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10月31日。
今日、ボクたちは江ノ島さんと朝日奈さんの提案で、ハロウィンのパーティをすることになっていた。
そのパーティのコンセプトは「とりあえず盛り上がろう」。
ボクは正直、ハロウィンが何をする行事なのかは知らなかったけど…コンセプトからして、そこを考えたら負けなんだろう。
だったら、たまにはこういうイベントがあっても悪くないかも。
それに、山田クンがパーティ用に、特製のコスプレ衣装を用意してくれるとか、なんとか。
そんな動機もあって、ボクは結構今日のパーティを楽しみにしていた。
なのに…
「………どうして、今日に限ってカゼなんか引いちゃうんだよ…」
ボクは一人悲しく、自分の部屋のベッドに寝そべっていた。
間違いなく、昨日までは元気だった。何か変なものを食べたわけでも、雨に降られたわけでもない。
なのにボクはカゼを引いて、ベッドでぐったりしている。
はぁ、と自嘲気味に溜息をつく。本当に、こんなボクのどこが幸運なんだろう?
人より少し前向きなのがボクの取り柄だけど…こうもツイてないと、さすがに、ちょっとヘコむ。
大体【超高校級の幸運】って才能(?)で希望ヶ峰学園に選ばれた割に、これといった幸運なんて今まで一つも…
…いや、あった。ボクにとっての、最高の幸運が。
それは、ここに来たことで中学時代からの憧れの彼女―舞園さんに出会えたことだ。
ひょっとしたら、彼女がボクのことを覚えてくれていたことも、あの時校庭に鶴が迷い込んできたのも、ボクの【幸運】のおかげなのかな?
そう考えると、ボクの幸運も案外捨てたもんじゃないのかもしれない。
でも…
「やっぱ、みんなとパーティ、行きたかったなぁ…」
―ピンポーン…
不意に聞こえた音で、ボクは覚醒した。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。
結構長いこと寝ていたんだろう。そのおかげか、体調は健康そのものだ。
そこで、時計を確認する……もう10時か。そろそろ、みんなも解散してる頃かな?
―ピンポーン…
再び、インターホンが鳴る。
こんな時間に…いったい誰が、何の用で?
少し疑問に思ったものの、待たせては悪いな、と思い直して、ボクは部屋のドアを開けた。
と同時にボクの視界は、見慣れた綺麗な黒髪で覆い尽くされた。
「苗木君!元気ですかー?」
「え?」
それが舞園さんのものであること、そしてその舞園さんがボクの胸に飛び込んできているということを理解するには、少し時間が必要だった。
「ま、舞園さん…!?」
「はい、舞園さんです」
彼女は人懐っこそうな笑顔でボクを見上げ、答えた。
相変わらず、彼女の笑顔を見ると、自然とボクまで笑顔になってしまう。さすがは超高校級のアイドル、ってことかな?
そんなことより…
「……舞園さん、その服は?」
「あ、これですか?これは、山田君お手製の魔女の衣装です!どうですか?似合ってますか?」
ボクの胸から離れて、舞園さんはくる、っと一回転してみせた。
黒い三角帽子に、同色のローブ。2つとも、ちょっとだけサイズが大きめなのは、製作者の趣味なんだろう。
スラっとしていてスタイルのいい舞園さんの、袖余りの服…そのギャップの破壊力は、想像を絶していた。
「うん!すっごく似合ってる…可愛いよ!」
「ふふっ、そうですか?苗木君にそう言ってもらえると嬉しいです……」
そう言って、舞園さんは照れくさそうに頬を赤らめた。
面と向かってそんなことを言われると、何だか小恥ずかしくなってしまう。なのでボクは、慌てて話題を振り直した。
「えっと…それより、何かボクに用事でもあったの?」
「用事、ですか?」
きょとんとした表情で、舞園さんは小首を傾げる。
まさか、衣装のお披露目に来ただけ?まぁ、ボクとしてはそれでもありがたいけど…
「いいえ、違いますよ…そう、苗木君のお見舞いに来たんです。すっかり元気そうだったので、忘れちゃってましたけど」
あぁ、なるほど。今さらっと心を読まれたけど…いつものことか。
その後は、今日のパーティの話題で談笑した。
セレスさんの仮装がいつものゴスロリから殆ど変わってなかったり
案の定、不二咲クンの女装が似合ってたり
大神さんのコスプレから王者の貫禄を感じたり…と、それぞれに楽しんでいたようだ。
女性陣お手製のお菓子も、大好評だったらしい。
手作りのお菓子、か…みんなが羨ましい…。
「舞園さんの手作りのお菓子、ボクも食べてみたかったなぁ…」
思わず漏らしたボクの独り言を、舞園さんは見逃さなかった。
「じゃあ今度、二人で一緒に作りませんか?苗木君と一緒なら、大歓迎です!」
「え、いいの?じゃあ、舞園さんの仕事がお休みのときにやろうよ」
「はい!…よーし、苗木君のために私、特別に腕をふるっちゃいますよ!」
舞園さんはそう言って、この上ない笑顔でボクに微笑みかけてくる。
希望ヶ峰学園に来るまで、あんなに離れて見えていた、あの笑顔で。
でもその笑顔は今、ボクの一番近くにある。
まるで魔法にかけられてるみたいだ…あの舞園さんと、こんな風に笑い合い、話せる日がくるなんて。
「魔法じゃ、ありませんよ」
ボクの心を見透かしたように、舞園さんは真面目な声で言う。
「うん、それは分かってるんだけど…」
そこから更に言葉を繋ごうとした瞬間、ボクの頬を舞園さんがキュッ、とつねった。
「舞園さん?!何を…」
「これで、魔法じゃない、って分かりましたか?」
そういうことか…でも普通はコレって、夢かどうかの判断に使うものなんじゃ…
舞園さんの天然に少し戸惑うボクを尻目に、彼女は続けた。
「魔法といえば……苗木君、トリック・オア・トリートです!」
どのへんが『魔法といえば』なんだろう…
その疑問はひとまず置いといて、『トリック・オア・トリート』か。確か「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ」だったっけ?
そんなこと言ったって、お菓子なんて持ってないんだけど…
「む、苗木君…さては、お菓子持ってないんですか?なら、いたずらしちゃいますよ?」
狼狽えるボクの様子を見て、ケタケタと笑いながら、舞園さんは言う。
弱ったな…お菓子も持ってないし、覚悟して受け入れるか…
そのとき、ボクの脳裏に電流が走った。
…ん?『いたずら』?
舞園さんがボクに…『いたずら』…?
なんだか、良からぬ想像が膨らんで…
「…苗木君?もしかして今、ちょっとエッチなことを考えてませんか?」
笑顔で、しかし強い声で、舞園さんは妄想に耽るボクを撃ちぬいた。
しまった…舞園さんはエスパーなんだった…
「あっ…ごめん!つい…」
あぁぁ…ボクのバカ。『つい』って何だよ…もうちょっと上手な言い訳はなかったのか?
しまったな、コレはちょっとマズいぞ…
「……で、でも…私も…別に、イヤってわけでも……」
目を伏せながらそう呟いている舞園さんは顔を真っ赤に染めていて、なんとなく満更でもなさそうな…
あれ?意外と好評価?
そんな風に舞園さんのリアクションを捉えていると、急に舞園さんが伏せていた目を上げ、強めの口調でボクに言い放った。
「…び、病気の人は、早めに寝ましょう!体に障りますよ!」
その露骨、かつ唐突すぎる話題転換に、ボクの頭はついていけなかった。
寝かしつけようとしてくる舞園さんに抵抗するものの、体力量がまるで違うからか、全く歯がたたない。
「あの…もうカゼは治ったんだって…」
「いいから、電気消しますよ!おやすみなさい!」
―カチッ
有無を言わさず、舞園さんの手によってライトのスイッチが押され、ボクの部屋は暗闇に包まれた。
ボクはその暗闇の中で、ぼんやりと考えた。
…なんで、舞園さんはいきなり『早く寝て』なんて言ったんだろう?
もしかして、変なコト考えたから、怒らせちゃってたのかな?それ以外に、原因なんて見当たらないし…
明日会ったら、謝っておこう…そう考えが纏まったときだった。
ボクの頬に、何か柔らかいモノが触れる感触がしたのは。
「…え?」
「これが、私からの…『いたずら』です」
息が吹きかかりそうなくらいの耳元で、舞園さんの声がする。
ってことはもしかして、今の感触は…?!
「で、電気がついてたら恥ずかしかったので……ちょっと強引でしたよね、ごめんなさい」
そう言い残すと舞園さんは足早に駆けていき、ドアを開け、去っていってしまった。
舞園さんが去った後も、ボクはしばらく、さっきの余韻を引きずっていた。
舞園さんが……ボクに……キスを……?
頭の中は、舞園さんのことでいっぱいで、寝ようにも寝付けなかった。
今度こそ、魔法にかけられているみたいだった。
…いや、『みたい』じゃないか。
今のキスで、ボクは本当に舞園さんに…あの可愛い魔女に、魔法をかけられてしまったんだ。
ボクの心を、虜にしてしまう魔法を。
【END】
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