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希望ヶ峰学園を卒業してからおよそ半年、僕こと苗木誠は大学生になった。
今日も朝一から90分間の講義があり、僕は開始15分ほど前に教室に来て適当な席に座る。

苗木「ふああ…。」
舞園「おはようございます、苗木君。今日提出するレポート、出来ましたか?」
苗木「あ、おはよう舞園さん。えっと、レポートはその…。」
舞園「ふふ。その様子だと、まだ終わってないみたいですね。」

僕と同じ大学に進学した舞園さんが僕の隣の席に着き、いつもの可憐な笑顔を浮かべる。
舞園さんは最近歌手以外にも女優としての活動も増え、芸能人として多忙な日々を送っているため、こうして朝から大学にくるのは珍しい。

苗木「でも、あとは考察の部分だけだから、締切の5時までには十分間に合うよ。今日は午後の講義は無いし。」
舞園「そうですか。では頑張って下さいね。」
苗木「うん。」

こうして午前中の講義が終わり、僕は食堂で昼食を食べつつ、今日提出のレポートの仕上げにかかった。

霧切「あら苗木君。それ、ひょっとして今日提出するレポートかしら?」
苗木「霧切さん。うん。昨夜バイトが終わってから、すぐ寝ちゃって…。」
霧切「アルバイトも結構だけど、勉強が疎かになるようじゃダメね。」
苗木「ははは…。」

僕に声を掛けてきた霧切さんが、僕の反対側の椅子に座った。
霧切さんも僕と舞園さんと同じ大学に進学し、犯罪心理学を勉強している。
霧切さんの学力ならもっとレベルの高い大学に行けたはずなのに、何故か彼女は僕らと同じ大学を選んだ。
その理由を霧切さんに聞いても、彼女はハッキリとは答えてくれない。

苗木「あれ?でも霧切さん、今日は事件の捜査を手伝うから学校に来られないとか言ってなかったっけ?」
霧切「本来ならそうだったんだけど、所長がまたあっと言う間に事件を解決しちゃって。」
苗木「そうなんだ。相変わらず凄いね、その探偵さん。」
霧切「ええ。普段はお世辞にも有能とは言えないのに、突然気を失ったかと思ったら瞬く間に事件を解決しちゃうのよ。不思議な人だわ。」

霧切さんは大学に通いつつ、有名な私立探偵の事務所で助手として働いている。
ゆくゆくは独立して自分の探偵事務所を構えるつもりだそうだ。
え?霧切さんが働いてる事務所の所長に心当たりがある?それはきっと気のせいだよ!

舞園「あ、霧切さん。今日は休むんじゃありませんでしたっけ?」

ランチの乗ったトレーを持った舞園さんが現れ、霧切さんの隣の席に着く。

霧切「事件が早期解決したのよ。今朝の朝刊にもあったでしょ?」
舞園「ああ、そういえば今朝の新聞に載ってましたね。あの事件を解決したの、霧切さんの通ってる事務所だったんですか。」
霧切「ええ。」
苗木「新聞といえば、桑田君の記事も大きく載ってたね。凄いよねぇ、桑田君。プロでも活躍するなんてさ。」

元クラスメイトの桑田君は今、プロ野球でピッチャーとして活躍している。
最初こそプロの洗礼を浴びた彼だが6月頃には盛り返し、今では新人王の最有力候補だ。
流石の桑田君もセンスだけではプロの強打者達には通用しないと痛感したのか、真面目に練習する気になったようだ。

苗木「そういえば、皆バラバラになっちゃったよね。皆今頃どうしてるのかな?」

懐かしい名前が出たところで、僕はそれぞれの道を進んでいった級友達を思い浮かべる。

風紀委員だった石丸君は一流大学に進んで教師になる勉強をしている。
次世代を担う子供達を清く正しく導くのだと卒業式で胸を張って豪語していたっけ。

その石丸君と兄弟の契りを交わした大和田君は暴走族から足を洗って工務店に就職した。
昔気質の厳しい親方の下、夢である立派な大工目指して頑張っている。
ただ、あの立派だったリーゼントを親方に咎められ、今は坊主頭だそうだ。

不二咲君は工科大学に進んで本格的に人工知能の研究をしている。
最近は自作の人工知能を、これまた自作のロボットに搭載して動かすのが楽しいらしい。
これからの時代を引っ張っていくのは不二咲君のような科学者なんだろうな。

山田君は漫画家の道に進み、週刊少年誌で連載を持っている。
実は僕も彼の漫画の読者だったりするのだが、少々読者を選ぶ内容の漫画だと感じている。
まあ、山田君らしいと言えばらしいかな?

葉隠君は占い師として細々と暮らしている。
ただ、元々直感での的中率3割前後の占いのため、評価は芳しくないそうだ。
おまけにインチキ臭い商売も続けているらしく、訴訟の数が一向に減らないとか。
まあ、それは葉隠君の自業自得だけどね。

十神君は海外の超一流大学に進み、学生生活の傍らで幾つもの会社を経営している。
彼とはちょくちょくメールのやり取りをしているのだが、主な内容は彼の自慢話だったりする。
最近では400億円以上あった個人資産の桁が一つ増えたらしい。相変わらず凄いなぁ。

朝日奈さんは水泳の特待生で体育大学へと進んだ。
進学して間もないにも関わらず数々の大学記録を塗り替え、今度のオリンピックの代表選手の座もほぼ内定しているそうだ。
最近はそのこともあってテレビなどでよく取材を受けているところを目にする。

大神さんは実家の武術道場に戻って日夜鍛錬に励みながらケンイチロウさんの復活を待っている。
ケンイチロウさんと再戦するまで最強の座を死守すると誓った彼女は、後を絶たない挑戦者を悉く返り討ちにしているらしい。
勿論、朝日奈さんとは今でも親友の間柄だ。

セレスさんは相変わらず世界中のギャンブルの大会で賞金を荒稼ぎしている。
まだ僕を自分のナイトにすることを諦めていないようで、連絡を寄越す度にその話題を出してくる。
一体何故そこまで僕にこだわるのかサッパリ分からない。

腐川さんは僕らとは違う大学の文学部に通いながら執筆活動を続けている。
大学に入って人付き合いのスキルが上がったのか、素人目ではあるが最近は登場人物が生き生きしてきたように感じる。
それから、彼女のもう一つの人格であるジェノサイダー翔は「十神君との仲を取り持つ代わりに殺人をしない」という僕との約束を守ってくれているようで、
今のところ彼女による殺人事件は起きていない。
…そういえば十神君にはまだその事を話していなかったな。どうしよう?

江ノ島さんはモデルを続けているのだが、絶望的に飽きっぽい性格のせいでコロコロとファッションや髪形が変わっている。
お蔭で彼女を真似る女子高生の流行も頻繁に変わるので目まぐるしいことこの上ない。
しかし、それでもファンが離れないのは彼女のセンスが女子高生達を絶望的に惹きつけてやまないからなのだろう。

戦刃さんは自衛隊に入って各地で様々な活動に従事している。
元傭兵という経歴とスキルを生かせる仕事を探していた彼女だが、どうやら見つかったようだ。
この間メールを貰った時はアフリカへ地雷を除去しに行くと言ってたな。無事だといいけど…。

苗木「思い出したら、久し振りに皆に会いたくなってきたなぁ。」

それぞれの道へと進んでいった仲間達のことを考えつつ、僕はレポート用紙にペンを走らせる。

霧切「そういえば苗木君。あなた、将来の事とかちゃんと考えてるの?」
苗木「え?う~ん…まあ、漠然とは…。」
霧切「呆れた。大学に入ったのなら、ある程度は将来のことを考えておくものよ。」
舞園「まあ、いいじゃないですか。大学に入ったばかりなんだし、まだまだ時間はありますよ。」
霧切「そんなことを言ってたら、あっという間に4年経っちゃうわよ?」
苗木「そ、そうだね…。と、とりあえず今はこのレポートを完成させるのが先だよ。」
霧切「でも、もし職が見つからなかったら…私の事務所で雇ってあげてもいいわよ?」
苗木「え?」
舞園「あ!それなら私も苗木君に専属マネージャーになってもらおうかな?」
苗木「え?え?」
霧切「………。」
舞園「………。」
苗木「ふ、2人ともどうしたの?黙って見つめ合って。」
霧切「別に。」
舞園「何でもありません。」

僕の目の前に並んで座っている2人は同時に笑顔を向けてきたが、僕は何故か背筋が凍るような感覚を覚えた。僕が一体何をしたっていうんだ?
それからしばらくして僕がレポートを完成させると同時に、霧切さんの携帯電話が鳴った。

舞園「事件ですか?」
霧切「ええ。駅前の喫茶店で殺人未遂事件が起きたそうよ。うちの所長、どうやらその現場に居合わせたらしいの。」
苗木「所長さん、よく事件に巻き込まれるね。」
霧切「まあ、事件によく遭遇するのは探偵に求められる要素の一つとも言えるけど、うちの所長は少し異常かもね。」

ふうと溜息を吐いた後、霧切さんは携帯電話をしまって席から立った。

霧切「私はこれから現場に向かうわ。苗木君、あなたも来なさい。」
苗木「え?何で僕も?」
霧切「何でって、あなたは私の助手でしょう?私の事務所に来る時のために、少しでも現場慣れしてもらわなきゃ困るもの。さ、行くわよ。」

そう言って霧切さんは僕の手を引っ張り、引っ張られた僕は思わずよろけてしまう。

苗木「ち、ちょっと待ってよ霧切さん!僕レポート出してこないと…。」
舞園「あぁ!待って下さいよ2人とも!私も行きますよ!私は苗木君の助手なんですから~!」

霧切さんに引きずられる僕と、それを追う舞園さん。
周囲の目がこの上なく痛々しいし、男子からは射殺すような目で見られている。
ああ、この先の僕の将来は一体どうなってしまうのだろう?






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