大人ナエギリ番外編

 お盆は怪談

霧「お盆といえば怪談、なんて誰が決めたのかしら」
苗「まあ、納涼にはちょうどいいんじゃない?」
霧「…苗木君、この時間帯は音楽番組がやっているわ。あなたの好きな歌手も出るそうよ」
苗「そっちは録画してるから大丈夫」
霧「…こっちを録画して、その音楽番組を一緒に見ない?」
苗「怪談って鮮度が大事っていうか、その時に見ないと面白くないんだよね」

霧「……あなたがそこまで頑ななら、私にも考えがあるのよ」
苗「…一応聞くけど、何?」


霧「――このままチャンネルを変えないつもりなら、今日はもう帰るわ」


苗「あ、そう? もう暗いから気をつけてね」
霧「……」

霧「…ちょっと。家に来ている女の子が、帰ると言っているのよ?」
苗「玄関先まで送った方が良い?」
霧「そうじゃなくて…前々から思っていたけど、あなたには女の子への配慮というものが」
苗「あ、始まった」
霧「!!」

霧「…、……」スッ
苗「あれ? 結局一緒に見るの?」
霧「…独りで見るのは怖いでしょう。私が側にいてあげるわ」
苗「ありがと。じゃ、飲みもの取ってくるね」
霧「必要無いわ。座りなさい」
苗「でも、せっかくいてくれるのになんの御もてなしも、」
霧「座りなさい」
苗「……はい」

 ―――――

苗(今年のはあんまり怖くなかったな)
霧「……」
苗「終わったけど、どうする? そろそろ帰らないと、明日も仕事あるんでしょ?」

霧「…苗木君。あなた、私が帰ったあとはどうするの?」
苗「え、寝るけど」

霧「…あれほどまで恐ろしい話を見聞きした後で、家の中に一人、取り残されて…本当に眠りに就けるの?」
霧「静寂の中に物音が聞こえるような気がして、暗闇の中に光が見えるような気がして…気が気じゃないんじゃない?」
霧「今日だけ特別に、あなたが眠れるまで私が一緒にいてあげるわ。というか、今日は泊まっていくわ」

苗「……はぁ。僕はいいけど、他の男の人の家に、そんな簡単に泊まっちゃダメだからね」
霧「寝る前にトイレに行くわよ、苗木君」
苗「はいはい、着いていけばいいんでしょ」



霧『……苗木君?』
苗「ちゃんといるよ」

霧『……』
苗「……」
霧『…苗木君?』
苗「扉の前にいるってば」


苗(霧切さんは怖いの苦手だったんだな…きっと)
苗(…電気とか消したら、慌てるんだろうか)
苗(日ごろのお返しに、やっちゃおうかな)

霧『苗木君?』
苗「……」
霧『な、苗木君…? いるのよね……!?』
苗「…はいはい、まだいるよー」


苗(かわいそうだし、止めとこ)



 年越しは福蕎麦

霧「年末はダイナマイトよ。これは譲れないわ」
苗「…僕、紅白見たかったんだけど」
霧「録画でもしておきなさい。私はリアルタイムでの勝負が見たいの」
苗「普通、リアルタイムで見るのは往く年来る年じゃないかな…」

霧「それより苗木君。そろそろ茹で始めないと、年越しに間に合わないわ」
苗「なんで自分の家なのに、満足にテレビも見られないんだろ…」
霧「私は温かい方が食べたいわ。蕎麦湯は捨てないでね」
苗「はいはい…じゃ、僕も温かい方でいいかな。分けるのめんどくさいし」

 グツグツグツ トントントン

苗「…っていうか霧切さん、自分の家で年越せばいいのに」
霧「薬味のネギは多めにお願いね」
苗「そしたらお互いに好きなテレビ見られるし」
霧「……あなた、まさかこのエビ天なんて、入れるつもりじゃないでしょうね」
苗「こうやって年越し蕎麦の好みで口論することもないし」
霧「好みじゃないわ。天麩羅なんて年越しには邪道なのよ。これは没収よ」
苗「僕の話も、相変わらず聞いてくれないし」
霧「あなたの小言を隣で聞きながら、一緒に年を越したかったの」
苗「こたつも占領しちゃうし、大掃除もろくに出来な……、え?」

霧「あ、いいお酒があるじゃない。熱燗にしましょう」
苗「今、なんかすごい爆弾発言を聞き逃してしまった気が…」
霧「あら、私は何か特別なことを言ったつもりはないわよ?」
苗「そ、そうなの…?」
霧「信州信濃の新そばよりも、私はまことのそばが良い…ってね」



 金秋はハロウィーン

霧「ジャック・オー・ランタンまで作るなんて、本格的ね」
苗「子どもたちがさ、なんでか僕の家ばかり狙い撃ちするからさ…」
霧(とびっきりの手作りかぼちゃパイをくれる家だって、ご近所でも評判だものね)
苗「だからこうやって、毎年歓迎の準備をしてるんだけど」

霧「…苗木君」
苗「何?」
霧「Trick or Treat」

苗「うわぁ、やっぱり発音綺麗だね」
霧「誤魔化そうったって、そうはいかないわよ。イタズラされたくなければ、お菓子を寄越しなさい」
苗「…もう子どもって年齢じゃないでしょ…」
霧「あら、女は幾つになっても、乙女の心を忘れないものよ」

苗「うーん…あ、じゃあ味見する? かぼちゃパイ、ちょうどさっき焼きあがったんだ」
霧「……ええ、それで手を打ちましょう」
苗「っていうか、どうせそれ目当てで言ったんでしょ」
霧「…まあ、そういうことにしておこうかしら」

霧「……ん、美味しい。子どもたちも狙い撃つワケね」
苗「配る分もあるから、あまり食べ過ぎないでね」
霧「ところで…あなたは言わないのかしら?」
苗「トリックオアトリート?」
霧「違うわ。Trick or Treatよ」
苗「発音は分からないけど…霧切さんに、ってこと?」
霧「ええ」
苗「何か用意してるの?」
霧「何も」
苗「じゃあ意味無いじゃない…」

霧「そう? たまにはあなたにイタズラされるのも悪くないと思ったのだけれど」
苗「え…、……」

霧「…苗木君、何を想像してるの?」ニヤニヤ
苗「べっ、別に…そもそも僕は誰かさんと違って、もう大人だし」
霧「そうね…大人にしか出来ないイタズラ、というのもあると思うわ」

苗「も、もう! からかわないでよ…そろそろ子どもも来るし、それ食べたら帰ってね」
霧「あら、つれないのね。それに、からかってるワケでもないのに」
苗「はぁ…ちゃんともてなしたのに、どうして僕がイタズラされてるのさ」
霧(……意気地無し)


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