kk5_81-86

卒業後_
私達の目の前には変わり果てた都会があった。
超高校級とは言えたった6人の高校生で何かを変えられるのだろうか?
そんな思いが頭に浮かんだ。
この学校の外側は平和で、希望にあふれているのではないかと
いや、そうであって欲しいとみんな思っていたはずだ。
絶望に負けて殺した者も、殺された者も、絶望に打ち勝ってここにいる者も。
その思いは打ち砕かれ、再び絶望を目の当たりにして私達の視線は落ちていく。

しかし、ただ1人だけ視線を落とそうとしない人間がいた。
苗木君だった。
残りのみんなもそれに気づいたらしく、みんなの視線は苗木君に移っていく。
苗木君は静かに言った。
「大丈夫だよ。」
苗木君が大丈夫だと言うと、少しだが、本当にどうにかなりそうに思える。
他のみんなもきっとそう思っているはずだ。

苗木 誠_
超高校級の希望。
少なくとも私はそう思っている。
彼を除く私達のように何かに秀でている訳ではない。
しかし彼はこれまで一度も絶望に屈しなかった。
今もそうだ。
そしてきっとこれからもそうだ。
私も、みんなも、たぶん世界も彼の希望を感じている。

だからこそ、彼がオシオキを受けそうになった時は_
絶望した。
私をかばって自分の命を失う。
彼ならやりかねないとは思っていた。
でもそうなる直前まで心のどこかで
そうなっても仕方が無いのではないか?
と思っていた。
黒幕に打ち勝つには彼ではなく私が必要だと思い込んでいたからだろう。
実際に黒幕を最も追求してきた私だったし、
私の能力が黒幕にとって危険であるのも事実だった。
でも実際はそうじゃなかったんだとその時初めて気づいた。
彼を失いたくない。彼を失って絶望したくない。彼は_
希望だ。
私達に必要なのは私でなく彼だ。探偵ではなく希望なのだ。
もう遅かった。手遅れだった。彼を、希望を失ってしまう_

アルターエゴが最後の力で彼を助けてくれた直後、私は困惑していた。
私に限らずみんなも、黒幕さえもそうだっただろう。
でも心の中には小さくて、強くもある希望があった。
だから彼は生きていると確信した_
彼を救おう、いや救わなければならない。
それが私の償いであり役目だ。
彼が私を待っている_
いや、私は彼に一刻でも早く会いたい_

それから少し後_
私達は変わり果てた都会を歩いていた。
学校の外側に人間はいた。
状況から察するに絶望的な日々を過ごしていたのだろう。
だが、希望が絶望に打ち勝った事で人々は前を向き始めているようだ。
人々は自然と私達の元に集まって_
いや、苗木 誠という希望の元に集まっていた。
そして人々の目にはまだ小さいけれど、強い希望の光がともっていた。


その日の夜_
私達は廃墟にいた。
ここでは数十人が生活しているようだ。
人々は何の抵抗もなく私達を受け入れ、食料と寝床を提供してくれた。
彼の言った通りだった。大丈夫だった。
私は希望と、少しの幸福さえ感じつつ眠った_
はずだった。

朝起きると彼が消えていた。
みんなもそれに気づいているようだ。
みんなの視線がおちていく。目の光が弱くなっていく。
あのオシオキの時と同じ感情が心を支配する。
絶望。
私はそれを受け入れたくなかった。
涙が止まらない。心が痛い。
私は大声で叫んだ。
「なえぎくぅぅん!」

「…ぎりさん…」
声が聞こえる_
「きり…ぎりさん…」
明るくて、強くて、どこか懐かしい声が_
「霧切さん!」
「苗木…君…?」
「霧切さん、ひどくうなされてて…」
夢…だったのか…
私の顔は涙でぐしょぐしょだった。
「苗木君…」
「どうしたの?」
「私、その…何か言ってたかしら…?」
「…うん。…僕の名前を。」
「そう…。」
私は彼を失いかけた。もう彼を失いたくない。
ずっと…そばにいて欲しい。
「霧切さん、実は言っておきたい事があるんだ。」
「何かしら、苗木君?」
「僕はずっと霧切さんのそばにいるよ。」
「えっ…?!」
一瞬驚いたが、私の状況を見る限り私が何を考えていたかを想像するのは容易だったかもしれない。
何より嬉しかった。
私の方から彼に言いたいぐらいだったのだから。
でも、それをするには後ろめたかった。
私は自分の責任で彼を失いかけたからだ。

もし彼が心のどこかでそれを憎んでいたら_
と思うと、踏み出せなかった。
「ダメ…かな?」
「…いいえ、苗木君。私はあなたとずっと一緒にいたい。でもね…」
「でも…?」
「私に…あなたと一緒にいる資格があるかしら…?」
「資格って…?」
「私はあなたを殺しかけたのよ、苗木君…」
「…! それはちがうよ、霧切さん!」
「いいえ、ちがわないわ…」
「そんな事を言うんだったら、僕だってみんなといる資格なんて無いよ!」
「…? どうしてかしら?」
「アルターエゴは、僕のせいで、あんな…事に…」
自分の不注意な発言を後悔した。
素直に苗木君を受け入れればよかったと思った。
彼は泣いていた。
彼は絶望に屈しないが、強い訳ではない。
「でもね… アルターエゴはあなたを許していると思うわ。」
わたしはそんな彼を慰める事しかできなかった。
でも、不安はなかった。
なぜなら彼は前を向いていたから。
しばらく沈黙があった。
「僕は… 過去を引きずっていく。でも、後ろを向いたりはしないよ。」
「そうね… 苗木君は前を向いているのが似合うわ…」
「霧切さんも前を向いていて欲しい。」
「…」
頭では理解している。
過去にとらわれていては何もできない。
前を向かなければ前に進めないのだと_
でも…
やっぱり私は心のどこかで…

「霧切さん、僕の言葉を聞いてくれる?」
「…何かしら、苗木君…」
「霧切さんの事が大好きだ。愛してる。」
「…えっ…?」
予想外だった。彼とずっと一緒にいたいという気持ちはあった。
でもそれはなんとなく愛とか恋といったものとはちがうものだと思っていた。
別に彼と一緒にいても心臓が高鳴ったりしない。
でも安心する。
いや、もしかしたらこれが愛なのかもしれない。
私は_
苗木君の事を愛している。
「霧切さんに本当の気持ちをぶつければ霧切さんが変わるんじゃないかと思って…」
「変わるんじゃないか…ですって? よくもそんな理由で言えたわね…」
変わった。
もうあの後ろめたさはどこにもない。
苗木君を失う不安もない。
私は_
前を向いている。
「霧切さん。」
「何かしら、苗木君…」
「返事… 聞かせてもらっていいかな…?」
もう迷いはない_
「苗木君、あなたの事を… 愛してるわ。」
end


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