kk15_321-325

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朝、寝ぼけ眼で寄宿舎の食堂に足を運び朝食を摂る。 寮に住んでいる僕ら本科の学生では当たり前の出来事だったが、たまに"超高校級"と呼ぶにふさわしいとんでもない出来事に遭遇することがある。 今日がそんな日だった――。 「おはよう苗木君。隣、いいかしら?」 「あ、霧切さんおはよう。どうぞ座って」 小鉢の縁で生卵を軽く叩き、ヒビを入れていたら霧切さんが隣の席に座る。 そして玉子の殻が混ざらないようにゆっくりと小鉢へ割る。 「……寝癖、ついてるわよ」 「あははっ、ごめん。朝ご飯食べ終わったら整えておくよ」 少量の醤油を垂らしたら箸でぐりぐりとかき混ぜる。 白身と黄身、醤油が一つに混ぜ合わさったら茶碗のご飯の上に。 さらにご飯とかき混ぜ、白いご飯が瞬く間に黄金色へと変わる。 略称TKG。玉子かけご飯の完成だ。 いざ、実食――と、箸で一つまみして口に運ぼうとしたら隣から視線を感じるのだった。 「……霧切さん? 寝癖の他に何かついてたりする?」 「いいえ、気にしないで」 霧切さんが僕を観察していたようだが、ポーカーフェイスの彼女が何を考えていたのか僕にはわからなかった。 そして僕も何気なく霧切さんを観察していたら――えっ、えええぇえぇぇぇっ!? 僕は見た。 見てしまった。 衝撃的な光景を――。 ~ あなたの常識、こっちで非常識 ~ お昼休み、学生や教師で賑わう第三食堂。 一緒にお昼を食べにきた山田君、葉隠君、桑田君に思い切って今朝の出来事を相談してみることにした。 「……みんな、納豆って何を掛けて食べたりするかな?」 「刻みネギやおくらだべ」 「卵の黄身一択ですぞ」 「オレ、そもそも納豆食わねぇし。つーか、苗木いきなり何なんだよ?」 「……実は霧切さんがね、納豆に砂糖をふりかけていたんだ。こう、上から"ふぁさー"っと」 「な、ななななんだべっ!?」 「ありえねぇぇ!」 「それでタレをまぶしてグリグリグリーってかき混ぜていたんだ……」 葉隠君と山田君が絶叫する。 ――よかった、僕だけがおかしいと思ったわけじゃなかったんだね。 「やっぱりそう思う? 僕もさっき花村先輩に尋ねてみたんだ。"納豆に砂糖ってありですか?"って」 「そしたら?」 「そしたら……"僕の上等な料理にハチミツをぶっかけるような冒涜行為っ!!!!"ってカンカンだったよ」 「これは花村輝々殿も激おこぷんぷん丸ですな……」 チラッとみんなで厨房にいる花村先輩の様子を見てみる。 今はノリノリで料理を作っているが、砂糖の話をした途端目をひん剥いて怒るのはかなり怖かったなぁ――。 「けーどよぉ、霧切っちは味音痴だべか?」 「それは違う……と思うよ? コーヒーのブラックを美味しそうに飲んでいるけど味覚がおかしいようには見えないなぁ……」 「霧切響子殿もここに来る前は海外で……って、むむむ!?」 山田君が話している最中、僕らの座る席を横切る男性がいた。 ――学園長。つまり、霧切さんのお父さん。 僕らの様子に気づくこともなく学園長は手近に空いている席に座る。 「苗木誠殿、ここは一つ、味覚の遺伝という因果関係を調べてみるのも手ですぞ?」 「そうだね。こっそり学園長を観察してみよう」 言っている傍から学園長は小鉢を取り出す。 奇しくもそれは納豆だった。 そして調味料置き場から小瓶を引っ張り納豆に――入れた! 「よしっ、学園長! 押収物を確保ーっ!」 「「「うおおぉぉぉっ!!!」」」 やおら席を立ち上がり僕らは学園長のもとへ押し寄せる。 動揺している学園長から素早く小瓶を引っ手繰る。 「なっ、何だねキミ達っ!? あっ、ちょっと!?」 「山田君! これが何なのか確かめて!」 「ペロッ……。これは砂糖の味ですぞ!!」 クッ、何てことだ――!  これでクロは確定したようなものだった。 「学園長……! あなたがっ、あなたが元凶なんですねっ!!」 「いっ、いったい何のことだい苗木君?」 「惚けないでください! いくら自分の娘だからって人の道を踏み外すようなことを教えるなんて……最低です!」 「ぐっ、ぐるぢぃ……」 「お、おい苗木っ! ソレ完全に学園長に決まってんぞ!!」 桑田君の制止に聞く耳を持たず僕は学園長の首根っこを掴んでガクガク揺さぶっていた。 「きっ、君達っ! 健全なる学び舎の食堂で何をしているんだっ!!」 その後、偶然居合わせた石丸君に僕の暴走は止められてこってり絞られた――。 結局、学園長が何故納豆に砂糖を入れたのかを聞き出すことが出来ず霧切さんとの関連性が不明のままだった。 ――――― 翌朝、再び寄宿舎の食堂。 「お、おはよう霧切さん。隣、いいかな?」 「おはよう苗木君。構わないわ、好きにしなさい」 偶然を装って昨日と同じように霧切さんの隣に座り、昨日の件を直接本人に聞いてみることにしたのだった。 ドックン、ドックン、ドックン――。 緊張からか心臓の鼓動が大きく聞こえる。 たかが納豆に砂糖を入れる理由を聞き出すのに、パンドラの箱を開けるような気分だ。 「苗木君、ちょっといいかしら……?」 「は、はいっ!?」 こっちから質問しようとしたら先を越され思わず声が裏返ってしまった。 そんな僕の動揺を気にすることなく、霧切さんは神妙な面持ちで僕に尋ねてくるのだった。 「……あなた、ご飯に生卵をかけてお腹を壊したりしないの?」 「えっ……!?」 霧切さんは僕のトレーに載っている小鉢の生卵を凝視しているのだった。 「それは大丈夫だと思うよ? 食堂で使う玉子って近くの養鶏場から産みたての玉子を仕入れているって話を聞いたことがあるし」 「そうじゃなくて、加熱処理をしない食材を食べて食中りを起こさないか心配しているの……」 「そんな大袈裟な……。お刺身だって生で食べるからこそ美味しいのに」 「そんな、まさか……! ありえないわ……!」 霧切さんがポーカーフェイスを保てず絶句している。 ――なんていうか、カルチャーショックっていうやつなのかな? 「だったら霧切さん教えてよ。霧切さんの浮かべる代表的な玉子料理ってどんなものかな?」 「プレーンオムレツ、ゆで卵……それとサニーサイドアップってところね」 「サニーサイドアップ?」 「日本で言う"目玉焼き"よ」 なるほど。いずれも火を通して作られる玉子料理だ。 希望ヶ峰学園に入学するまで海外で暮らしていたら霧切さんの動揺も納得がいく。 よし、ここは一つ霧切さんに異国文化の良さを体験してもらうことにしよう。 僕は小鉢の縁で軽く卵を叩き、割りやすいようヒビを入れる。 「……霧切さん、玉子かけご飯の良さをわからないで生きるなんて人生の三割は損しているよ」 「知らなくて結構よ。……苗木君のクセに生意気ね」 「そこで折角の機会だし、霧切さんにも玉子かけご飯の素晴らしさを実感してもらおう」 「ちょっと、勝手に話を進めないでよ……」 霧切さんの抗議に聞く耳を持たず、僕は殻を割って醤油を垂らして箸でグリグリとかき混ぜる。 それを自分の茶碗にぶっ掛けたらご飯全体に浸透するようさらに全体でかき混ぜる。 最後は味付け海苔を箸で摘まみ、玉子かけご飯を包む。 箸の中で一つの芸術作品と化したそれを霧切さんの目の前に差し出す。 「はい、あーんして」 「いいわよ。私は食べないから」 「そう言わずにさ。騙されたと思って食べてみなよ」 「探偵がわざわざ騙されて酷い目に遭うと思っているの?」 「……霧切さん、僕はキミに不味い物を勧めたりはしないよ。本当に美味しいっていう真実を伝えたいんだ!」 「うっ……。し、仕方ないわね、一度だけよ」 "真実"という単語が琴線に触れたのか、霧切さんが渋々ながらも応じてくれた。 おずおずと開いた口にそっと箸を伸ばす。 味付け海苔で包んだ玉子かけご飯を霧切さんのお口<ゴール>にシュゥゥゥーッ! 超! エキサイティン!! 「……美味しい」 「でしょでしょ? もっと食べてよ、さぁ!」 「それじゃあ苗木君の分がなくなるじゃない……」 二枚目の焼き海苔を箸で摘まんでご飯を包む。 はい、食べてと、目で訴えるように無言で差し出すと霧切さんは拒否することなく口にしてくれた。 ――よかった。お世辞で美味しいと言って本当は美味しくなかったってわけじゃなさそうだ。 「固定観念を抱いているようでは私も探偵としてまだまだね……」 「でもそれを覆したんだから霧切さんはすごいと思うよ?」 「どういたしまして。……そういえば苗木君、昨日はどうしてあんなに驚いていたの?」 「えっ、気づいていたの?」 「当然じゃない。あなたの場合何を考えているのか私には筒抜けよ」 「実はさ、昨日霧切さんが納豆に入れていた件のことなんだけど……」 ――――― 「おはよう響子さん、朝だよ。ほら、起きて……」 「ん……。おはよう」 「朝ご飯は出来ているから顔を洗ってきなよ」 「そうするわ……」 朝、響子さんを起こして一緒に朝食を摂る。 仕事の都合もあるけど、その習慣がほぼ日課となっていた。 テーブルの上にはご飯、豆腐の味噌汁、浅漬け。そして――。 「あ、響子さん。納豆と生卵があるけどどっちにする? 因みに今日の僕は生卵って気分かな?」 「そう……。じゃあ私はこっちをいただくわ」 「ん、それじゃこれも」 そう言って右手に持っている生卵を入れた小鉢を自分の席に置くのだった。 ついでに味付け海苔の袋もセットとして手渡す。 「「いただきます」」 納豆パックの蓋を開け、フィルターのビニールを剥がす。 粘々の糸が途切れたら付属のタレをかけ、少量の砂糖をまぶす。 それを箸でグリグリとかき混ぜたら白いご飯の上に乗せる。 「……私はもう少し砂糖の量を入れた方が美味しいと思うけど?」 「僕はタレの風味が好きだし、それがわかるくらいのバランスがいいの」 「そう……。そういうことにしておくわ」 そういえば響子さんに勧められるがまま納豆に砂糖を混ぜて食べてみたけど、あれは甘すぎだったなぁ――。 試行錯誤を重ねて絶妙なバランスを保つ砂糖の量を編み出すまでが大変だったよ。 そんなことがあったものだとしみじみ思い出しながら納豆ご飯を口に運ぶ。 ――うん、これこれ。 向かい合わせの響子さんも玉子かけご飯を味付け海苔で包んで舌鼓を打って顔を綻ばせていた。 僕らの生活の1ページに過ぎない普通の光景。 これが僕らには慣れ親しんだ味になって、いつしか家庭の味として受け継がれていく味なんだろうなぁ――。 味噌汁を啜りながら、ふとそんなことが脳裏をよぎったのだった。 完

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