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―――――

机の引き出しの中に入れていた写真を取り出す。
そこには僕ら4人がニッコリ笑って写真に収められている。
姉さんは父さんに抱っこされ、僕は母さんの膝元に座って。

でも、写真に写る家族と今の家族は様変わりしてしまった。

父さんはいなくなった。――家を捨て、僕らを捨てて。
母さんには会えなくった。――会いたくても二度と会えない距離にいる。
姉さんは変わってしまった。――"超高校級の探偵"として。
僕だけが昔と変わらないまま過ごしているようで。
僕だけが子供のまま大人になれていないようで。


そっと写真を机の中に閉まってベッドに横たわる。
目を閉じたところですぐに眠れるわけもなく、父さんと交わした会話の遣り取りを思い出す。

"お前から見れば私は家とお前達姉弟を捨てた男でしかない。それでも見守りたかった気持ちが抑えられなくて、な"

明日から離れ離れになった僕らの家族が、再び一つになって再開される。
けれど、バラバラになったけれど再生することができるのか――?
身近な距離にいられるようになったけど、心だけは遠いままな気がしてならなかった。
僕だけでなく、姉さんも父さんといつかは向き合わないといけない気がした。


トントン、と襖を叩く音で意識が現実に戻る。
「……誠、ちょっといいかしら?」
「うん。いいよ、姉さん」

その返事の後に襖が開く。
僕が貸したパーカーとジャージを寝巻きにした格好で、右手には枕代わりのクッションを抱えている。
その状態から姉さんが何を要求しているのかわかったけど、敢えて聞いてみることにする。

「寝る時間に僕の部屋に枕持参って……」
「なによ、文句があるならはっきり言いなさい」
「……別に。ソファーよりベッドの方が寝心地良かったんだよね? いいよ、寝床を交換しても」

僕も自分の枕を抱えて自室を出て行こうとする。
もとより、寝付けない状態だったから気分転換にもなるので姉さんの口から出そうな提案に乗ることにする。
しかし部屋を出ようとする僕を阻むように姉さんが立ち塞がった。
なぜだろう。

「べ、別に家主のあなたを蔑ろにしているわけではないわ。
 ただ、その……昼間にあなたのベッドで寝てたら予想以上に心地よく眠れたからであって……」
「僕のことなら気にしなくていいよ。ベッドなら使っていいよ、姉さん」
「だからそうじゃなくて……。誠、私はあなたと一緒に寝たくてここに来たの」
「……えっ?」

突拍子もない要求に頭の中が真っ白になった。


「ちょっと、疚しい目的があって要求しているなんて勘違いをしないでくれる?
 私が言いたいのは明日の朝、遅刻しないためにもすぐに起こしてもらえるように近くにいればいいという合理的な手段を選んだだけで一緒に寝ることを提案しているのよ。それをわかっているのかしら?」

頭が真っ白になった僕に反論させる隙を与えず、一気に捲くし立てるのであった。
……なんていうか、すごい理論武装を見た気がする。
このまま拒んだところで姉さんは一歩も引かなそうだし、一緒に寝るか寝ないかの議論で朝を迎えそうな予感がしてきた。

「……わかったよ、姉さん」
降参をするポーズをとって自分のベッドに戻る。
「ほら、狭いからって文句は言わないでよ?」
壁際の方に寝転がって一人分は入れるスペースを作り、そこに入るようポンポンと布団を軽く叩く。
「……ありがとう、誠」
何だかんだで嬉しそうに布団に潜り込んでくる姉さんだった。

自分が掛け布団を掛け、姉さんに照明の紐を落としてもらう。
「おやすみ、誠」
「ん、おやすみ」
姉さんの方に背中を向けて、壁に返事をするように素っ気無い挨拶をして床に着いた。


「…………」
やはり、眠れない。
父さんの真意、明日からの学園生活、それに加えてすぐ隣に姉さんの気配。
そのどれもが気になって寝ようという気がさっぱり起きなかった。
こうなればいっそ、羊の数でも数えていた方がいいかもしれない……。
そんなことを考えていた時のことだった。

「……誠」
独り言をつぶやくように姉さんは僕を呼ぶのだった。
「な」
にかな、姉さん――。
その言葉を言おうと振り向いた瞬間、僕の視界はパーカーのジッパー部分でいっぱいになった。
「そのままでいいから聞いてほしいことがあるの」
一瞬、何が起こったのかわからず頭を動かそうにも動けない。

「今から言うのは私の独り言。だからあなたは聞き流すだけで返事はしなくていいわ」

頭の上から聞こえてくる声に、ようやく僕は姉さんの胸元で抱きしめられたまま話を聞く体勢になっていることに気づいた。
姉さんの胸……は、パーカーの生地で感触がさっぱりわからない。

「私が探偵として業務を始めて間もない頃、一人の男性の身辺調査をすることになったの」
僕が不純な理由でドキドキしていることなんて露知らず、姉さんの独り言が始まった。

「その人の戸籍には"子"と記されているけど、民法817条の2による裁判確定に基づく入籍だとも記されていたの。
……つまり、その人は養子。正確には特別養子縁組に該当した」
養子、その単語を聞いた途端に僕の心臓が強く跳ねたような気がした――。
「条件が色々あるけど結果的に男の人……正確に言えばその男の子は、とある家族の一員となりました」
気づいたら昔話を語るような口調で独白を続ける姉さんだった。

「私がその人の実の父母や出生の秘密を知りたかったのは単純に恩返しのつもりだった。
 いつか、その人も一人前の大人になった時に告知することは里親の義務だと思ったから。
 ……もっとも、引き取った当人が半ば放棄する形で疎遠になってしまったけど」
自嘲めいたつぶやきが、暗闇の室内に木霊する。


「それでも、その男性……いいえ、誠は私個人に家族の絆を結び付けてくれた。だから……」
僕を拘束していた両腕を緩めて、今度は両頬に手を添えて僕と目線をやっと合わせてくれる。
「だから、今日で家族ごっこは終わりにしましょうか?」
「な、なにを突然言い出すんだよ、姉さん……!」
「明日からの学園生活を機にあなたを弟ではなく、クラスメイトとして相手をしようという意味よ」
芯の通った力強さを持ったその瞳で僕を射抜き、通告した。
あの時のように――。

―――――

『誠、よく見なさい。他人に情を抱いたせいで判断を誤った成れの果てを……』

数年前にお爺さんから本家に呼ばれた時のことだった。
そこで姉さんと久しぶりに再会したけれど、神妙な顔つきで姉さんの部屋に招かれた。
再会の挨拶も省略して姉さんはおもむろに手袋を脱ぎ、その手を僕に見せた。

『…………!』
その傷を見たショックで青褪めている僕の感想を聞かず、姉さんは話を続ける。

『これは私が自分の経験から得た教訓よ。
 だから誠……。自分も探偵になろうっていう志は今すぐ捨てなさい」
『なっ……!』
『たとえ姉弟でも、あなたのいる日常と私のいる日常では違いがありすぎるの。
 誠が探偵を目指しているっていう噂を聞いたから私が直々に釘を刺しにきたの』
『! 姉さんは、知っていたの……?』
『バカ正直なあなたのことだから、この手以上の結果を招く可能性が高いわ。
 私を追いかけて探偵になろうという考えは今日限りにしなさい』

何度か手紙の遣り取りをしていたのに、実際に会った時のギャップに戸惑う僕に追い討ちをかける姉さん。
たとえ今は探偵として開花していなくても、将来はワトソンのような姉さんの助手くらいになろうと夢見て勉強に励んでいたのに。
何だか僕の知っている姉さんの姿をしているけど、中味が別人みたいなショックで泣きそうになった。

『そんなに悲観的な顔をしないで……。あなたを信用していないから否定する訳じゃない。
 むしろ、信用している。だからこそ説明だけはしておこうと思ったの』
『説明……?』
『あなたまで探偵一族に囚われる必要はないのよ……。
 だから誠、あなたは自分の進みたい道を進みなさい』

脱いだ手袋を嵌めて僕の頭をあやすようにポンポン、と撫でる。
手袋越しの感触だったけど、子供の頃に僕をあやしてくれた力加減で頭を撫でてくれた。
冷たい人だと思った目の前の人は、やっぱり僕の姉さんだとわかった時の安心感――。
もう、あの頃のように暖かい手で撫でてくれることはないという寂寥感――。
色んな気持ちが一つに混ざった時に、気づいたら僕は涙を一筋流していた。

『ほら、これからお爺様にも挨拶をするんだから何時までも泣いてちゃ駄目よ?』
そう言って親指で僕の涙を拭ってくれた。


こうして僕はこの日から探偵一家の息子だというこだわりを捨てた。
そして、お爺さんと話をしてこれからの進路をどうするかを話し合った。
自分一人になってもたくましく生きられるようにと、一人暮らしを申し出たらお爺さんは快く応じてくれた。
そして叔父さん夫婦にも協力してもらうよう説得して、今の生活を確立した。

―――――

思えば、この時から僕は養子だったことを調べて実の姉弟じゃないことを姉さんは知っていたかもしれない。
そして、姉さんはあの時のように、また僕を遠ざけようとしているの?


僕に探偵というこだわりを捨てさせたように。
今度は霧切家の子供だというこだわりまで捨てさせようとするの――?
僕は姉さんの意図が読めず反論した。

「そんな他人みたいな関係は嫌だよ! 姉さんも父さんみたいに才能の優劣でしか物事を見れなくなったの?」
僕の知っている姉さんではない現実を直視するのが嫌になるかのように、目の前の姉さんから目を逸らしてしまう。
でもすぐに顔を挟んでいる両手で無理矢理振り向かされて、僕の視界に姉さんの顔が入る。

「そんな筈ないでしょう、誠。言っていいことと悪いことの区別くらいあなたはわかっていると思ったけど違ったようね」
姉さんの目が冷たく鋭い。本気で怒っている時の目だ。
「私があの男みたいにあなたを蔑ろにしたことも、利用したい時だけ利用するような人間として扱ったことがあったかしら?」
「そんなはずないよ! 姉さんがそんな非情なわけないじゃないか!」
昨日今日のご飯を食べさせろって、おさんどん扱いされていることは目を瞑る。

「僕としては今まで通りの遠慮なく言い合える家族のような関係をこれからも続けていきたいよ。
 でも、姉さんがクラスメイトの関係を望んでいるなら僕も姉さんに従うよ……」

あの時のように感情が昂ぶって今にも泣きそうだけど、これだけは姉さんに伝えておきたい言弾(コトバ)があるんだ――。


「これだけは覚えていてほしいんだ。たとえ血の繋がりがない姉弟という関係であっても、霧切響子という女性は僕のかけがえのない姉さんだよ。
 今までも、そしてこれからも……」


一世一代の告白みたいな姉弟宣言だった。
さすがに姉さんの反応が怖くて、顔を姉さんの胸元にダイブさせる。
聞き分けのない子供みたいで怒られないか、今すぐ離れなさいって拒絶されないかっていう姉さんのリアクションが怖い。

「……困った弟ね」
困ったって言っているけど、どこか嬉しそうな声で答えてくれる。
そして僕の頭に手を置き、毛繕いをするかのように優しく撫で回してくれる。
それが僕には嬉しかった。

「……もっと」
「えっ?」
「もっと、撫でてほしいかな。姉さんに……」
「そう。……尚更困った弟ね」

昼間に父さんにも撫でてもらったけど、あの時はおねだりのタイミングを逃して物足りなかった。
ダメ元の小さい声でリクエストしてみたけど、しっかり姉さんには聞こえていたみたいだ。
そして今度は頭全体をくしゃくしゃと撫で回してくれる。
髪型がどんなに乱れようとお構いなしの強さで。


「明日からは新しい関係になるからさ、今日だけは存分に甘えさせてよ……」
「その調子じゃ先が思いやられるわね。……いいわ」
「えっ?」
「……二人きりなったら姉弟の関係に戻ってあげてもいいって言ってるの。
 だから姉さんの言うことはちゃんと聞くのよ、わかった?」
「うん……」

ありがとう、姉さん。
僕の願いを聞いてくれたから、姉さんのためなら僕は何でもいうことを聞くよ。


「……フッ、チョロいわね」

グシャリ、と何かが潰される音を聞いた気がした。

「これからの共同生活で姉としてのイニシアチブを握るために唆したけど、こうも簡単に行くとは……嬉しい誤算ね」

――僕のプライドが踏みにじられる音だった。
あざといな姉さん流石あざとい。
だが僕もこのままでは終われない。まだ終わらないよ!

「まずはそうね……。目覚ましのアラームだけでは起きられない私を毎日起こすことを要求するわ。
 スペアキーを貸すからなくしちゃ駄目よ」

僕の頭を撫でたまま、これからの寄宿舎生活で僕をどうパシらせようか考えている。
隙だらけだね、姉さん。
そう――ボディが、お留守だよ!

「それと、今日みたいな乱暴な起こし方じゃなくてもっと優し……ひゃう!」
まずは腰をふにふにと揉む。

「コ、コラッ!? やめなさい、まことッ!」
突然の攻撃に姉さんが戸惑いながら中止を求めてくる。
だが断る。
ガードが緩くなったところでパーカーの中に手を忍ばせ直にこちょぐる。
腰からわき腹を指先で、それはもう念入りに。
姉さんの様子をチラリと見ると、手で口元を押さえて叫ばないように必死だ。

「ん、くぅ、あっ、はっ、やっ」
それでも押し殺した声が漏れる。
今度は爪先で軽く「の」の字を描くように。

「くひっ! ふぅっ、あぁっ! んんぅっ!や……やめぇっ!ふあっ!」
効果は、バツグンだ!


「くぅ、まことぉ!」
姉さんも黙ってくすぐられているわけでもなかった。
僕の頭の癖っ毛を鷲掴みにして、もう片方の手で僕の口元を掴む。
「や・め・な・さ・い!」
発音に合わせて雛のようなピヨピヨ口にされる。
昔の僕ならピヨピヨ口の刑で降参していたけど、今は違うよ!

側面の攻撃には耐性が付いたと思うから背面を攻撃する。
そう、背骨を二本の指でなぞるように往復する。

「……っ!」
「っ!?」

そこで気づいてしまった。
胸の辺りでブラジャーの紐という障害物があるかと思いきや、なかった。
まさか、姉さんって寝る時は下着を着けない派だったのか――!
衝撃の事実に思わず僕の手が止まってしまった。


それが"運"の尽きだった。
プチッ、と何かが切れるような音がした。
「誠……。オシオキが必要ね」
姉さんの堪忍袋の緒が切れた音だった。

まずは逃がさないように両足で僕の腰に巻きつき、固定(ホールド)する。
下半身の固定が済んだら、次は上半身の固定。
「あだだだだだだ!!」
――そう、拳骨で僕のこめかみ部分をグリグリしながら。

痛さから逃げたくても動けない状態。
頭を万力で締め付けられるような痛みに僕は耐え切れず、姉さんの腕をタップして降参の合図をする。
「ば、ばかぁ……っ」
そう文句を言いながらも、姉さんは僕の拘束を緩めて解放してくれた。
僕は頭の位置を姉さんと合わせるように枕元まで移動した。


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――。
僕と姉さんの喉から搾り出すような声と同時に吐き出される呼吸音。
明日は早いというのに夜中に姉弟揃って何をしているんだろう。

「ごめん、姉さん……」
「ば、ばかぁ……っ」
涙目になりながら、か細い声で僕を罵倒する姉さんの声に今更ながら罪悪感が沸き起こる。
「もう、絶対に許さないんだから」
「それは辛いよ……。何でも言うことを聞くから許してくれないかな?」
「ホント……?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、即座に泣き止み笑顔を浮かべてくる。
先ほど写真で見た姉さんの写真とイメージが重なる。


「きちんと私の言うことが聞けたら許してあげる」

そう言って姉さんは僕の首に手を回し、胸に軽く頬擦りをしてくる。

「私を抱き締めたまま朝まで眠らせて」 
「……それで許してくれるなら」

お安い御用だよ。

背中と首に腕を回し、ぎゅっと抱き締める。  
強く、だけど優しく。  

「おやすみ、姉さん……」
「おやすみなさい、誠」

ふと、子供の頃に一緒に昼寝をする時もこんな格好をしていたことが脳裏を過ぎった。
――なんだ、僕と姉さんとの関係は今も昔もサッパリ変わってないじゃないか。
僕といる時だけはあの頃のように遠慮もしないし、思ったことを言い合える仲だったわけだ。

年月の積み重ねは確かに人を変える。
でも、変わるものもあれば変わらないものだってあることを姉さんとの関係から僕は証明することができた。
たとえ変わったところで、その関係が終わることはなく、より強固になった――。

―――――

その巨大な学園は、都会のど真ん中の一等地にそびえ立っていた。
まるで……そこが世界の中心でもあるかのように。

「本当に……すごい所に来ちゃったよな……。
 僕みたいなのが、こんな学校でやってけるのか……?」
「必要以上に不安になることはないわ、誠」
「姉さん……」

正門の前で僕と姉さんはそびえ立つ建物を眺める。
でも、いつまでも校門の前で立ち往生してる訳にもいかないよな……。

「それと、誠が才能のない非凡という理由で虐げる人間がいたらすぐ私に相談しなさい。
 ……その人を徹底的に調べ上げた後に社会的に抹殺するから」
「それは駄目だよ!」

なんだかホントにやりそうだから怖い。
それくらい姉さんの目は本気だった。
ふと、"本気"という単語から思い出すことがもう一つあった。


「ところで姉さん、入学式に本気でやるの……?」
「当然じゃない」
「新入生代表の挨拶で……」

父さんに絶縁状を叩きつけるなんて。
その行動の結果、修羅場になりそうで怖い。
姉さんと父さんの絆が完全に絶たれそうなのが本当に怖いんだ。

「私は霧切一族の代表としてあの男を糾弾するだけよ。誠が気に病む必要はないの」
「それでも姉さんが問題児っていうイメージが尾を引きそうで怖いんだ……」

もし、姉さんがクラスで浮いた存在になっても僕がフォローすればいい話じゃないか。
そして父さんとの関係も切っても切れない関係だ。

僕は姉さんのように父さんとの……絆を絶てるのか?

「やっぱり、僕は姉さんみたいに父さんを赤の他人には見れないよ……」
「そう……」
「そんなの……。そんなの僕には無理だよ」
「…………」
「だから……僕はずっと引きずっていくよ」

捨てられなんかしない――。
父さんを見るたびに家族として過ごした日々は思い出してしまう。
昨日、父さんに会って家族のような関係に戻れないかと思ってしまった。
姉さんみたいに赤の他人として割り切ろうと思っても、僕にはきっとできない。

「家族みんなで過ごした日々を引きずったまま、僕は進むよ……」
「……割り切ることより、ずっと大変な道を選ぶのね」

姉さんが始めの一歩を踏む。
僕の一歩先を進み、道標になってくれるかのように。

「でも、あなたはそのままでいいのかもしれないわね……。
 その方が……誠らしいわね」

僕も遅れないように姉さんの横を歩く。
姉さんに守られるだけの存在ではなく、共に支え合う存在になれるように僕はなる。


"新入生は8時に玄関ホールに集合"
たかが初登校とは思えないほどの大袈裟な決意を固めて、僕らは玄関ホールへと足を向けた。


『序章 超高校級の姉弟』から抜粋――。

―――――


『――さぁ、今週のブックランキング。栄えある第1位は、こちら!』


 腐川冬子著 "僕の姉さんがこんなに可愛い理由がない!"


『探偵一族の息子として拾われた主人公、誠。
 義理の姉、響子と共に義父の計らいで同じ高校に転入することになった。
 そこで待ち受ける数々の事件。
 "鬼才"、腐川冬子が放つ異色のサイコポップラブコメディ、略して"ボクアネ"!

 我々、番組スタッフは著者の腐川冬子氏に直撃インタビューをすることが出来たのでご覧いただこう!』

そんなナレーションの後に腐川さんの姿が映し出される。
僕はそっとテレビを消して、携帯電話の呼び出しボタンを押した。
そして待つこと数コール、今度はきちんと本人が出てくれたようだった。

「……もしもし、腐川さん? あの本ってどういうこと?
 架空の話っていうけどさ、僕と響子さんをモデルにしているよね?
 それに、苗字もそっくりそのまま使っているのはどうかと思うよ。
 ……え? 今は籍を入れているから問題ないって?
 いやいや、確かにそうだけどこれはこれ、それはそれの別問題じゃないのかって……」




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