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やりすぎた……彼を焚き付け過ぎた。

「苗木君、ちょっ、ちょっと落ち着いて」
「もう、無理だよ…我慢できないよ……霧切さんが悪いんだからね」


眼前に迫る彼の顔――壁を背にしている私には逃げ場がない。
それに両手を彼に掴まれていては身動きもとれない……
……私も覚悟を決めた。

――――――
あれはそう――夏休み前の期末テストの勉強会をしている時だった。
僕と霧切さんは2人で仲良くテスト勉強をしていた。
セミの鳴き声をBGMに夏特有の湿気と暑さにやる気を落としつつ……。

本来ならクラスの皆と勉強会を開いた方が効率が良いのかも知れないけど
僕が誘うと、皆一様に固辞してくる。
……それも決まって『馬に蹴られたくないから』
なんてワケの分からない事を言って……


「ダメだったよ、霧切さん。…皆でやった方が捗ると思うんだけどなぁ」
「そう……それは残念ね」
その口ぶりとは裏腹にどこか嬉しそうな霧切さん
「2人ならわざわざ図書室に行かなくてもいいわね」
「私の部屋に行きましょう」

こうして霧切さんの部屋に入るのは何度目だろう。
僕らは他のクラスメート達よりは間違い無く親密な関係だ。

こんな言い方したら誤解されるかもしれないけれど……まるで恋人みたいだ。
登下校も一緒だし、霧切さんに仕事の依頼が無い日は2人で遊びにも出かける。
人目が無いところでは腕を組んでみたりもする。
―これは霧切さんが『海外では親しい友人同士なら普通にする行為よ』
なんて言っていたから普通の行為なのかもしれない。
……僕は恥ずかしいが

そんな風に僕と霧切さんはとても仲がいい。
――親友という表現はしっくりこないけど……

この前も2人で遊園地に行ってきた。
人混みの中で霧切さんとはぐれないように手を繋いでみた。

いつも僕ばかり恥ずかしいんだから
こういう時くらい彼女にも驚いてもらおうと思って……。
企みは成功したけれど、結局彼女の倍は顔が赤くなった。


そして帰る前に乗った観覧車では……
雰囲気に流されて霧切さんにキスしそうになった。
僕らは付き合ってはいない。少なくとも現時点では…
その思いが何とか理性を保たせた。
……だって夕陽が差し込む車内で彼女が僕の方にもたれ掛かってきたのだ
…よく我慢できたと思う。
勢いに任せて今まで築いてきたものを全部壊すなんて事――できるはず無い。

僕の勘違いだと思うけど、帰り道の霧切さんは少し不機嫌だった気がする……。

そうして現在に至る。
霧切さんの部屋は妹の部屋しか知らないが
あんまり女の子って感じがしない。
最低限のモノしか置いてないみたいだし…
だから僕の部屋から卓袱台と座布団を持って行った。

それにしても……
「暑いね~こんな事なら2人でも図書室に行くべきだったかも」
「ごめんなさい。クーラーも扇風機も故障していて」
「いや、霧切さんが悪いんじゃ無いよ。故障なら仕方ないよ」

7月の初めとはいえ暑いものは暑い。
それなのに冷房機器が全滅は辛い。
霧切さんの部屋は無駄に日当たりもいいし
およそ夏場に勉強するには向いていない気がする。

「昨日まで動いていたのだけど……ツいて無いわね」
「やっぱり僕の不運かな……」
「それこそアナタのせいでは無いわ」
そう言いながら、シャツのボタンを一つ開ける霧切さん

「………」
「?どうしたの苗木君」
「何でもないよ、暑さで少しボーっとしてたのかも」
「ごめんなさい、何か冷たいもの持ってくるわね」
「!いいよ僕がやるから」
「でも」「いいからいいから」
少しでも気を紛らわさないと……
普段はまず見れない、暑さで上気した頬。汗でうっすら透けるシャツ。
それにボタンが外されて少し露わになった胸元……。
これ以上見ていたら……違う暑さで参ってしまう。

床から立ち上がり
冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出してグラスに氷と共に注ぐ。

霧切さんには悪いけど先に一杯飲まさせてもらう。
……少し頭も冷えた。

「お待たせ。はい霧切さん」
グラスの汗を拭いながら差し出す
「ありがとう」
「ふぅー…人心地つくね」
「ふふ…そうね」



「一息ついたし、続きをしようよ」
「そうね……苗木君悪いけど、そこのヘアバンド取ってもらえるかしら?」
「はいどうぞ……って」
「ごめんなさい少しはしたないけど」
そういって後ろの髪を束ねて、いわゆるポニーテールの様な髪型にした。

「こうすれば暑さもマシになるのよ、上手く結べてるかしら」
そうやって後ろを向く霧切さん……そこには眩しいうなじが!
「う、うん綺麗だよ」
「…上手く結べてるということかしら?」
「!……上手く結べてるよ」
折角落ち着いた心臓がドキドキしてきた。
「さ、続きを始めよう」
気取られぬよう早口で促した。

ダメだ……こんな状態で集中出来るはずがない。
目に焼き付いた綺麗なうなじ。
ふと目を上げるとボタンが2つ外されたシャツ―少し中に着ている肌着も見える。

さっきから一向に頭に入ってこない。
今日は帰った方がいい―そう思った時
霧切さんが先に口を開いた。

「ねぇ苗木君……突然だけど私好きな人がいるの」
「えっ……?」
その一言で僕の思考は停止し、間の抜けた疑問符が口をついた。

ペンを置き、僕の目を見つめながら独白を続ける。
「その人とは学園に入学してから知り合って」
「普段感情を表さない私とは正反対の人で」
「彼のそんな所に惹かれて…最初はただのクラスメートとして」
「次に友人として、次第に彼に興味を覚えて」
「いつの間にか好意を抱いて……」
「色々画策して、何かと理由を付けて彼と過ごして」
「私は彼に夢中で、けれど彼は鈍感で…私の想いに気付かなくて」
「でもそんな所も彼の魅力で―苗木君ここまで言えば分かるわね?」

いつもの様に僕に答えを出させようとする。
けれどいつもと違い霧切さんの目は少し潤んでいて。
それに声も肩も少し震えていて
そんな霧切さんを見ていたら頭に鋭い衝撃を感じた。
突然昨日朝比奈さんに言われた事を思い出したんだ。
『霧切さんは押しに弱い』

「霧切さん……ありがとう。僕も霧切さんの事が好きだよ」
「苗木君……」
そうして僕は立ち上がり霧切さんの手を取った。


やった成功した。
少し予定と違ったが、私の方から告白するのは十分想定内だ。
ただ彼が少し怖い顔をして私の手を取ってきた。

「目を閉じて……」
「はい……」
素直に目を閉じる。焚き付けた甲斐があった。

……唇に感じる暖かい感触
キスはレモンの味―なんて信じてはいないが、とても幸せな気持ちになる。
――唇を舐められた。と、思った瞬間。
口の中に生暖かい感触が入り込んできた。

「っ!?」
驚きの余り一瞬硬直した後、彼を突き飛ばした。
「一体何するのよ!」
「何ってひどいなぁ…僕たちはもう恋人同士でしょ?」
私の好きな柔らかい笑顔でそう問うてくる。
「そうは言ってもいきなりディープなのは……」
「嫌だった?」
「その…さすがにまだ早いと思うの、嫌じゃないけど」
私が顔を逸らした隙に彼が目の前に立っていた。
「嫌じゃないならいいよね?」
「それに霧切さんが悪いんだよ、そんな格好して」
やりすぎた……彼を焚き付け過ぎた。

「苗木君、ちょっ、ちょっと落ち着いて」
「もう、無理だよ…我慢できないよ……霧切さんが悪いんだからね」


眼前に迫る彼の顔――壁を背にしている私には逃げ場がない。
それに両手を彼に掴まれていては身動きもとれない……
……私も覚悟を決めた。

彼がここまで私を求めてくれるなら女冥利に尽きる。


「初めてだから優しくしてね」
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