kk25_446-449

「kk25_446-449」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

kk25_446-449」(2014/09/16 (火) 15:17:29) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

右往左往と忙しなく眼球が動いている。 年端の行かない子供でも、もう少し落ち着きがあるんじゃないか。 そう思ってしまう程度には、視線の先にいざなわれていた。 致し方ないことだと思った。 むしろ健全な証拠で、喜ばしいことでもある気がする。 ……いや、いくらボクでもそこまで前向きにはなれなかった。 それに、ここまで来るとただの開き直りだ。 同じソファーに腰を掛ける霧切さんは、興味深そうに漫画の単行本を眺めている。 当たり触りの無い、有名な少年漫画だが、彼女から見ると新鮮に映るのだろうか。 ボクから見ると、多少は色褪せてしまう。 手元の紙に集中など出来るはずもなく、隣の方へ泳いで行く。 ともかく、霧切さんの白い肌に目が行ってしまうのは当然の帰結だった。 目下の絵に集中しているのか、霧切さんはいたく無防備だ。 キャミソールの肩紐はひらひらと揺れて、消えかけのロウソクの灯よりも頼りなく見える。 そもそも服装からして、薄着にも程があると思う。 時節柄には相応しいのかもしれないが、年頃の男の前では相応しくない。 もう少し警戒心を持って欲しい、なんて普段とは逆の立場から物を言いたくなる。 ……まあ、だけど、ボクの前では持って欲しくも無い、という邪な考えがあるのも否定出来なかった。 「苗木君、どうしてチラチラとこっちを見てるのかしら。言いたいことがあるならはっきりとしたら?」 一点に向けられているようで、存外広い視野を確保していたらしい。 ちょっと、これはまずいな……。 誤魔化すにはハードルが高すぎるし、本音をはっきりと口にするなんて到底出来ない。 それでも悪あがきをする以外の手段はなくて、不毛な弁解を始めるしかなかった。 「いや、さ。結構冷房も効いてるから、寒そうだなと思って。羽織る物持って来るね!」 「別に寒くはないし、冷えているなら温度を上げればいいじゃない」 逃げ道はあっさりと塞がれた。 上がりかけていた腰が宙ぶらりんになって、妙に重い。 「まあ、そうなんだけどさ……」 「何が言いたいのかは知らないけど、回りくどいのはあなたらしくないわよ。 ちゃんと、伝えたいことがあるなら、真っ直ぐに言って」 親が子供を諭すような言い方に、身体が縮まり返った。 どうも、隠す気力が失われてしまう。 「その……目のやり場に困るというか……」 「どうして困るの? それにやり場も何も、それを読んでいたのなら関係ないんじゃないかしら」 「だから、どうしても、霧切さんが、気になっちゃうんだよ。そういう、格好をされてると」 俯きながら発した声は、流暢とはいかず、歪になってしまった。 ……やっぱり、言うのはやめた方が良かったかもしれない。 例え機嫌を損ねられてしまっても、汚れた目で見ていることを知らせるよりはマシなんじゃないか。 「……へぇ」 なんの変哲もない、相槌を打つような声だった。 霧切さんの表情は伺えしれないし、見る勇気も出なくて、不安だけが膨らんでいく。 ……軽蔑、されてるよな。 自己嫌悪に陥っていると、ふと、ひんやりとした感触を腕に覚えた。 反射的に、接触した物の方へ向くと、その正体はあっさりと分かった。 ……いや、どうしてこんなことをしているのかな。 「あ、あのさ、なにしてるの?」 「やっぱり、あなたの言う通り、肌寒いわね。少し肩を貸してもらっていいかしら?」 絶対嘘だ……。 ボクに身を寄せてきた霧切さんは、可笑しそうに頬を緩めていた。 それは読んでいる漫画のせいではなくて、ボクの反応を面白がっているのは明白だった。 完全に、からかわれているらしい。 ある意味、安堵していいのかもしれない。 引かれて距離を取られてしまうよりはずっと良い。 だけど、これだとあまりにも近すぎて危険だ。 気持ちが落ち着くはずもなく、規則性を失くした心臓の音が耳を打った。 「い、いや。温度を上げればいいって言ってたよね? それに、寒いならすぐに上着を持って来るからさ」 適当な口実を付けて、逃亡を図ったが、先回りしたように行く手は阻まれた。 霧切さんは、両腕でボクを挟み込むように囲んでいた。 手入れの行き届いた長髪が、少し垂れ下がって、ボクの頬をなぞった。 霧切さんはいつものポーカーフェイスに戻っていた。 四十五度あたりから見下ろして、威圧しているかのようにも思えるけど、 ボクが身動き一つ取れないのは、そのせいでは無かった。 感情を伺えない眼前の顔は、作り物のように整っていて。 でも本当は、霧切さんが表情豊かな、温かい血が通った人だということも、ボクは知っていて。 彼女の長いまつ毛が、瞬きのごとに揺れるたびに、鼓動が際限なく膨れ上がっていった。 「霧切、さん」 「……黙って、目を閉じてくれないかしら」 霧切さんはゆっくりと、確かな声で言葉を紡いだ。 逆、だとは思うんだ。 体勢も、言っていることも、男女がひっくり返っている。 それなのに、自然に受け入れられてしまうのは、どうしてなんだろう。 答えを求めることにも関心はあったけど、今は、ただ静かに目を閉じた。 随分と引き伸ばされた時間の後、接触したのは、唇と唇……では無かった。 触れ合った箇所は、想定よりも大分上だった。 額に、口を付けられていた。 予測がずれて、頭の中身が一瞬空っぽになってしまう。 思考が回復しても、大きなウェイトを占めていたのは疑問符だった。 空気にそぐわないような、可愛げのあるスキンシップに対しての。 呆気に取られて目を開けると、霧切さんは詰めた距離を戻して、再び漫画に目を落としていた。 騙された……のか? 霧切さんは何も言わないけど、かと言って確認を取るのも気恥ずかしい。 ……それは、無いんじゃないかな。 いや、思いの外、子供らしい行為に、胸が高鳴ったのは否めない。 疑問の中に、愛おしさだとか、そういう物が混じっていたのは、 確かに否めないんだけど、盛大に肩透かしを食らってしまったのも事実だった。 なんにせよ、おもいっきり翻弄されてしまったらしい。 なんだか、悔しい。 ここまで良いようにやられてしまうのは、流石に。 一応ボクも男なわけで、平凡なりには意地があって。 でも、さっきは完全に霧切さんの方が男らしいと思ってしまったような……。 ……ともかく、少しぐらいは、やり返してみても罰は当たらないはず。 先ほどとは反対に、軽く身を乗り出して、霧切さんを囲うように、両腕をゆっくりとソファーに付けた。 床に何かが落ちる音がした。 多分、彼女が持っていた本だと思う。 不意をつかれたのか、霧切さんは大きく目を見開いて、呆然としていた。 不思議なことに、仕掛けた側のはずのボクも同じで、身体の自由が利かなくなった。 こうして、入れ替わるように見下ろす格好になると、普段とは受ける印象が違った。 もちろん霧切さんは綺麗な人で、ボクの好きな人で、これ以上ないぐらいに魅力的な人だけど、 いつもは凛とした、一人の女性としての意識が強くて、今みたいには思えなかった。 ……こんなに可愛かったかな、霧切さんって。 なんか凄く失礼なことを考えている気がするけど、元から凄く可愛いんだ。 でも今は、女性というよりは、女の子として意識してしまって、もうどうしていいのか分からない。 分からないんだけど、一つだけ理解出来たことがあるかもしれない。 それは、さっきの霧切さんの心境だった。 ――あれで、精一杯なんだ。 とても正常な思考なんて巡らなくて、身体の神経も麻痺してしまったように感じる。 唇同士を触れ合わせたら、心臓の働きすら狂わせてしまいそうで。 目の前の霧切さんは、到底ポーカーフェイスを保てているとは言えなかった。 戸惑いも、耳の赤さも隠し切れていなくて、見ているボクもどうにかなってしまいそうだ。 それでも何もせず元に戻るのは情けなく思えてしまって。 そっと、霧切さんの頬にキスをした。 無言で腕をどけて、ソファーに座り込んでからどれぐらい経っただろう。 やっと、ある程度頭が回るようになった気がする。 深く、深く、溜め息をついた。 なにやってんだよ、ボクは……。 今日日、中学生でも、もう少し進んだことをしている気がする。 いや、でも、しょうがない、相手は霧切さんなんだから。 寧ろこんなに動揺してしまうぐらいに、素敵な人なんだからしょうがないじゃないか! ……やっぱり、ただの開き直りだった。 「あ、あんまりさ、からかいすぎるのは良くないんじゃないかな。多分、お互いのためにも」 「ええ、そうね……本当に、ごめんなさい……」 「いや、何もそこまで謝らなくても……」 萎れた声の方へ向くと、どうも様子がおかしかった。 普段より、一回り小さく見えて、芯の通った姿勢も、心なしか不安定になっていた。 動揺しているみたいだけど、ボクのそれとは性質が違うように思える。 ……何処か、怯えているような。 えっ? ちょっと、やりすぎた……? いやいや、そこまで強く迫っちゃったかな……。 一応、乱暴にしないように、とは気を付けたんだけど……。 もしかして、またからかっているとか? ……なんでこんな時に限ってそこに考えが及ぶんだよ。 都合の良いことを信じたくなるのは、人の性なのかもしれない。 それに、別に騙されたって構わないじゃないか。 ボクが見事にやられても、いつものことで済む話だ。 それより下手に意地になって、霧切さんを放って置く方がもっと不味い。 ただでさえ傷つけてしまったのかもしれないのに、自己保身に走るなんて最低なだけだ。 細心の注意を払って、霧切さんの身体を引き寄せた。 一瞬、震えるような素振りをされて、嫌な汗が背筋を伝ったが、すぐに強張りは解けて、身を委ねてくれた。 「霧切さん、本当にごめんね。大丈夫だから。もうあんなことしないよ」 「……もうしてくれないの?」 「えっ?」 「ふふっ、また騙されたわね」 「や、やっぱりね……」 「……なんて、言えたら良かったのにね」 あれ? どういう、こと? 今度は声も出なくて、ただただ混乱するばかりだった。 「もう少し、このままでいいかしら」 「えっと、うん……」 もう意図をつかむことも困難だったが、改めて認識したことはあった。 やっぱり、霧切さんにやり返しても、手痛いしっぺ返しを食らうのはボクの方らしい。 分かり切ったことのはずなのに、なぜ学ぼうとしないんだろう。 恐らく、別に悪い気はしないせいだと思う。 惚れた弱み、というものなのかもしれない。 熱に浮かされているのは自覚しているけど、霧切さんから伝わる温かさに浮かされるなら本望なのかな。 もう少し、の長さは多分に延ばされていった。 ----
右往左往と忙しなく眼球が動いている。 年端の行かない子供でも、もう少し落ち着きがあるんじゃないか。 そう思ってしまう程度には、視線の先にいざなわれていた。 致し方ないことだと思った。 むしろ健全な証拠で、喜ばしいことでもある気がする。 ……いや、いくらボクでもそこまで前向きにはなれなかった。 それに、ここまで来るとただの開き直りだ。 同じソファーに腰を掛ける霧切さんは、興味深そうに漫画の単行本を眺めている。 当たり触りの無い、有名な少年漫画だが、彼女から見ると新鮮に映るのだろうか。 ボクから見ると、多少は色褪せてしまう。 手元の紙に集中など出来るはずもなく、隣の方へ泳いで行く。 ともかく、霧切さんの白い肌に目が行ってしまうのは当然の帰結だった。 目下の絵に集中しているのか、霧切さんはいたく無防備だ。 キャミソールの肩紐はひらひらと揺れて、消えかけのロウソクの灯よりも頼りなく見える。 そもそも服装からして、薄着にも程があると思う。 時節柄には相応しいのかもしれないが、年頃の男の前では相応しくない。 もう少し警戒心を持って欲しい、なんて普段とは逆の立場から物を言いたくなる。 ……まあ、だけど、ボクの前では持って欲しくも無い、という邪な考えがあるのも否定出来なかった。 「苗木君、どうしてチラチラとこっちを見てるのかしら。言いたいことがあるならはっきりとしたら?」 一点に向けられているようで、存外広い視野を確保していたらしい。 ちょっと、これはまずいな……。 誤魔化すにはハードルが高すぎるし、本音をはっきりと口にするなんて到底出来ない。 それでも悪あがきをする以外の手段はなくて、不毛な弁解を始めるしかなかった。 「いや、さ。結構冷房も効いてるから、寒そうだなと思って。羽織る物持って来るね!」 「別に寒くはないし、冷えているなら温度を上げればいいじゃない」 逃げ道はあっさりと塞がれた。 上がりかけていた腰が宙ぶらりんになって、妙に重い。 「まあ、そうなんだけどさ……」 「何が言いたいのかは知らないけど、回りくどいのはあなたらしくないわよ。 ちゃんと、伝えたいことがあるなら、真っ直ぐに言って」 親が子供を諭すような言い方に、身体が縮まり返った。 どうも、隠す気力が失われてしまう。 「その……目のやり場に困るというか……」 「どうして困るの? それにやり場も何も、それを読んでいたのなら関係ないんじゃないかしら」 「だから、どうしても、霧切さんが、気になっちゃうんだよ。そういう、格好をされてると」 俯きながら発した声は、流暢とはいかず、歪になってしまった。 ……やっぱり、言うのはやめた方が良かったかもしれない。 例え機嫌を損ねられてしまっても、汚れた目で見ていることを知らせるよりはマシなんじゃないか。 「……へぇ」 なんの変哲もない、相槌を打つような声だった。 霧切さんの表情は伺えしれないし、見る勇気も出なくて、不安だけが膨らんでいく。 ……軽蔑、されてるよな。 自己嫌悪に陥っていると、ふと、ひんやりとした感触を腕に覚えた。 反射的に、接触した物の方へ向くと、その正体はあっさりと分かった。 ……いや、どうしてこんなことをしているのかな。 「あ、あのさ、なにしてるの?」 「やっぱり、あなたの言う通り、肌寒いわね。少し肩を貸してもらっていいかしら?」 絶対嘘だ……。 ボクに身を寄せてきた霧切さんは、可笑しそうに頬を緩めていた。 それは読んでいる漫画のせいではなくて、ボクの反応を面白がっているのは明白だった。 完全に、からかわれているらしい。 ある意味、安堵していいのかもしれない。 引かれて距離を取られてしまうよりはずっと良い。 だけど、これだとあまりにも近すぎて危険だ。 気持ちが落ち着くはずもなく、規則性を失くした心臓の音が耳を打った。 「い、いや。温度を上げればいいって言ってたよね? それに、寒いならすぐに上着を持って来るからさ」 適当な口実を付けて、逃亡を図ったが、先回りしたように行く手は阻まれた。 霧切さんは、両腕でボクを挟み込むように囲んでいた。 手入れの行き届いた長髪が、少し垂れ下がって、ボクの頬をなぞった。 霧切さんはいつものポーカーフェイスに戻っていた。 四十五度あたりから見下ろして、威圧しているかのようにも思えるけど、 ボクが身動き一つ取れないのは、そのせいでは無かった。 感情を伺えない眼前の顔は、作り物のように整っていて。 でも本当は、霧切さんが表情豊かな、温かい血が通った人だということも、ボクは知っていて。 彼女の長いまつ毛が、瞬きのごとに揺れるたびに、鼓動が際限なく膨れ上がっていった。 「霧切、さん」 「……黙って、目を閉じてくれないかしら」 霧切さんはゆっくりと、確かな声で言葉を紡いだ。 逆、だとは思うんだ。 体勢も、言っていることも、男女がひっくり返っている。 それなのに、自然に受け入れられてしまうのは、どうしてなんだろう。 答えを求めることにも関心はあったけど、今は、ただ静かに目を閉じた。 随分と引き伸ばされた時間の後、接触したのは、唇と唇……では無かった。 触れ合った箇所は、想定よりも大分上だった。 額に、口を付けられていた。 予測がずれて、頭の中身が一瞬空っぽになってしまう。 思考が回復しても、大きなウェイトを占めていたのは疑問符だった。 空気にそぐわないような、可愛げのあるスキンシップに対しての。 呆気に取られて目を開けると、霧切さんは詰めた距離を戻して、再び漫画に目を落としていた。 騙された……のか? 霧切さんは何も言わないけど、かと言って確認を取るのも気恥ずかしい。 ……それは、無いんじゃないかな。 いや、思いの外、子供らしい行為に、胸が高鳴ったのは否めない。 疑問の中に、愛おしさだとか、そういう物が混じっていたのは、 確かに否めないんだけど、盛大に肩透かしを食らってしまったのも事実だった。 なんにせよ、おもいっきり翻弄されてしまったらしい。 なんだか、悔しい。 ここまで良いようにやられてしまうのは、流石に。 一応ボクも男なわけで、平凡なりには意地があって。 でも、さっきは完全に霧切さんの方が男らしいと思ってしまったような……。 ……ともかく、少しぐらいは、やり返してみても罰は当たらないはず。 先ほどとは反対に、軽く身を乗り出して、霧切さんを囲うように、両腕をゆっくりとソファーに付けた。 床に何かが落ちる音がした。 多分、彼女が持っていた本だと思う。 不意をつかれたのか、霧切さんは大きく目を見開いて、呆然としていた。 不思議なことに、仕掛けた側のはずのボクも同じで、身体の自由が利かなくなった。 こうして、入れ替わるように見下ろす格好になると、普段とは受ける印象が違った。 もちろん霧切さんは綺麗な人で、ボクの好きな人で、これ以上ないぐらいに魅力的な人だけど、 いつもは凛とした、一人の女性としての意識が強くて、今みたいには思えなかった。 ……こんなに可愛かったかな、霧切さんって。 なんか凄く失礼なことを考えている気がするけど、元から凄く可愛いんだ。 でも今は、女性というよりは、女の子として意識してしまって、もうどうしていいのか分からない。 分からないんだけど、一つだけ理解出来たことがあるかもしれない。 それは、さっきの霧切さんの心境だった。 ――あれで、精一杯なんだ。 とても正常な思考なんて巡らなくて、身体の神経も麻痺してしまったように感じる。 唇同士を触れ合わせたら、心臓の働きすら狂わせてしまいそうで。 目の前の霧切さんは、到底ポーカーフェイスを保てているとは言えなかった。 戸惑いも、耳の赤さも隠し切れていなくて、見ているボクもどうにかなってしまいそうだ。 それでも何もせず元に戻るのは情けなく思えてしまって。 そっと、霧切さんの頬にキスをした。 無言で腕をどけて、ソファーに座り込んでからどれぐらい経っただろう。 やっと、ある程度頭が回るようになった気がする。 深く、深く、溜め息をついた。 なにやってんだよ、ボクは……。 今日日、中学生でも、もう少し進んだことをしている気がする。 いや、でも、しょうがない、相手は霧切さんなんだから。 寧ろこんなに動揺してしまうぐらいに、素敵な人なんだからしょうがないじゃないか! ……やっぱり、ただの開き直りだった。 「あ、あんまりさ、からかいすぎるのは良くないんじゃないかな。多分、お互いのためにも」 「ええ、そうね……本当に、ごめんなさい……」 「いや、何もそこまで謝らなくても……」 萎れた声の方へ向くと、どうも様子がおかしかった。 普段より、一回り小さく見えて、芯の通った姿勢も、心なしか不安定になっていた。 動揺しているみたいだけど、ボクのそれとは性質が違うように思える。 ……何処か、怯えているような。 えっ? ちょっと、やりすぎた……? いやいや、そこまで強く迫っちゃったかな……。 一応、乱暴にしないように、とは気を付けたんだけど……。 もしかして、またからかっているとか? ……なんでこんな時に限ってそこに考えが及ぶんだよ。 都合の良いことを信じたくなるのは、人の性なのかもしれない。 それに、別に騙されたって構わないじゃないか。 ボクが見事にやられても、いつものことで済む話だ。 それより下手に意地になって、霧切さんを放って置く方がもっと不味い。 ただでさえ傷つけてしまったのかもしれないのに、自己保身に走るなんて最低なだけだ。 細心の注意を払って、霧切さんの身体を引き寄せた。 一瞬、震えるような素振りをされて、嫌な汗が背筋を伝ったが、すぐに強張りは解けて、身を委ねてくれた。 「霧切さん、本当にごめんね。大丈夫だから。もうあんなことしないよ」 「……もうしてくれないの?」 「えっ?」 「ふふっ、また騙されたわね」 「や、やっぱりね……」 「……なんて、言えたら良かったのにね」 あれ? どういう、こと? 今度は声も出なくて、ただただ混乱するばかりだった。 「もう少し、このままでいいかしら」 「えっと、うん……」 もう意図をつかむことも困難だったが、改めて認識したことはあった。 やっぱり、霧切さんにやり返しても、手痛いしっぺ返しを食らうのはボクの方らしい。 分かり切ったことのはずなのに、なぜ学ぼうとしないんだろう。 恐らく、別に悪い気はしないせいだと思う。 惚れた弱み、というものなのかもしれない。 熱に浮かされているのは自覚しているけど、霧切さんから伝わる温かさに浮かされるなら本望なのかな。 もう少し、の長さは多分に延ばされていった。 ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。