kk8_804-807

645-646に触発されて妹編の続き。//6Q3JINa/


―――――

case2 入籍編


玄関のドアを開けると隙間から身半分だけを覗かせるように、こちらを見続ける妹の姿があった。

「じぃーーーーっ」
「……そこで何しているんだよ?」

ご丁寧に擬音付きで。
探偵の尾行術でこんなことをやったら、間違いなく響子さんから注意される行動だ。

「この、泥棒猫……」
「えっ?」
「お兄ちゃんの家に行ったら、テレビ台の上を指でなぞってやる。
 そして"響子さん、この埃ってどういうことかしら……?"ってネチネチ絡んでやる」

どこの昼ドラだ、そしてお前はいつから小姑の真似事をするんだ。
一体全体どういうことなんだろう、あんなに響子さんに懐いていたのに今は仇敵を討つかのような視線を浴びせている。
デレの後にツン? 最近の流行ってこういうのが需要あるの? 

「おいおい、いきなり何だよ響子さんに向かって「お兄ちゃんは黙ってて」……その態度は」

今まで見たことのない妹の真剣な表情。
何が彼女をそこまで駆り立てたのだろう――。


「私から話してもいいかしら、誠君?」
「……うん、いいよ」

僕の困惑とは対照的に、響子さんは落ち着いていた。
これから起こりうることが想定済みだというくらいに。

「今日、私達がここを訪れた目的は婚姻届を提出して正式に籍を入れたことを報告するため」
「……っ!」
「そして、あなたとも晴れて家族になれたことを祝福してもらうためなの。あなた自身に」
「わたし、が……?」
「そう。私があなたの"お姉ちゃん"になる喜びを分かち合うためにここに来たわ」

そう言って靴を脱ぎ、戸惑う妹の手をそっと握り締めた。

「だから呼んでほしいの。"響子さん"ではなく"響子お姉ちゃん"って」
「……きょ、響子、お姉ちゃん……」

一語一語を噛み締めるように、それでいてどこかか細い声で妹は呼んだ。
響子お姉ちゃん、と。

「……ありがとう。やっとあなたのお願いに応えることが出来たわ」

手を握るだけでは飽き足らず、妹の身を引き寄せて抱擁する響子さんだった。

「軽はずみのおねだりのつもりで言ったんだけど、覚えててくれたんだ……」
「……当たり前じゃない。あの言葉が私の心を撃ち抜いたんですもの」
「えぐっ、さっきはごめんなさい。お姉ちゃんを泥棒猫呼ばわりして……」
「気にしてないわ。大切なお兄さんを奪われるという心境も想定の内よ」
「ありがとう、響子お姉ちゃん……!」

そして妹も響子さんの腕の中で嬉し涙を零したのであった。
傍から見ても、仲のいい姉妹に見える光景だった。


この後は響子さんの両親が眠る墓前にご挨拶か――。
まだまだ長い一日になりそうだな。
眠気覚ましのミントタブレットを一粒服用する。
すると――。

"ふふっ、こんなにもたやすく手綱を握れるなんて。兄妹揃ってバカ正直ね"
"よーし、これで心おきなくお兄ちゃんの家にお邪魔できるぞー! 週2のペースで遊びに行こーっと!"

目の前の二人は抱き合って声一つ出していないのに、何故か響子さんと妹の声が聞こえた。
……もしかしてこのタブレット、人の本音がわかる秘密道具だったりしないよね?


―――――

CASE3 夫婦喧嘩編


「うぅ……。旦那の、旦那のバカヤローッ! ……んぐっ。お姉さん、もう一杯!」
「ヤケ酒みたいにコーヒーを煽るのは、淹れた当人からすれば複雑な心境よ……。もっとゆっくり味わってほしいところね」
「一気に飲めるくらい美味しいコーヒーってことだよ、気にしないで!」

子供達を幼稚園に送り出し、僕ら二人が休日ということで二度寝をしていた矢先だった。
16連射の如くドアベルを連打する妹に叩き起こされては愚痴を聞くこっちの身にもなってほしい。
今日も今日とて、我が妹様は義弟の旦那さんと喧嘩して家を飛び出してきたのだった。


「……そう。それで、今回はどんな理由で喧嘩をしたのかしら?」
「珍しく二人して休日が同じ日になったんだけどさ……」
「それで?」
「これから二人で出掛けよー! ……って思った矢先に、旦那の勤め先から電話が」
「それで旦那さんは休日出勤となりました、めでたしめでたし。よし、帰れ」
「全然めでたくなんかないよ、お兄ちゃん!」

そして怒りのまま2杯目のコーヒーを一気飲みする妹だった。
それでもまだ怒りが収まらないのか、ワナワナと身を震わせている。

「思わず言っちゃったよ。"私と仕事、どっちが大事なの?"ってさ」
「ふ、ふーん。それで、旦那さんはなんて言ったの?」
「その時ははぐらかされたから、帰ってきたら答えるまで問い詰めてやるんだから!」

仮に"妹が大事"と答えても、納得させる理由を述べないと論破できなそうな状態だ。

「……フフッ、やっぱり兄妹ね。あなた達は」

そんな僕らの遣り取りを見ていて、聞き役に徹していた響子さんが笑みを浮かべる。


「やっぱり兄妹ってどういうこと、お姉ちゃん?」
「言葉通りの意味よ。誠君も先日、その言葉を口にしたの」
「あのー、響子さん? その話はやめにして「聞かせて聞かせて!」……もがもがっ」

僕の中止を求める声明は、妹の手により却下されたのだった。
抵抗しようにも僕の口を押さえる手は頑丈で、引き剥がせない。
僕ら兄妹の遣り取りに苦笑しながらも、響子さんは話を続けるのであった。


「先日の日曜日って母の日だったでしょ? 誠君ったら子供達を巻き込んで盛大に祝おうとしたの」
「それでそれで?」
「花屋に行ってカーネーションを購入して、私の似顔絵を描いてもらい、手作りのカレーを一緒に作ってもらうって内容だったけど……」
「けど……って、まさか?」
「そう。依頼の電話が入って私は事務所に行かなければならなかった……。ここまで言えばわかるわね?」
「それでお兄ちゃんが"家族と仕事、どっちが大事なの!?"って言ったんだね!」

ま、まずいぞ。 
これ以上は聞かせまいとさらに抵抗するけど、ピクリとも動けない。
一体全体、力の出処はどこからなんだ――?

「結局、夜遅くに帰宅することになったわ。リビングには花と似顔絵が飾られてあって、キッチンにはカレーの鍋があったけど誰もいなかったの」
「カレー、美味しかったの?」
「えぇ、もちろん。形の不揃いな具は子供達が切っていて、味付けは私好みのスパイシーなものだったわ。それで、食べ終わった後に子供達の様子を見に行ったの」
「ほうほう」
「ちょうど誠君が子供達を寝かし付けたところだったの。目が合ったから"ただいま"って言っても返事をしないで、仏頂面のまま子供部屋を出たわ」
「あー、それお兄ちゃんが"僕、拗ねてます"っていうサインだね」
「寝室に入っても一言も口をきかないまま背を向けて布団に入るんですもの。流石の私も"黙ってないで文句の一つでも言ったらどうなの"って言ってしまったわ」
「そしたら……?」
「嗚咽の混じった声で"僕と仕事、どっちが大事なんだよ……!"って言うんですもの」
「うわー、お兄ちゃん涙目だったんだー。かわいいなぁ……!」
「子供達よりお父さんの方が張り切っていたんだとわかると、途端におかしくって」

響子さんはその光景を思い出し、妹はどんな様子かを想像してクスクスと笑い出していた。
もうやめて! 僕のライフはゼロよ!


「それで、お姉ちゃんは何て言ってお兄ちゃんを論破したの?」
「それはね……「あのー、恥ずかしい台詞だから大きい声で言わないでくれるかな?」……仕方ないわね。ほら、耳を貸して」
「はーい。……ほうほう、なーるほどっ!」

しかし傍から見ると本当に仲のよい姉妹だよね、この二人は。
血は繋がってないのに本当の姉妹のように意思の疎通がいい。
血よりも濃い絆って、実は夫婦以外でもたくさんあるんじゃないのかって最近思えるようになってきた。

「……? さっきから何をジロジロ見ているのかしら、誠君?」
「いや……。付き合っている頃から仲がいいなぁって再確認しているところ」
「そんなの当然じゃない! ねぇ~、お姉ちゃん♪」
「えぇ、当然ね」


ひとまず僕はメールを打つことにした。
妹の旦那にどんな言葉を掛ければご機嫌がよくなるかをアドバイスするために。
……最も、響子さんが僕に言った言葉の丸写しに過ぎないけど。
そんな模範解答があれば、夜に再び妹が我が家に押しかけてくるってことは早々ないだろう――。


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