三限目

指先に付いた甘い蜜を舐め取っている時にふと視線を感じた。
隣からの絡みつくような熱っぽい視線ではなく。――前からの僕の奇行を訝しむ視線だ。

マズイ――ばれたのか? そう思って、急いで指を口から引き抜いた。
まだ全然味わえていないのに……。
いや、それよりも僕と彼女の交歓を見られてしまったのか? 僕が処分を受けるのはいいけど、彼女に迷惑をかけたくない。
不順異性交遊は校則違反――なんてお題目で処分されるのは勘弁して欲しい。今時キス位で……しかも僕らは間接的に唾液を交換し合っただけじゃないか。

それに、僕らは生涯を誓い合った身だ。とやかく言われる筋合いはない。……たとえ責任能力のない未成年だとしても、ただの口約束だとしてもだ。
僕らの愛情表現の仕方は、確かにちょっと過剰かもしれないが、大好きだから仕方ない。抑えようがないんだ。

そう自分に言い聞かせて、先生の目を真っ直ぐに見返した。



「……勘違いしてくれてよかったのかな……?」
結局、授業が終わってから先生の教材運びを手伝わされて、僕の心配は杞憂に終わった。
信じられないことに、僕が指をしゃぶる癖があると思い込んでいたらしい。
ありがたい勘違いだったので、僕もそれに便乗しておいた。
処分におびえる必要はなくなったが、幼児みたいな癖を持った変な生徒という認識を芽生えさせてしまった。


そうして僕は、安いような高いような代償を払って自分の教室に戻ってきた。
真っ先に彼女の姿を求め、自分の席に着いた。
隣に座る彼女はいつものクールなポーカーフェイスではなく、少し俯いて唇をかみ締めていた。どことなく顔色も悪い。何より僕に気付いていないみたいだ。

僕の事を想ってここまで動揺してくれるなんて……胸が熱くなった。やっぱり愛されてる実感は何度味わってもイイ。
堪らなく愛しくなって、わざと彼女の足元に消しゴムを落とし、敢えて背後から近づいて可愛い耳をぺロリと一舐めした。


「っ!?」
ようやく僕に気付いた彼女。さっきまで彼女の口内に在った指が、再び僕の唾液を求めてか、僕が撫でた耳を覆う。
さっきまで色が失われていた頬に朱がさした。
僕はそんな彼女の変化を横目で悠然と眺めつつ、足元から消しゴムを拾う。

そして消しゴムを握り締めると、すっかり朱に染まった顔で僕を睨み付けてくる。――何もかもが可愛い。
本当は耳を舐めるだけにするつもりだったのだけれど、予定変更。


ゆっくりと、机の陰に隠れるようにゆっくりと立ち上がる。怪訝に思って、下を覗き込んでくる彼女の唇を素早く奪った。
攻めるのが得意な分、攻められるのは苦手なんだよね。



「ひひゃいよ……」
僕の頬をつねる可愛い恋人。

まさか授業中ずっとつねるつもりじゃないよね?――そう目で問いかけてみるも、僕と目線を合わそうとしない。
これはいくらなんでも先生も見咎めるだろう。まさか隣の席の人間の頬をつねる癖が、なんて誤解はするはずないし。

だけど幸か不幸か、三限目は自習になってしまった。


僕らのクラスには超高校級の風紀委員が居るお陰で、自習時間といえどそうそう騒いだりはしない。
――だって下手に羽目を外すとそれ以上に『校則が――』と騒ぎ立てるからだ。わざわざ騒ぐ必要もない。
精々少数で、勉強を教えあっていますよ。といった風を装っておしゃべりする程度だ。

だから仕方ない、こうやって机を合わせて車座になっているのも。
目隠しが全然ないのも、僕らが注目されるのも。

「“苗木君”がヘマをやらかしたから」
と、僕の頬をつねっている理由を答えていた。これはずっとこのままなのかな、結構怒ってるみたいだし……。
わざわざ僕の苗字の部分を強調していたし。皆の前とはいえ、いつもみたいに名前で呼んで欲しいな……。

すると僕の寂寥感が伝わったのか、頬をつねっていた手は離れ、痛みから解放された。……なぜか軽い喪失感を覚えたが。


「……反省してるの?」
そう言いながら彼女が、皆に見えないよう机の下で僕の手を握り締めてきた。
勿論僕はその手を強く握り締めて。

「うん」
と応えた。
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