kk13_193-194

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 自分の体型なんて、今まであまりきにしたことはなかった。  気にする余裕もないほどに張り詰めていた、というのもあるけれど、なにより同年代の子達と混じって生活することがあまりなかったからだと思う。  回りにいるのはみんな大人。それも、大抵は男性だ。  特殊な性癖でない限りまだ年端もいかない少女を女として見ることはなく、だから自分が女だと意識することもあまりなく。  服装こそ少女向けのものであっても、身体の変調にもあまり意識を向けることはなくて、周期的にやってくる怠さに自分の性別を教えられることも少なくなかったように思う。  そんな私の意識が変わったのは、間違いなく希望ヶ峰学園にやってきてからだろう。  同世代の子どもたち。私よりもずっと女らしい丸みを帯びた少女たち。そんな彼女らに熱い視線を向ける少年たち。  当初こそ色恋沙汰なんて面倒臭い、と思っていた私だったけれど、無愛想だった私に話しかけ、笑えば可愛いのに、といってくれた少年がいた。  柔らかくて、子供っぽくて、けれど優しい笑顔に、私もいわゆる思春期の少女だったのだと思い知らされたのだ。 「……」 「霧切響子さん、次どうぞ」 「はい」  年に一度の身体検査。隔離された空間で、私と同じ、第七十八期生の女子生徒八人が下着姿になっていた。  手にはそれぞれ自身の各所のサイズが示された紙。すっかり埋まった子も言えば、私のようにまだ空欄が残っている子もいる。  息を吸って、吐いて。こんなことで緊張するなんて情けないと思いながら、ほんのりと胸の奥に広がる甘酸っぱさはそう悪いものでもない。 「まず体重からね」  言われるがままに体重計に乗る。電子は私の予想通りの数値で止まる。  続いて身長。これもさほど変化はない。年齢と性別を考えれば、私の身長がこれ以上大きくなることはそう無いだろう。後はおそらく、縮まるばかりだ。  二つの空欄が埋められた紙を受け取って、更に次へ。私にとっての、正念場へ。 「うわーん、また大きくなったよぉ」 「ここここ、この牛乳女! なによなによなによ、ああああたしなんて全く変わんなかったのに、なんで世の中こんなに不公平なのよっ」  後ろからさりげない自慢(本人にとっては悲鳴なのだろうけれど)と真っ黒な怨嗟の叫びが聞こえてきた。  私は、手袋の下が汗にベッタリと濡れていることに気がついた。緊張しているのだ、たかが身体検査で。  いや、たかがではない。女の子は、私たちは少女という生き物は、時としてそこで示される数字に一喜一憂し、様々な決意を胸に秘める。身体検査とは、一種儀式めいたものなのだ。 「はい両腕上げてー」  のんびりした保険医の声に誘われ、私は両腕を上げた。メジャーが巻きつけられ、その数字が空欄へと書き留められる。  自分の体型なんて、今までそれほど気にしたことはなかった。けれど、誰かに見られることがあるのだと知った今、気を配らないわけには行かず――― 「はい終わり。着替えて教室戻りなさい」 「ありがとうございました」  紙を受け取り、そそくさと着替え、私は他の子達を待つため、邪魔にならないよう部屋の隅による。  そして、高鳴る鼓動を押さえつけることなく紙面に目を落とし、 「……変わって、ない……?」  愕然とした。  今まで自分の体型を気にしたことなんてあまりない。探偵としての仕事に支障がないのなら、極論山田君のような体型でもいいとさえ思っていた。  けれど、あの人の部屋にあったのは、私の体型から程遠いものばかりで。  いきなりは無理でも、せめて少しでもと、思っていたのに……っ。 「揉んだら大きくなるのではなかったの……っ」  この世の終わりのような声を出す私に、少し離れた位置からセレスさんが言う。 「性的快感やらを受けることで女性ホルモンが発生し、それが成長を促す、というのは確かによく耳にしますけれど」 「脂肪燃焼マッサージ的に考えると、ただ揉むだけだとむしろ減るんじゃないでしょうか……?」  なんと、いうこと……っ。 「……霧切さん」  肩を叩かれ振り返ると、なにか悟ったような表情の戦刃さんがいた。  無言で見つめ合う。心が通じあった気がした。いつしか私たちは、言葉をかわすことなく握手を交わしていた。 「がんばろう……?」 「ええ……」  今、私たちは心友となった。 「ねえさくらちゃん、あの二人どうしたの?」 「悪いことは言わん、朝日奈よ、今はあの二人を刺激しないほうがいい」 「う、うん……」  遠くそんな会話が聞こえる。こちらを指さし涙目になるほど笑っている江ノ島さんが見える。  けれど、私たちは諦めない。絶対に、絶対に……っ。 「希望は、最後まで負けないのよ……!」 ◇ 「苗木君、これからしばらく、事の最中に私の胸をいじることを禁止するわ」 「!?」

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