kk9_243-252

私たちが希望ヶ峰を卒業して五年――今日は同窓会を楽しんでいた。
それぞれ事情はあるものの殆ど皆が揃っていた。

私も仕事の都合で毎年恒例のこの行事に参加できない時もあったけれど。
彼女―舞園さやかさんだけは今まで一度も参加できていなかった。
今や押しも押されぬトップアイドル。それに女優業やタレント業等テレビに映らない日は無い程だ。

そんな舞園さんに二次会に誘われた。二人だけで、と念を押されて……。

――――――――
一応身分を隠すためのメガネを付けた彼女だが、道を歩いているだけで通行人がこちらを見ているのが分かる。
そこで舞園さんに連れられて、業界人御用達の個室のあるお店に入った。

何やら相談事があるらしいが、おおよその見当が付いている……。
付いているからこそ憂鬱な気分になってきた。
いや、遅かれ早かれ分かることだ……はっきりさせておいた方がいい。――いいのだけれど……

「ゴクゴクッ……聞いて下さいよ霧切さん!」ドン
可愛らしい外見とは裏腹に、男らしい豪快な飲みっぷりだ。
「また苗木くんったら………」

――そう、この元超高校級のアイドルと私は、高校時代から同じ悩みを抱えていたのだ。
ある男性が好き―それも同じ男性が。
一部の才能に特化した超高校級ではなく、抽選で選ばれた幸運の持ち主をだ。

「グビグビッ……聞いてますか!?」
「え…えぇ……ちゃんと聞いてるわよ。また苗木君が、でしょ?」
「そうなんですよ!アイドルは恋愛禁止!なんて制度でメールのやり取りをするのも難しいのに」
「それでも休みを調整して、まずバレないようなお店も選んで、一緒に食事で
も。って私から誘ってるのに!」
「皆で行こう?なんて返すんですよ!……信じられません!!」

「…そうよね、あれは鈍感なんてレベルじゃ無いわ」
「……こんな事ならアイドルなんてならなきゃ良かった……グビグビッ」
「落ち着いて舞園さん。そんなに一気に飲んだら身体に毒よ」
「飲まなきゃやってられませんよ!……それに明日も休みにしてあるんで大丈夫です」
「そ、そう……」
舞園さんの目が据わっている。お酒も回って顔が赤い
完全に酔っ払っているようだ、でなければ彼女の口からアイドルを――なんて出るはずがない。


「…今日だって……もしかしたら、万が一があるかもって。そう思ったから明日も休みをとってあったのに」
「そんなに簡単に行くなら今まで苦労してないわ」
そうよ…そんなに簡単に行くなら………。それに聞き捨てならない発言が…。

「そうですよね。でも、久々に会えたんだから、何らかの進展があってもいいんじゃないですかね……」
「一応苗木くんって、私のファンですよね?」
「何を今更…」
何を今更言っているのだろう。自分がどれ程有利な立場からスタートしていたのか分かっていたのかしら。

「そうなんですよね、……それなのにおかしいじゃないですか!」
「私のファンの中には本気で私の為なら死ねる!なんて言う人がいるんですよ」
「そこまでは求めてないですけど、せめて好意を見せてほしいです。確かな好意を……」

「確かな形で見せてほしいわよね、思わせぶりな事ばかりしないで」
「そうですよ!苗木くんは優しいから。……その優しさが人を傷付けるってこと、知らないんですよ」
「あ~あ……どうしてあんな残酷な人を好きになったんだろ」



「……同感ね。けれど彼が魅力的なのも事実よね」
段々胃が痛くなってきた……これから伝えなければいけない事実が重たすぎる。
けれど、さんざん引き延ばしてきたのは自分だ。
それでも――犯人を指摘するときよりも緊張しているのがわかる。


「そうなんですよね……頭では分かってるんですよ。諦めて違う男性を好きになった方が建設的だって」
「けど……やっぱり理屈じゃないんですよね」

「でも、その方が良いかもしれないわ。もし、万が一既に恋人が居た場合、虚しいだけでしょ?」
そうよ、諦めた方がいいわ。ここで諦めてくれたら……

「そんな事言って、ダメですよ霧切さん。そうやってライバルを減らそうとするなんて」
「あら、残念」
「私、エスパーですから」
本当にエスパーなら悟ってほしい……なんて柄にもなく愚痴りたくなる。罪悪感が募る一方だ。


「ところで霧切さん、ずっと私だけが喋ってないですか?それに、何だか余裕ですよね」
「霧切さんもどんどん飲んでください。私の奢りです。その代わりじゃんじゃん愚痴りましょう」

「余裕なんてそんな、第一大して飲めないのよ」
「まぁまぁ」


――――――――
「……それでね、苗木君たら私の部屋に物がなさすぎるって……」
「へぇ……」
霧切さんがお酒に弱いというのは本当みたいだ。

私たちの付き合いは長い、素面の時はめったに感情を表に出さない事も重々承知している。
けれど彼の事――苗木くんの事を話すときは分かり易い。
苗木くんの事を話すときは心なしか照れくさそうな、嬉しそうな……そんな表情になる。
お互い同じ人が好き、だからこそ私達は仲良くなれたのだ。


だけど、これほど酷い裏切りがあるだろうか……。
「それでね、誠君たら一緒に買いに行こうって……」
まただ、さっきから何度か苗木くんの事を誠君って…
…少なくとも今日の同窓会の時には「苗木君」と、確かにそう呼んでいたのに
私だって妄想でしか呼んだことがないのに
「この前なんかも、私の作った料理を美味しそうに……」

「ねぇ、霧切さん……昔した約束、覚えてますか?」
「『どちらが苗木君に選ばれようとも相手を祝福しよう』だったわよね?」
「えぇ……ちゃんと覚えているならいいんです」
「………舞園さん」
「…すいません。ちょっとお手洗いに」
頭の中がグラグラする…。



――――――――
「舞園さん……」
流石に感づかれてしまっただろうか、何て残酷な事をしているんだろう。
つい半年前までは私も舞園さんと同じようにヤキモキさせられていたのに。
最大の恋敵で、もっとも分かり合える同士。そんな彼女に苗木君と付き合っていることを秘密に

「……ごめんなさい」
舞園さんの背中に聞こえないように呟いた。
申し訳ない気持ちで一杯だった。でも僅かな優越感を覚えているのも事実だ。


私も精一杯の努力をした。鈍感な彼に正直、何度愛想を尽かしたか……でも、どうしても諦められなかった。
だから半年前に強硬手段にでた。――彼に薬を盛り、男女の仲にまで持ち込んだのだ。

手段は選んでいられなかった。その頃にはもうテレビや新聞で舞園さんを見ない日はなかったからだ。
このままでは彼は舞園さんの所へ行ってしまう……それだけは阻止したかった。
確かに学生時代の約束はあった。あったけれど抜け駆けは禁止されてない。

仮に彼が舞園さんを選んだら?
今や時の人――そんな舞園さんに恋人が発覚したらファンの数は減るかもしれない。
それでも彼女を好いてくれる人はたくさんいるだろう。
それに苗木君に愛されていれば、当初は辛いだろうけど乗り越えられるだろう。
それに、彼女の魅力でまた人気者になれるだろう。


じゃあ私は?私はどうなる?相手が舞園さんなら、本当に心苦しいけど祝福……できただろう。
でも気付いてしまったのだ。
私の元から苗木君が居なくなってしまえば独りになってしまう。独りに……

ある意味仕方の無い事とはいえ、それは辛すぎる。
私だって好きで独りでいるんじゃない、その気になれば相手はいくらでもいる。
でも駄目なのだ。お祖父さまのお顔を立てて何度かお見合いもした。
けれど、誰1人として私の琴線に触れるものは居なかった。

それに相手の方も、私が女だてらに探偵をしているのを嫌がっているのが分かった。
……上手くいくはずが無いのだ。


私に相応しいのは一見平凡だけど、私の事をよくわかってくれていて、普段は弱気なのに突然とても頼もしくなる
とても優しくて、正義感に溢れていて、何より私をサポートしてくれる。
……そんな人だけなのだ。

「それにしても遅いわね」
舞園さんが居ないにもかかわらず、居心地の悪さに耐えきれないで様子を見に行くことにした。

――――――――
「…舞園さん…?」
「……うぅ…ぐすっ……ひっく……うぅ」
扉の向こう側から何やら呻き声のようなものが聞こえてきて、ノックするのを躊躇していた。

「どうして……苗木…くん……うぅ……きり…ぎりさんだって……うぅぅ…」
………ごめんなさい舞園さん。今更ながら自分の考えの浅さに身をつまされる。
このまま個室の前に立ち尽くしていても不審がられる。
意を決してドアをノックした。



「舞園さん…大丈夫?」
少しの間が空いた後

「霧切さん?……大丈夫です。ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで……先に戻ってて下さい」
「でも…」
「先に戻ってて下さい。ちょっとお化粧も崩れたんで直してから行きます」
「……わかったわ」

それから十分ほどで舞園さんが戻ってきた。
「ごめんなさい、ちょっと飲みすぎたみたいで…恥ずかしいです」
彼女の化粧の腕もあるのだろうけど、さすが女優。
さっきまで泣いていたとはとても信じられない笑顔を見せてくる。


「はいお冷やよ。温かいお茶も後から来るわ」
「ありがとうございます」
舞園さんを待っている間に頼んだ酔い醒ましを渡す。
「気をつけなさいよ。急性アルコール中毒になるかもしれないのだし」
「心配かけてすいません。…優しいんですね、霧切さんは」
優しいか……そんなわけないのに。本当に優しかったら……。

「何を言ってるの、友人の身を気遣うのは当然の事でしょ?」
「友人、ですか……ったら…」
「え?どうしたの舞園さん」
「だったら……だったら何故!苗木くんと付き合ってることを秘密にするんですか!」
「舞園さん……?」
「とぼけても無駄ですよ。私、エスパーなんです。何にも気付かないと本当に思ってたんですか?」

「それは誤解よ……」
「いいえ…大体、色々とおかしかったんです。半年前から霧切さんからのメールが減って」
「元々週に2~3回はあった苗木くんからのメールも減って」
「今日の2人の態度もどこかおかしかった……それに霧切さん気付いてました?」
「…何かしら?」
「さっきから何度か苗木くんの事『誠君』って呼んでますよ……」
「!!……あら、そうだったかしら」
迂闊だった……アレほど誠君にお酒は控えるよう言われていたのに……

「酔うとつい気が緩んでしまうものなんですね」
「………」
「話の内容も親密なモノばかり…以前よりも明らかに親しげでしたよ」


グイッ
追い詰められた私は、自棄になって目の前の焼酎を一気に飲み干した。
「………よ……」
「…え?何て言ったんですか?」
「…そうよ!私と誠君は付き合ってるの!……何か問題あるの!!」
こうなりゃ自棄だ。お酒の力を借りて一気にぶちまけてしまえ

「何かって……」
「舞園さん…さっき話した約束に、抜け駆けは禁止なんて項目無かったわよね?」
「そうですけど…でも、それとこれとは!抜け駆けは禁止ではないですけど」
「私が苗木くんに会えないのを知っていて……なんて、フェアじゃないです!」

「何を言ってるのよ!フェア?そもそも誠君はあなたのファンで、中学も一緒」
「翻って、私は?私はあなたのようにアイドルでもなければ、高校以前のエピソードもない」
「スタートラインからして不利なのよ!…だから、その分色々と策を練ったり行動を起こす必要があったの」

「そんなの詭弁です!高校時代から私はアイドルの仕事で学校を休んだり、授業を抜けたり……」
「苗木くんと過ごす時間は少なかったんですよ!」
「それに、苗木くんは何度となく霧切さんの助手として一緒に過ごしてたじゃないですか」
「捜査が~とか探偵の心得が~とかお礼がどうとかでいつも一緒に居てましたよね」
「今までだってそう――急に苗木くんに連絡がつかなくなったと思ったら」
「霧切さんの捜査に協力していたとかで海外にいたり、2人きりで張り込みを何日もしていたとか」
「確かにスタートは私の方が有利だったかも知れません!」
「けど、そこから先は圧倒的に霧切さんの方が有利じゃないですか……なのに、なのに……」

酔ったせいでまともに思考が出来ない。考えるより先に口が動いている。「舞園さん……ごめんなさい……」
「謝られたって…」
「本当はすぐにあなたに知らせるべきだった…でも怖かったの……」
「…………」
「あなたと真っ向勝負しても私に勝ち目は無さそうだし、私の前から誠君が居なくなることに、耐えられなかったの」

「そんなの、私だって……」「アナタはアイドルという人気者――私は探偵という日陰者」
「私の前から彼が居なくなれば、私には何も残らないの」
「アナタには友達や仲間やファンがついているでしょ」
私にはそんな存在はほとんどいない――影に生きているのだから。

「……を、何を、言ってるんですか!」
「あなたに何が分かるんですか!!芸能界で生き残ることの厳しさ、その辛さが」
「親しくしていたと思ったら急に裏切られたり、友達や仲間でも頂点に立てるのは1人だけ」
「ファンといっても、男性の影が見えただけでアンチになる……その孤独が分かるんですか?」

「アナタにも私の孤独は…それに聞いてほしいの。私が怖かったのはそれだけじゃ無いの」
「友達を、失いたく無かった……常に孤独でいた私にできた、数少ない友人を……」
さっきから口が勝手に動いている。こんな風に心情を吐露したのは誠君以来だ。
「……なんですか、そのとってつけたような理由は」
「だったら何故!…何故私を裏切ったんですか?…私だって数少ない本当の友達だと思っていたのに」

「だって……あんな約束していたって素直に祝福できるわけないじゃない」
「自分の立場に置き換えたら、到底祝福できない」
「アナタと彼を天秤に掛けてしまった……アナタを失っても彼が居ればいい。本気でそう思ってしまったの」
「その事が怖かった。今まで自分を律して、様々な事態を乗り越えてきた」
「私にとって、自分を律することはそんなに難しい事じゃなかった」
「けれど、彼は……苗木誠君だけは特別だった。今まで容易かったはずの事が思うようにいかず」
「心を掻き乱されてばかり、挙げ句の果てに彼を欲して友人を裏切った」
「私はそんな人間ではなかったハズなのに」
「ごめんなさい……ごめんなさい舞園さん」
不意に頬を伝った温かい雫――涙だ。何て自分勝手な女なんだろう。
自分の都合で友人を失ったというのに、それが辛くて泣けてくるなんて……



「霧切さんにも涙腺ってあったんですね……はい、綺麗な顔が台無しですよ」
「……ありがとう」
「……許したわけではないですよ。目の前で泣いている友人が居れば、当然ハンカチくらい貸しますよ」
「舞園さん…」
「…だから、許したわけではないですよ。ただ、私も素直に祝福出来ないだろうな。と思っただけです」


「さ、霧切さんもお茶を飲んで」
「えぇ戴くわ」

「…さて、裏切り者の霧切さんには罰を受けてもらいます」
「罰?……分かったわ。一体何かしら?」


――――――――
僕は車を飛ばしている。――法定速度を少しばかり超過して
パシャ。また光が瞬いた……後で罰則金を支払えばいいんだろ!


何でも響子さんが飲みすぎて倒れたそうだ。
そう舞園さんから連絡が入って、猛スピードで向かっているというわけだ。
カーナビの指示通りに走って舞園さんに教えられたお店に着いた。

「響子さん!!」
「あら、苗木くん早かったんですね」
「舞園さん!響子さんは無事なの?大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ、ちょっと飲み過ぎて寝ているだけです。さっき全部もどして寝ているんです」
「良かった……全くお酒に弱いのに飲み過ぎるから」

「ふふ…妬けますね」
「え?あ、あぁ~と……響子さんから聞いてる?」
「…えぇ全部聞きましたよ」
「ごめんね舞園さん。秘密にしてて」
「そうですよ。水臭いじゃないですか」
「何だか照れくさくって。ほら、僕と響子さんって学生時代から夫婦夫婦ってからかわれてたから」
「ずっと否定してたのに今更皆に言うのが恥ずかしくって」
「……えぇ知ってますよ。ところであれは誰が最初に言い出したんですかね?」
「確か……桑田クンと葉隠クンじゃなかったかな?」
「へぇ……あの2人が…」
「それがさぁ、最近響子さんに聞いたらアレ。響子さんが言わさせてたらしいんだ」
「何でも外堀がどうとか……ってあれ?舞園さん?何で響子さんを睨んでるの?」
「………ナンデモナイデスヨ」
「僕は響子さんに失礼だと思ったから否定してたのに。可笑しいよね」
「ウフフ……オモシロイデスネ」
「?それからさぁ響子さんてば……」
「苗木くん……ちょっといいですか?」
「…ごめん。折角久々に舞園さんに会えたのに響子さんの話ばかりしてたね」
「……(そもそも私に勝ち目は無かったのかな)……」
「何か言った?」
「いえ、まだ何も。…苗木くん、今更こんな事を言うのは迷惑だと分かっているんですが」

「私、苗木くんの事が好きなんです!」

―――エ?
イマナンテイッタノ?


「高校時代から…いえ、おそらく中学時代からずっと気になって、いつの間にか好きになっていたんです」
「今は霧切さんと付き合ってるって聞きましたけど、私の方が何倍も何十倍もあなたの事が好きです」

僕の憧れのスーパーアイドルが…中学の頃からずっとファンだった
――見ている人に笑顔を、元気を与えてきた舞園さんが僕の事を好き?
何の冗談だ――
「いへへ」
頬を抓ったけれどやっぱり痛い。
「苗木くん?」
舞園さんが不審そうな顔で見てくる。

「いや、夢じゃないか確かめたんだ」
「現実ですよ……(全部夢なら良かったのに)」
「…嬉しいよ。ずっとファンだった舞園さんに告白されるなんて」
ピクッと視界の端で響子さんが動いた気がした。

「苗木くん、じゃあ……」
「でも、ごめん、舞園さん。…僕が好きなのは響子さんだけなんだ」
「…そんな……大丈夫ですよ。今、霧切さんは寝てます。自分の気持ちに正直になって下さい」
正直か……それでも僕は

「ごめんね」
「な、なら、2号でも構いません。それくらい苗木くんの事が好きなんです」
とんでもないことを言ってくる。世の舞園さんのファンに刺されるレベルだ。それでも……

「ごめんね舞園さん。僕はキミの気持ちには応えられないよ」
「苗木くんは私のファンですよね?夢じゃないんですか?アイドルと付き合えるんですよ」

「僕はずっと舞園さんのファンだし……ずっと友達だよ」
「…………………一つだけ教えて下さい。……霧切さんのどこが好きなんですか?」
どこが好き……強いて言うなら

「そうだね…強いて言うなら、普段はクールで近寄りがたい雰囲気を出しているけど」
「実は意外と子供っぽいところかな?……こう見えて拗ねっぽいんだ」
「驚くよね?普段とのギャップに。他にも………」
「もういいです。よく、わかりました」

「そう?まだ魅力を全部語れて無いんだけど……」
「やっぱり残酷ですね。いくら何でもデリカシーが無さ過ぎです」
「何でこんな人好きになったんだろう……もう一つだけいいですか?」
「うん」

「いつから霧切さんの事を好きになったんですか?」
……いつからだろうか。気が付いたら目で追っていたんだ。
いつも1人でいて、どこか近寄りがたい雰囲気を纏わせていたけど
そのミステリアスな風貌が気になって、色々話している内に才能の事を聞いて……

「僕が助手を申し出て、一緒に過ごしてる内に……かな」
「それに、霧切さんの笑顔凄く可愛いんだ…たまにしか見れなかったけど」
「多分あの笑顔を初めて見たときにはもう……」
何を話していた時なのかはもう思い出せないけど、あの笑顔をもう一度見たいと思ったんだ。



「そう…ですか。なーんだ最初から勝負は着いていたんですね」
「勝負?」
「私と霧切さんの勝負ですよ。勝ち目は無かったんですね」
何の勝負かは聞かないでおこう……。

「でも、だったら何故苗木くんは霧切さんに告白しなかったんですか?」
「だって、僕なんて何の変哲もない一般人だよ。それなのに超高校級の探偵の響子さんと、なんて……」
「嫌われないだけで十分だったんだ。そばに居られるだけで」

「はぁ~本当に罪な人達ですね……よくお似合いですよ」
舞園さんが呆れかえった様子で僕を見てくる。

「苗木くん……あなたは罪を犯しました。よって罰を与えます」
そう言って僕の顔を両手で挟み込んで……ってキスされる!?
「待ちなさい!!…舞園さん約束が違うわ」
「響子さん!?寝てたんじゃ?」
「舞園さんが告白して、アナタがどっちを選ぶか勝負してたの」
「舞園さん、アナタの負けのはずよ!早く離れなさい!」

「良いじゃないですか。減るもんじゃ無いですし…ね?」
「苗木くん。私の初めて貰ってくれますか?」
「え?えぇぇ!?」
「離れなさい!誠君も何にやけてるの!」
「にやけてなんかないよ、それに顔を抑えられてるから逃げられないよ」

「隙あり………ふふっご馳走さまでした」
「あっ………舞園さん……」
キスされてしまった……

「最低!…やっぱり私より舞園さんの方が……」
「待って響子さん」
去っていこうとする響子さんの腕を掴んで、引きずり寄せた。
「何よ…私の事が好きなら無理やり引き剥がすことだってできたじゃない」
「あれは突然の事で、僕が好きなのは」
「嫌、どうせ私の事なんて…んむぅ……」
とりあえず口を塞ぐことにした。イテて…そんなに背中を叩かないで。
響子さんの身体から力が抜けた頃に、ようやく口を離した。
「ば、ばかぁ…」
床にへたり込んで僕を詰る。
目尻には涙が浮かんでいる。
僕も屈んで目線を合わせてから
「響子さん……いや、響子。僕が好きなのはキミだけなんだ」
「だから泣かないで」
子どもをあやすように額にキスをした。

「誠君…………」
上目遣いで僕を見つめてくる。とても可愛い。
「響子………」



「ゴホンっ」
「「!!」」
僕らは慌てて距離を置いた。
「いちゃつくのは帰ってからにして下さい!」
「……苗木くん、私より霧切さんを選んだんですから絶対に幸せになって下さいよ」
「舞園さん……」

「霧切さん………おめでとう。今はそれしか言えないです」
「……ありがとう」
「でも、キチンとガードしておかないと大事な旦那様に悪い虫がついちゃいますからね」
「分かってるわ」


「それじゃあ2人ともお元気で。おやすみなさい」

舞園さんを家に送り届けた後、僕らは自宅に帰ってきた。
途端に―――

「ね、ねぇ響子さん?これは一体……」
「?どうかしたのかしら」
「どうしたもこうしたも、何で僕がベッドに押し倒されてるのさ?」
半年前とは逆に僕が押し倒されている。

「あら?さっきあんなに情熱的にキスしてきたのは誰かしら?」
「いやあれは……」
あの時とは全く逆だ。響子の方から告白してきて。
僕にクスリを持ったらしく理性が吹き飛んでいたのを覚えている。

「もう、我慢できないの……」
耳元でそう囁かれ僕のスイッチが入った。クスリなんか必要ない。

「今日は大丈夫な日だから」
僕を止めるものは何もなかった。



――数年後――
「さぁ、本日のお客様はこちら、アイドルとして活躍されながら見事に女優に転身された」
「女優の舞園さやかさんです」
「こんにちは舞園さやかです」
「何でも舞園さんは昼ドラの女王と呼ばれているそうですが……」
「えぇ………」

僕と響子さんが結婚してから数年後、お昼の人気長寿番組に舞園さんが出ていた。
それも女優として。あの日から舞園さんは一層仕事に打ち込み、あっという間に女優に転身した。
ただ、彼女が出ているドラマが平日のお昼頃やっている――いわゆる昼ドラがメインなのが驚きだが
今日もまた今度主演するドロドロの恋愛ドラマの番宣らしい。

本人に聞いたから間違いないけど修羅場が大好きになったらしい。………僕のせい?

「誠君?…あら舞園さんじゃない。……やっぱり私のせいかしら」
どうやら僕らの考える事は同じらしい。
「彼女には悪いけど、胎教に悪そうだからテレビを消しといてもらえる」

「うん。ごめんね舞園さん」
「……いまだに複雑な気持ちになるのは何でかしらね」
「舞園さんの事?…大丈夫だよ。僕はただのファンでしかないから」
「僕が一番好きなのは響子だけだよ」
「もう……信じてあげる」
「本当に信じてるの~?」
「信じてるわよ」

「パパ~私の事は?」
娘が聞いてきた。
「勿論好きだよ。お母さんと同じくらい」
「僕の事は?」
息子も聞いてきた。
「勿論好きさ。お母さんやお姉ちゃんと同じくらい」
「あら、私が一番じゃないの?」
響子が聞いてきた。
「勿論一番好きだよ」
「「パパ~私(僕)は?」」
「勿論。…って僕をからかってるの?」
「ふふっ相変わらずね」
「「パパって面白いね~」」

子どもが居てくれるのは嬉しいけど、もう少し2人の時間を楽しみたかったかな。
あの日大丈夫って言ってたのに。
「あら?アレはあなたの子どもを産む決意が決まったからそう言ったのよ」

「そんなの詐欺だよ。……って心を読んだの!?」
「私、エスパーですから」
ツールボックス

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