kk14_357-360

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「……ぎ、苗木」 誰かに呼ばれた気がして目を開けると、そこには一人の青年が立っていた。 「あ、日向君……」 「おっ、やっと起きたか」 声のボリュームを幾分か抑えて日向君は苦笑いする。 僕を起こすつもりならもっと大きな声で呼びかけるはずなのに、どうしてだろう――? そんな疑問を浮かべていたら右肩に圧し掛かる重み。 ――そうだった、船が到着するまで霧切さんとベンチで一休みしていたんだった。 ~ Shall never surrender ~ 「二人揃って気持ちよさそうに眠っていたからな、大声で起こすのも何だか悪い気がしてな……」 「こっちこそごめん……。何か追加で調達してほしいモノが出てきたのかな?」 「いや、モノっていうよりはヒトって言うのか……?」 「人?」 「あぁ。九頭龍が今度の保護観察で日本に行く前に、腕利きの"彫り師"を探しといてくれって言うんだ」 「彫り師?」 「何でも刺青を彫る職人のことらしい。頼めるか?」 「わかった。二週間後の来日までに調べておくね」 「すまないな。……それと、やっぱり大変なのか?」 「えっ、何が?」 「その……俺達がこの島に残っていること事態、本部のお偉方はよく思ってないだろ? それでお前達が手を焼いているとか「それは違うよ」……そうか?」 「うん。僕らの方で小まめに経過報告しているし、日向君が心配するようなことはないよ」 「そうか。……ありがとな」 「いいって、気にしないで」 二人して苦笑していると汽笛が聞こえた。 今は米粒ほどの大きさだけど、船がもうすぐ到着しそうだ。 「それに、ここ最近忙しいのは仕事とは関係ない別件の方でさ……」 「ん? どんな?」 「その、引越しの準備とかで」 「引越し? 何でだ?」 「今僕らに宛がわれている寮って単身世帯用だからさ、もう少し広い寮に引っ越すんだ」 「まさか、それって……!」 「……うん、霧切さんと同居するんだ」 「お前ら結婚したのかっ!?」 「いや、まだ婚約したばかりで籍も入れてないよ」 「そうか……。でも水臭いな、俺達にも報告くらい入れてもいいだろ?」 「そうだけど今はやるべき事がたくさんあるし、落ち着いたら籍を入れようって約束しているから」 「そうなのか。……だったらその時はこっちに来いよ。パーッとみんなで祝おうぜ」 「ありがとう」 「でもお前が霧切とか……。あのプログラムの中ではお前ら付き合っているって感じがあんまりしなかったけどな」 「あれは……江ノ島アルターエゴを止めるために必死だったからね。コロシアイ学園生活みたいに共に闘う仲間って感覚だったよ」 「しかし下手したらお前らも帰って来られない可能性だってあるのに、よく来たよな……」 「正直、僕もカプセルに入る時は怖かったよ……」 もしかしたら、このまま意識を失って二度と起きられない――。 これが最後かもしれないと思って、出発前に霧切さんの体を抱きしめたくらいだし。 彼女の温もりをしっかり記憶して決着を付けようと望んだ。 どんなに絶望的な状況でも決して諦めない勇気と希望を分け与えてもらった。 ――いってきます、響子さん。 ――いってらっしゃい、私もすぐに追いかけるわ。 耳元で囁き合うだけでは飽き足らず、僕らは―― 「もうこれで最後かもしれないから、ギューって思いきり抱きしめてた」 「そ、そうか。まぁ、命懸けなら仕方ないよな……」 「十神君が傍にいようとお構いなしにキスしちゃうくらいに」 「なんていうか、その……ごちそうさま」 「おまけに舌、入れちゃった」 「……左右田がお前らを見て壁を殴りたいって気持ちになると言っていたが、俺もその気持ち何となくわかる気がしたぞ」 日向君が苦笑しながら波止場を見ると、船が到着していた。 そろそろ時間のようだ。 「それじゃ、また今度の経過報告の時に」 「あぁ。九頭龍の件、よろしくな」 そう言って手を振りながら去っていく日向君を見送る。 すると右肩の寄りかかっていた重みがなくなった。 「あー、その、おはよう……」 「余計なことを言い過ぎよ。……バカ」 「ごめん……」 「てっきりあなたのことだから"あの件"も口にすると思ったけど、どうして言わなかったの?」 「あれは……僕らの問題だ。日向君達には報告しなくていい問題だよ」 彼女が心配そうに僕の右肩を見つめる。 大丈夫だよ、完治しているから――と、つぶやいて霧切さんの心配を払拭しようと努める。 ――――― 先月のことだった。 本部からの呼び出しがあり、二人で出向したら会議室には過激派の局員ばかりが在籍していた。 そう、希望溢れる未来のために絶望を根絶やしにするという妄信的なお偉方も同じ未来機関にはいるもので。 そんな彼らの要求は一つだった。 七十七期生の生き残りを今すぐ始末させろという理不尽な要求。 僕の眼前に拳銃の銃口を突きつけながらの要求。 脅迫だった――。 『待ってください、彼らが人殺しだから殺すんですか? だったら僕も同罪です』 『待てない。只でさえ厄介なのが五人もいるんだ、おまけにその数を増やすというのだろう? 危険な芽は早めに摘むのがベストだ』 『……もし彼らが再び絶望に堕ちたら、僕の手でけじめを付けます』 『その必要はない』 局員の指に掛けている引き金がスローモーションで動くように見えた。 その直後、鼓膜を突き破るような轟音。 それと同時に右半身からの衝撃。 視界に薄紫色の髪を捉えた。 僕の隣にいる霧切さんからだった。   その衝撃で弾頭は僕の眉間から肩口を掠めるように真後ろを貫く。 彼女のタックルで僕の体はバランスを崩し、絨毯が二人分の体重を吸収する。 『がはっ……!』 焼け火箸で突かれたような痛さで悶絶するしか僕には出来なかった。 掠めた箇所を左手で押さえてみると滑った感触。 歯を食いしばって痛みを堪える。 『彼を殺めてみなさい……その場で"超高校級の希望"を殺した世紀の大罪人として私が断罪するわ』 気づけば霧切さんが僕を撃った局員を押し倒し、銃口を向けている。 『私が、あなたを、殺す』 『ヒッ……!!』 男性局員の股間を中心に広がる染みとアンモニア臭。 僕からは後姿しか見えないけど、霧切さんの剣幕は僕が一度も見たことない姿なんだと容易に想像できた――。 『ダメだ、霧切さん……!』 それじゃあ同じ穴の狢だ。 大義名分を掲げてヒトゴロシを正当化しているだけだ。 左手で傷口を圧迫し、痛みを堪えながら僕は言葉を続けた。 『彼らには贖ってもらいます、死んで詫びようなんて真似はさせません……。生きて生きて、そして逝ききるまで自分達の犯した罪を引きずってもらいます』 『苗木君……』 『どれだけ辛く悲しい現実だろうと彼らが選択した以上、受け入れなければならない。そこから逃げる事は僕が許さない』  僕の荒い呼吸だけが会議室に木霊する。 誰も動かない。 誰一人、動けなかった――。 『だから、早急に結論を出さないでください。お願いします……』 僕だけが痛みに耐えながら起き上がり、嘆願するようにお辞儀をした。 それで限界だったのか、膝から崩れるように前のめりに倒れる。 『無茶をし過ぎよ、バカね……』 倒れる寸前のところで霧切さんが受け止めてくれた。 彼女の膂力で体が浮く感じを最後に、僕は意識を手放したのだった――。 ――――― 「あの時は僕の方も頭に血が上ってた。ごめん……」 「あれに懲りたら安い挑発には乗らないことね」 「そうするよ」 果たして、僕らの想いが彼らに届いたのだろうか――? 僕らの目が届かないところで、日向君達に危害が及ぶんじゃないかと不安は燻っていたりもする。 「……そんなに心配することはないわ。今はアルターエゴが彼らを監視しているし、今の所は大丈夫よ」 「そうだね」 「日本に戻ったら彼らの動向を調査する?」 「えっ……?」 「私を誰だと思っているのかしら? 身辺調査は任せて」 「……サービス残業になるけどいいの?」 「えぇ、問題ないわ。あなたも手伝ってくれるでしょう?」 「うん、もちろんだよ……!」 宛がわれた船室のベッドに腰掛け誓い合う。 「まだまだ先は長い……。やるべき事が山ほどあるわ」 「そうだね、でも僕らの未来のためにも決着を付けないとね」 ――Battle for the future.

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