919-920

今日はクリスマス。

とはいっても私、霧切響子にとってはクリスマス・イブもクリスマスも別に例年と大して変わりは無い。
何時も通りに過ごすだけの一日だ。
…まあ、今年のクリスマス・イブは学園のみんなと過ごしたので、例年に比べれば楽しかったのは認める。

………苗木君がいなかった事を除けば、だが。

しかしそれは彼も別にわたし達の事を嫌ってとかではなく、ただ単純に家族に「クリスマスぐらい帰って来い」と
言われたからだ。
それならば仕方ないと諦められるし、現に彼は最後までどうするか悩んでくれていた。
しかし根っ子から優しい彼だから・・・家族を蔑ろになど出来るはずもなかっただけの話だ。

そして今日はそれから夜が明けて25日。世間一般の男女の感覚でいえば今日こそが本番といえるのだろう。
実際学園の皆も其々思い思いのクリスマスを過ごす様だ。

例えば葉隠君と桑田君は二人で街に繰り出してナンパして女の子ゲットだぜ!と息巻いていた。
……普通に考えて今街はカップルの巣窟だと思うのだけれども、彼らは気付いているのだろうか?

舞園さんは自分達のアイドルグループメインのクリスマスコンサートがあると朝早くから出掛けていった。
彼女は自他共に認める超高校級のアイドルだ。こんな日に休ませてくれるほど事務所も甘くはない。
実際昨日パーティーに参加に出来たこと自体が奇跡に近いのだ。
……まあ、それ故、苗木君が参加していないと聞いた時の彼女の顔には、さすがに同情を禁じえなかったが……;

大和田君と不二咲さんは二人でツーリング(といっても不二咲さんは大和田君の後ろに乗るだけだが)をすると言っていた。
二人はよく普段もそうやって遠出をすることが多い。だがその理由は不二咲さん曰く、

「大和田君・・・女の子に振られるとバイクをかっ飛ばしたくなるんだって・・;けど一人だと事故りそうだから一緒に乗ってくれって・・w
あ、けどぼくも大和田君のバイク乗るの好きだから全然いいんだけどね?」

ということらしい。ここまで話だけをきけば只の友情話ですむのだが・・・・如何せん相手は不二咲さんだ。
……本人等にその気はないのだろうが、そういう風な行動を取っているからそっちの気があるのではと学園の女性達の中で
噂されるのではないだろうか?
実際二人がそんなことをしている場面をみれば傍からには恋人同士にしか見えない・・・大和田君が振られる原因の一つは
不二咲さんとの関係(誤解)の所為もある気がしてならない。

石丸君と十神君は苗木君と一緒で実家に帰っていた。まあ二人とも苗木君とは違ってクリスマスを家族と楽しむ様には見えないが・・・・。
ちなみに腐川さんは十神君を追いかける為、朝早くから出掛けていった。たまに彼女の行動力には感心すら覚える。
……決して真似したいとは思わないけど。

朝比奈さんと大神さんはクリスマスだというのに二人して強化合宿とやらに出掛けていた。こんな日ですら自らを鍛える事を止めない彼女らこそ
真ののスポーツマン(一人はスポーツの範疇を超えているけど)といえるのだろう。そこまで打ち込めるモノが無い私には羨ましさすら感じる。

江ノ島さんと戦場さんは昨日の深夜からどこかに出掛けていた。理由も聞いたが本人ら(主に発言したのは江ノ島さんだが)曰く、

「今日は私らにとって最高に「壊したい」日だから・・・まあ邪魔者は消えとこうってね・・・・♪」

とよく解からないことを言っていた。
……何かクリスマスに嫌な思い出でもあったのだろうか?
しかし確かに今思えば、昨日パーティーで見た彼女らは楽しんでいるようにも見えたが・・・・・・どこか不思議そうにしているようにも見えていた。
まるで、今感じている感情に何か・・・疑問というか納得できない・・・・そんな顔だったような・・・まあ推測でしかないのだけども。

一番意外なのはセレスさんと山田君のペアだろうか。何故なら二人は「二人っきり」で街に繰り出しているのだから。
まあ本人達は、

「只の荷物運びですわ(ニコ)」
「只の荷物運び役ですな・・・助けて皆さん!たえこ殿が我輩をいじめるのです!?」
「てめえぇぇぇ!その名で私を呼ぶなって言ってんだろうがあ、この腐れラードがあああああああああ!!??////」
「ひぃぃぃぃぃぃ、たえこ殿がご乱心!?ご乱心ですぞぉぉぉ!!????」

といいながら(叫びながら?)、寮を出て行ったが・・・なんだかんだであの二人はいいコンビな気がする。

まあそんな訳で、他の人と違い特に予定の無かった私は、普段の騒がしさが嘘のように静まり返った学園寮で久しぶりの独りを味わっていたのだ。
別に寂しいなどと子供のようなことは言わないし思いもしない。
元々私は独りでいることが嫌いではない。どちらかといえば独りの方が気楽だという人間だ。
しかし、それでも・・・この静かな寮にいる自分を違和感に感じるぐらいには、今の私は学園という「輪」の中にいたのだなと自覚する。
そんな風に思うようになったのは何時からだっただろうか・・・・・少なくともここにくる以前には感じなかったし、入学した当初も「騒がしい場所」ぐらい
にしか思わなかった。
……当時の私は「他人」という存在が信じられなかった。
いや、信じられなかった訳ではない。
ただ「信じる」のが怖かった。信じた時に裏切られるのが怖かったのだ。
今でも「この手」の原因となった事件は忘れられない。その為、当時の私は話しかけてきたクラスメイトにも素っ気無い態度しか取らなかった。
―最初から「情」を持たなければあんな後悔をしないで済む。そう思っていたからだ。

しかし・・・他のクラスメイトがそんな私から離れる中・・・・ただ一人懲りずに話し掛け続ける人物がいた。


「ねえ霧切さん。今日寮まで一緒に帰らない?」


……『苗木 誠』。私に初めての「感情」を教えてくれた人。.



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