kk14_162-165

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「ただいまー。……おや?」 今日の仕事を終えて帰宅すると、玄関の三和土(たたき)には見覚えのあるパンプス。 にも関わらず、部屋の照明が付いていないことに違和感を覚えながらリビングのドアを開ける。 そこには電気も付けずローテーブルに突っ伏したままの響子さんがいた。 「……おかえりなさい」 「うん、ただいま」 てっきり寝ているかと思い、肩にブランケットを掛けようとしたら起きていたようだ。 今度は炬燵の上に乗っているワインの空ボトルに目が行く。 昨日まで封を切っていなかったお酒が今日になってたちまち空っぽになっているのだから嫌な予感がした――。 「……大丈夫?」 「……平気よ。私のことは気にしないで」 「でも……。やっぱり、実家に帰った時に何かあったの?」 その一言で響子さんの体がビクリと震えた。 明らかな動揺――。 事の発端は今から二週間前のことだった。 響子さん宛てに一枚のエアメールが届いたからだ。 手紙の内容は指定した期日に響子さんの実家へ来るようにというシンプルな内容だった。 世俗とかけ離れて生きている人達なだけに生存の確認が難しいと思っていたけど、まさか向こうからコンタクトを取ってくれるとは。 何とかその日にまで休めるよう、僕らで仕事を引き継いだりシフトの調整をしたりして一昨日の朝にパスポートを持った響子さんを玄関で見送った。 「もしかして、当主のお爺さんは既に……?」 「……そうじゃないの。お爺様は無事だったわ」 「えっ? それなのにどうして……」 髪をかき上げながら、彼女は自嘲めいた溜め息を吐いた。 「私、勘当されたの」 「なっ……!?」 「当然の報いよね。私は霧切家を蔑ろにしたのだから」 僕の困惑を他所に、響子さんはうっかりコーヒーを零してしまったかのような口ぶりで衝撃の一言を口にしたのだった。 霧切家は代々、探偵を生業にしてきた一族という話は目の前にいる本人から聞いたことがある。 同じ業種の人間でも、ほとんどが知らないくらいの。 唯一の真実を手に入れるという目的のために世俗から離れるように自分達の存在を隠していた。 けれど、その考えを守っている人達だからこそお父さんの学園長に会うため学園側に自分を売り込み希望ヶ峰学園に入学、コロシアイ学園生活で霧切の存在を表舞台に出す――。 響子さんの行動は一族の誇りを貶める"蛮行"として捉えられたのだろう。 「今後一切、霧切の名で探偵業を営まないようにと通告されたわ」 「そんなの、あんまりじゃないか……!」 「……あなたが憤る必要はないわ。既に決まったことだし」 「でも、何で響子さんはそんなに落ち着いていられるのさっ!? あんなに"誇り"を大切にしていたのに!」 「私はお爺様の意思を尊重するわ。仮に私が当主でも同じ決断をしているんですもの」 グラスの底に残っている僅かなワインを飲み干すように彼女はグラスを傾ける。 「何ていうか、憑き物が落ちたって言ったらいいのかしら……? 家族も誇りも失って、私には何が残っているのかしら」 「響子さん……」 「ごめんなさいね、愚痴に付き合ってもらって。お邪魔したわ」 「待って!」 立ち去ろうとする響子さんの右腕を気づいたら掴んでいた。 「なに? 勝手にワインを開けたことを根に持っているの? ……だったらごめんなさい、後日補充しておくから」 「そうじゃないって」 「それなら早く用件を言って? 今は一人になりたい気分なの」 「……あるよ。まだ、響子さんには失っていないものが」 伝えなきゃ、君は一人じゃないって。 今なら立候補してもいいよね? 「たとえ血が繋がっていなくても、心は繋がっている……。響子さん、僕は君とそんな関係になりたい」 「――――――」 息を呑む音。 響子さんは僕の言ったことが頭の中に入っていないのか、呆然と僕を見つめている。 涙――。 彼女の頬に。 嬉しくも悲しくもない顔に一筋だけ涙が流れる。 ただ、その姿はとても儚く今にも消えてしまいそうだと思い彼女の体を抱きしめていた。 「僕と、家族を築かせてください」 「…………私で」 消え入るようなか細い声で、やっと反応してくれた。 聞き漏らさないよう響子さんの口に耳を近づける。 「……私で、いいの?」 「君が、いいんだ……」 顔をあげ、抱きとめた両腕を肩に添える。 未だ呆然とする彼女の代わりに、精一杯の笑顔を浮かべる。 「あなた、自分の言っている言葉の意味を……んっ!?」 響子さんの言葉を遮るように彼女の瑞々しい柔らかい唇を啄む。 葡萄の酸味とアルコールが色濃く残る唇を。 何回も何回も口付けの雨を降らせる。彼女の悲しみを和らげたい一心で――。 「っ……ん、ん、ふ……んむ」 「ん……ふ、は、ぅう。ちゅ……く、ま……とぉっ…はふっ」 視線が絡む。 お互いじっと見つめ合い、言葉なしに意思の疎通が図られる。 抱き合ってキスをしながらも淀みなく体を動かす。 そして僕らはベッドに横たわり、互いに離れるのを拒みながらも不自由そうに相手の衣服を脱がせにかかった――。 ――――― 寒さに震えるように目を覚ますと、目の前には裸の響子さんが僕の胸にうずもれるように眠っていた。 ついさっきまで本能と愛欲の赴くまま貪った彼女との逢瀬を思い出し、たちまち頬が熱くなる。 布団からはみ出る素肌が寒そうなので肩まで掛け布団を掛けておく。 そっと響子さんの顔を覗き込む。 その眉、瞼、鼻梁、そして口元――。 思わず見入ってしまった。 つい、空いた右手で彼女の頬を撫でてみる。 何の反応もない。 また撫でてみる。 するとくすぐったいのか、彼女は赤ん坊のように無邪気な笑みを浮かべた。 今度は髪を撫で、手櫛で梳かしてみる。 絹のように艶やかで、指に絡みつくことなく毛先まで通った。 また、梳かしてみる。 なんて、愛おしいんだ――。 僕は十神君とは違う。 支配する人、自分に関わる全ての人の人生を背負うほどの器量はない。 僕は、一生を賭してヒトひとりを幸せにするのが精一杯なんだろう。  だとしたら、僕は響子さんを幸せにしたい。 「クラスメイト、仲間、恋人。そして……」 ――夫婦に。 今すぐとは言えないけど、何れまた僕らは新しい関係になる。 その度に彼女の魅力を再発見しては、この絆をより大切にしたいと思いたくなる。 嗚呼、僕は何て幸運<しあわせもの>なんだろう。 願わくは、これからも彼女が僕と同じ気持ちでありますように――。 ~ 民法第752条 同居、協力及び扶助の義務が生じるまでの発端 ~ 僕が響子さんと婚約をして3日後のことだった。 「……おや?」 今日の仕事を終えて帰宅すると、ドアの新聞受けに一枚の封筒が挟まっていた。 宛て先も切手もなく、表面には"苗木 誠 殿へ"という一文が中央に記されていた。 不審に思いながらも封を開けるとそこには一枚の紙しか入ってない。 "孫娘の響子をよろしくお願いします" その一文を見て、差出人が誰なのかすぐに目星が付いた。 さすがは探偵一族、何でもお見通しなのかと舌を巻く。 それと同時に探偵の使命を重んじる一方で、家族の身を案じるのは響子さんと似通ったところがある。 当主のお爺さん、学園長のお父さんといい血は争えないようでクスリと笑みが零れた。 一度も会ったことはないけれど、この人ならば話し合えばわかり合える気がした。 最初は追い返されるけど、曾孫の元気な姿を見せれば会ってくれるんじゃないか――そんな漠然とした未来図が。 さて、それはさておき。 響子さんに対する秘密が新たに増えてしまった。 速やかにハンドシュレッダーで処分するのが理想だけど、それはそれで味気ないかもしれない。 むしろ、この手紙は響子さんにも知ってほしい気持ちもある。 ――そうだ! クローゼットに閉まってある希望ヶ峰学園制服の内ポケットに隠しておこう。 あそこならすぐに気づかれないだろう。――多分。 でも相手は探偵一族の逸材、"超高校級の探偵"と呼ばれた相手に不足なし。 この手紙もバレてしまったら、密かに開設した結婚資金の口座がバレた時みたいに拗ねてしまうんだろうなぁ――。 「"誠君のクセに生意気ね"……ってね」

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