~ ボクと私の進む未来 ~

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"全ては希望溢れる未来のために" けれど、そんな時代の到来は夢物語なのかもしれない。 想いだけが、現実の世界に浮遊する――。 ~ ボクと私の進む未来 ~ 「なになに……"人生の墓場への特急電車の乗り換えも、これ一冊で絶対安心! 結納から熟年離婚まで、結婚にまつわるいろはを完全カバー!"……本当かな?」 「……仕事中に読書なんて随分余裕ね」 「っ!? ……霧切さん、驚かさないでよ」 「あなたが熱心に読書している姿が見えたから声をかけただけじゃない。それで、今日中に報告書をまとめられるのかしら?」 「いや、それはその、鋭意製作中ってことで。まだまだ他にも資料はいっぱいあるからね」 そう言ってデスクに積んである資料、十神君を経由してこまると腐川さんが塔和シティーで集めた資料の詳細を一瞥する。これが思った以上に量が多い。 中には"くつしたソックスちゃん"なんて絵本もあるけど、これも塔和シティー事件の報告書に関連あるのかな――? 「でも意外ね、あなたが結婚マニュアルを熱心に読むなんて。候補がいるの?」 「こ、候補って……!」 そもそもキミがいるじゃないか――! 思わず叫んでしまいそうな言葉を慌てて抑える。 だって、霧切さんが口元に手を当てて微笑んでいるから。これ、僕をからかう時によく見る仕草だ。 また僕をからかっていい気分転換をするつもりだね――。そうはいかないよ! 「そ、そりゃあ絶望の残党を何とかして世界を復興させるなんて大掛かりな仕事をしているけどさ、僕だって真面目に考えているよ?」 「へぇ、何をどう考えているのかしら?」  「こまるを迎えにいくにしたってこの先何年、何十年と待たせる可能性だってあるんだ。そんな中でも僕の隣で支えてくれる人がいるんだから」 そう言って目の前の霧切さんをじっと見つめて、彼女の右手を両手で包み込むように握る。 「だから、その人を幸せにするためにも今度こそ家族に立候補する必要があるから……。何か役立つ情報はないかなって夢中になって読んでたんだよ、霧切さん」 「苗木君……」 からかい半分、もう半分は僕の本当の気持ち。はたして彼女には届いただろうか――。 「……ごめんなさい」 「えっ!?」 「そういう言葉はこの場で言うのは得策ではないわ」 「あっ、ごめん……」 「ましてや、お爺様の目の前で言うのは自殺行為よ」 「えっ、どこにいるの……!?」 そう言って霧切さんは握られていない左手の人差し指を僕の方に向ける。 「あなたの後ろに」 恐る恐る振り返るとそこには――。 「私の響子をたぶらかしているというのはお前か!」 白髪の阿修羅がいた。 霧切さんのお爺さんだった。  ――――― 「はい、これで手当ては済んだわ」 「痛ててっ……ありがとう」 最後に杖で突かれた額に絆創膏を貼って僕の応急手当は完了したようで、霧切さんは救急箱を片付けるのだった。 「キミのお爺さん、怒らせると結構怖いね……」 「そうかしら? あれでも手加減した方だと思うけど……?」 「えっ、そうなの? ……でもあれだけの腕っ節だからデモンズハンティングって命懸けのゲームにも生き延びたわけだね」 「そうね」 「でも、ごめんね……。せっかくお爺さんとの面談を駄目にしちゃって」 「いいの、気にしないで……。さっきのままではお互い冷静に話し合えるとは思えないでしょうし、十神君に引き継がせて正解ね」 「そっか……。それじゃ、僕は報告書の方を再開するよ」 「ええ、任せたわ」 そう言って席を立とうとした霧切さんは僕の耳元に顔を寄せて囁くのだった。 「……から」 「えっ?」 "ここでは話しにくいので、今夜あなたの部屋に行くから"――か。 彼女と秘密の相談をするなんてあの時以来だけど、なんだろう。 思い当たる節が見つからず、首を傾げながらも僕は痛む体に鞭を打って仕事を再開させた――。  ――――― 「……いらっしゃい、響子さん」 「お邪魔するわ」 呼び鈴が鳴って出迎えると、日中と同じ黒のスーツ姿で彼女は僕の宛がわれているワンルームを訪ねてくるのだった。 「まだ晩御飯食べてなかったけど、一緒に食べる?」 「そうするわ」 「あ、それより先にコーヒー用意しよっか?」 「……誠くん」 キッチンの方に向かう僕を引き止めるように響子さんは抑揚のない声で僕の名前を呼ぶ。 そしてサンドベージュの二人掛けのソファに座り、右隣のシートを軽く叩いた。 おもてなしよりも、彼女の隣に座って話を聞く方が先らしい。 僕はそれに従って響子さんの隣に腰掛けたのだった。 「単刀直入に言うわ。昨日からあなたの様子がおかしいけど、何があったの……?」 「…………」 「今のあなたを見ていると無理をしているようで危なっかしいわ」 「それは……」 「それとも、あの時みたいに私では相談するには役者不足……?」 僕の無反応ぶりから表情を隠すように俯いてソファから立ち上がる。 「……ごめんなさい、私の思い過ごしだったみたい。今日のところは……」 「……ごめん」 部屋から去ろうとする彼女の腰を思わず抱き締めていた。 まるで子供の駄々っ子のように縋りつくような感じで――。 「……ふぅ。やっと話す気になったみたいね」 「……ごめん」 「安心して。私は逃げないから……」 「うん」 恐る恐る拘束していた腕の力を弱めると響子さんは再び僕の隣に腰掛けた。 そして僕の頭をそっと胸元に引き寄せてきた。面と向かって話し辛いことを察してくれたのだろう。 僕は彼女の優しさに甘えるようにポツリ、ポツリとしゃべり出した。 「昨日の要救助員の面談でさ、言われたんだ。"お前らはレオンお兄ちゃんを殺してのうのうと正義面をしているやつ等だ"って」 「仲島さんの時にそんなことを……?」 「うん」 "特にお前。お前は仲間の死を乗り越えるだとか、仲間の死を背負うだとか、適当な耳障りの良い言葉で自分の人間の浅はかさをごまかしているクズだ!!" 机越しに向けられた剥きだしの殺意は今でも鮮明に覚えている。 心臓を鷲掴みされた恐怖が蘇り、目の前の響子さんの温もりにさらに縋る。 「……今の内に弱音があるなら全部吐き出しなさい」 「本当は今すぐにでもこまるに会いたい、父さんと母さんの安否が気になる。おまけに絶望の残党からすれば江ノ島盾子を殺した僕は格好の標的で、怖くて仕方がないんだ……!」 「昨夜はよく眠れたの……?」 「あんまり。色んなプレッシャーで押し潰されそうで眠れなかったよ」 「そう……」 響子さんは泣き疲れた子供をあやすように僕の頭を撫で、背中をゆっくりと擦ってくれた。 「誠くん、これだけは忘れないで。あなたが"希望の象徴"とされるけど怪我をすれば血が流れるし、悲しいことがあれば心が痛む普通の人間よ」 「そうだね。死んで尚、崇められるような江ノ島盾子とは違うんだ」 「そうよ、あなた一人が全てを背負う必要はないわ。私も江ノ島盾子を追い詰めて殺した人間の一人ですもの」 「響子さんも背負ってくれるの……?」 「もちろん。私が私のやるべきことをやれるかどうか……未来はそれにかかっているの」 「ありがとう、響子さん……」 「やっといつもの、ほんの少しだけ前向きな誠くんに戻ってくれたわね」 顔を上げて見つめ合うとお互い何がおかしいのかクスクスと笑ってしまう。 一頻り笑い終えたら愛しさが込み上げてきて、不意打ちをするかのように唇にバードキスをする。 「ふふっ、どうしたの急に?」 「いや、その、響子さんに元気付けてもらってばっかりだからさ……。少しでもお返しがしたくなって、つい」 「お返しするって言って本当はあなた自身の欲求も満たしたい、の間違いでしょう?」 「……否定はしません。響子さんはそういうの嫌だったりする?」 すると彼女はふるふると首を横に振ってきた。 「そういう欲張りは嫌いじゃないわ」 そう言って今度は響子さんの方から唇を重ねてくるのだった。  ――――― 湯煎して熱くなった袋で火傷しないように注意をしながら切り口を開ける。 そしてお皿に持ったご飯の上に乗せるようにレトルトのカレーをかければこれで完成だ。 「んっ……おはよう」 「おはよう、響子さん」 「朝からカレーライス……?」 「響子さんの分も用意してあるけど、軽めのシリアルにする?」 「いいえ、同じのをいただくわ」 「ん、わかった」 コップにミネラルウォーターを注いでテーブルの向かい側に差し出す。 「それじゃ、いただきます」 「いただきます」 心と身体のエネルギーを満たしていくように僕らは朝食のカレーを口に運んでいくのだった。 これが僕らの生きる道。 たとえ、この先にどれだけの悲しみや絶望に心を引き裂かれても今はただ歩いていくだけ――。 誇りと希望を胸に。 ――To the next stage. -----

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