kk7_679-681

※作中の個人、団体、事件はすべて架空のものです。


 ―――――

「姉さん、起きて、姉さん。ほぉら……!」
「……きちんと聞こえているから揺すらないでくれる?」
「ダメだよ、ほっといたら二度寝するじゃないか。
 明日から寮での生活をするのに、そんな調子で大丈夫なの?」
「そんな気遣い不要よ。……弟のクセに生意気ね」

そう文句を言いながらノッソリと起き上がる女性。
僕の姉さんだ。
パサつく寝癖も気にせず、欠伸をかみ殺しながら椅子に座った。
「朝ご飯」
「はいはい、もう少しで完成だよ」
フライパンで炒めたスクランブルエッグを二枚の食器に盛り付ける。
皿の隅っこにケチャップを添えれば出来上がった。
「はい、どうぞ」
「ん、ありがとう」
エプロンを椅子の背もたれに掛けて、僕も姉さんとは反対側の椅子に座る。
普段使うことのない、もう一つの椅子に。
「それでは手を合わせてください、いただきます」
「……いただきます」

それ以降、僕らは無言で朝食を食べて食器が鳴らす音しか響かなくなった。



まずはオーソドックスに自己紹介から始めたいと思う……。
僕の名前は霧切誠だ。

外見はご覧の通り、どうしようもないほど平均的な普通の高校生。
強いて特徴を挙げるとすれば、僕の家族が探偵一家だということだろうか。
行く先々で事件に遭遇し、お爺ちゃんの名をかけて華麗にズバッと解決する名探偵……ってわけもなく。
性格にも特技にも成績にもこれといった特徴はない。

むしろ、探偵一族の才能を色濃く発揮しているのは目の前にいる僕の姉、響子姉さんの方である。
だからこそ、当主であるお爺さんの傍にいて"超高校級の探偵"と呼ばれるくらいの凄腕の探偵になっているほどに。

そもそも僕らの家族も少々事情があったりする。
まず、父さんと母さんがいない。 正確には「いた」の過去形だ。
母さんは僕らが幼い頃に亡くなった。
そのすぐ後に今度は父さんが僕らの元を去るように家から出て行った。
姉さんはお爺さんに引き取られる形で海外にある霧切本家へ。
対する僕は母さんの親戚筋に引き取られた。

今の学費や生活費といったお金は、お爺さんからの援助で成り立っている。
そうして今はマンションの一部屋を借りて、一人暮らしをしながら高校に通っていた。

一家離散していたけど海外で暮らしていた姉さんがこのたび、希望ヶ峰学園に入学することになった。
荷物も既に送ったようで、手ぶらで僕の部屋にやってきた。
なんでも、ホテルで宿泊するよりは効率がいいという理由から僕を訪ねてきたようだ。

……でも年月の積み重ねは時に人を変えてしまうものだ。
昔はあんなに笑って一緒に遊んでいた姉さんが、物静かな印象になっている時はびっくりした。
それでも、姉という特権を駆使して僕を使い走りにしているところは相変わらずだったけど。

「姉さんは今日の予定、どうするの?」
「私はそうね……家で休んでいるわ。 昨日の誰かさんの引越しの手伝いをして疲れがまだ残っている感じね」
「それだったら僕の部屋のベッドを使う? ソファで寝てても疲れが取れると思うよ」
「あら、誠は出掛ける予定なの?」
「うん、人と会う約束があるんだ」
「そう……。ガールフレンドだったりする?」
「それは違うよ! あ、それとお昼は外で食べるから姉さんも適当に頼むね」
「わかったわ。それと、あまり遅くまで遊んでちゃ駄目よ?」
「もちろん、明日の入学式が朝の8時集合だからでしょ?」
「えぇ。入学早々、姉弟で遅刻なんていう失態は勘弁してほしいわ」

食べ終わった食器を洗いながら、そんな遣り取りをする。
そして僕は着替えて外出することになった。

 ―――――

希望ヶ峰学園には入学願書というものがない――。
それはスカウト制を今も貫いていて、姉さんのように才能溢れる人に入学案内の書類が届く。
それが僕のような普通の高校生がこのたび、姉さんと一緒に希望ヶ峰学園に入学することになった。なぜか。

全国にいる高校生の一人から抽選で選ぶ"超高校級の幸運"という枠に僕が選ばれたからだ。
そんな当選を伝える文面と一緒に入学案内の書類が入った封筒が先日、僕の部屋に届いた。
そこからは慌てるように転校手続きや、入学に必要な書類の準備を用意していた。
昨日になって姉さんの力を借りながら寄宿舎に送る荷物を送ったばかりだ。


そんなここ数日のドタバタぶりを振り返りながら腕時計の刻む時間を確認する。
約束の時間まで2分を切っていた。

指定した喫茶店の窓から外の様子を眺めていると、黒塗りのリムジンが駐車する。
その後部座席から出てくる黒スーツの男性が、そのまま喫茶店の入り口のドアを開けて入店した。
入り口で店員と二三、遣り取りをした後に僕の向かいの席に座った。

「私はブレンドを一つ。……お前は何を飲む?」
「同じもので」
「じゃあブレンド二つで」
「かしこまりました」

そう言って店員は店の奥に下がっていった。

「さて、私にはあまり時間がない……。話せるとしても10分だ」
「……10分でも僕には十分な時間だよ」
「そうか」

希望ヶ峰学園の学園長であるあなたと話が出来る時間があるならば。
僕の父さん、霧切仁と親子の会話が数年ぶりに交わされた。

「まずは……入学案内の書類の中にあった"来い"っていう手紙を書いた理由を教えてくれる?」




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