kk10_431-433

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あのジャバウォック島での騒動から3ヶ月が経った。 事件の隠蔽工作に追われていた僕は、昨日になってようやく自分の部屋に戻ってくることができた。 久しぶりに自分の部屋の匂いを嗅ぐとこれまでの疲れがどっと出てきた気がして僕はネクタイと上着を適当に散らかし、そのままベッドに倒れこんだ。 「(霧切さんももう寝てるかな…)」 そんなことを考えながら意識の糸を放してしまった僕は、自分のPCに本部からの呼び出しのメールが来ていることに、この時まだ気付いていなかったのだった。 ――翌日 「苗木誠、霧切響子の両名には籍を入れてもらう。これは本部の決定だ」 次の日会議室に向かった僕と霧切さんに向かって、テレビ電話の向こうにいる未来機関の幹部はとんでもないことを告げた。 籍を入れる?それって結婚しろってことだよね? 確かに、僕は霧切さんに惹かれているし、霧切さんも僕を家族だといってくれている。 だけど、なんで未来機関にそんなことを決められなくちゃいけないんだよ! 「いきなり結婚しろだなんて、なんで僕たち二人のことを未来機関が勝手に決めるんですか!?」 霧切さんとの結婚が嫌なわけじゃない。でも、こんな形で強引に結び付けられるのは納得できない。 「君なら二つ返事で了承してくれると思っていたのだがね。いいかね、君も霧切くんも既に唯の一構成員の範疇に納まるものではないのだよ。片やあの超高校級の絶望を打ち破った超高校級の希望、片や超高校級の探偵であり、希望ヶ峰学園学園長の忘れ形見」 「それがなんだっていうんですか!?」 「私たちが周囲から受けている評価とこの話に何の関係があるのかしら」 僕と霧切さんの声が同時に幹部の言葉を遮る。だが、向こうは気にした様子もなく話を続ける。 「今世界は未曾有の絶望から立ち直ろうとしている。だが、世界の復興は平坦な道のりではないだろう」 「そこで、だ。「超高校級の希望」苗木誠を霧切家に婿入りさせ、新たな希望ヶ峰学園を設立。超高校級の夫婦によって運営される学園とその生徒を人類の新たな希望の象徴にしようというわけだ」 「だったら別に結婚なんかしなくたって、僕と霧切さんならやっていけるよ!」 「苗木君…」 「そうではないのだよ、単なるパートナーでは駄目なんだ。全世界の人々は君たちの学園生活を知っている。絶望的事件を乗り越えた二人が結ばれ、共に人生を歩む。そこに人々は希望を見出すものだ。なに、構わんだろう?君と霧切君は『家族』なんだ。そうだろう、霧切君?」 幹部の視線が霧切さんを捉える。霧切さんはいつものようにすました顔で、でも強い意志を秘めた瞳でカメラを睨みつける。 「その話、断らせてもらうわ」 …僕も断るつもりではあったけど、そこまではっきり淀みなくいわれるとちょっと落ち込むなあ。 「私は確かに苗木君と家族なりたいと思ってるわ。でも、家族は誰かに強制されてなるものじゃない。仮に私と苗木君が結ばれるというのなら、なるべき時になるべくして結ばれるはずよ」 「…まあいい、こちらも話を急ぎすぎたようだ。少し考えてくれたまえ」 それだけいうと通話は終わった。後に残されたのは僕と霧切さんと、そしてなんとも気まずいこの空気。 「まったく、本部も何を考えているんだか。でも、僕は霧切さんと結婚できなくてちょっと残念だったかなー。なんて」 場を和ませるために何気なくいった一言。でも、それが致命的な言弾だった事にすぐに気づいた。 「…苗木君は、誠君は、結婚できるのならなんでも良かったのね。あんな、政略結婚で、偽りの家族でも構わないって、そういうの?」 無感情で冷ややかな表情。でも、その声の震えは感情を隠せていない。 「ちがっ、誤解だよ霧切さん!僕は…」 「言い訳なんか聞きたくないわ。…しばらく、お互い頭を冷やしましょう」 そういって、霧切さんは足早に去ってしまった。 僕は慌てて霧切さんの後を追おうとしたけど、 「あっち行って」 取り付く島もない霧切さんの言葉に遮られてしまった。 部屋に戻った僕はベッドに倒れこんだ。疲れているからじゃなくて、自己嫌悪が原因だ。 家族。霧切さんはその生い立ちからか家族というものに人一倍憧れている。いや、それはもう渇望といってもいい。 他の話題だったなら、きっと霧切さんはいつものように僕をからかって、一緒に笑ってくれただろう。でも、今回はダメだ。 外の世界に出て、霧切家が滅んでしまったことを知った霧切さんは、前にも増して家族の話題については脆い。 それを知っていながら迂闊なことをいった自分が情けなくなってくる。 …明日、霧切さんに謝ろう。大丈夫、心から謝ればきっと分かってくれるよ。 謝って、明日からはまた元の関係に戻るんだ。 元の関係? 僕と霧切さんの関係ってなんだろ。恋人…ではないよね。じゃあ、仲間…それもしっくりこない。 仲間以上、恋人未満。そんなぬるま湯のような関係に戻ってしまったら、もう二度と抜け出せない気がする。 「そろそろ、一歩踏み出すべきなのかな」 いつまでもお互い居心地の良い関係のままじゃ、きっと「家族」にはなれないんだ。 僕は霧切さんと家族になりたい。霧切さんとなら、どんな未来でもきっと作ることができる。 ――僕と僕の好きな人のために、僕は、覚悟を決めた。 ――同じ頃、響子はラウンジでため息を吐いていた。 今日の自分は明らかに冷静ではなかった。 苗木君は場を和まそうと冗談をいっただけなのはよく分かっていたのに、感情を抑えきれなかった。 探偵として感情を押し殺すことには慣れていたはずなのに。 自己嫌悪。苗木君はきっと呆れてしまったでしょうね。 「…ハァ」 「その溜息をやめろ。こっちまで気が滅入る」 「十神君。…ごめんなさい」 「フン、おおかた苗木と喧嘩でもしたのだろう?くだらん」 「ええ、少し。ちょっと意見の相違があってね」 「どうせまたすぐに惚気話になるんだ。聞かされるこっちとしては勘弁願いたいものだな」 「…ねえ、参考までにきかせて欲しいのだけど、十神君は人と人が『家族』になるにはどうすればいいと思う?」 「(このオレの話をスルー、だと?)なんだその質問は。フン、そんなものそれこそ結婚でもすればいいだろう」 「それが例え他人の都合による政略結婚でも?」 「あたりまえだ。十神家のような高貴な家ならまだしも、お前たちのような愚民ならば四六時中一緒にいさえすれば自然と馴れ合って家族とやらになるだろう。結婚などきっかけの一つにすぎん」 そうか、そうよね。 私は苗木君と家族になりたくて手袋を外して火傷を見せた。そして彼は私を受け入れてくれた。 それで充分だったのに、政略結婚なんて言葉のイメージで固定観念を抱いて視野狭窄に陥るなんて、これでは探偵失格だ。 苗木君に謝ろう。謝って、そして気持ちを伝えよう。 「ありがとう、十神君。参考になったわ」 「フン…」 面倒くさそうにこちらを一瞥して紅茶を飲む十神君に見送られ、私は苗木君の部屋に向かった。 「苗木君、いるかしら?」 ウトウトしていた僕はノックと霧切さんの声で目を覚ました。 「き、霧切さん!?ちょっと待って、すぐに開けるよ」 「こんばんは、今少しいいかしら」 「うん、入ってよ」 霧切さんを部屋に招き入れると、彼女は既に定位置になりつつあるベッドの端に座った。 突然の訪問にびっくりしたけど、これはチャンスだ。昼間のことを謝ろう。 霧切さんは僕が渡したコーヒーのマグカップをしばらく弄んでいたが、やがて一口飲むと、あの澄んだ瞳をこちらに向けた。 よし、今だ! 「「昼間は…」」 声が重なる。 「あ、ごめん、霧切さんからどうぞ」 「昼間はあんなことで怒ってしまってごめんなさい。あの時の私はどうかしてたわ」 「ううん、僕の方こそ無神経だったよ。霧切さんが家族を大切に思っていることは分かっていたはずだったのにね。本当にゴメン!」 「じゃあ、これで仲直りね」 霧切さんが微笑みながら手を差し出し、僕はそれを握る。 「霧切さんと仲直りできてよかったよ。…って、どうして手を放さないの?」 霧切さんは僕の手を握ったまま放さない。むしろ、握る力が強くなってる。 え、なんで?もしかしてまだ怒ってるのかな? 「…私は、別にあなたとの結婚自体が嫌だったわけではないの。ただ、あんな風に政治的思惑の入り混じった形での結婚は私の憧れる家族を汚された気がして、それで」 「僕だって同じだよ。あの時いったことは冗談だけど、霧切さんと結婚したいっていうのは僕の本当の気持ちだよ」 「ありがとう、苗木君」 霧切さんは頬を染めて目を伏せる。 「僕は、霧切さんのことが好きだよ。霧切さんとならどんな未来でも創っていける。そう思うんだ」 霧切さんは顔を真っ赤にして、手袋を外した。 「さっき、十神君にいわれてしまったわ。結婚なんかきっかけの一つに過ぎない、一緒にいさえすれば家族になれるって」 霧切さんは僕の頬に手を添える。霧切さんの掌の温かさに胸の鼓動が早くなる。 「私は、苗木君となら家族になれると思っているわ。…ここまでいえば分かるわね?」 僕は霧切さんの手に右手を添える。 「うん、でも、今日はそこから先も切霧さんの言葉でいってほしいんだ」 瞬間、霧切さんの顔が近づき、唇と唇が触れる。 「苗木君のくせに生意気ね。…私も苗木君のことが好きよ」 耳元で霧切さんが甘く囁く。耳に触れる吐息がくすぐったい。 「霧切さん、いや、響子さん。僕の家族になって欲しいんだ。一緒にこの世界を生きていこう」 「ありがとう、…誠君。その話、受けさせてもらうわ」 ――数日後 「考え直してもらえたかね?」 僕たちは、再び会議室で幹部と対峙していた。 「答えは変わらないわ。貴方達の都合で苗木君と結婚したりはしない」 霧切さんはあの時と同じように強い意志を秘めた瞳できっぱりと答える。 「…どうしても嫌だというのかね」 「あの、それに僕はもう霧切家に婿入りなんてできないんです」 「…それは、どういうことだ?」 僕と霧切さんは目を合わせ、微笑む。 「それは、私がもう苗木響子だからよ」 ―fin― ----

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