霧「あら、苗木君」
苗「あ、霧切さん! 良かった、丁度用事があったんだ」
霧「私に用事……その手に持っているゴミ袋からすると、トラッシュルームに関することかしら?」
苗「うん。清掃当番、霧切さんだったよね」
霧「ええ。そうよ」
苗「シャッターを開けてもらいたいんだけど、いいかな? ……あ、忙しいんだったら鍵を貸してくれるだけでもいいんだけどさ」
霧「いえ。時間も空いているし、付き合うわ」
苗「本当? 悪いね」
霧「構わないわよ……用事はそれだけ?」
苗「え?」
霧「それだけみたいね。その様子から察するに」
苗「うん。時間は取らせないから、安心してよ」
霧「……そう」
苗「? どうかした?」
霧「別に……何も。それより、早く行きましょう(スタスタ」
苗「あ、ちょっと待ってよ!」
霧(何であんなことを訊いてしまったのかしら、私……あれではまるで彼に構ってもらいたいみたいじゃない)
苗(どうしたんだろ、霧切さん。なんだかちょっと残念そうにも見えたけど……気のせいだよなぁ)
苗「よっ……と。これで全部かな」
霧「随分貯めこんでいたのね」
苗「うん……ゴミを捨てるにも清掃当番を探さなきゃいけないから、面倒くさくてつい、ね」
霧「気持ちは分からなくもないけれど、あまり感心はできないわ」
苗「ははは……。ま、ともかく後はボタンを押して焼却するだけってことで」
霧「…………」
霧(苗木君の部屋のゴミ、か……)
霧(この学園内で出る部屋のゴミなんて知れたものだけれど……それでも、そこから得られる情報はそれなりにあるでしょうね)
霧(例えば、苗木君が倉庫にあるお菓子の中で何が好きなのか、とか……人となりを知るのにゴミは恰好の情報源……)
霧(あるいは……使い古した歯ブラシだとか、穴の開いてしまった靴下だとか……)
霧(……苗木君の……使った……)
苗「あの……霧切さん?」
霧「……!?」
苗「どうしたの、突然ぼーっとして?」
霧「そ、それは……」
苗「?」
霧「……少し考え事をしていただけよ」
苗「そ、そう?(なんだか妙に嬉しそうというか……こころなしかニヤけてるようにも見えたような……)」
霧「ええ、あなたが気にすることじゃないわ……。ボタン、押すわね」
カチッ
ゴォォォォォォ
霧(まったく……何を考えているの、霧切響子。ストーカーじゃあるまいし)
霧(大体、何故彼に対してそんなことを……? 彼はただの級友で……それ以上でも以下でもないはずなのに……)
霧(いえ、それ以前にそんな真似をしてしまったら、霧切の、超高校の■■の名が……)
霧(……あれ?)
霧(超高校級の……何だったかしら?)
霧「……用事は済んだわね。それじゃあ、もう行くわ」
苗「あ、ちょっと待って!」
霧「何? 用事はこれだけだったんでしょう?」
苗「霧切さん、まだ時間ある?」
霧「別に……火急の用は特に無いけれど」
苗「あの、よかったらさ。食堂でもお茶でも飲んでいかない?」
霧「……いいの?」
苗「『いいの』って……ボクが訊いてるんだけど」
苗(なんだか……霧切さんらしからぬ受け答えだな。さっきの考え事と何か関係があるのかな……?)
霧「…………」
霧「……いいわ。丁度、あなたと話がしたかったところだし」
苗「ボクと?」
霧「ええ。偶にはあなたの話も聞いてみたいと思ってね……あなたの、個人的なことについての話をね」
最終更新:2012年06月23日 09:53