大人じゃないナエギリ 師走は炬燵で蜜柑

霧「この国の美点を挙げればキリがないけれど…殊に炬燵は格別ね。先人の知恵に感謝するばかりだわ」
苗「まあ、おおむね同意するけどさ。若いうちから炬燵にへばりつくのは感心しないよ?」
霧「…随分と年寄り臭いことを言うのね」
苗「霧切さん、炬燵に入ったきりほぼ全く動かないんだもの。まさか一日そうしてるつもりじゃないよね?」
霧「苗木君、外を見てみなさい。雪が積もっているわ」
苗「そうだね。こんなに降るなんて久し振りだよ」
霧「今日みたいに冷え込む日は、炬燵の中で過ごすに越したことはない。そうでしょう?」
苗「えぇー…折角の雪なんだよ? ちょっとくらい外に出てみない?」
霧「外に出てどうするの? 雪合戦でもする気?」
苗「いや、雪景色を眺めるだけでも…こんなに積もるの、次はいつになるか分からないんだからさ」
霧「嫌よ、寒いもの。炬燵と釣り合う選択肢ではないわね」
苗「事件の時にはドシャ降りの中でも平気で飛び出していくクセに…」
霧「それとこれとは別よ。仕事のためでもなしに、好き好んでそんな真似するわけないじゃない」
苗「…そんなに炬燵から出たくないの?」
霧「ええ。その通りよ」
苗「まったく、猫じゃあるまいし…」
霧「あら、知らなかった? 私、本当は猫なのよ」
苗「……はぁ……」

霧「…何よ」
苗「もういいよ…僕一人で行ってくるから。霧切さんは留守番してて」
霧「そう。好きにすれば?」
苗「うん、好きにさせてもらうよ(ガタッ」
霧「……」

苗「じゃあ行ってくるね」

霧「……(ジトー」

苗「…どうかした?」
霧「別に…(ジトー」
苗「……」

霧「……(ジトー」

苗「ああもう、わかったよ…!(一緒にいて欲しいならそう言えばいいのに…)」
霧「…私は何も言ってないじゃない」
苗「目が口ほどに物を言ってるよ…霧切の名が泣くよ?」
霧「余計なお世話よ。あなたの前じゃなければ、そんなこと…(ボソッ」
苗「え? 何か言った?」
霧「だ・か・ら、何も言ってないわ。それより苗木君」
苗「何?」
霧「台所に昨日買ってきた蜜柑があったわよね? 立ち上がったついでに取って来てくれない?」
苗「…僕が行くの?」
霧「日本には『立っている者は親でも使え』という、とても含蓄深い言葉があるでしょう?」
苗「やれやれ…」

 ・

 ・

 ・

苗「お待たせ。ほんと人使いが荒いんだから」
霧「ご苦労様…やはり炬燵には蜜柑がないと始まらないわ」
苗「さて、それじゃあ僕も一つ…」
霧「苗木君」
苗「…今度は何?」
霧「私は手袋をしているから、上手く皮を剥けないわ…ここまで言えばわかるわね?」
苗「はいはい…もうなんなりとお申し付け下さいませ」

 ムキムキ

苗「はい、剥けたよ」
霧「ありがとう。手間を掛けさせたわね」
苗「……」
霧「苗木君、どうかしたの?」
苗「ん、いや別にどうってことはないけど」
霧「だったら…蜜柑。皮を剥き終わったなら、こちらにもらえないかしら」
苗「……」
霧「苗木君?」
苗「…ねえ、霧切さん」

 スッ

苗「『あーん』」

霧「…え?」
苗「『あーん』」
霧「何のつもり、それ?」
苗「何って、『あーん』は『あーん』だよ」
霧「あのね、苗木君。私がそんな幼稚な…」
苗「…僕は霧切さんのワガママに付き合ってあげたのになぁ」
霧「っ!」
苗「なのに、霧切さんは僕のワガママには付き合ってくれないのかなぁ」
霧「それは…」
苗「だから、これくらいいいでしょ?」
霧「これくらいって…あなたね…」
苗「『あーん』」
霧「……」
苗「『あーん』」
霧「……『あーん』……」

 パクッ

霧「……」
苗「どう、美味しい?」
霧「……甘くて、酸っぱいわ……」


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