kk13_963-967

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「よっしゃあ!討伐ゥ~!!」 「乙ですぞ~」 食堂に、桑田君と山田君の声が鳴り響いた。 私がここに入ってきてからずっと、その2人と苗木君・不二咲君は食堂の隅っこのほうに集まり、何かをしていた。 「強かったけど、倒せてよかったよ。でも、まさか不二咲クンがあんなに上手だとは思わなかったな」 「えへへぇ…僕、強かった?嬉しいなぁ…」 「むむっ…可憐な見た目とは裏腹の強さで、バッタバッタとエイリアンを薙ぎ倒していくその姿…アリだなッ!」 「ねーよ!そもそも、不二咲は男だろーが!」 「その程度…障害と呼ぶのもおこがましい!」 「え…えっとぉ…10分くらい休憩挟んでもいいかなぁ?僕、ちょっと疲れちゃったぁ」 馬鹿2人はさておいて彼らの会話の内容から推測するに、どうやら彼らはエイリアンを討伐するゲームをやっているようだ。 おおかた、苗木君があのガチャガチャで当てた携帯ゲーム機を皆にプレゼントして、それで協力プレイを楽しんでいるってところだろう。 …でも、何であのメンバーなのだろう? 電子機器と言ったら不二咲君。その発想は分かる。問題は、桑田君・山田君だ。 彼らにはゲーム機をプレゼントして、あまつさえ協力プレイまで楽しんでいるのに…どうして、私にはくれないの? 丁度いい。ハンティングが一段落ついて彼らも休憩していることだし、本人に問いただしてみるのが一番ね。 「苗木君、ちょっといいかしら」 「何、霧切さん?」 「…ねぇ、どうして私には携帯ゲーム機、くれなかったの?」 「え?何でそんなこと?」 「…ただ、ちょっと気になっただけよ。桑田君とか、山田君とかにはあげてるのに、って」 「だって、あの2人はゲーム好きそうじゃない?…あ、もしかして、霧切さんもゲーム好きだったりする?」 ゲーム。そんなもの、今までの人生の中で一回も触ったこともない。ゲーム機なんて、ゲームボーイ位しか知らない。 …でも、さっきの苗木君達…楽しそうだった…。私もゲームができれば、苗木君と一緒に盛り上がれるのかしら…? 「そうね…人並みには、興味があるつもりよ」 「そうなんだ…ゴメンね。次当てたら、絶対あげるからさ!」 「フフッ…期待しておくわ。ところで苗木君。あなた達、何ていうゲームをしているの?」 「『エイリアンハンター』だよ。知ってる?」 「えいりあんはんたー…?聞いたことないわ」 「そっか。結構メジャーなソフトだと思うけど…そうだ。霧切さん、一回やってみる?ボクの使ってさ」 「是非…って言いたいところだけど、私は操作方法さえ知らないのよ?流石に無理なんじゃないかしら」 「う~ん。じゃあ、分からないところはボクがサポートしてあげるから、何か分からないことがあったら遠慮しないで言ってよ」 なら、お言葉に甘えさせていただこう。何だか話が良い方に向かっていることだし。 「えっと…まずは、歩く時はアナログパッドを使って、攻撃は○ボタンで、×ボタンでしゃがんで…」 「…あ、あなろぐ…ぱっど?」 サポートは有難いのだけれど、私には苗木君が何を言っているのか、さっぱり分からない。 第一、この妙にリアルな映像は何なの。こんな画質でエイリアンが襲ってくるゲームをよく不二咲君がプレイできたものね… 「あの…霧切さん。もしかして、PSP持ってないの?」 「ぴー、えす…?このハードのことかしら?」 「おやおや、霧切響子殿はそんな初歩的なことも知らないのですかな?」 「う、うるさいわよ!仕方ないでしょっ」 「な、何が仕方ないんだろぉ…」 ある程度、自分がこういった『普通の高校生らしいもの』に疎いことを自覚はしていたつもりだった。 でも、まさかここまでのギャップがあろうとは。そんなことを考えていると、桑田君の声がした。 「あ、霧切ぃ、そっちにエイリアンのボスが行ったぞ!」 「え!?ちょ、ちょっと待っ…」 死んだ。ボスの攻撃が直撃した。 「き、霧切さん…あのさ、もしかして…ゲーム下手…とか?」 「くっ…!」 集中しないと。ただでさえゲームなんて初体験なんだから、違うことを考えてる余裕はない! 「次こそは、目にもの見せてあげるわ…!」 「いや~倒したなぁ~!不二咲、相変わらずナイスアシだぜ!」 「えへっ…ありがとぉ…」 「その微笑み…プライスレスですな。まぁしかし…」 「霧切さんがここまでゲーム音痴だとは…」 「もうちょっと包み隠す言い方もあるでしょう…苗木君のクセに、生意気よ」 まぁ、そう言われても文句は言えない。それくらい、私のプレイヤースキルは低かった。 不二咲君が援護をして、桑田君と山田君が2人でボスにダメージを与えている間、私が何をしていたか、と言うと…その辺にいた雑魚エイリアンに大苦戦していた。 やたらとすばしっこい上、すぐに画面カメラの中から消えてしまうのだから、私の手にはとても負えなかった。 そんなことを考えている私に向かって、不二咲君が言葉を投げかけてきた。 「あ、でもゲームやってる時の霧切さんさ、普通の女の子っぽくて可愛かったよねぇ!」 「…え?」 「あー、そうそう!いつものツンケンした部分がなかったっつーか」 「フ…ギャップ萌え、ここに極まれり。ですな!」 「う、嘘…!?私が…?」 「うん。霧切さん、ゲームに熱中しすぎて、気付いてなかった?」 気付くわけがない。あれだけ必死にやっていたのだから。あのエイリアンの触手なんてもう思い出すだけで… と、まぁそれは置いておいて。私が…可愛い…?! 「もしかして、さっきのが霧切さんの『素』なのかなぁ?やっぱり、何だかんだで霧切さんも女の子だねぇ…」 「だよな!これでもう少し霧切にこう…バストの方があってくれたら、言う事ナシなんだけどなァ~!」 「何も分かってない!桑田怜恩殿!!霧切響子殿は、この自己主張の控え目なサイズがBESTなのですよ!」 「ちょ、ちょっと二人とも…!本人の前でそんな話はダメだって…」 マズい。顔が紅潮している。…照れているのだろうか。こんな表情、彼らには見せられない。 席を立つ。慌てて呼び止める苗木君の声が後ろから聞こえてきたけど、今の私には構っている余裕などない。 部屋に帰り、ドアを閉じて、ベッドにダイブする。その時、丁度苗木君の足音が、部屋の前で止まった気配がした。 廊下から声が聞こえた。苗木君の声だ。 「あ、あの…霧切さん…何か、ゴメンね」 「あなたが謝ることはないわ…」 「でも皆、本当のこと言ってるんだよ。ホントにさっきの霧切さん、いつもより雰囲気が穏やかで…可愛かったんだよ…?」 「うるさいわよ…」 ギュッ、と枕を握り締める。恥ずかしさで死にそうになる。 探偵が弱みを見せるなんて、本当ならあってはならないことだ。だから私もこの一年、ずっと強く振舞ってきた。クラスメートにだって、弱さは見せたくなかった。 「本当の自分」なんて、誰にも見せたこと無かった。もしかしたら自分にさえ、見せてなかったのかもしれない。 …でも、どうしてだろう?見せたくなかったハズの本当の自分を見られたのに… どうしてだろう。彼らと一緒にいることが―本当の自分をさらけ出すことが―とても心地良くて、楽しいのは。 気がつけば、私は恥ずかしさの中に、一抹の嬉しさも感じていた。 初めて、皆と一緒にゲームをした。その中で、些細な事でも盛り上がって…いつもの私なら、考えられないことだ。 それに今まで感じることのなかった、年頃の女の子が抱く「恥じらい」の気持ち…それを私も、感じることが出来た。 私も、普通の女の子みたいになれる―強く生きることを宿命付けられた探偵一家『霧切』の性を持つ私には、それが堪らなく嬉しかったのだろう。 だから… 「ね…ねぇ、苗木君…」 「何?」 「次やるとき…私も、い…入れてくれる…?私、ちゃんと練習するから…ゲーム、上手になるから…」 「うん!霧切さんがその気なら、大歓迎だよ!」 「…ありがとう…」 いいかもしれない。【超高校級の探偵】の称号も、『探偵一家霧切』の名も忘れて、ただの1人の女の子『霧切響子』として過ごせる…こんな場所も。

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