kk6_853-857

霧「37.5度…微熱ね」
苗「でも、昨日に比べればだいぶ楽になったかな」
霧「だからといって油断は禁物よ? 熱が下がりきるまで、今日一日は安静にしていなさい」
苗「…うん。そうさせてもらうよ」
霧「素直で結構ね。それにしても…」
苗「何?」
霧「『バカは風邪をひかない』なんて言うけれど、『バカ正直』はこの場合の『バカ』には含まれないのね。あなたのお陰で一つ勉強になったわ」
苗「ちょ…ちょっと、霧切さん…!」
霧「…ふふっ、ごめんなさい。流石に今のは失礼だったわね」
苗「もう…病人をからかわないでよ…」
霧「悪かったわ。あなたと話していると、どうにも余計なことまで口をついてしまうみたい」
苗「…僕のせいなの?」
霧「どうでしょうね。まぁそれはともかく…何か、さっきの件のお詫びをさせてちょうだい」
苗「い、いや…そこまではいいよ」
霧「そう言わないで。そうね…何がいいかしら」

霧(そろそろ昼食時だし…お粥でも作ってあげましょうか。それくらいなら私でも問題なく作れるし…)


 ピンポーン


苗「あ、インターホン」
霧「…来客みたいね」
苗「うん。ちょっと出てくるね」
霧「待って。あなたは病人でしょう? 私が行くわ」
苗「そ、そう? それじゃあ…悪いけど、お願いするよ」
霧「ええ…」


 ガチャ


霧「…あら」
舞「あ、霧切さん! 霧切さんも苗木君のお見舞いですか?」
霧「…まぁ、そんなところね」

苗「舞園さん!? 駄目だよ、ライブが近いんでしょ? 風邪がうつったりしたら…」
霧「……」
舞「平気ですよ。私、こう見えても体は強いんですから!」
苗「でも…」
舞「それより、お粥作ってきたんです! ほら、もうすぐお昼時ですし」
霧「!」
苗「わざわざ…僕のために?」
舞「ふふっ、その通りですよ。食べてくれますか?」
苗「も、勿論! ありがとう、舞園さん!」
霧「…………」


 ◆


苗「それじゃあ、いただきます」
舞「はい、どうぞ!」

 パクッ

苗「…熱っ!?」
舞「苗木君!? だ、大丈夫ですか!?」
苗「う、うん…少し熱かっただけだから」

舞「…ごめんなさい」
苗「ちょ、ちょっと…そんなに落ち込まなくても…」
舞「もっと冷ましてから持ってくるべきでした…私、気が回らなくて…ごめんなさい」
苗「そんな、謝るようなことじゃないよ!」
舞「……」
苗「僕はほら、全然何ともないからさ!」
舞「そう…ですか…?」
苗「気にしないでいいって、ね?」
舞「…苗木君って本当に優しいんですね…」
苗「え? や、優しいだなんて…ははっ、これくらいで大袈裟だなぁ…」

霧(…何、赤くなってるのよ…)


舞「あの…苗木君。お詫びというわけじゃないんですけど、スプーンをこっちに貸してもらえますか」
苗「あ、うん。いいけど…何するの?」
舞「それはですね…」

 フーッ フーッ

霧「……!?」
苗「え…ちょっと、舞園さん? そ、そこまでしてくれなくても…」
舞「駄目ですよ。風邪をひいている苗木君に、このうえ火傷までさせたりなんて絶対にできませんから」

 フーッ フーッ

舞「…これでもう熱くないですよ?」
苗「あ、ありがとう…」
舞「それじゃあ、口を開けてください。『あ~ん』って」
霧「!!?」
苗「い、いいよ! そ、それは流石に…自分で食べられるから…」
舞「『あ~ん』……」
苗「ちょ、ちょっと…舞園さん?」
舞「『あ~ん』ですよ、苗木君」
苗「あ……あ~ん……」

 パクッ モグモグ

舞「どうですか?」
苗「う、うん…おいしい、よ…」
舞「本当!? よかった…!」
霧「………………」

舞「はい、『あ~ん』」
苗「ま、また…?」
舞「当然です。ほら、『あ~ん』して下さい!」
苗「あ、あ~ん…」
霧「………………………………」


 ◆


舞「あ、もうこんな時間…。ごめんなさい、私もう仕事に行かないと…」
苗「うん、頑張ってきてね。それからお粥、ご馳走様」
舞「どういたしまして! それじゃあまた…霧切さんも」
霧「…ええ。いってらっしゃい」
舞「はい、行ってきますね。お邪魔しました!」


 ガチャ バタン


苗「……(ニヤニヤ」

霧「…随分嬉しそうね」
苗「え…そ、そうかな?」
霧「…まぁ当然よね。国民的トップアイドルに手料理を振舞われて…そのうえ手ずから食べさせてもらって、嬉しくない筈がないわよね」
苗「い、いやあ…」
霧「全国一千万の舞園さやかファンに知られたら…さぞ恨まれることでしょうね、あなた」
苗「お、脅かさないでよ…はははっ…」
霧(何よ、鼻の下伸ばして…)


霧「まぁいいわ…それより食後の薬を飲まないとね」
苗「あ、ああ…そうだね」
霧「昨日処方してもらったのは、机の上のこの薬袋かしら。錠剤二つに、粉薬が一袋…」
苗「……」
霧「どうかした? 水ならそこにあるけれど」
苗「う、うん…」


 ゴクン


苗「ふぅ…薬も飲んだし、一眠りでもしようかな」
霧「苗木君、まだ粉薬が残っているわよ」
苗「あ、ああ…それは…えっと、後で飲むよ」
霧「服用は食後三十分以内、と薬袋に書いてあるわ。一眠りする前に飲むべきだと思うけれど」
苗「そ、それは…」
霧「……」
苗「なんというか…その…」
霧「あなた、もしかして…粉薬が苦手だったりするの?」
苗「!」
霧「…図星みたいね。錠剤と粉薬の残数が合わないことからして、昨日も粉薬だけ飲んでいない様子だし」
苗「うっ…」
霧「まったく…子供じゃあるまいし…」
苗「そ、そうだけどさ…誰だって苦手なものの一つくらいあるでしょ!?」
霧「その通りかもしれないけれど、そういう問題ではないわ。あなただって早く治したいでしょう?」
苗「で、でも…飲まなくても、ちゃんと熱は下がってるし…」
霧「はぁ…あなたね…」



霧「……ああ、そうだ。いいことを思いついたわ」
苗「…いいこと…?」
霧「あなたに薬を飲ませる方法よ」
苗「それって…?」
霧「あなたは大人しく、じっとしていなさい。私に任せておけばいいから」
苗「い、一体何を…?」
霧「…水、もらうわね」
苗「あ、そのコップ…さっき僕が…」


 グッ


苗(水を口に…?)
霧「……」


 ビリッ ザッ


苗(今度は…粉薬を…!?)
霧「……」
苗「あ、あの…霧切さん…?」


 ガシッ


苗(か、肩を掴まれた…これって…?)
霧「……」

苗「ちょ、ちょっと…顔が…近…」
霧「……」

苗(って、どんどん近づいて……!!?)


 チュプ


苗(え…えええええ!?)
霧「……んっ……」


 ゴクン


苗(薬が流れ込んで…くる…。口移しって…やつなのか…?)


 ゴクン ゴクン


霧「ふっ……ん……」
苗(いや…それよりも霧切さんの唇が柔らかくて…舌先がちろちろ触れて…)


 ゴクン ゴクン ゴクン


苗(気持ち…いい…)


 ◆


 プハッ


霧「…ふぅ」
苗「…………」
霧「上手くいったわね」
苗「…………」
霧「粉薬なんて別にどうってこともなかったでしょう?」
苗「いや…あの…どうってことも…っていうか…」
霧「何かしら?」

苗「き、霧切さん…いいいいい今のは…その…一体…!?」
霧「…何を慌てているのかしら」
苗「い、いや…だって…」
霧「最初に言ったじゃない。『あなたに薬を飲ませるためのいい考え』よ」
苗「え、ちょっ…その…それでいいの!? 霧切さん的に!?」
霧「…あなたが何を言わんとしているのか分からないわ」
苗「い…いやいやいやいやいや!」


霧「…さて、私もそろそろ行かないとね」
苗「え?」
霧「薬も飲んだことだし、あなたもゆっくり休むといいわ」
苗「ちょ、ちょっと待ってよ…!」
霧「その調子なら、もう明日には回復しているでしょうけれど…時間があれば、また様子を見に来るわ。お休みなさい」
苗「き、霧切さん!」


 ガチャ バタン




苗(な、何だったんだ…夢かコレ?)


苗(まだ…ドキドキしてる…)


 ◆


 バタン


霧(……)


霧(やった…やってみせたわよ…)


霧(今日のところは私の勝ちよ、舞園さん…!)




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