パラドックス実験

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いつものように授業を終えたボク……苗木誠は、クラスメイトのセレスさんと一緒に、校舎棟の上階へと向かっていた。 「ううん……学園長から直接呼び出されるなんて、どうしてだろう。緊張するな……」 叱られるような心当たりはなかったものの、特に褒められる事もしていない。 「さあ……行けばわかるでしょう。何にせよ、手短に済ませて欲しいものですわね」 学園長室の重厚な扉の前に立ち、ノックをすると『どうぞ』という声が返ってきた。扉を開けて中へと入る。 「やあ、よく来てくれたね。苗木君とやすひ……セレス君。こっちにかけて」 意外とにこやかな学園長に応接セットに通されると、一人先客がいて驚いた。知らない顔だ。 「さて、全員そろった所だし、始めよう。今日、わざわざ君たち三人に集まってもらったのは、ある実験に協力してもらいたいからなんだ」 「三人で……実験ですの?」 「そう、幸運の実験。人間の持つ能力のうち、運というのはまだまだ未知の部分が多い。  運の個人差は、私を含めた研究者にとって重要な課題の一つで……個人的な興味もあって、是非、君たちの才能を見せてもらいたい」 学園の教師が、同時に才能の研究者である事は知っているが、学園長も例外ではなかったみたいだ。 「そうか……それでボクとセレスさんが。……って、事はこっちの……」 向いのソファにかけていた先客が立ち上がり、親しげに微笑んだ。 「はじめまして。ボクは狛枝凪斗。苗木君と同じ……77期の“幸運”さ。やあ、そっちがギャンブラーのセレスさんだね。  キミみたいな有名人に会えて光栄だよ。いやあ、今日はツイてるなあ」 超高校級の幸運とは……毎年一人、希望ヶ峰学園に抽選でスカウトされた、“幸運”な高校生だ。 この人がボクの一期上の先輩。背が高い、やけにフレンドリーな人だな……。 「それで……実験というと、何を?」 「いや、そんなに身構えなくてもいいよ。時間は取らせない。そこにトランプがあるから、それで2人ずつ遊んで成績を見せてもらいたい。  まずは君たちの運の強さを比較をしてみたいんだ。一般人代表として、私も参加するから」 要は、トランプで全員と対戦してみればいいだけか。セレスさんと顔を見合わせる。 「面白いですわね。いいですわ。わたくしと苗木君の差は、改めて比較するまでもないでしょうが……」 確かに。セレスさんとは色んなゲームで遊んだけど……いつもボクが一方的に搾り取られている……。 「では、どんなゲームで対戦しましょう。時間をかけずに回数をこなすなら、ポーカーはいかがです?」 セレスさんの提案に全員が賛同したが、次の言葉で学園長の表情が変わった。 「賭け金は少額ではつまりませんが、皆さん、持ち合わせはありますの?」 「ちょ、ちょっと待ってくれセレス君。お金を賭けるのか? 学園内でそれはまずい」 「まずいと言われましても……わたくしの才能はギャンブラーですわよ。賭けなくては実力を出せませんわ」 「いや……しかしだね、日本の法律で賭博は禁止されて……私も教師として見逃す訳には……」 ……ボクとセレスさんがいつもしている事は……一回ごとはジュース代程度で大した額じゃないけど、黙っておこう。 考え込んでしまった学園長に助け舟を出すように、狛枝先輩が口を開く。 「じゃあ、飲み物のオゴリを賭けるっていうのはどうかな。ほら、テレビのバラエティー番組でもよくあるじゃない。  食事を一回おごるとか一発芸をするとか、一時の享楽を賭けるのは賭博にあたらないはずですよね?」 「そうか……そうだね。よし、それでいこう。負けたら学園のカフェで好きな飲み物をおごるという事で。  ああ……それと、もちろん、君たちには私が別に実験協力の報酬を出すからね」 話はまとまった。早速、実験……という名のポーカー勝負を始めよう。 まずはボクと狛枝先輩で対戦。 セレスさんが鮮やかな手つきでカードをシャッフルしながら学園長に尋ねる。 「当然ながら、強い役で勝つほどオゴリの内容も豪華になる……という事でいいですわね?」 「それは……」 「ハイリスク・ハイリターンでなくて何がギャンブルでしょう。そう深刻に考えなくても大丈夫ですわ。  ワンペアならお飲物を一回、ツーペアなら二回。フラッシュならケーキセットを……という具合にすれば」 「うーん……まあその程度なら。だけど、本当に無理はしないでいいからね」 ボクと先輩も了承し、手元にカードが配られた。 「カードの交換は一回まで。三回勝負と参りましょう。それでは……オープン・ザ・ゲーム」 狛枝vs苗木 一回戦―― 「……役無し。ブタだね」 「……ボクもブタです」 「緒戦の結果がこれとは……お二人とも、幸運の名が泣きますわよ。呆れて物も言えませんわ」 二回戦―― 「ツーペア。どうかな」 「ワンペア。……先輩の勝ちですね」 三回戦―― 「ワンペア。今度は苗木クンの勝ちかな?」 「……ワンペア。引き分けです」 「トータルで狛枝さんが僅かに勝ちですが……何て退屈な結果でしょう」 「平均的な結果だね。記録しておくよ。……幸運同士だと相殺されてしまうのかな……?」 セレスvs狛枝 一回戦―― 「スリーカード。いかがでしょう?」 「ワンペア。さすがは超高校級のギャンブラーだね」 二回戦―― 「ストレート」 「うーん……役無し。ブタ……」 三回戦―― 「……来ましたわ。ロイヤルストレートフラッシュ……!」 「うわ……フルハウスが出来たのに……」 「えっと……ちなみにだけど、ロイヤルストレートフラッシュだと何をおごって貰えるの?」 「それは学食の一番高価なメニューでしょう。超高校級の料理人が作るスペシャルランチ。  価格は確か、5000円でしたか。狛枝さん……勝負の結果は絶対のもの……負けた分は、きっちり払って頂きますわよ」 事もなげに答えるセレスさん。前の分も足すとそれ以上の出費だ。 心なしか狛枝先輩の笑顔が引きつっている……。 「こ、狛枝君。大丈夫かい? 何なら私が……」 「いや……大丈夫ですよ、学園長。ボクみたいなゴミが超高級のギャンブラーにおごらせて貰えるなんて、むしろ幸運です。  ふふ……ふふふふふふ……」 こ、狛枝先輩……目が本気だ……。 さすがに重苦しい空気に耐えられなくなったのか、学園長は席を立ち、壁際に置かれたアンティークなラジオの電源を入れた。 『……続きまして、ホープ宝くじ。いよいよ、一等の発表です。……12組の――』 ラジオの声に合わせるように、狛枝先輩がポケットから何か取り出した。くしゃくしゃの宝くじの券だ。 「……当たってる。そうか、この前何となく買ったけど……今日が当選発表だったんだ」 「え……あ、当たってるって、宝くじの一等が!?」 ボクも券を見せて貰ったが、本当だ。……こんなタイミングで大当たりなんて……。 「……何でしょう。わたくしが勝ったはずですのに……釈然としませんわ」 「不運の後に幸運……これが狛枝君の才能か……実に興味深い……」 苗木vsセレス 一回戦―― 「ツーペア……どうかな?」 「……スリーカードですわ」 二回戦―― 「ブタだ……うう」 「ストレートフラッシュ。うふふ……また、わたくしの勝ちですわね」 三回戦―― その前に、ボクはふと心配になり、自分の財布の中身を確認した。 「あの……セレスさん。悪いんだけど、もう持ち合わせが……  今の勝負と、さっき狛枝先輩に負けた分ですっからかんだよ……」 「仕方ありませんわね……。それでは、次の勝負では衣服を賭け、負けたら身ぐるみを剥がさせて頂きましょう。  持ち合わせのない客に対する、古式ゆかしい賭場のルールですわ」 相変わらず上品に微笑んでいるが、もちろん本気に違いない。慌てた学園長が口を挟む。 「ちょ、ちょっと待ちなさい。それは色々と問題が」 セレスさんは面倒くさそうに小さく舌打ちして……再び、笑みを作った。 「まあまあ。これは罰ゲームみたいなもので、一旦お預かりするだけですわ。  苗木君の服なんて貰ってもわたくしには使い道がありませんし、古着屋に売ってもオヤツ代にもなりません。  今日、お帰りになる時には体操服でも着ればいいでしょう。ねえ、苗木君……?」 これは……学園長を納得させる為だけの方便じゃないかという気がしたが、笑顔の裏の圧力を感じてボクは無言で頷いた。 一応、学園長もそれで満足したのか、矛を収める。 では、改めて三回戦―― 「ワンペア……ダメか」 「…………あら。役無しです。負けてしまいましたわ」 これは……! トータルではボクの大負けだけど、100回に1回ぐらいはこういう事もある……。 「へえ、珍しいね。これが苗木君の幸運か。……この場合、セレスさんが苗木君に服を渡すのかな?」 「え……いや、それは」 そう言えばそういうルールだった。しかし、勝ったといってもワンペアだから、上着を一枚預かる事になるのだろうか。 セレスさんは小さく首を傾げて、口を開く。 「わたくしにとって、ゴスロリ服は愛しているといってもいい程に大切な物。ここで脱ぐ訳には参りません。  代わりに、後で一枚お渡ししましょう。…………前にも差し上げましたものね。あれを……」 恥じらうように僅かに顔を背けるセレスさん。 前に……と言われて記憶を辿り、ボクは一気に顔が熱くなるのを感じた。 「あ、あれって……もしかして、パン――」 思わず口に出しかけてしまった。とっさに口を噤み、そっと学園長の表情を窺う。 「……苗木君。後で説明してもらうよ」 「はい……」 最後に一般人代表の学園長と、ボク、狛枝先輩、セレスさんの順で対戦した。 「フルハウス。やった……」 「うん、スリーカード。ボクの勝ちですね」 「うふふ、またロイヤルストレートフラッシュですわ。やはり、こうでなくては」 学園長の全敗……セレスさんに至っては全てが大きな役だった。 ついに頭を抱えてしまった学園長をよそに、セレスさんと先輩が楽しげに話している。 「次に実験をする時は、麻雀がいいですわ。ちょうど4人いますし」 「ボクはロシアンルーレットでもいいよ。弾は5発で……ふふ……はははは……」 「いや……それはさすがに……」 こんな調子で、次があるのだろうか。 ともかく、これで今回の……どこか矛盾をはらんだ、幸運の実験は終了だ――。 -----
いつものように授業を終えたボク……苗木誠は、クラスメイトのセレスさんと一緒に、校舎棟の上階へと向かっていた。 「ううん……学園長から直接呼び出されるなんて、どうしてだろう。緊張するな……」 叱られるような心当たりはなかったものの、特に褒められる事もしていない。 「さあ……行けばわかるでしょう。何にせよ、手短に済ませて欲しいものですわね」 学園長室の重厚な扉の前に立ち、ノックをすると『どうぞ』という声が返ってきた。扉を開けて中へと入る。 「やあ、よく来てくれたね。苗木君とやすひ……セレス君。こっちにかけて」 意外とにこやかな学園長に応接セットに通されると、一人先客がいて驚いた。知らない顔だ。 「さて、全員そろった所だし、始めよう。今日、わざわざ君たち三人に集まってもらったのは、ある実験に協力してもらいたいからなんだ」 「三人で……実験ですの?」 「そう、幸運の実験。人間の持つ能力のうち、運というのはまだまだ未知の部分が多い。  運の個人差は、私を含めた研究者にとって重要な課題の一つで……個人的な興味もあって、是非、君たちの才能を見せてもらいたい」 学園の教師が、同時に才能の研究者である事は知っているが、学園長も例外ではなかったみたいだ。 「そうか……それでボクとセレスさんが。……って、事はこっちの……」 向いのソファにかけていた先客が立ち上がり、親しげに微笑んだ。 「はじめまして。ボクは狛枝凪斗。苗木君と同じ……77期の“幸運”さ。やあ、そっちがギャンブラーのセレスさんだね。  キミみたいな有名人に会えて光栄だよ。いやあ、今日はツイてるなあ」 超高校級の幸運とは……毎年一人、希望ヶ峰学園に抽選でスカウトされた、“幸運”な高校生だ。 この人がボクの一期上の先輩。背が高い、やけにフレンドリーな人だな……。 「それで……実験というと、何を?」 「いや、そんなに身構えなくてもいいよ。時間は取らせない。そこにトランプがあるから、それで2人ずつ遊んで成績を見せてもらいたい。  まずは君たちの運の強さを比較をしてみたいんだ。一般人代表として、私も参加するから」 要は、トランプで全員と対戦してみればいいだけか。セレスさんと顔を見合わせる。 「面白いですわね。いいですわ。わたくしと苗木君の差は、改めて比較するまでもないでしょうが……」 確かに。セレスさんとは色んなゲームで遊んだけど……いつもボクが一方的に搾り取られている……。 「では、どんなゲームで対戦しましょう。時間をかけずに回数をこなすなら、ポーカーはいかがです?」 セレスさんの提案に全員が賛同したが、次の言葉で学園長の表情が変わった。 「賭け金は少額ではつまりませんが、皆さん、持ち合わせはありますの?」 「ちょ、ちょっと待ってくれセレス君。お金を賭けるのか? 学園内でそれはまずい」 「まずいと言われましても……わたくしの才能はギャンブラーですわよ。賭けなくては実力を出せませんわ」 「いや……しかしだね、日本の法律で賭博は禁止されて……私も教師として見逃す訳には……」 ……ボクとセレスさんがいつもしている事は……一回ごとはジュース代程度で大した額じゃないけど、黙っておこう。 考え込んでしまった学園長に助け舟を出すように、狛枝先輩が口を開く。 「じゃあ、飲み物のオゴリを賭けるっていうのはどうかな。ほら、テレビのバラエティー番組でもよくあるじゃない。  食事を一回おごるとか一発芸をするとか、一時の享楽を賭けるのは賭博にあたらないはずですよね?」 「そうか……そうだね。よし、それでいこう。負けたら学園のカフェで好きな飲み物をおごるという事で。  ああ……それと、もちろん、君たちには私が別に実験協力の報酬を出すからね」 話はまとまった。早速、実験……という名のポーカー勝負を始めよう。 まずはボクと狛枝先輩で対戦。 セレスさんが鮮やかな手つきでカードをシャッフルしながら学園長に尋ねる。 「当然ながら、強い役で勝つほどオゴリの内容も豪華になる……という事でいいですわね?」 「それは……」 「ハイリスク・ハイリターンでなくて何がギャンブルでしょう。そう深刻に考えなくても大丈夫ですわ。  ワンペアならお飲物を一回、ツーペアなら二回。フラッシュならケーキセットを……という具合にすれば」 「うーん……まあその程度なら。だけど、本当に無理はしないでいいからね」 ボクと先輩も了承し、手元にカードが配られた。 「カードの交換は一回まで。三回勝負と参りましょう。それでは……オープン・ザ・ゲーム」 狛枝vs苗木 一回戦―― 「……役無し。ブタだね」 「……ボクもブタです」 「緒戦の結果がこれとは……お二人とも、幸運の名が泣きますわよ。呆れて物も言えませんわ」 二回戦―― 「ツーペア。どうかな」 「ワンペア。……先輩の勝ちですね」 三回戦―― 「ワンペア。今度は苗木クンの勝ちかな?」 「……ワンペア。引き分けです」 「トータルで狛枝さんが僅かに勝ちですが……何て退屈な結果でしょう」 「平均的な結果だね。記録しておくよ。……幸運同士だと相殺されてしまうのかな……?」 セレスvs狛枝 一回戦―― 「スリーカード。いかがでしょう?」 「ワンペア。さすがは超高校級のギャンブラーだね」 二回戦―― 「ストレート」 「うーん……役無し。ブタ……」 三回戦―― 「……来ましたわ。ロイヤルストレートフラッシュ……!」 「うわ……フルハウスが出来たのに……」 「えっと……ちなみにだけど、ロイヤルストレートフラッシュだと何をおごって貰えるの?」 「それは学食の一番高価なメニューでしょう。超高校級の料理人が作るスペシャルランチ。  価格は確か、5000円でしたか。狛枝さん……勝負の結果は絶対のもの……負けた分は、きっちり払って頂きますわよ」 事もなげに答えるセレスさん。前の分も足すとそれ以上の出費だ。 心なしか狛枝先輩の笑顔が引きつっている……。 「こ、狛枝君。大丈夫かい? 何なら私が……」 「いや……大丈夫ですよ、学園長。ボクみたいなゴミが超高級のギャンブラーにおごらせて貰えるなんて、むしろ幸運です。  ふふ……ふふふふふふ……」 こ、狛枝先輩……目が本気だ……。 さすがに重苦しい空気に耐えられなくなったのか、学園長は席を立ち、壁際に置かれたアンティークなラジオの電源を入れた。 『……続きまして、ホープ宝くじ。いよいよ、一等の発表です。……12組の――』 ラジオの声に合わせるように、狛枝先輩がポケットから何か取り出した。くしゃくしゃの宝くじの券だ。 「……当たってる。そうか、この前何となく買ったけど……今日が当選発表だったんだ」 「え……あ、当たってるって、宝くじの一等が!?」 ボクも券を見せて貰ったが、本当だ。……こんなタイミングで大当たりなんて……。 「……何でしょう。わたくしが勝ったはずですのに……釈然としませんわ」 「不運の後に幸運……これが狛枝君の才能か……実に興味深い……」 苗木vsセレス 一回戦―― 「ツーペア……どうかな?」 「……スリーカードですわ」 二回戦―― 「ブタだ……うう」 「ストレートフラッシュ。うふふ……また、わたくしの勝ちですわね」 三回戦―― その前に、ボクはふと心配になり、自分の財布の中身を確認した。 「あの……セレスさん。悪いんだけど、もう持ち合わせが……  今の勝負と、さっき狛枝先輩に負けた分ですっからかんだよ……」 「仕方ありませんわね……。それでは、次の勝負では衣服を賭け、負けたら身ぐるみを剥がさせて頂きましょう。  持ち合わせのない客に対する、古式ゆかしい賭場のルールですわ」 相変わらず上品に微笑んでいるが、もちろん本気に違いない。慌てた学園長が口を挟む。 「ちょ、ちょっと待ちなさい。それは色々と問題が」 セレスさんは面倒くさそうに小さく舌打ちして……再び、笑みを作った。 「まあまあ。これは罰ゲームみたいなもので、一旦お預かりするだけですわ。  苗木君の服なんて貰ってもわたくしには使い道がありませんし、古着屋に売ってもオヤツ代にもなりません。  今日、お帰りになる時には体操服でも着ればいいでしょう。ねえ、苗木君……?」 これは……学園長を納得させる為だけの方便じゃないかという気がしたが、笑顔の裏の圧力を感じてボクは無言で頷いた。 一応、学園長もそれで満足したのか、矛を収める。 では、改めて三回戦―― 「ワンペア……ダメか」 「…………あら。役無しです。負けてしまいましたわ」 これは……! トータルではボクの大負けだけど、100回に1回ぐらいはこういう事もある……。 「へえ、珍しいね。これが苗木君の幸運か。……この場合、セレスさんが苗木君に服を渡すのかな?」 「え……いや、それは」 そう言えばそういうルールだった。しかし、勝ったといってもワンペアだから、上着を一枚預かる事になるのだろうか。 セレスさんは小さく首を傾げて、口を開く。 「わたくしにとって、ゴスロリ服は愛しているといってもいい程に大切な物。ここで脱ぐ訳には参りません。  代わりに、後で一枚お渡ししましょう。…………前にも差し上げましたものね。あれを……」 恥じらうように僅かに顔を背けるセレスさん。 前に……と言われて記憶を辿り、ボクは一気に顔が熱くなるのを感じた。 「あ、あれって……もしかして、パン――」 思わず口に出しかけてしまった。とっさに口を噤み、そっと学園長の表情を窺う。 「……苗木君。後で説明してもらうよ」 「はい……」 最後に一般人代表の学園長と、ボク、狛枝先輩、セレスさんの順で対戦した。 「フルハウス。やった……」 「うん、スリーカード。ボクの勝ちですね」 「うふふ、またロイヤルストレートフラッシュですわ。やはり、こうでなくては」 学園長の全敗……セレスさんに至っては全てが大きな役だった。 ついに頭を抱えてしまった学園長をよそに、セレスさんと先輩が楽しげに話している。 「次に実験をする時は、麻雀がいいですわ。ちょうど4人いますし」 「ボクはロシアンルーレットでもいいよ。弾は5発で……ふふ……はははは……」 「いや……それはさすがに……」 こんな調子で、次があるのだろうか。 ともかく、これで今回の……どこか矛盾をはらんだ、幸運の実験は終了だ――。 -----

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