kk13_321-329

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 女性特有の柔らかさ、とでも言うのだろうか。  腕の中でたおやかな曲線を描く、その背中。  かさばったスーツを着ていないと、これほどまでに小さく、細くなってしまうのか。  僕よりも背が高くて、どんな時も冷静沈着で、振舞いも大人っぽくて、独りでも強くて。  そんないつもの霧切さんは、そこにはいなかった。  僕の腕によりかかっているのは、力を込めれば折れてしまいそうな、細身の女の子。 「あ、りがとう…」 「…いや、うん…」  戸惑った声。お互いに、だ。 「その、…酔っているみたいで・・」 「そうみたいだね。僕が来る前にも飲んでたんでしょ?」 「ええ、そう、ね…だから、その、苗木君…」  小さな肩が、きゅっ、と縮こまる。 「…腕を、離してくれないかしら。……胸に、当たっているから…」  言いにくそうにして、腕の中で、縮こまったまま身をよじる。  その捩りで、ふにゅ、と柔らかい何かが、確かに腕、というよりも手首の辺りで形を変えた。 「あ、うわ、ゴメ、んなさい…!」 「い、いえ…」  血の気が、それはもう引き潮のごとく引いていった。  仲直りを、しに来たのに。  セクハラを、しに来たわけじゃ、ないのに。  ああ、どうしよう、最悪だ。  ただでさえ二人しかいない、気まずい空間だっていうのに。  見られたくない傷痕をむりくり剥いて、独り暮らしの部屋に見惚れて、挙句、胸を。  そういう接触を嫌う人のはずじゃないか。  あの先輩に触られた時だって。  これは、僕も殴られても文句は言えない。むしろ、殴られるべきなんじゃないだろうか。  背中を向けている霧切さんの不機嫌そうな顔を思い浮かべつつ、彼女を支えていた腕をそっと離す。  それから猛獣飼育よろしく、彼女を刺激しないように、ゆっくりと後ずさって距離を取った。  地に足のついた霧切さんは、しばらくその体勢で、僕に背を向けたまま固まっていたが、 「……苗木君」 「っ……」  ゆっくりと、こちらを振り向いた。  殴られる―――!  そう思って、咄嗟に目を瞑る。  朝日奈さんの件と言い、本当に僕は女性関係の運が無い、と頭の中で嘆きながら。 「……」 「……、何をしているの」  …拳の代わりに飛んできたのは、呆れ半ばの声。 「いや、その……殴られる覚悟をですね」 「…誰に?」 「誰に、って…」  食いしばっていた歯の力を抜いて、恐る恐る目を開ける。  ほんのりと頬を染めつつも、困惑顔で僕を見返している霧切さんが、そこにはいた。 「……あのね、苗木君。アクシデントか故意かの区別くらい、私にも出来るわ」 「で、でも…」 「それに…今のはどちらかといえば、私の不注意でしょう」  憤怒か、あるいは嫌悪。  彼女の表情はきっと、そのどちらかに染められていると、きっとそうだと思った。 「…そう怯えられては、此方から謝ることもできないじゃない…馬鹿ね」  少しだけ眉を下げて、花恥じらいを浮かべる霧切さん。  頬がほんのり染まっているのは、お酒のせいだけ、ということはないだろう。  初めて見る、とは言わないけど、見慣れない私服姿と相まって、それはすごく新鮮で。 「けれど、心外。そんな簡単に手を上げる女だと思われていたなんて」 「ご、ゴメン」 「……まあ、今日暴力を振るったばかりの女に言われても、説得力は皆無でしょうけど」  冗談っぽく肩をすくめて、皿の乗ったトレーを慎重そうに持ちあげる。  はあ、と、強張っていたからだから力が抜けて、安堵の息が漏れる。  不問としてくれるのなら、それに越したことはない。  でも、ちょっと意外だった。  例えアクシデントでもラッキースケベでも、こういう女性の敵のような行動は許さない人だと。  もしお酒が入ったことによって、多少なりともおおらかになっているのだとしたら、本当に九死に一生だ。  わずかばかりの罪悪感と、まだ腕に残された至福の感触の名残に浸りつつ、僕も後に続く。  ついでに、彼女の持っていたトレーを奪う。 「……本当に、お人好しも大概にね、苗木君」 「…ゴメン」 「そうやって、悪くないのに自分から謝るから、お人好しだって言うのよ」  彼女は僕に非が無いと言うけれど、この状況じゃ、ぐうの音も出ません。 「いやぁ、はは…」 「……」 「……あの」 「…まあ、でも、しょうがないわね。朝日奈さん辺りなら、貴方に非が無くとも躊躇なく殴ってきそうだし」 「そ、そうなんだよ、この前もさ、彼女の、」  じとり。  絶対零度の冷たい視線が、べっとりと体中に張り付いた。  危な、い、 「……彼女の、何かしら?」  スナイパーの目だ。心臓が竦み上がる。  獲物が見せる一瞬の隙を逃すまいと、引き金に指をかけて狙いを定めている。 「…その、飲みの席でさ、…先輩! 先輩がね、倒れそうになった朝日奈さんを支えて、何故か殴られるっていう…」 「……」 「あ、朝日奈さんらしいよね! はは、は…」  何に怯えているのか、と問われても、明確な答えは出せない。  ただ、本能が察知しているのだ。  真実を教えてしまっては、きっと恐ろしいことが起きる、と。 「…苗木君。嘘は塗り固めれば塗り固めるほど、後で剥がれやすくなるのよ」 「そ、そうだね…」  カマを掛けているんだ、きっと彼女に確信はないはず。  本当は、朝日奈さんの部屋で、僕の身に起きた出来事だ。  フローリングの上を靴下で歩いていて滑った朝日奈さんを、咄嗟に支えようとして。  差し出した手が、ちょうどハマるようにして、彼女の胸を思いっきり揉みしだいてしまったという事件。  …個人的には、そのあと問答無用で殴り飛ばされて、右の奥歯をもっていかれたことの方が、記憶に濃く残っている。  けれど、危なかった。  ただでさえ僕は既に、『朝日奈さんの部屋に入ったことはない』と明言してしまっている。  口は災いのもと、君子危うきに近寄らず。  昔の人が残した言葉という者は、往々にして的を射ている。 「……仲が良いのね、本当に」 「え?」  かろうじて聞き取れるかどうかというほど、か細い声で呟かれた。  反射で顔を上げるけれど、また物憂げな表情の彼女が、膝を抱き寄せて縮こまっていた。  暖を取るように、両手を柔らかくアイリッシュ・ウィスキーに添えて。  それが、とても女の子らしい仕草と姿勢で。  部屋の雰囲気と相まって、また意識してしまいそうになる。  両手を添えたコップに、そっと口を寄せる霧切さん。  その姿をずっと見ているのがどこか後ろめたくて、僕は慌てて他の話題を探す。 「あ、えっと……で、でも、意外だったな」 「……」 「霧切さんって、お酒に強いイメージがあったから、はは…」  じっと、彼女は黙ったまま、僕を見つめてくる。  頬は赤く染まり、お酒のせいだろうか、少しだけ表情は蕩けているようにも見えて。  いつも纏っている、ピリッとした厳粛な空気は無くて。  押し倒せば、そのまま沈んでしまいそうなほど、柔らかい雰囲気。 「……強くなんて、ないわ」  ぽとり、零すように、言葉を呟いた。  その雰囲気は、それこそまるで、僕が嫌悪していたあの空想。  見知らぬ男に抱かれてしまうという、あの失礼極まりない妄想の中に出てくる霧切さんと、まるでそっくりだった。  夜の花のように、どこかしっとりとしていて、たおやかで、扇情的で、―――身震いをする。  何を考えて、いるんだ、僕は? 「私は…弱いのよ、苗木君」 「そっ、そんなこと、」 「…少なくとも、貴方が考えているよりは、ずっと」  きゅ、と、抱えている膝をいっそう抱き寄せて、ますます縮こまる。  見えない何かに怯えているような姿勢。 「……寂しいし、辛いし、怖い。嫉妬だってする。そう見えないように振る舞うのが、上手いだけ…」  普段の霧切さんなら、こんなことは絶対に言わない。  例え相手が、僕や、希望ヶ峰学園を卒業した仲間であろうとも。  自分の弱みを見せるようなことは、絶対にしないのだ。  それは、彼女の鎧だ。  自分が自分であり続けるための、プライドの鎧。  そして、揺るがない自分であり続けることで相手を安心させるという、優しさの表れでもある。  それを、彼女は今、脱ぎ捨てている。  ありのままの本音を、僕に晒している。  なんて、無防備な。  違う、これは、彼女は酔っているだけじゃない。  絶対に、何かある。  そういう人だ。  信頼には足るけれど、平気で僕を騙したことだって何度もあるし、からかわれたことだって。  けれど、 「……貴方は忘れているみたいだけれど、私だって一応…女なのよ」  抱えた膝の中で、くぐもった声がする。  思わずどきり、とするような、色っぽさを孕んでいて。 「わ、忘れたことは、ないよ…」  その優艶な姿に、わずかに残っていた理性や猜疑心なんて、簡単に溶かされてしまうのだ。 「……だから、守って欲しい時だってあるのに…苗木君は私を差し出した」 「あう、」  それは、 「…ゴメンなさい」  どういう意味で、言っているのか。  だって、霧切さんは僕のモノではけっしてない、のに。 「で、でも…僕以外にも、本当に」 「苗木君」 「……はい」  膝から覗く、ジト目が少しだけ潤んでいる。  『僕以外にも』という言葉を、彼女は嫌がった。  でも、本当に。  僕以外にも、何人もいるはずなんだ。  霧切さんとお近づきになりたい人、仲良くしたい人、『そういう関係』になりたい人。 「…まだ言わせるつもり? だとしたら、貴方は『超高校級の甲斐性無し』よ」 「で、でも、本当に…何の取り柄もないし」 「……貴方の良いところは、たくさんあるわ。そして、私はそれを知ってる」 「う、」 「…それじゃダメかしら?」  ああ、熱い。  頭が、頬が、体中が熱っぽい。  部屋のせいだろうか、それともお酒を飲んだからか。  ぽーっとして、まともに物事を考えられない。 「……けど、関係無い、って…言われて、…」  その先の言葉は、掠れていて、よく聞き取れなかった。  けれど、僕は彼女に酷いことを言ってしまったのだと、本当に痛感させられる。 「…言葉にしたことはないけれど、分かってくれていると、…思ってた」  何を、とは聞けない。  その先まで言わせてしまったら、彼女の言う通り、僕は『超高校級の甲斐性無し』だ。  ずきり、と、罪悪感が痛みを訴えてくる。 「…本当に、貴方の言う通り、私と近しい仲になりたい、なんて物好きが他にもいるかはわからない」 「本当だよ、それは、」 「ええ、だとしても……苗木君。それらは『他の誰か』であって、『苗木君』じゃないのよ」  私にとっては、ね。  ふわ、と、その言葉で、部屋中が熱気に包まれた心地がした。 「…例えその人が、貴方より優しくて、格好も素敵で、頭も良くて、背も高かったとしても。『苗木君』の代わりにはならないの」 「…あ、……」 「…ここまで言えば、分かるかしら。『超高校級の甲斐性無し』さん?」  最後は少しだけ拗ねた風に、唇を尖らせる。  照れ隠しか、もう中に残っていないはずのコップを、そのまま唇につけた。  言葉が、出ない。  伝えたいことは、山ほどあった。  逸る気持ち、鼓動は僕を急かして、彼女にそれを伝えるためにバクンバクンと、内側から力強く殴ってくる。  けれども、そうして探した言葉は、どれもしっくりこない。  口にした瞬間に偽物になってしまうものばかりだ。  何も言えない僕を見かねたのか、ちら、と一瞬だけ僕の方に、霧切さんが目を向ける。 「……まあ、分からないのなら、それでいいわ」 「ま、待って、分かるよ、」 「…貴方にとっては、私も同僚の一人だものね。他の、人たちと、同じ―――」 「ち、違う!」  思わず、声を張り上げて立ち上がる。  そうだ、普段はこんなことを言う人じゃない。  僕が、言わせてしまったんだ。  もしこれが、そのまま彼女の弱音で、本気で、今まで隠していた大切な言葉なのだとしたら。  僕も、相応に応えなければいけないはずだ。 「ぼ、僕にとっても…霧切さんは、その……」 「……」 「……同僚の一人、なんかじゃないよ。代役なんていない。唯一人の、大切な、―――」  続きの言葉は、失われた。  それまで膝を抱えていた霧切さんが、僕を押し倒したからだ。 「あ、」  体術だろうか、あまりにも素早い動きに、僕の体は反応出来なかった。  床に押し付けられる。  痛みは、不思議とない。そういう風に組伏せる技術があるのだと、いつか彼女が言っていた気がする。 「……遅いわ」 「え?」 「…その言葉を、私が…どれだけ待ったと思っているの」  言いながら霧切さんは、僕の胸板に頭を乗せる。  震えていた。  じわり、と、温かい何かで、シャツが濡れる。 「関係ない、とか…僕以外にも、とか…その言葉で、どれだけ、私が……」  胸が締め付けられる思いがした。  言葉一つで、どれだけ自分が彼女を傷つけてきたのか。 「……ゴメン」 「許さないわ」  くぐもった声が、胸板から響く。 「…簡単には、許さない。長い時間をかけて、ゆっくり償いなさい」 「うん。約束する」 「……けれど、来てくれたのは嬉しかった。ねえ、苗木君…?」 「…うん」 「私はお酒に頼らないと、こうして自分の内情を吐露することも、出来ないわ」  ふわ、と、投げ出していた僕自身の右腕が、柔らかい何かに包まれた。  霧切さん自信だ。  いつの間にか彼女は、僕の隣に来て、しなだれかかるようにして寄り添っている。  ぐわん、と、大きく一度、視界が揺れた。 「苗木君」  はい。 「私は、…あの人たちが嫌い。酒で酔わせて女を手篭めにしようだなんて…浅はかな卑怯者だと思うわ」  うん。 「…そして、私はお酒に弱い。あの人たちに、弱い私を見られたくなかった…けれど」  視界が、歪む。熱に浮かされているかのようだ。  熱い。  熱い。体も、頭も。  霞がかった天井の、ちゅうしんに、霧切さんが、うかんで。 「…貴方には、弱い私も知っていて欲しい…そう、思えるの…自分勝手かしら?」  気だるい頭のまま、ゆっくりと首を振る。 「そう…ありがとう」  揺れる視界の中で、少しだけ恥ずかしそうに霧切さんが笑んだ。  それだけで、ぽーっとする頭の中に、幸福感に満ちた熱が広がる。  ああ、なんだろう。  眠気は無いはずなのに、どこか夢うつつというか。  まどろみの中にいる、心地がする。  しゅるり、と、衣擦れの音に、エコーがかかる。 「なら…苗木君」  視界に、はだいろが、ふえる。  ああ、脱いで、いるのだろうか? 「私は今、相当酔っていて…碌に歩けもしないわ。腕にも力が入らないし…何かされても、抵抗もまともにできない」  それは、どっちの台詞だろう。 「……もしかしたら、明日には記憶が虚ろになっているかもしれないわね」 「きり、ぎりさ、」 「…貴方に胸を、その…触られた時」  右腕に、感触が、妙にリアルに蘇る。  恥ずかしそうに、けれど視線を逸らすこと無く、霧切さんは、僕を見つめていて、  その姿は、酷く扇情的で、 「……その、あまり嫌じゃ、なかった…」  だから、 「私のために…卑怯者に、なってくれる…?」  理性の切れる、音がした。  そこから先は、意識が明滅して、よく覚えていない。  断片的に記憶がフラッシュして、思い出そうとする度に、ひどい頭痛がする。  ただ、初めて見る彼女の表情と、初めて聞く彼女の声と。  幾度も幾度も、互いの名前を呼び合った、ような。  恥ずかしい言葉を、何度も口にした、ような。  肌と肌が触れあうのが、心地よかった、ような。  僅かばかりの罪悪感と、胸いっぱいの至福感に包まれて。  僕の意識は暗転し、汗だくになった体を拭うこともせず、滑らかなシーツの海に沈んでいった。 ――――――――――  まあ、窮鼠猫を噛む、ではないけれども。  追い詰められた草食動物も侮れないというのは、どうやら本当らしい。  それとも私の方がデスクワークの連続で、体を鈍らせてしまっていたのだろうか。  まさか、彼に体力で負けるなんて、思ってもみなかった。  私が主導権を握る予定だったのに。  ……あるいは、相手が彼だから、弱ってしまったのかもしれない。  そこ『だけ』が、唯一の誤算。 「…んっ」  力の入らない下半身を引きずるようにして、ベッド脇に寄せた彼の鞄に手を伸ばす。  中を探り、携帯電話をひっつかみ、暗証番号を解除。  あらかじめ連絡を入れておいた相手に、報告の電話を入れる。  ぷるるる、と、古風なコール音が二、三度続いて、 『……苗木か。何の用、』 「…こちら、霧切響子。ターゲットの籠絡に成功したわ」  電話口の向こうで、意味ありげな溜息。  苗木君の携帯で私が電話をかけている、という時点で、全てを理解してくれたようだ。 『…随分と手間をかけさせてくれたな』 「ええ、お陰さまで。けれど、手間だなんて。十神君は実質、何もしていないでしょう?」 『御挨拶だな……ならばせめて、おめでとう、と言っておくべきか?』  電話口の向こう側の声が、不意に柔らかくなった。  朝日奈さんだけでなく、彼も随分と丸くなったと思う。 「今日の忘年会、私と苗木君は欠席するわ。それだけ伝えておこうと思って」 『ああ、ならば此方からも、伝えておくことがある』  電話口の向こう側の声が、やや痛快そうな色を帯びた。 『お前が殴ったあの男だが…非常に残念だが、他の部署に転属してもらうこととなった』 「……あら、…そう。それは残念ね」 『全くだ』  正直、まだやり足りなかったのだけれど。 『身内を貶め、暴力沙汰にまで発展させるような輩を、同じ部署に置いておくことはできないからな』 「耳が痛いわ」 『ほどほどにしろ、という忠告だ。次は庇ってやれんぞ、全く……、…一つ、聞いていいか』 「何かしら?」 『どこからどこまでが、お前の用意した脚本だったのか、だ』  にやり、と、不思議と口元が笑みの形を作った。  おそらく、気付いたのは彼くらいだろう。 『朝日奈の説教は計算済みだったのか? 殴り倒したのは? それとも、苗木との口論すらも初めから――』 「…さあ、どこからでしょうね」 『……あの学園で、お前を敵に回さなくてよかったと、心底思う』  一つだけ言えることがあるとしたら。  「関係ない」は、さすがに堪忍袋の緒が切れた、というか。  どのみち、我慢比べは性に合わなかっただけだ。  これでもう二度と、『関係ない』だなんて言えないだろう。  通話を切ってから履歴を削除して、携帯を元の位置に戻す。  そしてベッドへと戻ると、何も知らない無垢な寝顔に、私は何度目か、唇を這わせた。

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