超不運のムコ殿

75-80 569-572の続き "超不運のムコ殿"(1/2)


高校生の時、"超高校級の不運"と自負していたことがある。
そして大人になった今も、その"不運"は相変わらず健在だったようだ。

「俺は今日大変な一日でな……。すこぶる機嫌が悪いんだ」
「いやぁ、そこを何とか穏便に……」

眠らない街、神室町――。
元・学園長のお義父さんと一緒に、国のお偉い人と綺麗なお姉さんのいる店で大人の接待をする要員に駆り出されたのが事の発端だった。
その人達との接待を終えて、タクシーで無事に送り出して僕らも帰ろうとした矢先、お義父さんの姿が消えていた。
慌てて探し出したら強面の人とぶつかってしまい、こうして路地裏に連れてかれて胸倉を掴まれているんだから。

「へっ……俺の機嫌の悪い時に口ごたえまですんのか……! 運が悪かったな、お前は」

自分より"不運"な目に逢う僕を嘲笑うかのように、その男は名乗る。

「俺は東城会四代目……。桐生、一馬だ!!」

よりにもよってぶつかった相手が、かつて"伝説の極道"と呼ばれた男だからだ。
もしかしたら僕、翌朝の埠頭で水死体になって浮かんでいるかも――。
そんな不吉な予感を思い浮かべてしまった時だった。


「おい、そこのチンピラ」

そんな僕らに声を掛けてくる人がいたのだ。
なんか服装を見ると、僕に絡んでいる"伝説の男"と格好が似ている。
グレーのスーツに、赤のはだけたシャツ、白のエナメルシューズ。
何やら体中から青っぽいオーラみたいなのも漂っているし。

「離してやれ」
「あぁん? テメェ、俺が堂島の龍と知っての口か!
 命が惜しくない奴だけ、かかってこいやオラァ!」
「そうだな……。話は一発殴ってからでも良さそうだ」

そう言って、両手拳を握りだしたのだった。


サブストーリー 
 "超不運のムコ殿"


「すいませんでした……。これをあげるので勘弁してください……」

そう言って自称"伝説の男"は鼻血を垂らしながら、目の前の男に何かを渡しながらお詫びして去っていく。

文字通り「あっ」という間に片付いた。
素早く相手の懐に潜り込んで投げ飛ばし、倒れたところを2度の踏みつけ(ストンピング)。
さらに昔テレビで見たプロレスの、ロープの上から跳びあがり繰り出すピープルズエルボーを顔面に決めたからだ。
衝撃をやわらげるマットの上でなく、硬いアスファルトしかない路上の喧嘩でそんな技を繰り出すなんて――。


「あ、ありがとうございます。危ないところを助けていただいて」
「気にするな。偶然、妙な奴を見かけただけの話だ」
「せめてお礼だけでも……っと、失礼」

させてください、と言おうとした矢先に僕の携帯電話が震えた。
ディスプレイを見ると「お義父さん」という文字が浮かんでいる。

「もしもし、お義父さんですか?」
『おぉー誠くんかー。そうです、あなたのお義父さんですよー」
「今どこにいるんですか? 勝手にいなくなったりしてビックリしましたよ」
『ゴメンゴメン、お店で飲んだ酒がイマイチだったから違うお店で飲み直しているところだよ」
「そのお店の名前、なんて言うんですか?」
『"亜天使"ってお店だよ。チャンピオン街にあるバー』
「わかりました、僕もすぐに向かいます」
『キレーなお姉さんもいるから早くおいでー』

そう言って通話を終了すると、僕を助けてくれた男の人は何か思案顔だった。

「……どうかしました?」
「いや、人探しの途中だったみたいでな」
「えぇ、その迷子もお酒を飲んで留まっているところみたいです」
「……何かの縁だ。助けた礼に一杯奢ってくれないか?」
「えぇ、それで済むのでしたら喜んで奢りますよ」

お義父さんのいるお店まで向かう道中、お互いの名前と経緯を簡単に話すことにした。
僕を助けてくれた男性、桐生さんは沖縄の養護施設「アサガオ」の経営者で、連休を利用して東京にある同じ養護施設「ヒマワリ」を訪問しに来た。
お連れのお子さん、遥ちゃんとはぐれたらしく神室町を探し回っているみたいで。
何だか似た者同士の境遇で親近感が湧く。

そして目的地のバー"亜天使"に着いて入店する。

「ごめんくださーい」
「あら、桐生さんじゃない!」
「久しぶりだな、ママ」

室内を見渡してみるとカウンターのママとコンパニオンの人しかいない。
あれ、お義父さんが見当たらないぞ……? 

「あら、如何なさいました?」
「いえ……知り合いがここで飲んでいると聞いて足を運んだようなのですが、見当たらなくて……」
「差し支えなければ、どのような人か教えてくださるかしら?」
「はい。こちらの桐生さんくらいの男性で、喪服のようなスーツを着ている人なんですけどご存知ですか?」
「あらお兄さん、あのイイ男とお知り合いなの?」

僕とママの会話に割り込んでくるようにコンパニオンの人が話しに加わる。



「えぇ。上司であり身内だったりします」
「そのお客さん、さっきお店を出て行ったわよ」
「入れ違いでしたか……。どこに行こうとしているかご存知ですか?」
「そういえば……"呑んでるだけでは腹に溜まるだけだからなぁ、運動しよ"って言って店を出たわ」
「神室町にスポーツができる店は色々あるな……」
「でもバットを振る仕草をしていたから、きっとバッディングセンターに向かったわよ」
「バッティングセンターですか……」
「いいわ~、私も彼のバットで千本ノックされたいわ~」
「もう、ミチルちゃんったら! お客さんのいる前で!」

目的地もわかったということで一安心。
先ほど路上で助けてもらった御礼として、桐生さんにウィスキーを一杯奢ることにした。

「ありがとうございましたー」

会計を済ませてお店の外に出る。

「それにしても桐生さん」
「ん、なんだ?」
「お店の人達、すごく……ムキムキでしたね」
「あぁ、そうだな。あそこはそういう店だ」

チラリとお店の入り口を見て、今の一言が聞き耳を立てられてないか注意する。
……よかった、扉の前に人の気配がない。

お義父さんがお店の人達を"キレーなお姉さん"と錯覚するくらい酔っ払っていることに一抹の不安を覚えながらオカマバー"亜天使"を後にした。
結局、桐生さんは僕がお義父さんと再会するまで同行してくれることになった。
結構義理堅い人なんだなぁ、桐生さんって。

―――――

吉田バッティングセンター。
お義父さんが次に向かったとされる目的地で、黒スーツの男性がバットを振っている姿がいないか覗いてみたが、いなかった。
ここでも入れ違いだったらしい。
だとしたら、いったいどこへ? 
またお店の人に目撃証言がないかを聞こうとした矢先だった。


「おぉ、桐生ちゃんやないけーっ!」
「真島の兄さん」

隣にいる桐生さんの知り合いのようで、ブンブンと嬉しそうに手を振りながらこちらにやって来る人がいた。
テクノカットの髪型に眼帯、蛇柄のジャケット、素肌から覗く入れ墨が"私、只者じゃありません"ってオーラが満載だ!
警戒感を顔に出さないよう注意を払いながら二人の会話に混ざる。

「どないしたんや、桐生ちゃん。神室町に来るなら連絡の一つくらい入れてもえぇんとちゃうか?」
「連休を利用して遥と"ヒマワリ"の所へ遊びに来たんだ。神室町に来たのは遥にねだられてな」
「そうやんか。ところで、そこの若い兄ちゃんは新しい舎弟か? ……にしては冴えないやっちゃのぅ」
「違う。只の人探しに付き合っているだけさ」
「物好きなやっちゃなぁ桐生ちゃんも。どや、それが終わったら遥ちゃんと一緒にカラオケせぇへん?」
「遥と合流したら考えとくよ」
「ホンマか? よっしゃ、久々に桐生ちゃんの合いの手と一緒に唄えるでぇ!」
「……お話中のところすいません。真島さんに一つお尋ねしたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「なんや兄ちゃん?」
「ここで葬式帰りのような格好の男性が来たかご存知ないでしょうか? ちょっと酔っ払い気味なんですが」
「おぅ、知っとるで。そのおっちゃんなら」
「えっ、本当ですか!?」

やっぱりここにお義父さんは来ていたのか。
そしてまた入れ違いになってしまったが、一体どこへ――?

「ワシの隣のバッターボックスにおったから、よぅ覚えとるさかい」
「……もしかして真島さんにご迷惑をかけたりしませんでした?」
「むしろ逆や。楽しませてもろたで」

顎鬚をさすりながら、その時の様子を思い出している真島さんを見て嫌な予感がした。

「そのおっさん、桑田っちゅう大リーガーのコースを選択しとってな。
 ノリノリで予告ホームランのポーズ取って"その綺麗なお顔を吹っ飛ばしてやるぜぇ!"とのたまっとったでぇ」
「はぁ……」
「で、見事にふっとばしたんや。バックスクリーン直撃の特大アーチをや」

そして視線を僕らの方からバッターボックスの方に向ける。

「綺麗な特大アーチやったでぇ。……バットの方やがな」
「うわぁ……。ちょっと、お店のオーナーに謝ってきます」

スクリーンの方を見ると、顔の部分に金属バットが突き刺さっていた。
文字通り、スクリーンに映し出されているグラビアアイドルの顔を綺麗に吹っ飛ばしているじゃないか!
酔っ払ってハンマー投げか何かと勘違いしたのだろうか、お義父さんは。



結局、お店のオーナーにお詫びと事情を説明して後日、詳しい弁償について話をつけれるよう連絡先を教えて店を出ることにした。
このままお義父さんを野放しにしている方がよっぽど危険な気がした。

「真島さんの話ではその後の足取りは不明でしたね」
「あぁ、そのようだな」

またお義父さんに電話を繋いで場所を確認しようとした矢先だった。

「おい! 公園で酔っ払いがチーマーの連中に喧嘩売っているらしいぞ!」
「マジで? そいつ、よっぽどの馬鹿じゃねぇのか?」
「とにかく行ってみようぜ!」

そういって公園があるであろう方角に走り出す若者2人がいた。

「……多分、その酔っ払い。僕の知っている人だと思います」
「……だろうな。気を確かに持て、これでも飲むか?」

ガックリと肩を落とした僕に、桐生さんがポケットから何かを取り出した。

「タウリナーだ。少しだけ気力が回復するぞ」
「いただきます……」


こうして僕らはお義父さんのいるであろう公園に向かうことにした。
どうやって争い事を解決させるかで頭がいっぱいの僕は、足取りがちょっと重かった。


―――――


神室町児童公園――。
僕らがいたバッティングセンターから程近いこの場所が一触即発の場と化していた。

「まったく、君達には大和田君の爪垢を煎じてやりたいくらいだよ!」

一人の酔っ払いが10人はいるであろうチーマーの人達に説教をしているのだから。
説教をしている当人のすぐ横には膝を押さえるようにチーマーの一人が地面をゴロゴロ転がっている。

只の酔っ払いだと思って黙らせようとしたら護身術の関節蹴りで返り討ちにされたのだろう。
腐っても、改め酔っ払っても探偵一族の人間だっただけのことはある。
外道です、まさに外道です。お義父さん。

「組織で誰かの下に付くのは嫌だって奴は世の中にいくらでもいる。その価値観は否定しない。
 だがな、その価値観の元でやってる事がユニフォームを着せて、暴れて騒ぐことか?」
「何だとテメェ!?」
「やるんだったら"暮威慈畏大亜紋土"を超える大所帯のチームにして暴れてみろよ!」

何か説教するポイントが微妙に違う気もするけど、これはどう見ても仲裁とか不可能だよね……。
頭を抱える僕のことなど露知らず、隣の同行者は呟くのだった。

「アイツは……霧切仁?」
「えっ、知り合いだったんですか?」

これは僕も予想外。お義父さんと桐生さんに接点があったなんて――。
僕の問いに答えることなく、そのまま野次馬を押しのけて公園の中に入っていった。

「この公園は清掃がなっちゃいねぇな」
「ん……っ!? き、桐生君じゃないか!」
「久しぶりだな」

やっぱり二人は知り合いだったみたいだ。
そのままお義父さんの隣に立ち、チーマーの彼らを見てこう言った。

「掃除なら手伝うぜ、霧切。ゴミ掃除をな」
「……っ! テメェら、やっちまいなぁ!!」

一触即発は爆発へと変貌したのだった――。





チーマーのヘッド以外のメンバーが一斉に立ち上がり、二人に向かってジリジリと歩み寄ってきた。
しかし二人は怯むことなく、むしろやる気満々だ。

「いくぞ、桐生君直伝……」

そう言ってお義父さんが左足を前に踏み込む構えの姿勢になる。
酔っ払った顔つきが見る見ると素面の顔つきになっていく。

「酔・鉄・山ッ!」

そう叫びながらショルダータックルをお見舞いしていた。
タックルにぶつかったチーマーの一人が隅っこのブロック塀まで吹き飛ぶ。
その距離、約5m――。
吹っ飛ばされた一人はピクピクと痙攣したままで、しばらく起き上がれそうになかった。

「くそっ、怯むな!」
「「おうっ!」」

対峙している酔っ払いが只者じゃないと察知したのだろう、標的をお義父さんから桐生さんに変更して集団で突っ込んできた。
対する桐生さんも集団に向かって走り出した。
その刹那、桐生さんの姿が視界から消えた。

気づけば一瞬で相手の懐に潜り込んで顎にアッパーカット。
その一撃で吹き飛び地面に着地する前に次の標的へ。
その速さは韋駄天(いだてん)の領域だった。

左右2発の裏拳(バックナックル)をお見舞いし、さらに別の標的へ。
猛スピードで迫り来る桐生さんに気づいた3人目。
防御する間もなく加速を上乗せしたストレートの一撃にたちまち吹き飛ぶ。

そして4人目、左手の手首を掴み手刀を打ち下ろす。
「うらあぁ!」
衝撃で跪いたところにスナップフック。

きりもみ状に人が吹っ飛ぶまでの数秒間、誰も微動だにしなかった。
一瞬で味方の半分を失ったチーマー、僕も含めた野次馬達が唖然と見ていた。
まさに"驚愕"の一言に尽きる。

その隙を見逃すほど今の二人は甘くはなかった。
二人とも一瞬で間合いを詰めてきた。
「せぃっ、とぉりゃあ!」
お義父さんが左腕を極めた状態で背負い投げをして、受け身をとらせないまま地面に叩きつける。
「うらぁ!「かはっ!」ふんっ「うおぉぉっ!」……寝てろ!」
桐生さんは頭を掴み、もう一人のチーマーへ豪快に頭を撃ちつけてきた。
ぶつけた時に何故か鐘を突くような音が聞こえたのは気のせいだろうか。


「次は君の番だよ、お山の大将くん?」
「さっさと来い」

最後に残ったチーマーのヘッドを手招きして挑発するおじさん2名。

「ちくしょう、喰らえ!「しゃぁ!」……ぐおっ!?」

大振りな一撃よりも早く、桐生さんのクロスカウンターがヘッドの眉間に突き刺さっていた。
しかし人ってこうも簡単に吹き飛ぶほど軽かったっけ――?

「ぐっ、くぅ……」

それでも意識はあるが起き上がる体力がないようでバタバタともがいていた。
そこを桐生さんが片足を掴み、ズルズルと引っ張っていく。
そのまま野次馬を掻き分けて路上に連れて行くと、駐車している車の前で止まった。
桐生さんはヘッドの方を一瞥して、ニヤリと笑みを浮かべた。

……って、駐車している車をよく見ると見覚えのある車種じゃないか!
まさか、桐生さん――!?

「ちょっと待ってくだ「邪魔だぁッ!!」
\ウワァァァ!/ガッシャアァァァンッ!!!

車の近くでジャイアントスイングをかまし、無情にもフロントガラスへぶつけるようにぶん回したのだった。
その影響でフロントガラスは大破、エンジンキーを挿せば走れるだろうが運転席には大量の破片が転がっているから運転どころではない。
僕は完全に血の気が引いていた。
車のボンネットの上でピクリとも動かないチーマーヘッドの安否を気遣ったわけではない、その車の持ち主に心当たりがあるからだ。
動揺から震える手で何とか携帯電話を握り、車の持ち主に連絡が取れないかを試みた矢先のことだった。

「……もしもし。大至急、修理を依頼したいのだけれど可能かしら?」
「っ!?」

その持ち主が僕のすぐ隣にいたからさらに驚いた。
フロントガラスの割れた赤いスポーツカーの持ち主、希望ヶ峰学園の学園長が電話越しで修理の依頼をしていたのだったから。

「……はい、場所は神室町の西地区にある公園付近で、よろしく頼むわ。……ところで誠君」
「は、はい! なんでしょうか!」

思わず石丸君みたいに直立不動の姿勢になってしまう。
響子さんが僕の肩を思いっきり掴んでいるからだ。
まるで、絶対に逃がさないと言わんばかりに。



「私は今日大変な一日だったわ……。すこぶる機嫌が悪いの」
「ど、どうしてそうなのか、教えてくれませんか……?」
「まず夫と父親の連絡が取れないから捜索をしてみたら歓楽街の神室町にいるんですもの、しかもいかがわしいお店に」
「それは国のお偉い方との接待で「弁解の言葉を求めていないわ」……すいません」

感情を露にさせないよう、ポーカーフェイスを保っているようだが口元はヒクヒクと震えている。

「おまけに父親は施設の備品を壊して逃亡、身内として恥ずかしいことこの上ない話ね」
「そ、そうなんだ。でも僕の肩を握る力が徐々に強くなっているのはどうしてなのかな?」
「まだあるわ。騒動を巻き起こして挙句の果てには私の愛車に危害を及ぼすんですもの」
「ごめんなさいごめんなさいごめんな……あだだだだだ!!」

僕に八つ当たりしないと腹の虫が収まらないのか、響子さんは不機嫌の真っ只中にいた。
外道です、まさに外道です。響子さん。
誰か助けて――! 

「そ、そのへんにしておいた方がいいですよ霧切さん。周りの人たちが見てますって」
「……仕方ないわね。澤村さんに免じてこれくらいにしといてあげるわ」

救いの手は思ったよりも早く差し伸べられた。
響子さんの左隣にいる中学生くらいの女の子が仲裁に入ってくれたのだ。
ありがとう、澤村さん。
その澤村さんが桐生さんの所に駆け寄る。

「おじさん」
「遥……!」

えっ、この娘が桐生さんが言ってた連れのお子さんだったの?
何だか奇妙な縁と感じざるを得ないな――。

「誠君」
「はい、なんでしょう?」
「そんなに畏まる必要はないわ。救急車を呼んで」
「えっ、救急車?」
「加害者の私達が呼ぶのは何とも滑稽な話だけれど、怪我人を放置しておくのは気の毒だわ」

確かに。
匿名の電話でここに救急車を手配するように話している間に、響子さんの車は修理のためにレッカー移動されていた。
大至急って言ったら間髪置かずに来ていたことに吃驚しつつ、僕らは公園を後にした。
警察沙汰になってさらに厄介なことを避けるために。

―――――

クラブ"ニューセレナ"。
桐生さんの馴染みの店だということで、その時間帯にお客さんもいなかったことからお店のママに頼んで貸し切り状態にしてもらっている。

「……あなた達、ちゃんと反省しているの?」
「「「すいませんでした」」」

そう、説教部屋として機能してもらうために。
彼是1時間以上僕ら男性3人は正座をして響子さんの説教を聞いているのだった。
左隣に座るお義父さんをチラリと見ると、何だか顔色が良くない。
足が痺れて悶絶しているのか、はたまた胃から込み上げる何かと戦っているのか。


一方で、右隣に座る"伝説の男"である東城会・四代目の桐生さんの方もチラリ。
こちらは終始目を閉じて俯いたまま響子さんの説教を甘んじて受けていた。
正座して話を聞く姿でも貫禄がある。

「……一番反省の色に欠けている人は誠君のようね。次の特命は東城会の内部を探るってのはどうかしら?」
「それだけは本当に勘弁してください。それ以外の罰なら甘んじて受けますから!」

僕の額は絨毯の羽毛に撫でられていた。
土下座の格好だった。
そんな三人の隣に澤村さんも加わり、深々とお辞儀をするのであった。

「霧切さんのお車の一件は本当に申し訳ありません。たとえ今すぐとは言えませんが、修理のお金はおじさんと私とでコツコツ返していきます」
「澤村さん、子供のあなたが関わる問題ではないわ。口出しは無用よ」
「それでもおじさんの問題は私の問題なんです」
「……あなたが桐生さんを弁護する理由を聞かせてくれるかしら?」
「私とおじさんが……"血"よりも濃い絆で結ばれているからです」

だから、これ以上おじさん達を責めないでください――。
遥ちゃんの一言が室内に重く響いた。

「……私もそこまで鬼じゃないわ。過ぎたことを言っても何も変わらないってことくらい自覚しているわ」

そんな遥ちゃんの真摯な目に根負けするように、響子さんは頬を掻きながらポツリと言う。

「でも澤村さん、後日あなた達の元に修理代の請求をするから忘れないで」
「はい。それで手打ちにしてくださるなら」
「そうするわ。ほら、あなた達も澤村さんに感謝することね」

中学生の娘なのにそんな言葉を使うことに多少戸惑いながらもペコペコ頭を下げることにした。
しかし、響子さん――。日に日に"女帝"という言葉がふさわしいくらい貫禄があるなぁ。
今日に至っては"極妻"みたいな威圧感もプラスして益々迫力があるし。

「……まだ何か言いたそうね、誠君?」
「滅相もございません!」

そんな僕らの遣り取りに皆が噴き出して丸く収まった。


―――――

真島の兄さんと待ち合わせているカラオケ店へ向かう途中のことだった――。

「ところでおじさん」
「どうした、遥?」
「霧切のおじさんとはどうやって知り合ったの?」
「今回と似たようなものだな。酔っ払ってチンピラに絡まれていた霧切を助けたのがきっかけだ」
「それがきっかけで二人は仲良くなったの?」
「いや。名乗らずその場で別れたんだが、この話には続きがあってな」
「どんな?」
「後日、ヒマワリ宛てに"桐生さんに助けていただいた時のささやかな御礼です"という手紙と霧切名義の小切手が郵送されて園長がビックリしてな。
 その頃は風間の親っさんが亡くなってヒマワリの運営が厳しかった時期なだけに吉報だったそうだ」
「どうして霧切さんはおじさんの名前やヒマワリのことを知ったの?」
「どうにもあいつは探偵一家の人間だったらしい。人の身の上を調べるのは朝飯前だったようだ」

手紙に書いていた連絡先に電話をした時のことを思い出す――。

『どういうつもりだ。俺はアンタに名乗った覚えもないし、謝礼を要求した覚えもねえ』
『私個人としてはきちんと御礼がしたかった、という理由があったから行動したまでだよ』
『チンピラの撃退料にしては少々ゼロの数が多い額だったぞ』
『あれ、そうだったかな?』
『とぼけやがって……。返させてもらうぞ、出所の怪しい金なんぞ使えるか』
『それは困るな。忙しくて消費する暇もない私の資産を、有効利用できる絶好の機会なのに』
『どういう意味だ?』
『学園長という仕事は思っていたより忙しくてね、将来の国を担うかもしれない子供達への"投資"と思ってくれないかな?』
『……喰えない奴だな、アンタ』

飄々とした口調で言いながらも、頑として譲ろうとしなかったしな。


「そういえば別れ際にこんな名刺を貰ったんだ」

"私立希望ヶ峰学園 学園長  霧切 響子"

「それと霧切のお姉ちゃん、こう言ってたよ。"あなたが高校生になった時、今以上に魅力的な人になっていたら改めて招待するわ"……だって」
「ふっ、親子揃って食えない奴らだ……」

――後日、アサガオの元に車の修理費の請求書と、請求書分の2倍の金額が書かれた小切手が郵送されたのだった。


【 経験値 6080 を手に入れた 】


"超不運のムコ殿" 完

チンピラに絡まれていた霧切誠という男を助けて人探しに付き合う羽目になった。
しかしこの男、義父に振り回されて嫁の尻に敷かれている光景を見ると肩身が狭そうだな……。


―――――

「おじさん、私タウリナーが飲みたいな」
「よし、買ってやろう」

仲良く手を繋いで歩いていく桐生さんと遥ちゃんの背中を響子さんと一緒に見送る。
お義父さんは結局足が痺れて歩けないということで、一足先にタクシーに乗せて帰宅させることにした。
どうせ僕ら3人行き先は同じなんだから一緒に乗ってもいいんじゃないかと思ったけど、僕へのオシオキはまだまだ終わらせるつもりはないという意向らしい。
神室町から僕らの希望ヶ峰学園までの道のりを、文明の利器を使わずに徒歩で帰宅するわけだ。


「誠君」
「ん、どうかした?」

コンビニの入り口前で停まり、僕の袖を掴んでクイクイッと引っ張りだす。

「私たちはこのまま仕事を迎える事になるわ。それを乗り切るためにも栄養補給が不可欠よ」
「まぁ……そうなるよね」
「私、スタミナンXが飲みたいわ。誠君、奢ってくれる?」


響子さんはスタミナンXが飲みたいようだ……

→『買う』
 『買わない』


「いいよ。なんだったら奮発してスタミナンロイヤルとかスタミナンスパークにする?」
「そんな気遣い不要よ。私はスタミナンXで十分なの」
「うん、わかった。ちょっと待ってて」

\チャリーン/「ありがとうございましたー」

「はい、ご用命のスタミナンX」
「ありがとう、誠君」

響子のご機嫌度 F

\グググ…/
■□□□□□□□□


響子のご機嫌度 F

\ピコーン!/
■■■□□□□□□

【 響子のご機嫌度が上昇しました 】

【 覚書・響子のおねだり 】
誠が響子を連れて神室町を歩いていると発生します。
店の前で響子に「▼」の会話マークが出ていたらおねだりイベントが発生しています。
響子に話しかけておねだりを叶えてあげると響子のご機嫌度が上昇します。
ご機嫌度が一定値に達するたびにランクアップします。
また、ランクに応じたアイテムがもらえます。


――何だか頭の中で何かのパラメーター上昇とアナウンスが聞こえたような気がした。



「はい」
「?」

今度はビニール袋を持ってない手を僕に差し出してきた。
更なるおねだり要求かな?

「ほら、手」
「あぁ、なるほど……」

繋ごうってことか。
僕も左手を差し出し、手袋越しの感触を確かめる。

「反省してる?」
「もちろん。ホステスの娘からもらった名刺はきちんと処分したよ」
「バカ……。そんなこと聞いてないわ」

そう言いながらも僕の指を絡ませるように握ってくる恋人繋ぎに変えてくるじゃないか。
明朝の時間帯ということもあって都心部と言えど、人通りの少ない道を僕らはこのままの状態で歩いた。
そんな中、響子さんが独白するようにポツリと言った。

「そういえばこうやって手を繋ぐなんて久しぶりね……」
「あんまりデートらしいってこと、出来なかったからね」

結婚するまでの交際期間を含めて。
そう、希望ヶ峰学園を卒業した僕らは別々の進路を辿った――。
僕は大学に、響子さんはお義父さんと和解したことで希望ヶ峰学園の職員に。
大学を卒業して僕も希望ヶ峰学園の職員に採用された時期には、響子さんは先代学園長の秘書になっていた。

その頃から世間一般の恋人同士がするような、二人でショッピングや映画を見るということなんて僕らは片手で数えるくらいしか経験していない。
ましてや、こうして僕らが手を繋いで街中を歩くことだって――。
だからこそ二人きりでいられる時間は貴重なものだったし、短い逢瀬と言えど育み続けて結婚に至ったんだし。

「今日だって早めに仕事を終わらせて、また誠君をドライブに誘おうと思ってたのよ」
「そうだったんだ……」
「それが父によって邪魔されたのよ、おまけにビジネスかプライベートか怪しい場所で接待で。
 気づいたら神室町に車を走らせていたわ」
「そんな中、遥ちゃんに会ったの?」
「えぇ、偶然ね。子供が街を出歩く時間には遅すぎるし、そんな風に育てた親の顔が見てみたいって思って同行したの」
「それがまさか"伝説の極道"なんて……」
「流石の私でも予測できなかったわ……」

二人して苦笑する。

「……ホント、今日は大変な一日だったわ。愛車は修理だし、父は醜態を晒す。おまけに夫は知らない女と酒を飲むんですもの」
「うっ……」
「でも、最後には私の望んだことが実現したわ。誠君と一緒の時間を共有するって……」
「響子さん……」
「だから、学園に着くまでこうしてましょ?」

頬を染めて俯きながら言ったのだ。
そんな響子さんを見て、僕は思わず――。


 『響子さんはかわいいなあ!』
 『響子さんはかわいいなあ!!』
→『響子さんはかわいいなあ!!!』



「響子さんはかわいいなあ!!!」
「なっ!?」

大声で叫んでいた。
響子さんに限らず、周りの通行人も思わずギョッとして僕の方を見る。

「ちょっ、ちょっと。人の往来がある場所で高々と叫ばないでよ!」
「それが僕の答えだよ!」

羞恥と困惑で戸惑う響子さん。
こういう表情も久しぶりに見るなぁ――。
それでいて僕の手を離さないことを考えると満更でもないかも?


「やっぱりナマイキね、誠君の癖に」
「ハハッ、褒め言葉として受け取るよ!」
「……バカ!」

バカップルの遣り取りと受け取ったのか、僕らに向ける周りの視線も途端に冷たいものになる。
それに耐えられなかったのか、響子さんが僕の手を引っ張るように走り出す。
そして僕らは逃げ出すように神室町を後にした。



Escape from Butterfly City.
ツールボックス

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