七夕記念ss

7月7日。七夕。夜。

「はぁ・・・」
腐川冬子は1人、屋上にいた。
ちらり、と横を見る。横には超高校級の植物学者だかが作った巨大な竹が風に揺られていた。
そこには、高校生にもなってはしゃぎながら書いていた短冊が吊るされている。
『背が伸びますように』
『ミュージシャンになりてえ!』
『もっと強くなりたいです。よろしくお願いします。』
という純粋な願いや
『金をくれたら、いつでも会えるようにしてやるべ』
『ドーナツいっぱい!おいしいよ!!』
『ぶー子たんハァハァ(絵付き)』
という願いなのかよくわからない落書きが、風になびいていた。

「はぁ・・・」
何回目のため息なのだろう。空を見上げながら腐川は思う。
――悲劇の恋人だなんて、愛を伝えられるだけでいいじゃない
ひねくれているな、と自分が嫌になる。けれどそう思いたい。
会えないだけで悲劇なのなら、思いを伝えられないのは何なのかと。
勇気がなくて思いを伝えられないのではない。伝えれるものなら今すぐにでも伝えたい。
違う、あたしは思いを伝える事を許されない存在なのだ。
無意識に左太ももをかきむしる。痛みなんてそんなの関係ない。
―――悔しい。悔しくてたまらない。どうしてあたしが、何であたしが。
憎い。【あいつ】が。なんで【あいつ】はあたしなの?【あいつ】のせいであたしは何もできない。
家族と触れ合うことも、友達を作ることも、好きな人に思いを伝えることもできない。
何故か?それは怖いからだ。
心を許した相手が【あいつ】によって殺されてしまう可能性があるから。
それが嫌だから。誰かが死ぬのは嫌だから。
だからあたしは―――
「おい」
「っひっ!」
背後から声をかけられた。何かと思えばそこには
「と、十神君っ・・・!?」
十神白夜が立っていた。
「ななななな何!?」
まさかの状況に頭が混乱し、思わず強く言ってしまった。
後悔しかけた時、十神が横に来る。距離を保とうとするが足がもつれ、うまく動かない。
無理やり動いてこけた場合、【あれ】を見られると困る。
「っぐぅ・・・」
結局、十神と並んでいることになった。
「ふん、俺といるのが嫌か」
「そ!んなわけない・・・です」
「ふん、当たり前だな。この俺がわざわざ隣にいてやってるんだ。感謝しろ」
と、どや顔そのものでこちらを見る。
「う?あぇ・・・はい」
と一応頭を下げるほかない。
そして沈黙。沈黙。沈黙だけしかない。
「あ・・・のぉ・・・」
息苦しさから逃げ出そうと口を開いたのもいいが、何も話題が見つからなかった。
「あの・・・えっと・・・」
再び後悔しかけた時、腐川の視界に風に揺れる竹が写る。
「七夕・・・あっ、お願いは?」
十神はちらりと竹を見、口を上げながら答えた。
「世界征服だ」
「うぇ?」
冗談なのか本気なのか迷おうとしたが、十神の目はどう見ても本気だった。
「くく・・・短冊に願いなど子供の遊びだがな。仕方なしに付き合ってやったんだ。
俺の願いはただ一つ。十神の繁栄だけだ。
無駄に生き残ってるやつらがいるからな。そいつらが消えれば十神は繁栄する、
すなわち世界は十神一色、世界を征服することになる。」
「はぁ・・・」
「ふん、俺が答えてやったんだ。お前は何を願った?」
「あ・・・たしは」
見せれない。
子供みたいで、馬鹿みたいで、意味が分からない願いを書いてしまったのだ。
まさかこういう展開になるとは思わなかったため、つい書いてしまった。
やばい、かなりやばい。
答えようとしない腐川に痺れを切らしたのか、十神は飾っている短冊を見ようとする。
「だ、だめ!笑う!」
制止する腐川の手を振り払い、十神は一つ一つの短冊を見ていく。
しばらくすると、十神の動きが止まる。手には紫色の一枚の短冊があった。
十神はじっとその短冊を見つめている。
「あ・・・あの」
「ふん・・・笑う、だと?」
地が身は短冊から手を離し、腐川に背を向ける。
「人の願いなど誰にも笑う権利などない。それとも俺は笑うと思ったか?」
「そ、んな・・・こと・・・」
十神は「はん」と鼻で笑い、立ち去ろうとする。
が、立ち止まり振り向かずに行った。
「お前はお前だ」
「っ!」
「くく・・・独り言を盗み聞きするなどいい度胸だな。まぁ、それがお前だがな」
その言葉で何かが変わった、そんな気がした。
ずっと塞ぎ込んでいたものが蒸発するように消え、身体が軽くなる。
それが心地よくて、気持ちよくて、温かかった。
そして気付いた。自分は逃げていたのだ。【あいつ】から。
【あいつ】を理由にあたしはずっと逃げていた、なんて愚かなんだろう。
よりにもよって、一番バレたくない相手に気付かされるだなんて。
「あ・・・」
我に返ると、もうそこに十神はいなかった。
「十神君っ・・・」
考えるよりも身体が先に動く。どこにいるのかは分からない。だけど、言わないと。
何を?分からない。それでも、どうしようもない感情が腐川を動かしていた。
「あっ、腐川ちゃん!」
十神の部屋の前に朝日奈というおっぱい女が立っていた。
「探してたよ、ちょうどいい!後は・・・ね、十神知らない?」
「し、知らないわよ・・・」
むしろ探してるなんて言えない。何で探してるのとか聞かれるに決まっている。
「そっかー、どぉこ行ったんだろうね!」
「な、何。探してんの・・・?」
「うん!せっかくの七夕だもん!十神に彦星のコスプレしてもらおうと思ってさー」
「コ・・・スプレ?」
何故コスプレなのか。と、いうより・・・
「おおおお織姫は誰なのよ」
「腐川ちゃん!」
「うぇえ!?」
聞いてない、そんなこと。というか、いつの間に決まったのだ。
「山田がね、勝手に決行したんだ。まー面白そうだからいいかなーと!
衣装は山田がちゃんと用意してるんだって。
ちなみにキャスティングはくじ引きです。引いたのは苗木ね」
まさかの展開。本人がいない間に何を勝手に決めて、しかも進めていたのだろうか。
「むむむむむむむ無理よぉ!!!」
そう叫び、腐川は走り去る。朝日奈の「あっ、まてー!」という制止など知らない。
ああ、分かった。何故と十神がわざわざ自分なんかと一緒にいたのか。
ただクラスメイトの魔の手から屋上に逃げてきただけだ。そこに偶然あたしがいただけのこと。
馬鹿馬鹿しい。だけど、どこか嬉しかった。
走りながら無意識に腐川は呟く。
「白夜、君・・・」

夜。屋上。
江ノ島盾子はにんまりと笑いながら仁王立ちで立っていた。
周りに誰もいないのを確認すると、深呼吸し叫ぶ。
「さあ、始まりました!ワックワクドッキドキのお晒しターイム!」
鼻歌を歌いながら、飾られている短冊を一枚一枚見ていく。
「まずは『背が伸びますように』。
あー・・・そうですよね・・・高校男子のくせに160cmなんて絶望ですよね・・・
次は・・・『大切な人の病が治りますよう』。
大切な人、ふむ。素晴らしい願いですね。叶うかどうかは知りませんが。
次です。『レーション山盛り』。
あぁん、バレバレだよぉ!願いまで残念ってぇ、最高に絶望なお姉ちゃん!
次はぁー・・・ん?」
思わず素に戻る江ノ島。
そしてニタリと笑う。
「面白い願いだね・・・うぷぷぷ」
江ノ島が手にする短冊は紫色。そこには弱弱しい文字でこう書かれていた。
『自分』
そしてその裏には乱暴な文字でこう書かれていた。
『アンタはアンタ!だってアタシはアタシだもーん!』

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