アフターゲーム

【ダンガンロンパ・アフターゲーム】

 気が付くと僕は教室の机に突っ伏していた。少し頭がフラフラする。
いっそ今までのことが全て夢だったら、そう願っていた。
けれどここは現実らしく机にはモノクマが描いたらしき手書きの入学案内も置いてある。
そういえばこれは江ノ島さんの手書きなのだろうか、それとも…
そんな素朴な疑問を頭の隅にやりながら教室の中を見回した。
鉄板の貼り付けられた窓、監視カメラ、黒板の落書き、そして時計の時刻。
あの時と何も変わっていない。
僕は玄関ホールへ向かうために席を立つ。
モノクマの話が真実ならば、そこにはみんなが待っているはずだった。

 超高校生級の絶望こと江ノ島盾子が消えてから数日後。
意を決した僕らは外の世界へと向かったんだ。
しかし鋼鉄の扉の先に踏み出したはずの僕は応接室のソファーに座らされていた。
「やあやあ。今回は新たに6人も卒業できたんだね。良いねぇ。うん、凄く良いペースだね」
 何が起きたか理解できない頭にもう聞くことはないと思っていた濁声が響いた。
クルリと回転した椅子に座っていたのは紛れもなくモノクマだった。
背筋をゾワリとしたものが伝わって僕は反射的に立ち上がる。
誰が動かしているのか、そんなことより他の人は?
「まあまあ落ち着いて。いくら僕が魅力なクマだからっていきなり襲い掛かっちゃ駄目だよ。
 物には順序ってものがあるんだからね。説明を聞いてからでも遅くないよ」
 ふてぶてしい態度のモノクマが口にしたのは次のゲームについての説明だった。
次のゲームだなんてふざけている。
何をさせる気だ、いや何が来ようと僕らは絶望なんかしない。
そう意気込んだ僕にモノクマは絶望ではなく、希望を提示してきた。
それはこれからの絶望をより彩るための希望だった。

 玄関ホールにはモノクマの言った通りみんながいた。
舞園さん、桑田くん、大和田くん、不二咲くん、石丸くん、山田くん、セレスティアなんとかさん、
大神さん、そして江ノ島さんと戦刃むくろ、みんなみんな生き還っていた。
いや正確にはまだ死んでいない彼らが揃っていた。
この際原理とか理屈はどうでもいい。
僕はあの日と『ほぼ』同じ状況まで戻ってきたんだ。
だけどこの再開を手放しで喜ぶわけにはいかない。
涙が溢れそうになるのを懸命に堪え、僕らは初対面のふりをしなければならないんだ。
それがモノクマと約束した『新たなルール』だから。

 立ち上がる僕を制してモノクマが話を続けていた。
「君さ『記憶を持ったまま人生をやり直したい』って思ったことない? やり直させてあげようか?
 ただしいくつかのルールは守ってもらうよ。でないと面白くないからね」
 ニヤニヤと笑いながらモノクマが提示してきたのは奇妙なルールだった。
『記憶を残した卒業者は、それを落第者(前回死亡者)に悟られてはならない。
 守られなかった場合は破った方だけでなく相手もおしおき対象になるので注意。』
 意味の分からないルールだけど本当にやり直せるのなら嘘でもすがりたいのが本音だった。
でも直ぐに思い知った。
こいつは希望をチラつかせながら。僕たちを更に絶望させたいだけなんだと。

 玄関ホールで出会った江ノ島さんは普通の性格、といえばいいのか。
外見のボリューム以外は戦刃むくろが化けていた偽の江ノ島さんに雰囲気が良く似ていた。
戦刃むくろの方もぎこちないけれど初対面の霧切さんより愛想があるように思えた。
本当に彼女らは超高校生級の絶望じゃないのだろうか。
僕はもう一度玄関ホールを見回すとモノクマの言葉の意味を理解した。

 ゲームのルールを語るモノクマは本当に楽しそうだった。
「ゲームには何回挑戦しても構わないよ『全員卒業したら君たちの勝ち』さ。最低一人一回以上ね。
だけど『全員がクロを経験したら君たちの負け』。でーでででー、ゲームオーバー」
 言っている意味がよくわからなかった。全員が卒業? 全員がクロ? 
そもそも勝ちとか負けってなんなんだ。

「頭悪いなぁ。今回は君たち6人が卒業しました。だから残りの8人が卒業すれば君たちの勝ち。
でも今回はクロ、人殺しをした人も5人増えたから君たちのライフも残り8人分だよ。
同じ人が何度も卒業したりクロになってもカウントは増えないからね。そこんトコ重要だよ。
いやあ難攻不落の大神さくらが自殺とはいえクロになったのは大打撃だねぇ。うぷぷぷ」
 何となく分かってきたけど人数が合わないってことは……
「そうだよ。次で三回目かな。前回、つまり記念すべき第一回は早々に決着したね。
協力してクロになって卒業したのが二人、それに全員をおしおきした黒幕役を足した三人がクロさ」
 三人だけってことはというか最初の学級裁判でクロを間違えたってことか。
でもちょっと待って、黒幕役って江ノ島さんが超高校生級の絶望だったんじゃないのか。
「超高校生級の絶望役つまり黒幕役は抽選で選んだんだよ。二回目からは卒業者から選ぶんだけどね。
前にも説明したろ? スムーズに進行するよう黒幕役には絶望的な記憶もサービスしますって」
 じゃあ僕たちが対決した江ノ島さんは……
「あぁ、キミの記憶も消しちゃってたんだっけ。サービスのつもりだったんだよ。ごめんね」
 そう言ったモノクマの赤い目がニヤリと笑ったような気がした。

 自己紹介後、さほど時間を置かずにモノクマによる体育館への集合放送が入った。
「苗木。少し残れ」
 みんなが体育館に向かう中、十神くんが耳元で囁く。
腐川さんが名残惜しそうにしていたけど十神くんに追い払われた。
何でも『命令するまで聞かれたこと以外口を開くな』と言い聞かせてあるらしい。
ちょっと酷いけどペナルティを考えると取りあえず黙っているのが一番いい。
「モノクマが俺たちの記憶を残した意味は分かるな? このゲームは前回以上に性質が悪いぞ」
 十神くんの言おうとしていることを僕は薄々感じ取っていた。
モノクマが提示したこのゲームの本当のルール。
一見すると優しく聞こえたかもしれない。
だけどよく考えてみれば僕たちに対して『仲間が大切なら死ね』と言っているようなものだった。

 卒業するには最後まで生き残って黒幕を追い詰めるか、クロになって卒業するかの二択。
でも後者の方法では先に全員がクロになってしまう。
だから卒業する人数を増やすのなら黒幕に勝利して脱出しなければならない。
しかも卒業者の中の誰かは次の黒幕になって誰かを殺してクロになってしまう。
『何回でも挑戦できる』といいながら実質は回数制限を付けられているようなものだ。
殺された人は記憶も消えてしまうようだしね。
「苗木、黒幕を追い詰めるには裁判を進める必要がある。言っておくが俺は死ぬ気はない」
 捜査範囲を広めるためには『誰か』が殺されて学級裁判を繰り返さないといけない。
その『殺される誰か』に最適なのは『既に卒業した人』なんだ。
そう。効率よく卒業者を増やすならば『僕らが』死ななければならない。
しかしそれで本当にいいんだろうか。
「俺の目的は最初から本当の黒幕を倒すことだからな」

 モノクマが言った最後の言葉が耳に蘇る。
「とにかく君たちが勝ったら『願い事を一つ』叶えてあげるよ。内容は先着で決まってるけどね。
最初に卒業した江ノ島さんの『史上最悪の絶望的事件を起こらないようにして』って願いをさ」
 都合の良い言葉だ。
ゲームとやらに勝ったとしても本当の黒幕には辿りつかないじゃないか。
それでも僕らはやるしかないんだ。

 僕と十神くんは体育館への扉を力強く開いた。
それは最後まで希望を捨てる気はないという僕らの意思表示でもある。
この絶望的な状況の中、僕らは新たな黒幕の元へ辿り着けるんだろうか?
いや何としても辿り着いて何度でも絶望を論破してみせる。
僕を超高校級の希望と呼んでくれたキミのためにも。
                                       <了>


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