プリクラ

私と苗木君は無事にあの忌々しい学園を脱出し、2人で行動している。
もう二度とやり直す機会が訪れなくなったあの人……父、の言葉通りなら自ら残ることを選んだ私たちは“人類の希望”らしい
万が一、絶望側の襲撃で全滅することを恐れた私たちは分散――丁度男女2人の3組に分かれることにしたのだ。
そして、生き残っている希望側の勢力と協力するため各地を巡っている。


――そんなある日

「ねぇ霧切さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なにかしら苗木君?」
いつものように目立たぬよう、二人で行動していると、何気ない口調で苗木君が尋ねてきた。

「僕らが学園を脱出する時に霧切さんが言った、言葉の真意が知りたいんだけど」
「……もしかして『あなたのような人となら――』かしら?」
彼が言っているのは、私たちが脱出する段になって口にした決意表明みたいな事についてだ。

「そうだよ、どうしてあんな事言ったのかなって。気になっちゃって」
「別に他意はないわ、強いて言うなら、私が女であなたが男だからかしら」
本当はそんな理由じゃないけれど、今頃になってそんな話を蒸し返してくるものだから、少しからかってみた。

「わかったよ。僕が命に代えても霧切さんを護ってみせるよ!」
「頼りにしていますわよ。わたくしのナイト様」
「えぇ!? なんで急にセレスさんのモノマネを?」
意外にも男らしい事を言ってくれるじゃない。嬉しい、なんて思ってしまった。

「ふふ……冗談よ。“超高校級の探偵”として様々な修羅場を潜ってきた私が、苗木君に護ってもらう必要あるわけないでしょ」
「そんな……酷いよ」
「そんなに落ち込まないで、役割分担よ。“探偵”の私が、“希望”であるあなたを護るだけよ」
「僕にだって男の意地ってものが……」
「それに、そもそもあなたは私の助手でしょ。別行動する必要性がないわ」
「そっか……そうだよね」
どんな反応を返すのかと彼の方を窺うと、明らかに落胆してます――といった様相だったので、少しフォローすることにした。

「……(側に居たいからよ)……」
「え? 今なんて言ったの、よく聞き取れなかったよ」
「そう遠くないうちにわかるわ」
「待ってよ霧切さーん、なんて言ったのか教えてよ」
苗木君と一緒に居たいから。だからあんな事を言ってしまったのだ。だというのに……いや、記憶を完全に取り戻していない状況では彼に酷というものか。

それに彼にはまだ見せていないもの……私にあんな事を言わせた原因を……。


――――――――――――
あれは思い出すのが未だに辛い――父、の亡骸と対面した後のことだ。
私は手帳を手に入れた、記憶をなくす前に使用していた手帳を。

私がどうにか現実を受け止め、黒幕への怒りを滾らせて調査を再開した時だ。
苗木君に、ロッカールームの中に私のと思しき手帳があると聞き、それを確かめた。
そうして私は、自分の憶測が正しいことを確信し、苗木君を視聴覚室に向かわせて最後の学級裁判へと臨んだのだ。
そこで恐るべき真実を目の当たりにし、自分の予想以上に心を乱され、黒幕に対する怒りと絶望に囚われてしまった。

けれど彼が、この一月にも満たないわずかな時間で、おそらく一番成長したであろう彼に因って私たちは救われた。
自ら『ただ少し前向きなだけ』と称す、父、の言うところの“人類の希望”である彼のおかげで。

そして見事に希望が絶望に勝利し、ハッピーエンドとなれば良かったのだが、現実はそう単純ではなかった。
外の世界は未だ根強く絶望が跋扈し、今も予断がならない状況であり、希望である私たちが復興の第一歩を踏み出さねばならない。そんな状況だった。


いよいよ脱出する段に至って、何か他に情報が手に入らないかと改めて手帳を見ると、手帳の最後のページの中央部がほんの僅かに膨らんでいることに気付いた。
普通に本をめくる様に触っていたのでは気付かない、紙を上からなぞった時にわかる、ほんの少しの違和感。
彼と長く過ごす内に私にも幸運の女神が宿ったのか、おそらく記憶をなくす前の私が仕込んだであろう細工を解いていく。

「これは…………」
私は目を疑った。そして同時に理解した。

そこには一枚の写真が貼り付けられていた。――およそ二cm四方の小さな写真が。

写っていたのは仲睦まじい一組の男女。お互いが好き合っているのがよくわかる。
お互いに頬を染めながら、女性より少々背が低い男性が彼女の背中に手を回し
彼女の方も彼に応えるかのように手袋をした手を彼の背中に回して
互いの瞳には相手の瞳しか映っていないようで、カメラの方に一分たりとも視線を向けず
嬉しそうに、幸せそうに微笑みを浮かべあいながら

――二人の唇が触れ合うほんの一瞬前の光景が映し出されていた。
ご丁寧にピンク色の文字で『大好き』と書かれていた。……これまでの人生で一番見慣れた筆跡で。

間違えるはずが無い、こんな蕩けきった表情を浮かべられるとは到底思えないが、女性の方は毎日鏡で見ている。
男性の方も、だ。僅か一月足らずの内に私とは異なる価値観をもって、あらゆる絶望に打ち克ってきた、私の心を揺さぶる彼の横顔を見間違えるはずが無い。
こんな、否定する材料がない物証を見つけてしまえば、私の培った探偵としてスキルが真実を暴いてしまう。

あぁ――だからなのか……簡単に手袋の話をしてしまったり、興味を抱いてしまったのは……。
彼にこんな気持ちを抱いているのは……だって私と彼は………………。


――――――――――――

「待ってよ霧切さーん、なんて言ったのか教えてよ」
彼の記憶が戻るのが先か、私があの写真を見せるのが先かは分からないけど。
すぐに彼には分かるだろう、私が彼の側に居る理由が。
記憶は戻らないけど気持ちは蘇ったのだから――彼を想うこの気持ちが。
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