kk25_151-154

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私は暑さに頭でもやられてしまったのだろうか。 それとも、時間を有り余すことに慣れていないせいなのか。 いずれにせよ、普段の自分では無いことは確かだった。 健康に悪いことは承知だが、クーラーの温度を一気に下げた。 鋭さすら感じる風が、頬を突いた。 少し、冷静さを取り戻せた気がする。 改めて、自分の所業と向き直した。 デフォルメされすぎているが、確かに彼を模っている。 その、苗木君の姿を。 「なんでこんな物を作ってしまったのかしら……」 こんな物、と言いつつも、それに親しみを感じてしまうのが苛立った。 あまりいい出来では無いぬいぐるみが、人畜無害の微笑みを張り付かせている。 そもそもとして、仕事が休みなのがいけない。 加えて、苗木君が休みでは無いのもいけない。 調子が狂うからと、自分も出勤しようとしたら、 半ば怒っているような形相で、咎める苗木君もいけない。 そして、それに気圧されてしまった私もいけない。 これだけ重なってしまったのだから、しょうがない。 そう自分を宥められる人間なら、もう少し楽に生きられている。 もやもやを苗木君にぶつけた。 とは言っても、もどきにすぎないぬいぐるみを抱き締めても、 気持ちが晴れるはずが無いのに。 ……はずが無いのに。 どうして、落ち着いてしまうのだろうか。 本当に、普段の自分からはかけ離れているようだ。 もう、思考を続けるのも嫌になった。 ベッドに身を投げて、意識を手放した。 「……切さん……霧……さん」 ぶつ切れの声が、耳に入った。 重たい瞼を上げると、ぼんやりとした輪郭が映った。 苗木君、だろうか。 いや、彼がここにいるはずがない。 今頃は、忙しさに追われて、夜まで身動きが取れないはずだ。 ということは、さっきのぬいぐるみだろうか。 全く、どうかしているらしい。 幻聴まで聞こえるなんて。 それにしても、随分離れているように見える。 胸に抱えていたはずなのに。 癪だが、もう一度引き寄せることにした。 「こんな冷えた部屋で寝てたら、風邪を引いちゃうよ。取りあえず一回外に……な、なにをしてるの?」 幻聴まで、私を気遣ってくるのは、らしいと言うのか何なのか。 まあ、悪い気はしなかった。 さっきよりも、気持ちが安らいでいる。 どうしてか、抱き締めると、しっかりとした感触が伝わって、 ……苗木君の匂いがした。 それに、風邪を引くなんて現実味が無い話だと思った。 こんなに暖かいのに。 心地よいまどろみの中で、頬を緩めた。 意識が戻ったのは、昼下がりを少し過ぎたあたりだった。 行き場の無い思いはすっかり消えてしまっている。 頭の中は澄み切っていて、普段より冴えていた。 こんなに寝覚めが良かったのはいつ以来だろうか。 意外と、このぬいぐるみも捨てたものではないらしい。 ……ぬいぐるみ?  ……これが? ピグマリオン効果、というものだろうか。 彫刻に恋焦がれて、本物の人間のように接していたら、 本当に命が宿ったというあれだ。 ……いや、それは名称の元になっただけで、ただのフィクションだ。 無機物に当てはまる訳がない。 じゃあ、どういうことだ? どう見ても、等身大だった。 顔は埋めていて、分からないが、特徴的なくせっ毛が、ぴょこぴょこと忙しなく動いている。 肩と思わしきものを掴んで、仰向けに直した。 「苗木君、なの?」 「だ、誰に見えるの?」 苗木君に見える。 ……えっ? 数瞬置いて、澄み切った頭は平穏を失くした。 「……ごめんなさい。拘束してしまって」 「い、いや。別にそれはいいんだけどさ」 必死に平静を装っているが、目は合わせられなかった。 「どうして、ここにいるのかしら?」 「……哲学的、だね」 「いいから答えて」 足らないのは分かっているが、もう上手く言葉が出て来ない。 相当、参っているらしい。 誤魔化すように、苗木君を睨んだ。 ……またやってしまった。 「え、えっと。午前中で切り上げられたからさ、早めに帰って来られたんだ」 「……そう。幻聴じゃなかったのね」 「えっ?」 「いえ、なんでもないわ」 連絡の一つでも寄越して欲しいと思ったのは我儘だろうか。 ……いや、眠っていて対応出来ないのかもしれないが。 どちらにせよ、こんな醜態を晒す羽目になる可能性が少しは減ったと思う。 「あ、あのさ……これ、どうしたの?」 苗木君が向いた先にあったのは、苗木君だった。 いい加減、平静を装うのも辛くなってきた。 「寂しかったのよ……」 「えっ?」 「なんて言ったら、あなたは慰めてくれるのかしら?」 「だ、騙したね……」 別に、苗木君を騙してはいなかった。 騙したのは、自分の気持ちの方だ。 寂しかったに決まっている。 こんなおもちゃを作って、気を紛らわせているぐらいには。 本当に、慰めて欲しかったが、そんな弱味は見せたくない。 いくら苗木君の前でも、そこまで晒す勇気は出なかった。 「暇だったから、なんとなく作っただけよ。意外とかわいらしいでしょう?」 「自分のぬいぐるみをかわいいとは思えないよ……」 「それもそうね」 ごもっともな意見だった。 少し、可笑しくなって、気持ちが落ち着いて来た。 冷静になって苗木君の方を見ると、様子が変なのが分かった。 どこかそわそわとしていて、覚束なかった。 やっぱり、分かり易い。 それに気付かなかったあたり、事態の深刻さを物語っていた。 「苗木君、落ち着きが無いけど、何か隠しているの?」 「い、いや……なんでもないよ……」 「分かり易いあなたには隠し事なんて向いてないわ。 さっきも、『それは』いいんだけどって言っていたじゃない。 私に出来ることなら力になるから、教えてもらえないかしら?」 「ありがとう……嬉しいけどさ、本当に分かっているの?」 「……生意気な物言いね」 らしくないような問いだった。 少し、ムキになっているように見える。 「霧切さんの鋭さなら、そんなこと言わなくても分かると思うんだけど……」 「本当に、生意気ね。いいから、話してもらえない?」 「だからさ! 霧切さんは凄くかわいいんだから、 ずっと抱き付かれていたら落ち着かないのは当たり前だよ!」 「えっ?」 苗木君が言うには無理がある言葉だった。 だから、一瞬で彼の顔が真っ赤になったのはその証明で、 本音であることが痛い程に分かってしまった。 ……かわいい? ……私が? 意味を認識するまでには、数秒掛かった。 認識してから、顔に熱が集まるまでは、一秒も掛からなかった。 堪らなくなって、苗木君の胸に顔を埋めていた。 「き、霧切さん……?」 「何も、言わないで……」 どうせ、酷い顔をしているなんて、隠せてもいない。 それでも、気休め程度のことはしたかった。 苗木君は私の言った通りに、何も言わなかった。 ただ、軽く背中に手を回して、抱き留めてくれていた。 「……やっぱり、かわいいなんて、あなたが言うには無理があるセリフね」 「ボクが一番痛感したよ……」 「だから、私も、一つだけ無理を言いたいの。いいかしら」 「えっと、どうしたの?」 「……寂しかったわ。慰めて」 ----
私は暑さに頭でもやられてしまったのだろうか。 それとも、時間を有り余すことに慣れていないせいなのか。 いずれにせよ、普段の自分では無いことは確かだった。 健康に悪いことは承知だが、クーラーの温度を一気に下げた。 鋭さすら感じる風が、頬を突いた。 少し、冷静さを取り戻せた気がする。 改めて、自分の所業と向き直した。 デフォルメされすぎているが、確かに彼を模っている。 その、苗木君の姿を。 「なんでこんな物を作ってしまったのかしら……」 こんな物、と言いつつも、それに親しみを感じてしまうのが苛立った。 あまりいい出来では無いぬいぐるみが、人畜無害の微笑みを張り付かせている。 そもそもとして、仕事が休みなのがいけない。 加えて、苗木君が休みでは無いのもいけない。 調子が狂うからと、自分も出勤しようとしたら、 半ば怒っているような形相で、咎める苗木君もいけない。 そして、それに気圧されてしまった私もいけない。 これだけ重なってしまったのだから、しょうがない。 そう自分を宥められる人間なら、もう少し楽に生きられている。 もやもやを苗木君にぶつけた。 とは言っても、もどきにすぎないぬいぐるみを抱き締めても、 気持ちが晴れるはずが無いのに。 ……はずが無いのに。 どうして、落ち着いてしまうのだろうか。 本当に、普段の自分からはかけ離れているようだ。 もう、思考を続けるのも嫌になった。 ベッドに身を投げて、意識を手放した。 「……切さん……霧……さん」 ぶつ切れの声が、耳に入った。 重たい瞼を上げると、ぼんやりとした輪郭が映った。 苗木君、だろうか。 いや、彼がここにいるはずがない。 今頃は、忙しさに追われて、夜まで身動きが取れないはずだ。 ということは、さっきのぬいぐるみだろうか。 全く、どうかしているらしい。 幻聴まで聞こえるなんて。 それにしても、随分離れているように見える。 胸に抱えていたはずなのに。 癪だが、もう一度引き寄せることにした。 「こんな冷えた部屋で寝てたら、風邪を引いちゃうよ。取りあえず一回外に……な、なにをしてるの?」 幻聴まで、私を気遣ってくるのは、らしいと言うのか何なのか。 まあ、悪い気はしなかった。 さっきよりも、気持ちが安らいでいる。 どうしてか、抱き締めると、しっかりとした感触が伝わって、 ……苗木君の匂いがした。 それに、風邪を引くなんて現実味が無い話だと思った。 こんなに暖かいのに。 心地よいまどろみの中で、頬を緩めた。 意識が戻ったのは、昼下がりを少し過ぎたあたりだった。 行き場の無い思いはすっかり消えてしまっている。 頭の中は澄み切っていて、普段より冴えていた。 こんなに寝覚めが良かったのはいつ以来だろうか。 意外と、このぬいぐるみも捨てたものではないらしい。 ……ぬいぐるみ?  ……これが? ピグマリオン効果、というものだろうか。 彫刻に恋焦がれて、本物の人間のように接していたら、 本当に命が宿ったというあれだ。 ……いや、それは名称の元になっただけで、ただのフィクションだ。 無機物に当てはまる訳がない。 じゃあ、どういうことだ? どう見ても、等身大だった。 顔は埋めていて、分からないが、特徴的なくせっ毛が、ぴょこぴょこと忙しなく動いている。 肩と思わしきものを掴んで、仰向けに直した。 「苗木君、なの?」 「だ、誰に見えるの?」 苗木君に見える。 ……えっ? 数瞬置いて、澄み切った頭は平穏を失くした。 「……ごめんなさい。拘束してしまって」 「い、いや。別にそれはいいんだけどさ」 必死に平静を装っているが、目は合わせられなかった。 「どうして、ここにいるのかしら?」 「……哲学的、だね」 「いいから答えて」 足らないのは分かっているが、もう上手く言葉が出て来ない。 相当、参っているらしい。 誤魔化すように、苗木君を睨んだ。 ……またやってしまった。 「え、えっと。午前中で切り上げられたからさ、早めに帰って来られたんだ」 「……そう。幻聴じゃなかったのね」 「えっ?」 「いえ、なんでもないわ」 連絡の一つでも寄越して欲しいと思ったのは我儘だろうか。 ……いや、眠っていて対応出来ないのかもしれないが。 どちらにせよ、こんな醜態を晒す羽目になる可能性が少しは減ったと思う。 「あ、あのさ……これ、どうしたの?」 苗木君が向いた先にあったのは、苗木君だった。 いい加減、平静を装うのも辛くなってきた。 「寂しかったのよ……」 「えっ?」 「なんて言ったら、あなたは慰めてくれるのかしら?」 「だ、騙したね……」 別に、苗木君を騙してはいなかった。 騙したのは、自分の気持ちの方だ。 寂しかったに決まっている。 こんなおもちゃを作って、気を紛らわせているぐらいには。 本当に、慰めて欲しかったが、そんな弱味は見せたくない。 いくら苗木君の前でも、そこまで晒す勇気は出なかった。 「暇だったから、なんとなく作っただけよ。意外とかわいらしいでしょう?」 「自分のぬいぐるみをかわいいとは思えないよ……」 「それもそうね」 ごもっともな意見だった。 少し、可笑しくなって、気持ちが落ち着いて来た。 冷静になって苗木君の方を見ると、様子が変なのが分かった。 どこかそわそわとしていて、覚束なかった。 やっぱり、分かり易い。 それに気付かなかったあたり、事態の深刻さを物語っていた。 「苗木君、落ち着きが無いけど、何か隠しているの?」 「い、いや……なんでもないよ……」 「分かり易いあなたには隠し事なんて向いてないわ。 さっきも、『それは』いいんだけどって言っていたじゃない。 私に出来ることなら力になるから、教えてもらえないかしら?」 「ありがとう……嬉しいけどさ、本当に分かっているの?」 「……生意気な物言いね」 らしくないような問いだった。 少し、ムキになっているように見える。 「霧切さんの鋭さなら、そんなこと言わなくても分かると思うんだけど……」 「本当に、生意気ね。いいから、話してもらえない?」 「だからさ! 霧切さんは凄くかわいいんだから、 ずっと抱き付かれていたら落ち着かないのは当たり前だよ!」 「えっ?」 苗木君が言うには無理がある言葉だった。 だから、一瞬で彼の顔が真っ赤になったのはその証明で、 本音であることが痛い程に分かってしまった。 ……かわいい? ……私が? 意味を認識するまでには、数秒掛かった。 認識してから、顔に熱が集まるまでは、一秒も掛からなかった。 堪らなくなって、苗木君の胸に顔を埋めていた。 「き、霧切さん……?」 「何も、言わないで……」 どうせ、酷い顔をしているなんて、隠せてもいない。 それでも、気休め程度のことはしたかった。 苗木君は私の言った通りに、何も言わなかった。 ただ、軽く背中に手を回して、抱き留めてくれていた。 「……やっぱり、かわいいなんて、あなたが言うには無理があるセリフね」 「ボクが一番痛感したよ……」 「だから、私も、一つだけ無理を言いたいの。いいかしら」 「えっと、どうしたの?」 「……寂しかったわ。慰めて」 ----

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