サンタさんって信じる?

「うー、寒いね。霧切さん。」
「そうね」

もう12月。
寒いのは当たり前なのだが、やはり「寒い」と言ってしまうのが平凡なボクだ。
今日は霧切さんと2人きり。すなわち「デート」。
ショッピングモールを巡り、今は公園のベンチに腰掛けている。

「12月、だね。」
「えぇ」

しばらくの沈黙。
付き合いたてのカップルというのはこういうものなのだろうか、と考えるが
すぐにやめる。
そんなことを考える時間が、今のボクにはもったいない。

「霧切さんは、サンタさんを信じてる?」

と、言った途端になんて幼稚な質問かと後悔する。
霧切さんはしばらく考えるような表情をしたあと、こう言った。

「苗木君は、『さん』付けするのね」

はい、後悔。



「こ、これは偶然だよ!その、いつもは呼び捨てでっ」
「ふふ、苗木君が呼び捨てにするなんてありえないわ」
「うっ…」

恥ずかしい。
きっと霧切さんはなんて子供っぽいと思ってるんだろうな。
そう思っていると、霧切さんは「そうね…」と呟く。

「私は、サンタ『さん』を信じてたのかしら?」

何故か答えは疑問符付きだった。

「どういう意味?」
「私は、サンタ『さん』を…恨んでたのかもしれないわ」
「…え?」

恨む、なんて物騒な言葉が出てくるとは思わなかった。
予想外の答えにボクはただ戸惑うばかりだった。
霧切さんはそんなボクに気づいてか、小さく笑う。

「ごめんなさい、変な事を言っちゃったわね。忘れて」

そういう霧切さんはいつもの微笑だったが…どこか悲しそうに見えた。

「ううん、霧切さんが悲しそうにしてるのは嫌だから。何でもボクに言って。」

霧切さんは驚いた表情をしながらも、「そう」とまた呟く。


「私は…恨んでた。みんなが、サンタサンタと騒いでいるのを。
 でも、勘違いしないで。
 私にも、ちゃんとクリスマスにはプレゼントはあったわ。」
「うん」
「プレゼントしてくれたのは、学校の先生や親戚の人達。
 嬉しかった、本当に。 
 …でも。」

霧切さんは深呼吸をして、話を続ける。

「みんな決まって言うの。
 『大丈夫よ、響子ちゃんにはちゃんとサンタさんがいるからね。』って。
 みんな[可哀想な子]として私を見る。それが、いやだった。
 私には、[あの人]がいないから。
 だから…恨んでいたの。サンタ『さん』を…」

そう言って霧切さんは俯く。うっすらと見える表情はつらそうだった。
それがボクにはつらくて、痛くて、苦しくて。
ボクは気がつけば、霧切さんの手を握っていた。
霧切さんはそれを解こうともせずに、ずっと黙っていた。

「だったら…ボクが」

あれ、と何かおかしい。

「ボクが、霧切さんのサンタになる!」

霧切さんは顔を上げて、ボクを見る。
はは、馬鹿みたいだな。
どうしてボクが泣いて、霧切さんが笑っているんだろう。
普通は逆のはずなのに。でも、止まらない。

「ふふ」

霧切さんがまた笑う。
そして、ボクの頬に流れている涙をそっと拭ってくれる。

「泣き虫なサンタね。でも、私のサンタならそれでいいの。」

そういうと、霧切さんは握っていたボクの手をそっと両手で包み込む。
手袋だけど、暖かさはないけど、でも感じる。
霧切さんだけの、暖かさ。
ボクだけがわかる、大切な暖かさを――忘れない。


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