昼食のパン

ある日の昼休み、母が寝坊したため弁当を持参してこなかった苗木誠は、昼食のパンを買うため購買部へと向かった。
苗木が購買部に辿り着いた頃には、既に多くの生徒が詰めかけていた。

苗木「うわぁ…。今日はまた一段と混んでるなぁ。」

パンを求める人だかりを見た苗木が「自分の番が来る頃には売り切れてしまうのではないか」という懸念を抱いていると、
その人混みから少し離れた所に普段購買部には来ないクラスメイトの姿を見つけた。
『超高校級のギャル』江ノ島盾子の双子の姉にして『超高校級の軍人』戦刃むくろだ。

苗木「戦刃さん。戦刃さんが購買に来るなんて珍しいね。」
戦刃「苗木か。ああ、私としたことがレーションの補充を忘れてしまっていてな。
それで食料調達のため購買部に来たのだが、ご覧の有様だ。」

長い間海外で傭兵生活を送っていた戦刃むくろは、普段は野戦食であるレーションを好んで食べている。
恐らく傭兵時代の習慣が抜けていないのであろう。

苗木「あ~…。この時間は大体混んでるけど、今日はいつも以上に人が多いよ。」
戦刃「そうなのか。しかし、これでは我々の順番が回ってくる前にパンが売り切れるか、昼休みが終わってしまう可能性が高い。」
苗木「そ、そうだね。」
戦刃「そこで、この目障りな人混みを瞬時に散開させ、確実にパンを入手する方法をこれから実行に移そうとしていたところだ。」
苗木「確実にパンを入手する方法って…一体どうするの?」

苗木は嫌な予感がしながらも、一応むくろにその方法を尋ねる。
すると、狼の刺青が刻まれたむくろの右手の辺りから「ジャキッ」と音がしたかと思うと、彼女の手には黒い金属の塊が握られていた。
その黒い金属の塊を見た苗木は、一瞬で血の気が引いて真っ青な顔になった。

苗木「いいい、戦刃さん!?それってひょっとして拳銃!?」
戦刃「ああ。袖の中に隠せる小型拳銃だ。安心しろ。上方に向けて威嚇射撃をするだけだ。それにこれは空砲だ。」
苗木「そういう問題じゃないから!そんな物騒な物、早くしまってよ!」
戦刃「ちっ。平和ボケした連中を一斉にどけるにはこれが一番なのに…。仕方ない。では、次はコレだ。」

苗木に止められ、むくろは渋々と拳銃を袖の中に戻すと、今度はポケットの中から掌サイズのスプレー缶のような形をした物体を取り出した。

戦刃「苗木。目と耳を塞いでいろ。」
苗木「そ、それってまさか手榴弾じゃ…。そんな物使ったら購買ごと僕達も吹っ飛んじゃうよ!」
戦刃「大丈夫だ。これは強烈な音と光で敵の視覚と聴覚を一時的に麻痺させ、敵を無力化させる物だ。コイツを人混みの中に放り込んで…。」
苗木「だからダメだって!」
戦刃「コレもダメか…。では、時間は掛かるがナイフを一人一人の背中に押し付けて前を開けてもらうしかないな。」

手榴弾をポケットに戻したむくろは、今度は左手の袖の中から折り畳みナイフを取り出してその刃を起こそうとした。

苗木「どうしてすぐそういう方向に話がいっちゃうのさ!?もっと穏便にいこうよ…。」
戦刃「苗木。ここは戦場と同じだ。手段を選んでいては目的を達成することは出来ない。目的の為なら手段を選ぶな。私はフェンリルでそう叩き込まれた。」
苗木「はあ…。あ、そうだ。僕が戦刃さんの分も買ってくるよ。それなら武器を使わなくて済むよね?」
戦刃「…分かった。では、これで買えるだけ買ってきてくれ。」

苗木の提案を受け入れたむくろはナイフを引っ込めた後、財布から500円玉を取り出して苗木に渡し、受け取った苗木は人混みの中へ入っていった。
数分後、両手にパンを抱えた苗木が人混みをかき分けて出てきた。

苗木「お待たせ。はい、戦刃さんの分。」
戦刃「…すまない。」
苗木「じゃあ教室に戻ろう。早くしないと昼休みが終わっちゃうよ。」
戦刃「そうだな。あ、苗木。ちょっと待て。」
苗木「何、戦刃さん?」
戦刃「これ…やる。さっきの礼だ。」

教室に向かおうとした苗木を呼び止めたむくろは、自分のメロンパンを苗木に差し出す。
差し出された苗木は、不思議そうな表情でそのメロンパンを見つめていた。

戦刃「さっさと受け取れ!借りを作るのは好きじゃないんだ。」
苗木「別に借りになんて思わなくていいのに…。でも、ありがとう。ありがたくもらっておくよ。」

屈託のない笑顔で、苗木はむくろからメロンパンを受け取る。
苗木のその笑顔を見たむくろは、気まずそうに視線を右へ左へとせわしなく移す。

苗木「戦刃さん、どうかしたの?」
戦刃「な、何でもない!さっさと教室に戻るぞ!」
苗木「あ!待ってよ、戦刃さん!」

教室に向かって足早に歩き出したむくろの後を、苗木は小走りで追って行った。


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