Beauty of Destiny

「ふふっ、意外に積極的なのね。嫌いじゃないわよ、そういうの」
「は? なぜ? えっ、どこへ?」
「いいからいいから」

戸惑う対象<ターゲット>の反応を無視して女性は彼の腕を引っ張って先を歩く。
そのまま彼の尾行を続けようと思った矢先、後ろから放心めいた声が聞こえた。
不覚にも背後を取られてしまったらしい。
警戒しながら振り返ってみたら――。

「ラ、ラブリーン?」

魔女探偵ラブリーンの格好をした小さな女の子がいた。
まさか、こんなかわいい同業者に巡り合うとは――。
彼女の手に収めていた玩具の虫眼鏡がコロリと地面に転がる。

『素行調査は弊社におまかせ!』

転がった拍子でボタンが押されたのか、搭載されている効果音が夏の空に響いた。


~ Beauty of Destiny ~


「そんなラブリーンに会ったんですよ」
「いやいや、魔女探偵よりも"番長"の件について私は聞きたいんだが」

処変わって希望ヶ峰学園、東地区にある学生食堂の一つ。
二代目"超高校級の料理人"が取り仕切る第三学生食堂で遅い夕食を取っている時だった。
既に明日の仕込みも終わっているようで、僕らの座る席しか照明は点いてない。
余談になるけど、二代目"超高校級の料理人"は僕が学生時代に在籍した初代"超高校級の料理人"を超えるべく山篭りしたらしい。
そしたら何故かオーガニック系の料理人として覚醒し、自然志向のメニューばかりが名を連ねるようになった。

「もちろん彼の調査に抜かりはないですよ、学園長」
「今は名誉顧問だよ誠君。……おっと、そろそろだね」

そう言ってペリペリと蓋を開けて、香り立つ湯気が浮き上がる。
元・学園長、現・名誉顧問である霧切仁氏と夕食を交えての報告はカップラーメンという何とも貧相なメニューだった。
僕はCUP GOKUBUTOのしょうゆ味、学園長はシーフード味だ。
太目のちぢれ麺を啜り、しばらく空っぽになっていた胃袋の再起動を図る。


「ズズ……んぐっ。最初は"番長"っていうから大和田君みたいな人かと思っていたんですが、まったく違いましたね」
「写真で見た彼の姿はごく普通の高校生だったよね?」
「はい。寡黙で積極的に前に出るタイプではなさそうですが、人付き合いや面倒見が良くて交友関係は広くて深い関係でしたね」
「それなら"番長"の資質であるリーダーシップの要素は十分に兼ね備えているね」
「証拠は掴んでいませんけど、連続殺人事件の容疑者である高校生を確保したのも彼らのグループらしいですよ」
「その情報の出処は……?」
「探偵王子、ですよ」
「へぇ、白鐘家の五代目に……」
「下手な腹の探り合いをするより素直に正体を明かせば聞きだせるっていうのが、現・学園長のアドバイスでしたよ」

一度箸休めをして、懐から名刺を一枚取り出す。
『希望ヶ峰学園 学生課  霧切 誠』
そう記載された名刺を例の探偵王子に渡したら吃驚していたし。 
やはり同業者の間では今も尚、霧切の名は健在だったようだ。

―――――

ここで一つ、個人的な話をしよう――。
今の僕の仕事は来年に入学する第八十八期生の高校生たちを探し出すスカウトマンだ。
この国の将来を担うであろう彼らを追い求めて西へ東へ全国を駆け回っている。

今回も八十神高校に通う高校生・鳴上悠(ナルカミ ユウ)君が"超高校級の番長"として入学できる人物かを調査してほしい、という学園長の指示の下で稲羽市八十稲羽まで足を運んできたわけで。
少し前までは連続怪死事件の舞台で大騒ぎだった場所だ。
容疑者と思しき高校生が逮捕されてからは治安が戻ったのか、住民達からも情報を聞き出しやすかったし。
そんな中で前述したように、僕は鳴上君にバレないよう尾行をしていたら魔女探偵ラブリーンの格好をした女の子と遭遇した。
――正確には、その鳴上君が居候している家の従妹、堂島菜々子ちゃんに。

「ところでムコ殿」
「なんですか、お義父さん」

フリーズドライされたタマゴとナルトを口に運んでいる時にあまり呼んでほしくない呼称を使われる。


「八十稲羽は人材の宝庫なのか? もし私が現職だったら二代目の"探偵"と"アイドル"も本科の候補に挙げているところなんだが……」
「僕も思いましたね。ついでに調べてきますか、って尋ねたら"必要ないわ"って一蹴されましたよ」

ジュニアアイドルとして短期間で準トップアイドルまで上り詰めた久慈川りせ、通称りせちー。
警察捜査に大いに貢献してきた探偵一家の五代目にあたり、連続殺人事件の調査で八十稲羽にいた白鐘直斗。
二人とも原石で、磨けばダイヤモンド級の輝きになるのでは、って最初は思っていたけれど。

「でも彼を調査して思いましたね。八十稲羽にいるからこそ真価を発揮するんじゃないのかって……」
「八十神高校に転入する前はごく普通の高校生だったらしいね」
「何だか昔の僕に通じるものがありましたよ。それに……」
「それに?」
「まだ例の事件は解決してないような気がするんですよね、元・探偵助手の勘がそう騒ぐんです」
「もし新たな事件が起きれば、また彼らは動き出すな」
「真実を追い求めて……。昔の僕らみたいに」
「そこまで言えば答えは出ているようだな」
「はい」

残ったスープを一気に飲み干して、ごちそうさま。
口元を軽く拭って席を立つ。

「それでは。今からこの一件を学園長に報告してきます」
「孫の顔を早く見たいってことも伝えておいてくれ、誠君」
「そうなったら誰が学園長の代理をすると思っているんですか?」
「君以外に他に誰がいるって言うんだい?」
「勘弁してください、評議委員の人達が黙っていませんよ」

ただでさえ、今の学園長は就任して2年目の時期なのに。

―――――

生徒の立ち入りが禁止されている教職員棟も職員ならば自由に行き来できる。
その廊下を足早に進んだ先にある目的地には"学園長室"というプレートが掲げられていた。
扉を軽くノックして一声かける。

「失礼します、学園長」
『……どうぞ』

数日ぶりに聞いた生の声を聞けたことが嬉しく、少しに強めに扉を押し開いた。

「あら、もう来たの。早かったわね」

奥のデスクで食事をしていたと思われる学園長――霧切響子、もとい僕の妻が笑顔で迎えてくれた。
その手にはCUP GOKUBUTOの期間限定・クラムチャウダー味の空容器があった。
……意外にチャレンジャーだね、響子さん。


「はい、報告を直接お伝えしたくて」
「そう……」

空容器をゴミ箱に入れ、黒縁の伊達メガネを掛ける響子さん。
仕事モードに切り替えるためのアイテムで、その時に『響子さん』なんて呼べばたちまち怒られてしまう。

「学園長、単刀直入に申し上げます。"超高校級の番長"である鳴上悠君の入学を見送ってほしいです」
「……その理由を聞かせてくれるかしら?」
「彼が"超高校級の番長"として覚醒したのは八十稲羽という環境下にいると思うからです」

続けて、というアイコンタクトをメガネ越しの瞳から受け取る。

「ごく普通の高校生として学業や部活やアルバイトに励み、居候先の家族や学校の友人、町の人々といったコミュニティとの交流を築いていました。
 しかも現在進行形で築き上げた絆は一回りも二回りも大きくなっていると感じます。
 勇気・知識・根気・伝達力・寛容さが「わかったわ」……学園長?」

今度は伊達メガネを外して僕を見つめる。
プライベートに切り替えるサインの一つで、僕個人としての意見が聞きたいらしい。
余談だけど、プライベートモードで『学園長』なんて呼ぶと腰に手を添え、僕の鼻先に指を当てて「めっ」と咎めてくる。

「彼とその友人達が連続怪死事件の真相を追っているという噂を聞いたんだ」
「その容疑者は先日逮捕されたんじゃないかしら?」
「容疑者の高校生を逮捕したのも彼らだっていう説がある。危険を顧みずに一連の事件の解決のため奔走する姿を見ていると昔を思い出してしまうよ」
「昔の私達みたいに?」
「そう。……それにあの事件はあれで終わったようには見えないんだ」
「あら、奇遇ね……。私もそう思っていたの」
「僕らはもう探偵として活動できない分、彼らに託そうと思うんだ。"超高校級の希望"を」

直接彼らに僕らの気持ちを託したわけではないけれど、真実を追い求める姿は昔の僕らと同じだった。
彼らならどんな苦境であろうと、どんな強敵だろうと、決して諦めない強さを持っている。

「……そう、わかったわ。今回の一件は見送ることにするわ」
「えっ、そんなにあっさり引いていいの?」
「他に重要な話が動き出したこともあるわ。……誠君、少し付き合ってもらえるかしら?」

指先でクルクル回転させているのは彼女が所有する愛車の鍵だった。
エキサイティングなドライブへのお誘いだった。

―――――

希望ヶ峰学園の学園長という職業上、プライベートの時間なんてあってないもの。
短時間でリフレッシュを図れることを模索していたら、響子さんはドライブという趣味に辿り着いた。
彼女が後部座席に乗っているだけの黒いリムジンは真っ赤なスポーツカーに買い換えられた。
在籍している"超高校級のメカニック"へ教材代わりにその車を渡して、日々好きなようにカスタマイズをさせて"私の愛馬は、凶暴です"状態になっている。
僕は当初ナビゲーター代わりに助手席に乗車していたけど、回数を重ねるに連れて車の性能をどこまで引き出せるのかという探究心からエキサイティングなドライブと化している。


それでも、目的地はいつも一緒。
街と学園を一望できる絶好の夜景ポイントだ。
都心部の夏は夜も蒸し暑いけど、ここの高台の夜風は涼しい。

「ここは相変わらずね……」
「そうだね」

私服に着替えず、黒の喪服のようなスーツ姿のままで乗車していたから上着が皺になっている。
帰ってきたらお互いのスーツをクリーニングに出すようにしよう。

「ところで誠君、一つ確認させてもらうわ」
「ん、なにかな?」
「稲羽市に滞在していた時に宿泊していた旅館のことなんだけど……」
「天城屋旅館のこと? 近くにビジネスホテルがなかったから老舗旅館に宿泊したけど、何か問題かな?」
「コンパニオンなんて呼んでいないでしょうね?」
「よ、呼ぶわけないでしょ!? 昨夜だって電話で確認したよね!」

旅館の娘さんは綺麗だと認めるけれど、僕が響子さん一筋なのは今も昔も変わらない。
むしろコンパニオンなんかより、温泉の方が魅力を感じるのが事実だ。
出張の先々で日帰り温泉や健康ランドがあれば、ついつい寄り道してしまうほどになっている。
僕なりに短時間でリフレッシュを図る手段は確立されているが、響子さんに先日そのことを言ったら「爺くさい趣味ね」と小馬鹿にされた。

「それともう一つ。明日の会議でも話すことになっているけど、外部監査という名目で臨時の評議委員を2人招き入れることにするの」
「へぇ……」

基本、僕は外回りの営業みたいなものだから、響子さんが関わる学園の運営とかは蚊帳の外だったりする。
お義父さんの元・学園長は学園のスポンサー獲得とコネクション拡大のために政財界との人達と腹の探り合いをしている。

「その一人に十神財閥の会長を推薦しておいたわ」
「えっ、十神君を!?」
「もう一人は桐条グループの令嬢さん」
「"氷の女帝"って……どちらも客観的というより、支配的だね」
「双方とも利害の一致を明確にすればすんなりと加入してくれるはずよ。だから誠君……」

ポンっと右肩を軽く叩かれる。
何だか嫌な予感がした。

「窓口の交渉役はまかせたわ」
「それは厳しいよ! せめて十神君だけにさせてよ!」
「……仕方ないわね。桐条グループの方は私が受け持つわ」

人が走った後のレールを走り続けることは一見、楽なように見えてしまう。
でも、その轍を絶やさないように紡いでいくことがとても大変だということを知った。

僕らが歩いた道に次の世代の人達は着いてきてくれるだろうか?
僕らが歩いた道に希望を遺していけるのだろうか?
時々そんな不安に駆られてしまう時があるけれど、その度にここの夜景を眺めて希望の灯火が絶えていないかを確認している。

「ねぇ、響子さん。この先僕らはどこまで行くのかな?」
「決まっているじゃない、わからないの?」

わかりきった答えだと知っているけれど、敢えて僕らは何度も口にする。

「君と一緒に」
「あなたと共に」


「「行けるところまで」」


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