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帳に書かれた捜査メモを読み耽り、パズルを組み立てるように思考のピースを当て嵌めていく。
まだまだ足りないピースだけど、こうしていれば捜査すべき場所も見えてくる。
備え付けられたベッドに腰を掛けながら、時間を忘れて白いメモに書かれた黒い文字を指でなぞり
―――ぴたりと、その指が止まる。
忘れたはずの感覚が蘇ってくるような、とある人物の名前。
“苗木 誠”
今日は避けるように顔を合わせなかった。
そのせいで食事もとってないけれど、それは些細な問題だ。
問題は、私がこんなことで動揺してしまったという事実。
理路整然と整えられた思考のピースは、一瞬の内に散らばって砕けた。
「忘れなさい」と言ったのは私なのに、これでは彼に示しがつかないではないか。
思考が乱れる――多分今日は、調子が悪い。
決して彼のせいで乱れたわけではないと、誤魔化すように言い訳を考えながらそのままベッドへと横たわるとスプリングがギシッと音を立てる。
捜査記録を記した手帳は閉じられ、シーツの上に無造作に置かれたそれを一瞥すると柔らかい枕に顔を埋めた。
「はぁ……」
無意識に溜息が漏れる、きっと疲れているんだ。
でなければこんなことで思考を乱すわけがない、この私が――。
あの時確かに触れてしまった唇。一瞬の出来事だったのに、やけに鮮明に思い出せる。
柔らかくて、初めて感じるような胸の高鳴り、これは一体―――。
――いや、考えるのはよそう、私らしくもないことを考えてしまう。
そんな思いとは裏腹に、頬は自分でも熱を持っていると感じるほどに熱くなっていく。
顔を埋めた枕を腕で抱きかかえるように掴み、雑念を振り払おうにも、無駄によく回ってしまう頭はあらゆる可能性ばかりを考えてしまう。
今ここが自室でよかった、そう思える程に、今の私の姿は誰にも見せられない。
もっとも――天井に備え付けられたカメラには撮られているのだろうけど。
と―――部屋に響くノック音。
無機質にさえ思える音に、茹で上がるような考えを巡らせていた頭はハッと我に返った。
深呼吸をして、冷静さを欠いた頭に酸素を送って、いつも通りの私を作りベッドから飛び起る。
「…誰?」
――声はいつも通り、顔の熱も引いた。
切り替えの早さに、内心胸を撫で下ろして相手の答えを待ち。
「あ……な、苗木です…っ」
その瞬間、私は再び思考が停止した。
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