kk3_638

「ごめんなさい……」
 いたたまれない気持ちになった私は顔を俯かせるしかなかった
「いや、霧切さんは悪くないよ…事前にちゃんと調べなかったボクがいけなかったんだ」
 明るい笑顔を作って気にしなくていい、と繰り返す苗木君
 こうなったのも、彼が大事な話があると言って夕食に誘われたのだけど、……私の手袋のせいで入店を断られてしまった
 本当に……忌々しい火傷。今でさえ、こんなにも私の障害となる
「…あのさ、此処でジッとしてるのもなんだし、ボクの家に行かない? 夕食ならボクが作るから」
「……そう、ね」
 私の手を握った彼に促され、返事をする間もなく歩き出していた
 私よりも少し小さな苗木君の掌は心なしか、逞しかった





「はい、ありきたりだけど…」
 そんな言葉とは裏腹に、私の前に出されたのは湯気を立てるご飯とお味噌汁、そして黒い鉄板の上でジューと音を立てるハンバーグ。
 何処がありきたりなのか訊きたい。充分な程に手が込んでいるのにありきたりの一言で片付けるのは勿体無い気がしてならない
「相変わらず、料理上手ね……」
 感嘆と呆れを含めつつ、苗木君に目をやる
「霧切さんに美味しいって言って貰いたいからね」
「………そう」
 苗木君は何時もそう、私の皮肉も動じず、優しく笑ってくれる
「さ、食べよう」
「ええ、それじゃ」

『いただきます』




『ごちそうさま』
 言わずもがな、予想通り…苗木君の手料理は美味しかった
 家事があまり出来ない私からすれば羨ましい…のと少し妬ましい気持ち
 苗木君の手料理を食べると必ず劣等感を抱く。馬鹿馬鹿しいと思っていても感じてしまう

「…霧切さん?」
「……あ、ごめんなさい。聞いてなかったわ。……で、何かしら?」
「う、うん…あのさ。大事な話があるって言ったよね。その事なんだけど」
 ゴホンと咳をし、少し強張った面持ちと決意の籠もった薄茶色の瞳が私を映した
「ボ、ボクと……一緒に暮らさない?」
「…え? そ、それって……」

 ――プロポーズ、だった
「こんな形でなったのは悪いと思ってる。でも、霧切さんが好きなんだ。だから!」
「…でも、私、家事なんで出来ないし…」
「家事ならボクがするよ! 霧切さんのご飯はずっとボクが作る!」
「…本当に私で……いいの?」
「勿論! 宜しくね霧切…いや響子さん!」

 私の方こそ宜しくね、誠くん


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