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【耳へのキスは誘惑の】


 暑い日だった。
 エアコンなんて贅沢品もないから、窓を全開にして、窓辺に扇風機を置いて。
 お風呂上がりには冷水を浴びて、タオルケットを掛け布団の代わりにして。
 日が沈んでも肌がじっとりと汗ばみ、服を着ていることすら煩わしかった。

 だから、そういう気分ではなかったのに。

 人肌は熱いから、そう言うと彼に服を剥ぎ取られ。
 外に声が聞こえてしまうから、そう言うと唇を塞がれ。

「――…ケダモノ」
 事を終えて、汗やら何やらでグショグショになったシーツを手繰り寄せる彼に言い放つ。
 やはり心根の優しい人だから、ギクリと身体を強張らせる。
 けれども今回に限っては、愚痴の一言二言で終わらせるつもりはない。
 足に力が入れば、殴ってやれるのに。

「……ゴメン」
「苗木君らしくないわ。あんな、無理矢理なんて」
「うん…」
 いつもは私の方がもどかしくなってしまうくらいに気を使うのに。
「…発情期かしら?」
「に、人間には来ないんじゃないかな」

 でも、と、言いながら彼は私の体を持ち上げる。
 抵抗は、止めておく。暴れても危ないし、どうせ力が入らない。

「似たようなものかも…」
「…」
「なんか…霧切さんのしっとりした肌見てたら、その…ドキッとしちゃって」
「……ピロートークのつもり? だとしたら及第点には程遠いわ」

 暑い夜は、何をしても暑い。
 冷たいものを食べようが、浴槽で汗を流そうが、何もしなくたって、結局暑いのだ。
 体を幾度重ねたって、変わらない。
 それなら、

「う、わ」
 体を抱かれたまま、体勢を変える。
 首元を両手で抱き、口をその耳元に寄せて。

「私の眠りを妨げたのだから、あの程度で許してもらえるとは思わないことね」
 耳元に、舌を這わせる。
 苗木君の体が震える。
「霧切さん、がっ…僕の布団に入ってくるから、」

 耳孔に舌を突っ込むと、男の子らしくない嬌声が、その言葉の続きを遮った。
 言い訳なんて欲しくはない。

「火を付けた責任…取ってもらうわよ」
「…とりあえず、浴槽に行こっか」

 明け方に入る頃、狙い澄ましたように雨が降り出した。
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