406-410

「・・・はあ」
苗木誠は一人食堂にいた
他の者達は学園祭の準備をしている
何故苗木だけが食堂にいるかというと・・・
「情けないよなあ」
金槌を間違えて自分の指に打ってしまったのだ。
幸い軽傷だったのも邪魔になると思い、一人食堂にいるのである。
「なぁえぎぃー」
と間延びした声が聞こえた。声の主は江ノ島盾子だった
「江ノ島さん!撮影終わったの?」
盾子は超高校級のギャル。今日も雑誌の撮影の為、途中加入だった
「うん、終わった。てか指どうしたの。腫れてんじゃん。」
「あ、まあ。」
「どうせ間違えて自分の指打ったんでしょ。分かりやすいもん、苗木って」
「はは・・・」
盾子は図星ぃーと笑いながら苗木の隣に座る。
「江ノ島さんは参加しないの?」
「んー、一人にするのもカワイソウでしょ?なんつって」
とからかうように笑う
彼女は不思議だ。何か引き寄せられるような気がする。
魅力的、とでもいうのだろうか

「あ、そんなにじっくり見るとか。もしや惚れた?それとも嬉しかったりぃ」
「っ!ち、違うよ」
「冗談だって。苗木超ウブなんだね」
カアッ、と自分でも分かるほど顔が赤くなる。
話題そらしの為に思いついた言葉をとっさに口にする。
「明日っ!」
「へ?」
「明日っ、文化祭だよね!」
意味もなく声を張る。
「うん。・・・あ、もしかしてお誘い?」
話題転換失敗。
「ち、がうよ!?」
「あはっ、残念。明日は一日仕事なのですー」
「え?」
「どうしてもさぁ、抜けられないんだ。んー、残念だよね」
と盾子はうつむく。
「あ、そんなにがっかりしないでよ。ほら、また来年もあるじゃないか」
盾子は顔を上げ、苗木をじっくり見つめ、小さく笑う。
「来年、か。そうだね、来年一緒に回ってあげるよ。もち二人きりでね」
「なあっ!?」
盾子はうっそーんと叫び、立ち上がる。
「んじゃ、手伝ってくるね。寂しくなったら呼んでもいいかんね」
「よ、呼ばないよ!」
「冗談だって!ま、本気にしてもいいよ」
そう言うと、盾子はスキップしながら出ていった。
そんな盾子の背中を見つめながら、苗木は小さく呟く。
「約束、だから」

ー食堂を後にした盾子。
校舎に向かう廊下に戦刃むくろが立っていた。
「ん、何してんの。盗み聞き?」
「・・・残酷ね」
むくろは蔑むような目で盾子を見つめる。
盾子はそれを受け、ニタリと笑う。
「笑うよね。来年なんてないし、明日は仕事もないのにさ
つか、学園祭なんか出るわけないじゃん。あんななれ合い、悪寒がする。
もうさ、笑い堪えるのに必死だって。俯いちゃったんだから。
それを?落ち込んでる?っは、爆笑モンだっつーの!」
むくろはそんな盾子をただ見つめるだけだった。
「ねえ、お姉ちゃん。最高よね
希望を撒き、それが成長するまで育て上げ、絶望で踏みつぶす。ああ!二年後が楽しみよ!」
「・・・」
気づいていない、妹は気づいていない、【矛盾】に気づいていない
私たちが絶望の人なら、希望の人もいるということに
だが、あえて言わない。
【矛盾】に気づく、それが妹にとっての姉としてのおしおき
いつか分かる、いや、分かってくれる。そう信じて。

   気づかなかった
全身が熱い。貫かれたのだ。
妹の裏切りという刃に。
走馬灯だろうか。あの学園祭当日の記憶が蘇る。
『戦刃さん、江ノ島さんはやっぱり来れない?』
来れない、と小さく答える。
苗木は残念そうな表情をしながらもこう言った。
『じゃあ、江ノ島さんの分まで楽しんでいってよ!』
と[ヤキソバ半額券 お一人様一枚限り]を二枚渡された
苗木は絶対来てね!と言い、走り去ろうとする。
待って、と思わず口にする
苗木は足を止めて振り向く
妹を頼む、と言ったような気がする
苗木は何故か真っ赤になり
『分かった!約束するよ!』
と大声で叫び、逃げるように走っていった。
  ああ、そうだ
むくろは最期の力を振り絞り、誰にも聞こえないようにこう言った。
     「苗木、約束だ」
むくろが最期に見たのは、悲しげな表情をした苗木誠だった


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