようね。手伝って、と言った本人が、こんなに早く休憩を…」 「霧切さん、徹夜明けでしょ」  ぴく、と、眉を動かす。  彼女自身は僕にそれを隠そうとしていた節があるから、何故僕がそれを、と言いたげな目。 「徹夜した日の霧切さん、声が少しだけ高くなるんだよ。あと、喋り方がゆっくりに」 「……昨日、急に別の仕事が入ってしまったのよ。それほど面倒なものでもなかったんだけれど…」 「そういう理由があったなら、無理して手伝ってくれなくても」 「先約はこっちだったのよ。一度した約束を、私の都合で反故にするなんて、できないわ」  そういう、変な意地を張りたがる人だ。 「…それに、少しだけ楽しみにしていたのもあるし」  指を口元に当てて、少し目を伏せる。  言いにくいことや恥ずかしいことを言う時の彼女の仕草だ。 「楽しみ、って…この手伝いを?」 「見方の問題ね」  首を傾げた僕に、さも可笑しそうに霧切さんは、 「ねえ、苗木君。形はともかく、私は『常夏のリゾートに』『貴方と二人で』『貴方に誘われて』やって来たんだけど、この意味が分かるかしら」  そんなことを言ってのけた。  一瞬き。 「えっ、と……あの、それは、」 「……冗談よ」  してやったり、と言わんばかりに目を伏せる。  霧切さんのこの手のからかいは、何度も喰わされてきたけれど。  来ると分かってても顔が赤くなってしまうのは、たぶん、僕の気持ち的な問題です。 「ちょっと生意気だったから、オシオキよ……馬鹿正直の苗木君」 「そういうずるい冗談は止めてって言ってるじゃないか…」 「あら? 冗談じゃなくて本気なら、許してもらえるの?」 「だ、だからそういうんじゃなくて…」 「……『そういうんじゃない』、のね。告白してもいないのに振られちゃったのかしら」  クスクスと、笑いを堪えながら霧切さんがからかうので、今度は僕が目を逸らす番だった。 「…もしかしなくても、霧切さん、僕で遊んでるでしょ」 「あら、今更気が付いたの?」 「はぁ、もう。……少なくとも、そうやって僕で遊んで眠気を紛らわすくらいには、眠いんでしょ」 「……そうね」  認めるまではしぶといけれど、認めてからは素直な女の子だ。  手を引いて促すと、そのまま従って、大人しくベンチにちょこんと座る。 「…苗木君。依りかかるモノが欲しいんだけど」 「あ、えーと…」  なんて言われても、枕になりそうなものなんてないし。  パーカーを脱いで丸めようか、なんて的外れな事を考えて、 「……」  ふと、モノ言いたげな視線を投げかける、霧切さんの隣に、不自然な空きがあるのに気が付く。  こんこん、と、視線に気づいた僕に強調するように、隣の空きを指で叩く。  ああ、なるほど。  言わんとすることを介して、僕は彼女の隣に腰掛けた。  よろしい、と、眠たげな声。  ふわ、と、目の前で揺れる銀色。 「……ちょっと、そっち?」 「何よ、『そっち』って」 「いや、てっきり肩を貸すくらいだと…」 「……横になりたかったのよ。膝枕くらい、許してくれてもいいでしょう」  いや、僕はいいけど、色んな意味でダメだ。  膝、というより太ももにかかるもどかしい重みに、図らずも反応しそうになる。 「……その気になったら、手を出してもいいわよ。草食動物の苗木君」  僕の考えなんてお見通しらしく、もぞもぞと声を響かせて、数秒後には寝息を立てた。  ああもう、ちくしょう、しんらいされてるなあ。  >霧切さんと、もどかしいひとときを過ごした。 ----

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