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「ねえ苗木君、ちょっと来なさい」
窓辺に置いた椅子の上、月光を浴びながら霧切さんが僕にそう呼びかけた。
「どうしたの、霧切さん」
重厚な椅子の上、足を組んだ霧切さんは、羽織ったバスローブを少しはだけさせ、片手にウイスキーグラスを持ち、誘うような目で僕を見ていた。
降り注ぐ月光が、もともと色白な彼女の肌をさらに白く染める。まるで透き通るような白に。それでいて、頬の辺だけがほんのりと赤く、いつもと少し違う艶っぽさを醸し出していた。
「さ、ぼうっとしていないで、いらっしゃい」
誘われるがままに、僕は彼女へと近寄った。
眼前に立つと、そのまま手招きをされる。しゃがみなさい、の合図だ。それに従ってしゃがみこむと、まるで彼女に跪いているかのような気分になる。
「いい子ね、苗木君」
霧切さんの手が僕の頭に伸びてくる。言葉通り、いい子いい子、と慈しむように撫でられる。
なんだこれ、と思いながらも、心地よいので払いのけはしなかった。恥ずかしいけれど、まあいいかな、みたいな。
そんなことを思っていたら、調子に乗ったのか霧切さん、僕の顎の下にまで手を伸ばし、まるでくすぐるように撫で始めた。
「あの……なに、これ?」
「このような場面だもの、猫の存在も必要じゃないかしら」
想像してみる。月明かりの下、深々と椅子に腰掛ける霧切さん。バスローブを纏って、ウイスキーグラスを傾け、膝の上の猫を撫でる。なるほど、絵になる。
「でも、僕、猫じゃないんだけど」
「似たようなものでしょう。今、この場では、あなたは私の愛玩動物だもの」
「さすがに動物扱いは勘弁して欲しいなぁ……」
一応僕にも尊厳というものがあってですね?
「お腹も撫でてあげましょう」
と、霧切さんはつま先で僕の腹に触れた。
「霧切さん、酔ってるの?」
「お酒を飲んだから」
「それ、グレープジュースだよね?」
グラスの中の液体を指して言う僕に、霧切さんはそっぽをむいて、
「……まだ未成年だもの、お酒は飲めないわ」
「そうだね、だからシラフだよね霧切さん」
そっぽをむいたまま、霧切さんは膨れてしまった。
僕はため息を吐いて立ち上がる。すると霧切さんはどこか嬉しそうに、
「きゃー、私に欲情した苗木君に襲われちゃうー」
「……すんごい棒読みだよ、霧切さん」
すると今度は不満そうに、
「剥き出しの脚、はだけたバスローブ。これに反応しないなんて信じられないわ」
「中に来てる服が見えてるけどね」
「……裸にバスローブなんて、まだ私たちには早いわ」
誘いたいのか誘いたくないのかどっちなのだろう。
こんな調子の霧切さんを相手にしていては、夜が明けてしまう。僕は相手にしないことにして、ベッドに潜り込んだ。
後ろからむくれた声が聞こえてくる。僕は目を閉じたまま投げかける。
「明日も早いんだから、早く寝ないと起きれないよ」
「……そうね、そろそろ寝ましょうか」
ぎしり、とベッドが揺れた。え? と疑問におもったときには、既に両腕を取られ、マウントポジション。
視界いっぱいに、霧切さんの顔。
「き、きりぎりさん!?」
「ねえ苗木君、あなたは女の子に恥をかかせるの?」
少しずつ、霧切さんの顔が近づいてくる。
「恥って、いや、そんな、別に……」
「確かにグラスの中はグレープだし、バスローブの下には服を着ていた。でも、恥ずかしくなかったわけではないのよ? 色気もなかったかもしれない。ただあれが、今の私の精一杯だった」
「ちょ、きりぎりさ、どいて、このままだと……」
「なのにことごとく袖にして、まったく、本当に―――」
唇が重なった。僕の心臓が大きく跳ねた。
そっと唇を離した霧切さんは、そのまま、僕の耳元へと口を寄せ、
「まことくんのくせに、なまいきよ」
僕の首を、軽く噛んだ……。