kk11_238-244

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「あら、霧切さん。こんな所で会うなんて奇遇ね」 「舞園さん」  放課後の図書室。  普段立ち入ろうとしないここで、舞園さんと出会った事には理由がある。    私の数少ない趣味の一つが推理小説を読む事。とは言っても有名な作品からからマイナーな作品まで、興味のある作品はあらかた読みつくしてしまっている。  入学当初に図書室に行き、置かれている推理小説を探してみたが、読んだ事のある作品ばかりだった。それ以降、読む物の無い図書室に行く理由も無く、入る事も無かったのだが・・・。 「霧切さんも読書?」 「ええ。推理小説以外の本を読んでみようと思って」  舞園さんが手に持っているのは300ページ程の文庫。私が視線を送っている事に気付いたのか、表紙を見せてくれた。  察せられないように見たつもりだったのだが、気付かれたらしい。相変わらず勘が鋭い。 「霧切さんもどうですか? 恋愛小説ですけど」 「れ、恋愛小説?」  言葉を詰まらせる。恋愛小説なんて勧められても読もうとしなかったジャンルを、いざ目の前に出されるとどのように返答すればいいのか解らない。 「霧切さん、やっぱり興味無いですか?」 「・・・」  興味が無い。確かにそうだ。私は色恋沙汰には興味が無い。  ・・・・・・いや、どうだろう。  入学当初、ここで推理小説を探していた時は一切興味が無いと断言出来ていただろう。  今となっては、解らない。  それもこれも彼のせいだ。  入学当初、友人を作る事無く高校生活を終わらせるつもりだった。霧切の探偵として生きる私は、余計な人間関係を作る気はなかった。  他のクラスメイトとも、明確ではないが壁を作り孤立していった。それで良い。余計な人間関係なんて不必要だから。  けれども彼は、彼だけは、私とコミュニケーションを取ろうとしてきた。敢えて冷たい態度を取っても、次の日も、また次の日も声を掛けてきた。煩わしく思っていたが、心の中では嬉しかったのかもしれない。  突き放そうと思えば、いくらでも突き放せたはずだ。けど私はそれをしようとしなかった。彼の人柄が私をそうさせたのか。  少しずつ、少しずつ接していくに連れて、やがて彼と一緒にいるのが当たり前になり彼と一緒では無い時は、何処か物足りない、パズルのピースが一つだけ欠けている様な気持ちになっていた。  彼に興味を持ち初め、近づいてみたいと思い始めた。  けど、私は裏稼業の探偵。平凡が服を着て歩く彼とは住む世界が違う。だからせめて、こう言った趣味の範囲だけでも普通の女子高生に近付けれないか。  最初に考えたのは少女漫画・・・だが、いざ読もうとすると何故か勇気がいる。我ながら柄にもない。だったら、せめて推理小説以外の小説から始めてみようと考えてここに来た。  だからと言って恋愛小説は段階を飛んでいる気がする。これなら少女漫画と大して変わらない。 「良かったら読みますか? 私、もう読んで返しに来た所なんで」 「けど、私に恋愛小説なんて・・・」 「似合わないって言うんですか? そんな事無いです。恋が似合わない女の子なんていませんよ!」  図書室に合わせたボリュームで舞園さんは私に力説する。面食らってしまい、私は思わず一歩退く。 「霧切さんは探偵ですけど、その前に女の子じゃないですか! 恋して何が悪いって言うんです。好きになった男の子を好きになって何が悪いって言うんですか・・・!」  その発言はアイドルとして適切なのか解らない。と言うより声のボリュームがどんどん上がっている。周りの視線が私達二人に集まり出し、顔が熱くなる。 「わ、解ったから、舞園さん落ち着いて・・・! 読ませてもらうから静かに・・・」 「はぁ・・・はぁ・・・。そ、そうですか、読んだら是非感想を聞かせて下さいね」  その後、舞園さんから渡された本と図書室にある興味を持った小説を幾つか借り、宿舎寮に戻った。 ――――――――――――――――――――――――――――――――  コーヒーを淹れ、デスクに座り小説を開く。  最初に開いたのは舞園さんから借りた恋愛小説では無く、図書室で借りた別の小説。  独自の美学を持つ空き巣、会社をリストラされた中年男性と、道を失い神に救いを求める青年、不倫相手に復讐を目論む女性が織りなす物語。  全く関わりの無かった4人が少しずつ繋がっていき、織りなすストーリーは、読み進めていくに連れて良質な騙し絵を見ている様な気分にされる。  かなりページのある内容だったけれど、存外早く読み終える事が出来た。  著者の名前は、本を借りる下調べをした時に偶然見かけた。彼の作品は若者や女性に評判らしい。  この作品を面白かったと判断したと言う事は、私も『若者や女性』の輪に入っていると言う事なのだろうか。  ・・・・・・。  ふと時計を見ると、時刻は0時。  流石に今から2冊目に手を付ける訳にもいかないかと思ったのだけれども、私は推理小説以外の作品に触れた事により、色々な本を読んでみたいと言う知的好奇心にも駆られていた。  好奇心に負けて、私は積まれた小説を一冊手に取る。何気なく手に取ったその小説は、舞園さんから渡された恋愛小説だった。  手に取ったまま私はピタリと静止する。  私は探偵よ。探偵にはこんな物、必要が無い。興味が無い。  嘘よ。興味がある。普通の女子高生としての趣味を持って何が悪い。  頭の中で『霧切としての私』と『少女としての私』がMTBを繰り広げている。  葛藤の末に私は恋愛小説の表紙を開いた。  内容は、恋を知らなかった不器用な性格の女子高生が、同級生の男の子を好きになってしまい、不器用ながらも手探りで恋を成就させていく物語。  人を好きになるとは何なのか。少しずつ変化していく女の子の人間関係。現れる恋のライバル。  様々な試練を乗り越えて最終的に二人は結ばれる。  他を呼んだ事が無いのでどうとも言えないのだが、割とベタなストーリーなのではないだろうか。  流石は国民的アイドル。読む小説も王道の純愛小説か。  終わってしまった。  外を見てみると、もう朝日が顔を出している。  まぁ、一日程度の徹夜は問題無い。慣れている。  しかし、よく考えてみると、仕事以外での夜更かしはこれが初めてかもしれない。  我ながら枯れている。高校時代を謳歌出来ていないなと自嘲する。  まだ時間に余裕はあるが、早め登校しようと決め、身支度をして部屋の扉を開ける。 「あ、おはよう霧切さん」  部屋を出た直後に、彼――苗木君と出くわした。  瞬間、息が詰まる。 「・・・。あら、苗木君。偶然ね」  心臓が大きく跳ねた事を悟られない様にポーカーフェイスを繕う。  頭の中ではさっきまで読んでいた恋愛小説のワンシーンが浮かぶ。  主人公の少女と、相手の少年を私と彼に当てはめてしまう。  馬鹿みたいだ。現実と空想を一緒にしてはいけない。  ポーカーフェイスを装う事に精一杯だ。普段は整理されている頭の中が、まるで竜巻が通った様にグシャグシャになってしまっている。  言葉を探しても、見つからない。 「あれ? 霧切さん。その本は何?」 「え?」  ふと左手に何かを持っている事に気付く。 「~~~!!?」  繕っていたポーカーフェイスが一瞬で吹き飛ぶ。  どう言う訳か恋愛小説を手に持ったまま外に出てきてしまっていた。  素っ頓狂な声が聞こえたが、断じて私の声では無い。絶対に。  事件捜査の際でもしない程、頭をフル回転させる。何か良い言い訳は無いか。  考えろ霧切響子。何か良い言い訳を・・・。 「・・・霧切さん?」 「これは『事件の証拠品』をして私が預かっている小説よ。何か手掛かりはないかと思って昨夜から読んでたの」 「そ、そうなんだ。あれ? でもそれって希望ヶ峰学園の図書室の本だよね?」 「・・・」 「ひょっとして、学校で事件が起こったの?」 「・・・」  時折だが、この少年はやたら鋭くなる。 「・・・。そうよ。この本を借りていた生徒が失踪したらしくて、何か手掛かりを」 「え」  彼が声を上げたと同時に、「しまった」と後悔する。  そうだ、この本を借りていた前の人物は・・・。 「その本って、たしか舞園さんが借りてた本じゃ?」 「そ、そうだったかしら?」 「確かにそうだった。昨日舞園さんに見せてもらったから間違いない!」  私の知らない間に舞園さんと接触があった事を脳の片隅には置いておく。 「ま、舞園さんが失踪? そんな・・・大変だ!」 「落ち着いて苗木君。冷静になって」  言えた立場か。と内心思いつつ彼を宥める。  追いつめられて嘘に嘘を重ねる犯人の心境が解ってしまう。勝手に自分で追い込まれて完全に自業自得だが。  嘘が雪だるま式に大きくなってしまい、今の彼の脳内では舞園さんが失踪してしまっている。当然このままにする訳にはいかない。  どうしよう。 「あ、苗木君と霧切さん。おはようございまーす」 「ええ!? 舞園さん? なんで・・・ええ?」 「ど、どうしたんですか?」 「・・・」  これ以上は無理。もう限界。  頭の上に“?”を大量に浮かべた二人をよそに、私は覚悟を決めた。  その日の昼休みに全てを自白。舞園さんから借りた恋愛小説を読んでいた事を知られるのが恥ずかしくて咄嗟に嘘を吐いてしまった事。  その嘘のネタで、故意では無いとは言え舞園さんを失踪させてしまった事。  自白する途中で何度その場から逃げ出したくなったか。  途中で舞園さんが笑いを堪え始めた辺りから羞恥心で涙が出そうになった。  笑うななんて言えた義理ではないけれど・・・。 「フフ・・・ごめんなさい。あんまり霧切さんが可愛くって・・・」  口にしていないのに返事がきた。時折私以上の観察力を持っているのではないかと疑ってしまう。それとも本物のエスパーとか? まさか。 「滑稽の間違いでしょ? 我ながら情けないわ。やっぱり私に恋愛小説なんて」 「それは違うよ」  彼の声が私の声を遮る。 「霧切さんが恋愛小説を読んだとしても、全然おかしなことじゃないよ!」 「ちょ、苗木君! 声・・・!」 「気にする必要はないよ。探偵だからってお洒落や恋をしちゃいけないなんて決まりはないんだから! 霧切さん凄く綺麗なのに勿体無いよ!」  もう殺して・・・。  大声で叫ぶ苗木君に、食堂の視線が私達に集中される。それに気付いた彼は顔を真っ赤にさせる。多分私も同じ位赤くなってる筈。隣の舞園さんは苦笑い。  まったく・・・。たまにとんでもない爆弾発言を恥ずかしげも無く投下して自爆するんだから・・・。  大体誰のせいでこんな事になってると思ってると!   「で、どうでした?」 「どうって?」 「本の感想ですよ。聞かせて下さいって言いましたよね?」 「ああ言う話も・・・悪くはなかったわ」 「そう? だったら、他の本も読んでみると良いですよ。私、おススメを貸しますから」 「・・・ありがとう」  彼に対する気持ちが何なのか。『恋』とは何かを知りたかった。恋愛小説を読んだら、解るのだと思った。  けど結局解らない。  どれだけ似ていても、どれだけ素晴らしい物語でも、結局は私とは別の話。  私の気持ちは私だけの物。私が決めなければいけない。  いつか、この気持ちの正体が何なのかを理解できる時が来れば・・・。 -----

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