「はいアウトー。次いってみようか」
「うー………、映画館、とか」
「ダウト。あのさー、初めてのデートだって言ったじゃん? 二時間も相手の顔見ないでなにが発展すんのさ」
「別に発展させるつもりは」
「言い訳しない。今日はコレ終わるまで解放しないよ。さっさと無い知恵絞る」
「なんでこんなことに……」
イチョウの色も目に鮮やかなある秋の日。1シーズン限りの黄絨毯をスニーカーで踏みしめながら登校したボクは、学校へ着くと真っ先にある人物の許へと向かった。
彼女は珍しく一人だった。つまらなそうに頬杖をつき、窓の外を眺めるその姿はやけに話しかけ辛くて。それでも女の子の集団の中へ突撃をかますよりは随分ラクだろうと、久しぶりに自分の幸運に感謝したのが全ての始まりだった。
幸運はそこで終わった。
「最初の紅葉狩りとかに比べたら大分マシになったけどさー。アンタ平凡代表じゃないの? どの世代の平凡よソレ」
「今年の強羅は一段と紅葉が綺麗だってきいて……」
「強羅って箱根じゃん? もうお泊りじゃんそれ? 大胆なのか趣味が枯れてんのかハッキリしてほしいわ。てか、アンタら結局そういう仲なの?」
「そそそそれは違うよ!?」
「こんな説得力ゼロのやつも初めて見るわ。まあいいやキリキリ考えな。霧切に喜んでほしいんでしょ?」
「………うん。えっと、ありがとう、江ノ島さん」
ホントは女に聞くなんてルール違反なんだからね、と江ノ島さん。キツめの口調に反して真っ白な歯が少し零れて、ボクはようやっと苦笑を返した。
――そのう。女の子って、どういう所に遊びに行くのが好きなの?
ボクの曖昧な物言いに江ノ島さんが怪訝な顔をしたのはほんの数秒で、得心がいったように不敵に微笑んだ彼女はボクの腕を掴み。
「場所変えるよ。ついといで」と腕を掴まれ、やってきたのは食堂のテラスだった。
言うまでもないことであるが、今は授業中である。そろそろ昼休みも近い。
「豪快に授業さぼっちゃったなあ。なんかごめんね、江ノ島さん」
「は? 全然いいって。そんなことよりもー、アタシ的にはアンタに早くデートプラン作って欲しいっていうか」
そう言ってぱたぱたと手を振る江ノ島さん。その寛容さに安堵するも、本題のデートプラン(ボクにそんなつもりは)に一切の妥協はない。
かなり厳しいものの、実際に彼女のアドバイスはかなり的確で頼もしくて、ボクにもどうにかこうにか計画の完成が見えてきた。
「霧切さん喜んでくれるかなあ………」
「まず大丈夫だね。さっきから邪魔が一切入んないもん、本人もまんざらじゃないんでしょ」
「なんのことを言ってるの?」
奇妙な言葉に顔をあげると、江ノ島さんはボクの方を見ていなかった。ボクの斜め後ろあたりに視線を飛ばし、口元にはさっきのような笑みが浮かんでいる。
その視線を追いかけると、
「……霧切さん?」
「………――っ、」
バッチリ目が合った。物陰に隠れるようにしていた霧切さんは不意に立ち上がり、こちらに背を向けて駆け出した。
「相変わらずアンタはラッキーだね。何してんの、早く誘ってきなよ。そんなんじゃ、いつまで経ってもデート出来ないっしょ」
「え、でも計画できてな」
「後は霧切の誘い方考えるだけ。いいから、行ってきな!」
「わ、わかった!」
弾かれたようにボクは立ちあがる。しっかりしなよ苗木、と声援を背中に受ける。
あとでちゃんとお礼を言おうと、それだけを心に刻んでボクは飛び出した。
最終更新:2011年07月15日 16:59